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94:王道俺様系王子VSピュア系天使
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今のその厳しいひとことは、リオン殿下の口から出たモノだった。
そりゃ俺はモブキャラらしいステータスで、『気配察知』なんてカッコいいスキルは持ってないけど、それにしたっていきなりすぎだろ!
うん、あいかわらず毒の刃がするどいですね……。
俺なら今の一撃で、メンタルが粉砕されるところだった。
「むぅ、リオンくんヒドイ!そんなことないもん!ボク、ベルくんを見捨てたりしてないんだから!」
涙目で抗議するパレルモ様は、ある意味で通常営業だったけど……。
昨日まではパレルモ様がなにをしても『かわいい』『やさしい』と褒めて愛でていたハズのリオン殿下が、明確にイヤミを言ったなんて……!!
教室内には、その異変にたいするザワめきが広がっていった。
目にいっぱいの涙を浮かべたパレルモ様と対峙するリオン殿下の口もとには、冷笑が浮かんでいた。
「パレルモよ、貴様はたしかにかわいらしい外見をしているからな。昨日までの俺ならば、それでだまされていたかもしれん」
そうつぶやく声は、ひんやりとしている。
……そのわりに微妙にまだパレルモ様を褒めるような甘いこと言ってるけど、たぶんツッコんじゃいけないヤツだ、これ。
「だが、転入生を見捨てていないと言うのなら、なぜそいつが途中で走れなくなったと気づいていたのに、そのことを担任教師に告げるなりなんなりのフォローをしてやらなかったんだ?」
リオン殿下の追及は淡々としていて、そういうところはブレイン殿下とちょっと似ていた。
「えー?だって、ベルくんは急ぐとよくないことが起こるからって言ってたし、ゆっくり来るんだと思ってたんだもん!」
言外に込められた気持ちは『ボクは悪くない』ってとこだろうか?
いや、たしかにそれも一理あるとは思う。
本人がそう言っていたんだから、その意思を尊重して放っておいたと言えなくもないわけだし。
ふつうの感覚なら、遅刻したら教師に叱られるものだし、それなりの理由を求められることになるけれど、でもそれはパレルモ様にかぎっては、そうとも言いきれないという。
なにしろこの世界でのパレルモ様は、だれからも愛されるキャラクターだからこそ『遅刻したら叱られる』という、ごくあたりまえのことすら未経験ゆえに理解していない。
ベルが遅刻したらどうなるか、かんがえつかなくても当然かもしれなかった。
「ほう、そのことをほかのヤツらは知っていたのか?もしくは転入生自身で、担任へと事前に告げていたのか?」
「ボク、わかんない」
たてつづけに質問され、パレルモ様の顔が今にも泣きそうにゆがむ。
「まーまーリオン様、パレっちをさらうようにして、ひとりだけ先に教室へ連れてきたのはオレなんで、そこらへんにしといていただけませんか?」
とっさに雰囲気の悪化を察したらしいカイエンが、苦笑を浮かべながら割って入ってきた。
「カイエン!あのね、リオンくんがいじめるの!」
「アマリージョ、貴様!そいつをかばう気か?!」
対峙するふたりが、一斉にカイエンのほうにふりむいて詰め寄っていった。
まぁふたりの顔がいいのもさることながら、この世界の住人なら、その身分の高さにも圧を感じちゃうよな。
片やこの国の第三王子、片や公爵家の長男、どちらも一般貴族からしたら貴い方々だ。
あーあ、カイエンてば、口をはさんだばっかりに余計なものにまきこまれちゃって……かわいそうに……。
「うんうん、パレっち、厳しいことをおっしゃってるかもしれないけど、リオン様はいじめてるわけじゃなくて、パレっちを心配してるから言ってるんだよ」
その顔は、やっぱり引きつりそうになっているように見える。
「わかんないもん、そんなこと!」
まるで幼子に言い聞かせるみたいなカイエンに、なるほどパレルモ様はだだっ子のようだった。
ド…ドンマイだ、カイエン!
「───つまりパレルモは、その場で己がどうすべきか、かんがえもしなかったということか?」
そのやり取りを見ていたリオン殿下の目が、一段と冷たくなった気がする。
たぶんアレだ、今確実に───パレルモ様の言動は、リオン殿下の地雷を踏んでしまったのだろう。
「いいかパレルモ、貴様は公爵家の跡取りだ。次期ライムホルン公爵家を継がねばならん立場なら、たかが遅刻の場面で丸くおさめる手腕がないのは、あまりにも心もとない。そんなのでは、我が王家に仕えるべき筆頭とも言うべき家柄が泣くぞ!?まったく、今までなにしてきたんだ、ライムホルン家の人間は!」
───はい、まったく仰せのとおりで。
俺がこれまでに何度も感じてきた違和感を、リオン殿下はすっきりと言語化してくれた。
そこにスッキリとしてしまったのは、決して口には出せないけれど。
「リオンくん、どうしちゃったの?」
そこで一度言葉を区切ったリオン殿下に、しかしパレルモ様は、あいかわらずなにを言われているのか理解できていなさそうだった。
己の立場やそれに伴う義務と責任、権利をきちんと知れという教育を受けてきた王族の方からすれば、今のパレルモ様はなにもかんがえていないのに等しい。
少なくとも、魅了の魔法によるフィルターがようやくはずれたリオン殿下の目には、そう見えているんだろう。
「───わからないのか?ならば、そうだな……ダグラス!貴様なら、パレルモはどういう対応をすべきだったと思う?」
「はいぃっ?!」
なんてかんがえごとをしていたら、こっちに流れ弾が飛んできた。
そりゃ俺はモブキャラらしいステータスで、『気配察知』なんてカッコいいスキルは持ってないけど、それにしたっていきなりすぎだろ!
うん、あいかわらず毒の刃がするどいですね……。
俺なら今の一撃で、メンタルが粉砕されるところだった。
「むぅ、リオンくんヒドイ!そんなことないもん!ボク、ベルくんを見捨てたりしてないんだから!」
涙目で抗議するパレルモ様は、ある意味で通常営業だったけど……。
昨日まではパレルモ様がなにをしても『かわいい』『やさしい』と褒めて愛でていたハズのリオン殿下が、明確にイヤミを言ったなんて……!!
教室内には、その異変にたいするザワめきが広がっていった。
目にいっぱいの涙を浮かべたパレルモ様と対峙するリオン殿下の口もとには、冷笑が浮かんでいた。
「パレルモよ、貴様はたしかにかわいらしい外見をしているからな。昨日までの俺ならば、それでだまされていたかもしれん」
そうつぶやく声は、ひんやりとしている。
……そのわりに微妙にまだパレルモ様を褒めるような甘いこと言ってるけど、たぶんツッコんじゃいけないヤツだ、これ。
「だが、転入生を見捨てていないと言うのなら、なぜそいつが途中で走れなくなったと気づいていたのに、そのことを担任教師に告げるなりなんなりのフォローをしてやらなかったんだ?」
リオン殿下の追及は淡々としていて、そういうところはブレイン殿下とちょっと似ていた。
「えー?だって、ベルくんは急ぐとよくないことが起こるからって言ってたし、ゆっくり来るんだと思ってたんだもん!」
言外に込められた気持ちは『ボクは悪くない』ってとこだろうか?
いや、たしかにそれも一理あるとは思う。
本人がそう言っていたんだから、その意思を尊重して放っておいたと言えなくもないわけだし。
ふつうの感覚なら、遅刻したら教師に叱られるものだし、それなりの理由を求められることになるけれど、でもそれはパレルモ様にかぎっては、そうとも言いきれないという。
なにしろこの世界でのパレルモ様は、だれからも愛されるキャラクターだからこそ『遅刻したら叱られる』という、ごくあたりまえのことすら未経験ゆえに理解していない。
ベルが遅刻したらどうなるか、かんがえつかなくても当然かもしれなかった。
「ほう、そのことをほかのヤツらは知っていたのか?もしくは転入生自身で、担任へと事前に告げていたのか?」
「ボク、わかんない」
たてつづけに質問され、パレルモ様の顔が今にも泣きそうにゆがむ。
「まーまーリオン様、パレっちをさらうようにして、ひとりだけ先に教室へ連れてきたのはオレなんで、そこらへんにしといていただけませんか?」
とっさに雰囲気の悪化を察したらしいカイエンが、苦笑を浮かべながら割って入ってきた。
「カイエン!あのね、リオンくんがいじめるの!」
「アマリージョ、貴様!そいつをかばう気か?!」
対峙するふたりが、一斉にカイエンのほうにふりむいて詰め寄っていった。
まぁふたりの顔がいいのもさることながら、この世界の住人なら、その身分の高さにも圧を感じちゃうよな。
片やこの国の第三王子、片や公爵家の長男、どちらも一般貴族からしたら貴い方々だ。
あーあ、カイエンてば、口をはさんだばっかりに余計なものにまきこまれちゃって……かわいそうに……。
「うんうん、パレっち、厳しいことをおっしゃってるかもしれないけど、リオン様はいじめてるわけじゃなくて、パレっちを心配してるから言ってるんだよ」
その顔は、やっぱり引きつりそうになっているように見える。
「わかんないもん、そんなこと!」
まるで幼子に言い聞かせるみたいなカイエンに、なるほどパレルモ様はだだっ子のようだった。
ド…ドンマイだ、カイエン!
「───つまりパレルモは、その場で己がどうすべきか、かんがえもしなかったということか?」
そのやり取りを見ていたリオン殿下の目が、一段と冷たくなった気がする。
たぶんアレだ、今確実に───パレルモ様の言動は、リオン殿下の地雷を踏んでしまったのだろう。
「いいかパレルモ、貴様は公爵家の跡取りだ。次期ライムホルン公爵家を継がねばならん立場なら、たかが遅刻の場面で丸くおさめる手腕がないのは、あまりにも心もとない。そんなのでは、我が王家に仕えるべき筆頭とも言うべき家柄が泣くぞ!?まったく、今までなにしてきたんだ、ライムホルン家の人間は!」
───はい、まったく仰せのとおりで。
俺がこれまでに何度も感じてきた違和感を、リオン殿下はすっきりと言語化してくれた。
そこにスッキリとしてしまったのは、決して口には出せないけれど。
「リオンくん、どうしちゃったの?」
そこで一度言葉を区切ったリオン殿下に、しかしパレルモ様は、あいかわらずなにを言われているのか理解できていなさそうだった。
己の立場やそれに伴う義務と責任、権利をきちんと知れという教育を受けてきた王族の方からすれば、今のパレルモ様はなにもかんがえていないのに等しい。
少なくとも、魅了の魔法によるフィルターがようやくはずれたリオン殿下の目には、そう見えているんだろう。
「───わからないのか?ならば、そうだな……ダグラス!貴様なら、パレルモはどういう対応をすべきだったと思う?」
「はいぃっ?!」
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