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85:腹黒殿下の素のお顔

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 今さらながら、ブレイン殿下のルートに入っているように思えて、その実一度もそのイベントスチルらしきシーンを見た記憶がない。
 それが指し示す意味は、いったいなんなんだろうか?

 それこそ、ブレイン殿下とおなじ隠し攻略キャラクターのセラーノ先生にしても、『うちの子』セブンにしても、『アホワンコ』ことカイエンにしても、皆のルートに入ったときのイベントスチルっぽい表情やシチュエーションには何度も遭遇しているのに。

 強いてあげれば、最初に『保護』された日の翌朝だろうか?
 ブレインルートの終盤でヒロインと結ばれたあと、ヒロインの存在に安心して寝すごすというエピソードだ。
 あれは一応体験した、に入るんだろう。

 でもそのときに見たものがイベントスチルだったかって聞かれたら、正直なところよくわからない。
 だって、仕方ないだろ、ほほえむブレイン殿下とか、まぶしすぎていつでもイベントスチル並みのビジュアルなわけじゃん!?
 どうちがうかなんて、俺にはとうていわかりっこない。

 それに今回も、ふつうに寝すごしてたよな……?
 王族ならではの繊細エピソードは、いったいどこへ行ってしまったんだよ?!っていう。

 うーん、わからん。

 そりゃ、攻略キャラクターたちがイケメンなのは、乙女ゲームというジャンルに属するこの世界では、ゆるぎなきお約束だとして。
 そのなかでもブレイン殿下の爆イケっぷりは、群を抜いている気がする。

 いや、原作のゲームも神絵師さんの作画のおかげで、かなりイケメンだらけだったよ?
 でも、いくら人気キャラクターとはいえ、はたして原作のブレイン殿下も、こんなにカッコよかっただろうか??

 ……まぁ、それもこれも今の俺の主観にすぎないけれど。
 ある意味これは、惚れた弱みのようなものだと思う。

「かんがえごとかい?目の前に私がいるというのに?」
 ふいに、近いところからすねたような声がして、我にかえる。

「えっ?あっ!その……ごめんなさい……」
 めちゃくちゃ間近なところに、そのうるわしい顔があった。
 そうだよ、直前までキスしてたってのにこれは、さすがに失礼だよな……。

「もう、仕方ないなぁ……ちなみになにをかんがえていたんだい?」
 俺がすなおにあやまったからなのか、ブレイン殿下は渋々ながらもゆるしてくれた。
 でもその様子は、かまってもらえなくてすねている子どもみたいにも見えるけど。

 うわ、めずらしい……!!
 なんか俺の前でのブレイン殿下ときたら、めっちゃスパダリ系だったから、こういう年相応にも見える姿というのは、すごい新鮮だった。

「……ブレイン殿下のことを。俺のまわりはパレルモ様やリオン殿下をはじめとして、顔の造作のととのった方が多いんですけれど、そのなかでもブレイン殿下は群を抜いているな、と……」
 そのせいで、つい俺も問われるままに本音をこたえてしまっていた。

「ふぅん……?」
 心持ち楽しげな相手の声に、ハッとする。
 なに言っちゃってるんだよ、俺!?
 本人に向かって『爆イケです』と伝えるようなモンだろ、これ!
 めちゃくちゃはずかしいヤツじゃん!!

「いや、あのっ、今のナシでっ!」
「どうして?私の顔がなんだって?」
 わかってて至近距離からほほえみかけてくるとか、本当にブレイン殿下は意地が悪い。

「いや、あの……だから……っ!」
 うぅ、クソ、この美形オーラを至近距離で被弾するとかホント無理ぃっ!!
 思わず半泣きになったところで、あわてて顔を隠そうとする。

 でもその手は、ブレイン殿下によって手首をつかまれ、止められた。
「遠慮しないで、もっと見てもいいんだよ?なにしろ今の私はキミが独占しているのだから」
 それどころか、その至近距離のままに、ロイヤルオーラ全開のほほえみが投げ込まれてきた。

 うわぁ、ヤバい、カッコいい!!
 語彙力の死滅した脳ミソでは、そんなあたまの悪い感想しか浮かんでこない。
 しかも取られた手首からは、相手の体温も伝わってきて、これが夢ではなくまちがいない現実なんだってことが突きつけられる。

「~~~~~っ!」
 クソ、こんなの美の暴力だ!
 耐えきれなくなって、ふいっと顔をそらす。

 ───あぁもう、一度は落ちついたと思ったのに、また顔が熱い。

 俺がどれだけブレイン殿下に惚れてるのかって、完全に相手にバレてるだろ、これ。
 とんだ羞恥プレイだと、下くちびるを噛みしめた。

「マズイな……キミは引っ越しのアレコレが終わらなかったといいわけが立つとして、さすがに私が休むわけにはいかないよな?」
 なにやらブツブツと言いはじめたブレイン殿下に、かすかに嫌な予感がつのっていく。

 本当にこれ以上は、無理だからな!?
 ただでさえベッドのうえに起きあがることもできないくらい、からだ中が痛いのに、朝からもう一戦まじえるとか、絶対に嫌だぞ?!

「そ、そろそろ仕度をしないと遅刻になってしまうのでは……?」
 そんな恐怖と戦いながら、いまだになにかに悩んでいるらしい様子のブレイン殿下に声をかけた。

 王子様だとか貴族のおぼっちゃんともなると、付き人たちの手を借りて朝の仕度をするからこそ、逆にひとりで仕度をするよりも、すごい時間がかかっちゃうんだよな。
 社畜時代なんて、起きて5分で仕度を済ませて、『記録更新!』なんて言ってたのがウソみたいに思えるくらいだ。

 まして今日の俺は、ヤられすぎて全身ボロボロ状態だし、確実にいつも以上に時間がかかることが予期される。
 ならば俺にできることは、断固拒否することだけだった。

「どうしてくれるんだ、これ!キミが朝からかわいい姿を連発するせいで、すっかりその気になってしまったじゃないか!」
「えぇっ、なんで俺のせいなんですか?!」
 そう言いつつも、下半身にあたる相手のが反応しかけているのは、否応なしに気づく。

「絶対に無理、ですからね?!こっちは一晩中かけて抱きつぶされたんですから、もうからだがもちませんし!!」
「ムッ、キミが嫌がるなら仕方ない………なぁ、本当にもう無理なのか……?」
 すなおに引き下がった直後に確認するとか、どんだけシたいんだよ!!

 思わずツッコミを入れそうになったところで、コンコンコンと、きっちり3回寝室のドアがノックされた。
「お時間です、殿下。朝のお仕度をはじめます」
 それは、ブレイン殿下の付き人さんの声だった。
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