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76:腹黒殿下は、全方位に牽制をする

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 なぜだか、俺にあやまってくるリオン殿下の顔が赤く見える。
 でも、ふしぎだと感じたのは、ほんの一瞬だけだった。

 そりゃそうか、今まで蛇蝎のごとく嫌っていたハズの俺にあやまるんだもんな。
 しかも俺は伯爵家の次男坊っていう、王族から見たら取るに足らない身分のものでしかないわけで、本来ならあたまを下げる必要もない相手だ。

 プライドの高いリオン殿下にとっては、このセリフを口にするのに、相当な覚悟がいっただろうなぁ……。
 そう思うと、なんだかやさしい気持ちになれるというか。

 テイラーというより『』としては、自分が直接担当したわけじゃないとしても、『星華せいかとき』のキャラクターたちは、皆等しくかわいい己の子どもみたいなものだし。
 こういう成長をとげる姿は、やさしく見守りたくなるものだった。

「ありがとうございます、リオン殿下。大変心強いです」
「っ!!」
 そのうれしい気持ちはそのまま、顔のゆるみになってあらわれる。

「ダグラス、貴様もそんな顔で笑えたのか……」
「えっ?」
 虚をつかれたみたいな顔でこちらを見るリオン殿下に、思わず首をかしげる。
 そんなに俺の笑顔って、気持ち悪かったのか……?

「いやぁ、それにしてもキミが私を頼ってくれたおかげで、こうして愚弟の魅了も解けたことだし、よかったよかった!これからも遠慮なく頼るようにね?」
 だけどそのセリフにかぶせるようにして、ブレイン殿下が無理やり割って入ってくる。

「えぇと、あの、ブレイン殿下……?」
 あまりにも唐突な乱入に、なにか失言でもしそうだと心配されたのだろうかと、逆に不安になった。
 だって俺は、パレルモ様の魔法のことでブレイン殿下になにかをお願いしたつもりはなかったのに……。

「うん?キミが私に『』わけだろう?」
 つまりは、そういうことにしろと、そう言ってくれているのだろう。

 この世界での王族にあたえられた権限はとても大きくて、ましてブレイン殿下はこの学校の風紀委員長もつとめているわけだから、なおのこと校内で起きたことへの裁量権があるハズで。
 そのブレイン殿下が解決に乗り出したとなれば、基本的にはその他の王族が出てくることはなくなるわけだ。

 だって、下手をしたらパレルモ様は無意識にやっていたこととはいえ、自国の王子を洗脳しようとしたと認定されて、反逆罪に問われても仕方ないことをしていたのだから。
 もしそうなれば、ゲームの本編とは罪状こそちがうものの、ライムホルン公爵家の凋落は待ったなしだ。

 一瞬それを想像して、まるで一気に本編が早送りされたかのようなその結末の予感に、思わずふるえが走る。
 けれど、今のブレイン殿下の発言には、そんな俺の恐れる未来を消し去るだけの力があった。

 本当に、どうしてこの人は、俺をこんなに甘やかしてくれるんだろう?
 まだ、なにもかえせていないのに。
 俺にできることならば、なんでもしてあげたいって、そんなふうに思ってしまう。

「そんな顔して私を見つめて、どうしたんだい?」
「ンッ、その、やっぱり殿下はズルい方だな、と……」
 こちらのほっぺたをスルリとなでて、そのまま耳を弄られた。

 その口もとに浮かぶ笑みは、やっぱりとても艶っぽい。
 それこそ俺なんかよりもよっぽど、そっちのほうが『』してるくせに!

 ……人前、なのに。
 というか、緊張するしかないようなメンツしかいない場所なのにさ。
 そう思う気持ちとは裏腹に、この手に触れられることに、からだがよろこびを訴えてくる。

「~~~~~っ、あの、あまり触られますと困ります」
「どう困るんだい?」
 あぁ、クソ!
 わかってて聞いてるだろ!?

「フフ、冗談だよ。困るキミの顔がかわいくて、ついからかってしまったけど……言っておくけどリオン、この子は私のモノだからね?手出しをすることは絶対にゆるさないよ」
「はっ!?はあぁ!別にダグラスなんて、そんな目で見たことねーしっ!!」
「絶対、だからね?」

 俺をからかってきたと思った矢先に、なぜかブレイン殿下は向かいにいるレオン殿下になぞの牽制をかけた。
 笑っているようでいて、その実、全然目が笑っていない。
 うん、おっかないよね……。

 でもそんな牽制を受けたリオン殿下だって、あまりにも荒唐無稽すぎる飛び火だからなのか、やたらとリアクションが大きいし、顔を真っ赤にして怒鳴りかえしている。
 なんというか、巻き込んでしまって申し訳ない気しかしない。

「……ちなみに、兄上も父上も、あと念のため宰相も、手出し無用に願います!」
「……ふむ、めずらしいのぅ、おまえがそこまで執着を見せるとは」
「まぁまぁ、ようやくお気に入りができたのですから、親として今はやさしく見守りましょう。ウフフ、それにしても磨き甲斐がありそうな子ですこと」

 ブレイン殿下からの牽制はとどまるところを知らないのか、とんでもないところにまで飛び火している。
 そんな姿に、国王夫妻もどことなく楽しげな顔をしていた。

 ……ン?
 ていうか王妃様、『磨き甲斐がありそう』って、どういう意味なんですかそれ?!
 たとえネガティブすぎると言われようとも、イモくさいとか、ダサいとか、そっちの意味にしか思えないんですけどもっ!

 こうして、気になる気配を残しつつも、夕食会の時間はなごやかなムードのままにすぎていったのだった。
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