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74:ついにたどりつく、この世界の理へ
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ハバネロ王太子殿下もまた、この学校の卒業生だからこそ、教師や寮の監督員なんかも知っているんだろう。
その自分がいたころのメンバーと大きく変わっていないハズなのに、なぜか今は非常識とも言えることがまかりとおってしまっているわけで。
そりゃあ、思わずそんな質問もしたくなるよな?
こたえるブレイン殿下の訳知り顔も、気にはなるけれど、だからといって下手にツッコめば、ボロを出してしまいそうだった。
と、それはさておき。
目下の問題は、リオン殿下のほうだった。
ちょっと前までは、この世界の改変の影響を受けてパレルモ様を愛でていたハズなのに、それにゆらぎが生じはじめている。
「いや、だってパレルモはだれにでもやさしくて、天使のように愛らしい存在なんだ……!!」
信頼しているハバネロ王太子殿下にまで否定をされ、リオン殿下は、このうえなく混乱しているように見えた。
両手であたまをかかえ、ブツブツとつぶやく姿は、気でも触れてしまったかのようにも見えなくもない。
ひょっとしたら、ねじまげられる前の己の感情を思い出したのかもしれなかった。
自分のなかに相反する感情が両方存在しているわけで、それの違和感がハンパないのだろうか?
まるで寄る辺なき子どものように不安げな顔のまま、目線はフラフラとさまよわせている。
ことのなりゆきを見守る国王夫妻と宰相は、まだ口出しをするつもりはないみたいだけど、こちらの話に耳をかたむけているのはわかった。
どうしよう、どうすればパレルモ様を救える?
だって、このままじゃリオン殿下がおかしくなっていた原因は、すでにブレイン殿下個人には知られているわけだし、遅かれ早かれ王家にもバレてしまうと思う。
本来なら外交官なんかには必須とされるスキルのひとつにすぎない魅了の魔法だけど、強烈なそれを日常的にダダもれにしたあげく、この国の王子まで巻き込んでしまっていたとしたら、さすがに問題だ。
「さて、リオン、そろそろおまえもそれが解けてきたころだろう?」
「なにがだよっ!って、あれ……いや、パレルモは天使で、やさしくて……だれからも愛されて…いて……?」
リオン殿下を襲っている混乱は、ブレイン殿下の声で一瞬にしてふくれあがったと思った矢先に、急激にしぼんでいく。
「本来王族というものは、そういう魔法への耐性はあるはずなのだから、落ちついて、自分を信じなさいリオン」
「~~~~~ぐぅっ!!」
やわらかな口調のブレイン殿下の声に、目をつむり、ブンブンとあたまを振ったリオン殿下は、苦しげにうめく。
と、次の瞬間。
リオン殿下は、カッと目を見開き、その姿のまま固まった。
「───そうだ、おかしい……あんな幼稚な人間を、なぜあんなにも愛らしいと思ってしまったんだ……?」
そのつぶやきの中身までは、あまりにも小さくてうまく聞き取れはしなかったけれど。
でも、その声には知性や理性といったものをとりもどしているように聞こえた。
「どうやら呪縛からは逃れられたようだね。まったく、世話の焼ける弟だ」
「兄上……その、俺は……」
魔法が解けたとはいえ、まだ混乱はつづいているんだろう、あいかわらずリオン殿下の声は弱々しかった。
「解けたならそれでいいけれど、でもこの子にはあやまってもらうからね?」
「えっ?」
ガシッと肩をつかまれ、あわてて横を向けば、あきらかに不機嫌そうなブレイン殿下の顔が目に飛び込んできた。
ヤバい、なんだそれ!?
怒る美形の怖さたるや……!!
思わず引いてしまいそうになったところで、ハッと気がつく。
「あのっ、どうか私のことはお気になさらずに願います!」
俺がここで引いてちゃダメだろ!
あわてて、今にも烈火のごとく怒りだしそうなブレイン殿下を止める。
「どうして?キミをさんざんバカにしてきただろう、我が愚弟は!」
そりゃ、傷つかなかったわけじゃないし、さっきも心がぽっきり折れてしまいそうだったけど。
「リオン殿下がおっしゃられていた評価は、言うなれば『己の不徳のいたすところ』というヤツですから」
何度でも言うけれど、これはこのゲームの世界観を作るための根底にあるものだ。
きっかけは偶然、でもその先のことはすべて必然という。
人から好かれるには、好かれるような原因があるわけで、嫌われているならば、それにもまた原因がちゃんとあるってことだ。
理由もなく嫌われる原因だって、もとをただせば『なんとなく苦手』と感じている、つまりは『生理的嫌悪感を抱いてしまう』ことが原因と言えなくもないわけで。
この場合、己を嫌う相手の『生理的嫌悪感を抱く範囲』と己がかぶっているから嫌われているという部分は『必然』であるけれど、そもそもその人物にとってのその範囲がそれだという部分は『偶然』になる。
もし、相手に嫌われたくないのなら、その範囲外となるよう、自分を変えていけばいい。
笑わないのが嫌だと言われたのなら、笑顔を見せるように努力して、なにをかんがえているかわからないと言われたのなら、きちんと己のかんがえを伝えるようにすればいい。
言い換えるなら、『必然』の部分は『己次第で変えられる可能性のある箇所』であり、『偶然』の部分は『自分だけではいかんともしがたい箇所』となるのかもしれないな……。
だからこそ、『星華の刻』というゲームでは、おなじ設定の世界のなかであっても、選択肢によりだれとくっつくか攻略相手が変わるという、そのシステムが許容されてきたわけだ。
ゲーム内では、行動の選択肢でどこにいくか、なにを話すかを選べるけれど、相手が好む場所で好みの話題をふれば好感度があがるというのは『必然』で、相手にとってその場所や話題が好きだという前提部分は『偶然』のほうに属するわけだ。
それはゆらぐことのない、この世界のお約束だった。
───あぁ、そうか……これこそが、ここの『世界の理』なのか!
とたんに視界がひらけたような、そんな爽快な気分になる。
いつかの夢のなかで邂逅した女神様の言っていた、『ブレイン殿下とのあれこれは世界の理には反していない』っていうヤツ。
あれのこたえが今、ようやく出たような気がした。
その自分がいたころのメンバーと大きく変わっていないハズなのに、なぜか今は非常識とも言えることがまかりとおってしまっているわけで。
そりゃあ、思わずそんな質問もしたくなるよな?
こたえるブレイン殿下の訳知り顔も、気にはなるけれど、だからといって下手にツッコめば、ボロを出してしまいそうだった。
と、それはさておき。
目下の問題は、リオン殿下のほうだった。
ちょっと前までは、この世界の改変の影響を受けてパレルモ様を愛でていたハズなのに、それにゆらぎが生じはじめている。
「いや、だってパレルモはだれにでもやさしくて、天使のように愛らしい存在なんだ……!!」
信頼しているハバネロ王太子殿下にまで否定をされ、リオン殿下は、このうえなく混乱しているように見えた。
両手であたまをかかえ、ブツブツとつぶやく姿は、気でも触れてしまったかのようにも見えなくもない。
ひょっとしたら、ねじまげられる前の己の感情を思い出したのかもしれなかった。
自分のなかに相反する感情が両方存在しているわけで、それの違和感がハンパないのだろうか?
まるで寄る辺なき子どものように不安げな顔のまま、目線はフラフラとさまよわせている。
ことのなりゆきを見守る国王夫妻と宰相は、まだ口出しをするつもりはないみたいだけど、こちらの話に耳をかたむけているのはわかった。
どうしよう、どうすればパレルモ様を救える?
だって、このままじゃリオン殿下がおかしくなっていた原因は、すでにブレイン殿下個人には知られているわけだし、遅かれ早かれ王家にもバレてしまうと思う。
本来なら外交官なんかには必須とされるスキルのひとつにすぎない魅了の魔法だけど、強烈なそれを日常的にダダもれにしたあげく、この国の王子まで巻き込んでしまっていたとしたら、さすがに問題だ。
「さて、リオン、そろそろおまえもそれが解けてきたころだろう?」
「なにがだよっ!って、あれ……いや、パレルモは天使で、やさしくて……だれからも愛されて…いて……?」
リオン殿下を襲っている混乱は、ブレイン殿下の声で一瞬にしてふくれあがったと思った矢先に、急激にしぼんでいく。
「本来王族というものは、そういう魔法への耐性はあるはずなのだから、落ちついて、自分を信じなさいリオン」
「~~~~~ぐぅっ!!」
やわらかな口調のブレイン殿下の声に、目をつむり、ブンブンとあたまを振ったリオン殿下は、苦しげにうめく。
と、次の瞬間。
リオン殿下は、カッと目を見開き、その姿のまま固まった。
「───そうだ、おかしい……あんな幼稚な人間を、なぜあんなにも愛らしいと思ってしまったんだ……?」
そのつぶやきの中身までは、あまりにも小さくてうまく聞き取れはしなかったけれど。
でも、その声には知性や理性といったものをとりもどしているように聞こえた。
「どうやら呪縛からは逃れられたようだね。まったく、世話の焼ける弟だ」
「兄上……その、俺は……」
魔法が解けたとはいえ、まだ混乱はつづいているんだろう、あいかわらずリオン殿下の声は弱々しかった。
「解けたならそれでいいけれど、でもこの子にはあやまってもらうからね?」
「えっ?」
ガシッと肩をつかまれ、あわてて横を向けば、あきらかに不機嫌そうなブレイン殿下の顔が目に飛び込んできた。
ヤバい、なんだそれ!?
怒る美形の怖さたるや……!!
思わず引いてしまいそうになったところで、ハッと気がつく。
「あのっ、どうか私のことはお気になさらずに願います!」
俺がここで引いてちゃダメだろ!
あわてて、今にも烈火のごとく怒りだしそうなブレイン殿下を止める。
「どうして?キミをさんざんバカにしてきただろう、我が愚弟は!」
そりゃ、傷つかなかったわけじゃないし、さっきも心がぽっきり折れてしまいそうだったけど。
「リオン殿下がおっしゃられていた評価は、言うなれば『己の不徳のいたすところ』というヤツですから」
何度でも言うけれど、これはこのゲームの世界観を作るための根底にあるものだ。
きっかけは偶然、でもその先のことはすべて必然という。
人から好かれるには、好かれるような原因があるわけで、嫌われているならば、それにもまた原因がちゃんとあるってことだ。
理由もなく嫌われる原因だって、もとをただせば『なんとなく苦手』と感じている、つまりは『生理的嫌悪感を抱いてしまう』ことが原因と言えなくもないわけで。
この場合、己を嫌う相手の『生理的嫌悪感を抱く範囲』と己がかぶっているから嫌われているという部分は『必然』であるけれど、そもそもその人物にとってのその範囲がそれだという部分は『偶然』になる。
もし、相手に嫌われたくないのなら、その範囲外となるよう、自分を変えていけばいい。
笑わないのが嫌だと言われたのなら、笑顔を見せるように努力して、なにをかんがえているかわからないと言われたのなら、きちんと己のかんがえを伝えるようにすればいい。
言い換えるなら、『必然』の部分は『己次第で変えられる可能性のある箇所』であり、『偶然』の部分は『自分だけではいかんともしがたい箇所』となるのかもしれないな……。
だからこそ、『星華の刻』というゲームでは、おなじ設定の世界のなかであっても、選択肢によりだれとくっつくか攻略相手が変わるという、そのシステムが許容されてきたわけだ。
ゲーム内では、行動の選択肢でどこにいくか、なにを話すかを選べるけれど、相手が好む場所で好みの話題をふれば好感度があがるというのは『必然』で、相手にとってその場所や話題が好きだという前提部分は『偶然』のほうに属するわけだ。
それはゆらぐことのない、この世界のお約束だった。
───あぁ、そうか……これこそが、ここの『世界の理』なのか!
とたんに視界がひらけたような、そんな爽快な気分になる。
いつかの夢のなかで邂逅した女神様の言っていた、『ブレイン殿下とのあれこれは世界の理には反していない』っていうヤツ。
あれのこたえが今、ようやく出たような気がした。
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