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70:気まずすぎる夕食会

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 ひとり場ちがいな気がするというか、そのせいで気まずさは最高潮に達していた。
 というよりも、こんなVIPだらけの場所でリラックスできるヤツがいたら教えてほしい。

 というか、こんなそうそうたるメンバーでの夕食会だと聞いていたら、なにがあろうと辞退してたよ!
 だって、どう見ても『魅了香チャーム・パフューム』とは無関係なメンツだろうが!!

 もう気持ちのうえでは夕食を楽しむどころではなくなっていた。
 キリキリと痛む胃をそっとさすりながら、あたりさわりのないほほえみを浮かべてやりすごす。

「……ダグラス、貴様兄上と付き合っているというウワサは本当だったのか。愛らしいパレルモならばまだしも、ダグラスなんぞと付き合うとは、なんの冗談かと思っていたが」
「リオン殿下……」
 若干の嫌悪感をにじませながら向かいの席から話しかけてきたのは、ブレイン殿下の弟君にして我がクラスメイト、そしてなにより『星華せいかとき』のメイン攻略キャラクターであるリオン殿下だった。

 サラリとした短い金髪にロイヤルブルーの瞳という、『いかにも』な王子様スタイルをしている。
 しかも性格は、わかりやすく『俺様』キャラだ。
 だからこそ攻略キャラクターのなかでも、メインに据えられているんだろうけども。

 ただ、紫の長髪にバラ色の瞳というブレイン殿下とは、正真正銘の兄弟のハズなのに、顔の系統ふくめて全然似ていない。
 一応母親がちがうし、王様が金髪にバラ色の瞳という色味だから、それぞれ遺伝はしているんだと思うけど。

「っ、申し訳……」
「キミは気にする必要なんてない」
 とっさにあたまを下げてあやまろうとしたところで、顔の前に横から手が差し出されて止められた。

「でも……っ!」
 残念ながらリオン殿下はこの世界の改変の影響を受けているのかもしれないけれど、それを差し引いても、俺みたいなモブがブレイン殿下の恋人というのには無理があるとは思う。

「愚弟がなにを言おうと知ったことではない。まったく、あんな魔法ごときにやられるような惰弱な輩が弟だなんてはずかしいよ」
 代わりに、息を吸うように自然と悪口が出てくるブレイン殿下に、どうしていいのかわからなくなる。

 ただ、この兄弟の仲があまりよくないのだろうということだけは、伝わったけど。
 それでも兄弟ゲンカの理由のひとつが自分とか、胃が痛いにもほどがあるだろ!

「ふぅん、今までの子とは系統がちがうようだけど、ブレインには特別かわいく見えているんだろう?」
 悪くなりかけた空気を破ったのは、ブレイン殿下のとなりに座るハバネロ王太子殿下だ。

 こちらは真っ赤な髪にバラ色の瞳と、王様にそっくりな男前な顔で、やはり王族ならではの育ちが良さそうなロイヤルオーラが全開になっている。
 つまりは、まぶしいことに変わりはなかった。

「えぇ、それはもう!私の前でだけ咲く花というのも、なかなかどうして愛おしいものですよ」
「そうか……たしかに慎ましやかなれど、己の前でだけ色づく花というのは、たまらなく愛でたいものではあるな!」
 こちらの兄弟仲は、悪くはないみたいだけど……。

 でもその話題、やめてもらえませんかね?!
 この世界のロイヤルな方々ならではの比喩表現でごまかされがちだけど、要は『自分に抱かれるときだけ乱れる相手がたまらん』って意味の、言ってしまえばただの猥談だからな!?

 しかも、さりげなく奥に座る王様まで興味津々な様子でこっちを見てくるし、居たたまれないなんてモンじゃない!

 さすがに本人の品のよさのおかげで、視線にまじる、いやらしさみたいなものはないかもしれないけども。
 だからといってネタにされるのも、気まずいことだった。

「ところで、ダグラスというと、?」
 そんな話を振ってきたのは、宰相だ。
「えぇそうです。あの悪名高きダグラス伯爵家ですよ」
 それにこたえたのは、俺じゃなくてリオン殿下だったけれど。

 まぁ実家がクソなのは事実ではあるんだけど、それにしても敵意を隠さないというか、トゲトゲしいよなぁ……。
 俺、なんかリオン殿下にしたっけ??

 ただでさえ場ちがい感満載で居心地が悪いというのに、こうもあからさまに敵意を向けられるとか、本気で今すぐ帰りたい。
 ため息をつきたい気持ちを、ぐっとこらえる。

「ふぅむ、あのダグラスの家のものにしては、いささか雰囲気が異なるようだが……」
「よくお気づきですね、さすがは父上からも信頼が厚い宰相だけある」
 今度はブレイン殿下が割って入ってくる。

 この兄弟、俺にしゃべらせる気ないだろ。
 身分が下のものからは話しかけにくいから、こうして問われたときにしかこたえられないんだけど。
 ……まぁ、別に話さなくてもかまわないけどさ。

「この子はあのダグラス伯爵家の子だけに賢いのは言うまでもないですが、性格は非常にすなおだし、妙に律儀なところもあって、たいそうかわいらしいんですよ!」
「あの、ブレイン殿下、あまり話を盛るのは……」
 ダメだろうとツッコミを入れたところで、ますます相手の顔は、まばゆいばかりに笑みこぼれていく。

「それに加えて、この謙虚さ!決して不満を口にしない我慢強さもある一方で、一見おとなしそうに見えますが、いざというときには私の頬を張ることもできる気丈さもかねそなえていますからね!どうです、最高でしょう?!」
 まさに立て板に水のごとく、ブレイン殿下は俺のことを誉めちぎる。

「まぁ、そんな子だからこそ、私が甘やかしてあげたいと思うんですけどね?」
 やわらかな視線のままにこちらを見て、ふわりとほほえむ。
 こんなの、ズルいだろ……!!

「~~~~~~っ!!」
 ごめん、無理……!
 勘弁してくれよ……!!

 もはやなにも言えない状態で、照れるしかない。
 本当はこれだってすべてが演技なのかもしれないけれど、それでも俺にとっては十分はずかしかったから、どうしたって顔は熱くなる。
 結局のところ、ただ気まずさが増しただけだった。
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