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69:『身内だけの夕食会』の落とし穴
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てっきりブレイン殿下のために用意されたものだと思っていたアクセサリー類は、あまりにも手際よく付き人の手により俺の服と耳に装着された。
「あぁ、やはりキミには紫がよく似合う」
うれしそうに声をはずませて言うブレイン殿下に、どんな顔をかえせばよかったんだろうか?
「あの、ご自身でつけられるのではなくて?」
「なにを言ってるんだい、最初からキミにつけさせるために選ばせたものだよ?」
どうしよう、またもや話がすれちがっている気がする。
「紫はブレイン殿下のお色であって、ほかのものが身につけるのはご法度ですよね?」
「たしかに『私のもの』にはその配色をすることが多いけれど、ならばキミは私の恋人なのだし『私のもの』であることに変わりはないのだから、なんの問題もないだろう?」
「いや、ありますって!」
前回の制服のときだって、大問題だったんだからな?!
「そうか……やはりキミは、私の想いは受け入れてくれないんだね……」
「うっ……」
見るからにしょんぼりと肩を落とす相手に、別に俺は悪くないはずなのに、罪悪感がこみ上げてくる。
「別に、そういうことを申し上げているわけではなくてっ!」
「……いつになったらキミは、身も心も私のものになってくれるんだろうね?」
キラキラとまばゆく光るオーラを身にまといながらも、哀しみを全開にしてたずねてくるブレイン殿下は、絶対に己の顔のよさを自覚していると思う。
「……その質問は、ズルいと思います……」
だってすでに、それにたいするこたえは出しているというのに。
絶対に『ダメ』なんだって。
本来なら自室で、付き人しかいないのであれば演技なんて必要ないだろうに。
でもブレイン殿下はさっきから、演技をやめる気配が見えなかった。
てことは、つまり俺は恋人のふりをつづけなければいけないってことだ。
ならば当然のように『ダメだ』と言うわけにはいかないけれど……でも、だからといって叶えられないようなウソをつくわけにもいかないだろう。
結果、こたえに窮した俺は黙り込むしかできなくなる。
たぶん、今さらだけどブレイン殿下のことが好きだと自覚してしまってからは、この顔に非常に弱くなった気がする。
なんていうか、めちゃくちゃカッコよくて、この顔にお願いされたらなんだって聞いてしまいそうになるんだ。
───我ながら、だいぶチョロいと思うんだけど。
「うんうん、やっぱりキミの白い肌には、紫がよく映えるね」
うつむく俺にブレイン殿下は、ピアスがよく見えるようにと、こちらの髪を耳にかけながら笑いかけてくる。
もう、その笑顔がまぶしくてたまらない。
さっきよりも、あきらかにまぶしさを増している気がする。
なんなんだろうな、この笑顔の安売りは?
しかもゲーム画面で見ていたような、いかにも顔に張りつけたような作り笑顔というより、本当にうれしくて笑っているように見えるんだよなぁ。
今のやりとりには、そんなにうれしくなるような要素なんてなかったと思うけど……。
黙っていたら、つい見惚れてしまいそうで、あわててせきばらいをひとつすると、居ずまいをただした。
俺だって、このまま流されるわけにはいかないからな!
「それで……あなたの色を身につけて、どこにごいっしょすればよろしいんですか?」
たぶん、どこかに出かけるのでもなければ、こんなふうにめかし込む必要はないハズだし。
これから寮の夕飯の時間だとかんがえれば、そう遠くに出ることもないだろうけど。
ていうか、その用事によっては、ひょっとして夕飯抜きになったりするのか?
いや、さっき遅めの昼食は食べたけれど……。
まぁ、言っても前世の社畜時代なんて、まともにごはんも食べられずに夜どおしはたらいていたこともあったから、今さらと言えば今さらか。
大丈夫、一食抜いたくらいじゃ死にはしない。
「フフ、察しのいい子は嫌いじゃないよ?キミを連れてこれから夕食会に少々ね。といっても寮内だし、ジャケットもいらないような身内だけの気楽なものだからね」
「夕食会……?」
元から入っていた用事なら、俺がいっしょにいていいものなんだろうか?
「そう、せっかくだから私のかわいい恋人の自慢でもしようかと思ってね」
パチリとウィンクしてくる相手に、ようやく察した。
あぁ、ひょっとしてそっちか!
つまりは、その夕食会に出席するメンバーのなかに、この学校へ『魅了香』を持ち込んだ人間がいる可能性があるってことか。
だから相手の油断を誘うために、俺を連れて行くってことだ。
「わかりました」
それなら否やはない。
たぶん俺自身が演技なんてできないのは、ブレイン殿下も知っているだろうし、ほぼ素のままでいればいいんだろうしな。
───なんて気楽に考えていた、ちょっと前の自分を責めたい。
次々とそろっていくメンバーに、生きた心地がしなかった。
だって、ブレイン殿下の弟のリオン殿下に、兄のハバネロ王太子殿下、王妃様に校長、理事長と来た日には、無理からぬことだろ!
いや、たしかにブレイン殿下にすれば、ジャケットもいらないような気楽な夕食会だろうよ。
だって、皆身内みたいなもんだもんな?
でも俺からしたら、会うこともないような殿上人状態なわけだ。
寮内ではあるけれど特別貴賓室と呼ばれる個室の食堂は、内装からしてゴージャスで。
ならべられた食器類もよく磨かれているのか、シャンデリアの明かりを反射してキラキラと光っている。
「うむ、待たせたのぉ~」
そうのんきな声とともに最後にあらわれたのは、この国の宰相を引き連れた王様だった。
そう、よりによって、国王様だ!!
俺の親だって、めったに謁見できないような相手なのに!
たしかにだれもジャケットも着ていないし、正装じゃないどころか、あきらかにラフな格好をしているにしても、同席するには俺には荷が重すぎた。
「遅いですよ、父上。私は早く帰ってかわいい恋人との甘い時間をすごしたかったんですけどね?」
「いやぁ、悪い悪い。ワシも息子たちの元気な様子を聞きたくてな。たまにはこうして、顔を合わせるのも悪くないだろう?」
生きた心地のしない俺の横では、ブレイン殿下が堂々と苦情を申し立てている。
そんなブレイン殿下はこの国の王子様なわけで、本来なら俺なんぞが近寄れるような存在なんかじゃなかったことを忘れていた。
そう、つまりこの場には、この学校のVIPがこれでもかといういきおいでそろっていたのである。
「あぁ、やはりキミには紫がよく似合う」
うれしそうに声をはずませて言うブレイン殿下に、どんな顔をかえせばよかったんだろうか?
「あの、ご自身でつけられるのではなくて?」
「なにを言ってるんだい、最初からキミにつけさせるために選ばせたものだよ?」
どうしよう、またもや話がすれちがっている気がする。
「紫はブレイン殿下のお色であって、ほかのものが身につけるのはご法度ですよね?」
「たしかに『私のもの』にはその配色をすることが多いけれど、ならばキミは私の恋人なのだし『私のもの』であることに変わりはないのだから、なんの問題もないだろう?」
「いや、ありますって!」
前回の制服のときだって、大問題だったんだからな?!
「そうか……やはりキミは、私の想いは受け入れてくれないんだね……」
「うっ……」
見るからにしょんぼりと肩を落とす相手に、別に俺は悪くないはずなのに、罪悪感がこみ上げてくる。
「別に、そういうことを申し上げているわけではなくてっ!」
「……いつになったらキミは、身も心も私のものになってくれるんだろうね?」
キラキラとまばゆく光るオーラを身にまといながらも、哀しみを全開にしてたずねてくるブレイン殿下は、絶対に己の顔のよさを自覚していると思う。
「……その質問は、ズルいと思います……」
だってすでに、それにたいするこたえは出しているというのに。
絶対に『ダメ』なんだって。
本来なら自室で、付き人しかいないのであれば演技なんて必要ないだろうに。
でもブレイン殿下はさっきから、演技をやめる気配が見えなかった。
てことは、つまり俺は恋人のふりをつづけなければいけないってことだ。
ならば当然のように『ダメだ』と言うわけにはいかないけれど……でも、だからといって叶えられないようなウソをつくわけにもいかないだろう。
結果、こたえに窮した俺は黙り込むしかできなくなる。
たぶん、今さらだけどブレイン殿下のことが好きだと自覚してしまってからは、この顔に非常に弱くなった気がする。
なんていうか、めちゃくちゃカッコよくて、この顔にお願いされたらなんだって聞いてしまいそうになるんだ。
───我ながら、だいぶチョロいと思うんだけど。
「うんうん、やっぱりキミの白い肌には、紫がよく映えるね」
うつむく俺にブレイン殿下は、ピアスがよく見えるようにと、こちらの髪を耳にかけながら笑いかけてくる。
もう、その笑顔がまぶしくてたまらない。
さっきよりも、あきらかにまぶしさを増している気がする。
なんなんだろうな、この笑顔の安売りは?
しかもゲーム画面で見ていたような、いかにも顔に張りつけたような作り笑顔というより、本当にうれしくて笑っているように見えるんだよなぁ。
今のやりとりには、そんなにうれしくなるような要素なんてなかったと思うけど……。
黙っていたら、つい見惚れてしまいそうで、あわててせきばらいをひとつすると、居ずまいをただした。
俺だって、このまま流されるわけにはいかないからな!
「それで……あなたの色を身につけて、どこにごいっしょすればよろしいんですか?」
たぶん、どこかに出かけるのでもなければ、こんなふうにめかし込む必要はないハズだし。
これから寮の夕飯の時間だとかんがえれば、そう遠くに出ることもないだろうけど。
ていうか、その用事によっては、ひょっとして夕飯抜きになったりするのか?
いや、さっき遅めの昼食は食べたけれど……。
まぁ、言っても前世の社畜時代なんて、まともにごはんも食べられずに夜どおしはたらいていたこともあったから、今さらと言えば今さらか。
大丈夫、一食抜いたくらいじゃ死にはしない。
「フフ、察しのいい子は嫌いじゃないよ?キミを連れてこれから夕食会に少々ね。といっても寮内だし、ジャケットもいらないような身内だけの気楽なものだからね」
「夕食会……?」
元から入っていた用事なら、俺がいっしょにいていいものなんだろうか?
「そう、せっかくだから私のかわいい恋人の自慢でもしようかと思ってね」
パチリとウィンクしてくる相手に、ようやく察した。
あぁ、ひょっとしてそっちか!
つまりは、その夕食会に出席するメンバーのなかに、この学校へ『魅了香』を持ち込んだ人間がいる可能性があるってことか。
だから相手の油断を誘うために、俺を連れて行くってことだ。
「わかりました」
それなら否やはない。
たぶん俺自身が演技なんてできないのは、ブレイン殿下も知っているだろうし、ほぼ素のままでいればいいんだろうしな。
───なんて気楽に考えていた、ちょっと前の自分を責めたい。
次々とそろっていくメンバーに、生きた心地がしなかった。
だって、ブレイン殿下の弟のリオン殿下に、兄のハバネロ王太子殿下、王妃様に校長、理事長と来た日には、無理からぬことだろ!
いや、たしかにブレイン殿下にすれば、ジャケットもいらないような気楽な夕食会だろうよ。
だって、皆身内みたいなもんだもんな?
でも俺からしたら、会うこともないような殿上人状態なわけだ。
寮内ではあるけれど特別貴賓室と呼ばれる個室の食堂は、内装からしてゴージャスで。
ならべられた食器類もよく磨かれているのか、シャンデリアの明かりを反射してキラキラと光っている。
「うむ、待たせたのぉ~」
そうのんきな声とともに最後にあらわれたのは、この国の宰相を引き連れた王様だった。
そう、よりによって、国王様だ!!
俺の親だって、めったに謁見できないような相手なのに!
たしかにだれもジャケットも着ていないし、正装じゃないどころか、あきらかにラフな格好をしているにしても、同席するには俺には荷が重すぎた。
「遅いですよ、父上。私は早く帰ってかわいい恋人との甘い時間をすごしたかったんですけどね?」
「いやぁ、悪い悪い。ワシも息子たちの元気な様子を聞きたくてな。たまにはこうして、顔を合わせるのも悪くないだろう?」
生きた心地のしない俺の横では、ブレイン殿下が堂々と苦情を申し立てている。
そんなブレイン殿下はこの国の王子様なわけで、本来なら俺なんぞが近寄れるような存在なんかじゃなかったことを忘れていた。
そう、つまりこの場には、この学校のVIPがこれでもかといういきおいでそろっていたのである。
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