上 下
66 / 188

66:目からウロコの改善策

しおりを挟む
 至近距離から見るブレイン殿下の顔は、あいかわらずめちゃくちゃととのった造作をしている。
 さすがは隠し攻略キャラクター、俺みたいなモブとは一線を画しているというか。

「キミはあいかわらず、私を頼ってはくれないんだね?」
「十分頼ってますよ?こんなに長い時間、パレルモ様と離れてすごすのは、はじめてのことですし……」
 まぁこれは直接ブレイン殿下が、というよりは、スコッチ先輩のおかげではあるんだけど。

 これまでは、俺が目を離した隙にロクでもないヤカラに襲われかけているなんてことは日常茶飯事だったし、襲われないまでもヤバそうなヤツらに平気でついていってたし、とにかく放置できなかったから。
 こうして離れていても、なにもかんがえずに済むなんてこと、今までなかったんだ。

「そういうことではないのだけどね……たとえば今のキミは私の恋人なのだから、公爵家の子がキミになにを言おうと、私の力ではねかえすことも可能なんだよ?」
 それは今朝の寮の部屋の交代劇のことを言っているのは、あきらかだった。

「そう、ですね……でもそこで俺が同室継続を無理に主張すれば角が立ちますし、クラス中がもろ手をあげて賛成するパレルモ様の提案を、俺ひとりの意思で引っくりかえすのは、やっぱりあつれきのもとだと思うので……」
 というか、ぶっちゃけ反対なんてできる空気じゃなかった。

「……それで、今朝あったことをあらためて教えてくれるかい?」
「たいしたことではないですよ?」
 そう前置きをして、淡々と転入生が来たことと、それによって寮の部屋を変わることになった細かな経緯を伝えた。

「なるほど……」
 そこで黙り込むブレイン殿下の姿に、不安になる。
 ひょっとして俺は、なにかまちがえた選択肢でも選んでしまったのだろうかって。

 なるべく俺の不満に思う気持ちがにじまないようにと、気をつけて言葉を選んだハズだけど、もしも口調からもそれがにじんでしまっていたならしょうがない。

「まぁ、正直なところ寮の部屋を管理する部署の方々だけでも、まともでよかったと思ってます。てっきりパプリカ男爵令息と部屋を交代しろと、そのまま彼のために用意したひとり部屋に行けと言われる覚悟はしてたんですけど…… 」
 そうなっていたら、さすがに付き人の数を減らさなきゃいけないかと思っていたけれど。

 ついでに言えば、伯爵家の子息が男爵部屋に移るなんて、まるで懲罰対象になったようにも思えるから、外聞も悪いだろうと心配していた。
 あくまでもパレルモ様を持ちあげるためのエピソードとはいえ、あの侵食者なら、ついでのように俺にシワ寄せをしてもいいとかんがえていそうだったし……。

「いくらなんでも、それはないだろう!キミは伯爵家の子息なのだから」
 だから、あたりまえのことのように言ってくれるブレイン殿下のセリフが、今の俺にとってはとても心強かった。

「そう、なんですけどね……パレルモ様が絡むと、皆おかしくなるので……」
 俺が言うとおり、パレルモ様を前にした人は、皆一様におかしくなってしまうから。
 あきらめたように、ひとつ深いため息をつく。

「あぁ、例の魅了の魔法だね」
「それです……」
 なんでだか知らないけれど、俺にはあの魔法が効かないんだけども、ほかの人にとってはかなり効果があるみたいだし。

 でも、魔法自体が効きにくいセブンとちがって、俺はこの世界の魔法もふつうにかかるのにな?
 だってそうじゃなきゃ、あの日の夜にブレイン殿下にかけられた状態異常耐性のデバフ魔法だって、効くハズないだろ?

「本人に自覚がないまま垂れ流しになっているのなら、いっそ『魔封じの腕輪』でもつけてもらおうか?」
 ブレイン殿下の提案に、俺はピシリと固まった。

「……正直、その発想はなかったです……」
 俺にしてみれば、改変の原因をただせば直ると思っていたことだけに、それをその前から封じようという発想はまるでなかったことに、言われてはじめて気がつく。

 目からウロコが落ちる感覚というべきだろうか。
 とにかく斬新な発想に、息を飲む。
 そりゃ魅了の魔法を常時発動させてるせいで周囲がおかしいのなら、それを封じてしまえば元にもどるハズっていうのはたしかだけど。

 でもそれ、可能なのか??
 というより、『パレルモ様がだれからも愛される世界』に書き換えられているのなら、それはあとからどうにかできるものじゃないと思い込んでいたけれど、実はそうじゃないのだろうか?!

「試してみる価値はあると思うよ?」
「問題は、魔封じの腕輪なんてレア品、どうやって手に入れるかですよね……」
「キミのご実家の商会あたりなら、取り寄せも可能だろう?」
 ブレイン殿下に言われ、顔をしかめる。

「あー……可能は可能だと思いますけど……問題は、それをパレルモ様に使うためってのが、ライムホルン公爵に許可されるかどうかですね……」
 万が一それが反逆心のあらわれと断定されたなら、簡単に処刑エンドを迎えかねない。

 でもたしかに、一考の余地はある案だった。

 原作ゲームのなかじゃ、パプリカ男爵家は領地替え直後であまり裕福ではなかったから、ヒロインのベルは寮の部屋はロクに改装もせずにボロいままに使っていたけれど、俺の場合は改装しているわけだし、明日以降はかなり快適にすごせるハズだった。

 あれ、ひょっとして、『物語創作者ストーリーライター』の権能でされた改変は、この世界のなかの方法だけでも、改善可能なのか??
 そりゃ、事後の対症療法みたいになるけれど、無理に俺が『世界創造者ワールドクリエイター』の権能で立ち向かわなくていいのなら、それに越したことはなかった。

「───ありがとうございます、ブレイン殿下!」
 その可能性に気づかせてくれた相手の手をとり、お礼を言う。

「なんだかよくわからないけれど、感謝を示すなら、キミのからだで示してもらってもかまわないのだけどね?」
「え……?」
 こちらを見て、ニヤリと笑いを浮かべるブレイン殿下の瞳は、捕食者のそれになっていた。

 それを目にした瞬間、悟る。
 アッ、これ詰んだ、と。

 なにしろここは、ブレイン殿下の私室だ。
 それも対外的に俺は、『お持ち帰り』をされたようなもので。
 それに加えて、借りた制服をかえすのもまだだという事実が横たわる。

 今さらながら、逃げ場のない場所に自らついてきてしまったことに気づいて、サーッと顔から血の気が引いていく。
 あああヤバい、俺の尻がピンチです……!!
 どうしたらいいんだよ、この状況?!
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

バッドエンドの異世界に悪役転生した僕は、全力でハッピーエンドを目指します!

BL
 16才の初川終(はつかわ しゅう)は先天性の心臓の病気だった。一縷の望みで、成功率が低い手術に挑む終だったが……。    僕は気付くと両親の泣いている風景を空から眺めていた。それから、遠くで光り輝くなにかにすごい力で引き寄せられて。    目覚めれば、そこは子どもの頃に毎日読んでいた大好きなファンタジー小説の世界だったんだ。でも、僕は呪いの悪役の10才の公爵三男エディに転生しちゃったみたい!  しかも、この世界ってバッドエンドじゃなかったっけ?  バッドエンドをハッピーエンドにする為に、僕は頑張る!  でも、本の世界と少しずつ変わってきた異世界は……ひみつが多くて?  嫌われ悪役の子どもが、愛されに変わる物語。ほのぼの日常が多いです。 ◎体格差、年の差カップル ※てんぱる様の表紙をお借りしました。

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

Switch!〜僕とイケメンな地獄の裁判官様の溺愛異世界冒険記〜

天咲 琴葉
BL
幼い頃から精霊や神々の姿が見えていた悠理。 彼は美しい神社で、家族や仲間達に愛され、幸せに暮らしていた。 しかし、ある日、『燃える様な真紅の瞳』をした男と出逢ったことで、彼の運命は大きく変化していく。 幾重にも襲い掛かる運命の荒波の果て、悠理は一度解けてしまった絆を結び直せるのか――。 運命に翻弄されても尚、出逢い続ける――宿命と絆の和風ファンタジー。

【完】悪女と呼ばれた悪役令息〜身代わりの花嫁〜

BL
公爵家の長女、アイリス 国で一番と言われる第一王子の妻で、周りからは“悪女”と呼ばれている それが「私」……いや、 それが今の「僕」 僕は10年前の事故で行方不明になった姉の代わりに、愛する人の元へ嫁ぐ 前世にプレイしていた乙女ゲームの世界のバグになった僕は、僕の2回目の人生を狂わせた実父である公爵へと復讐を決意する 復讐を遂げるまではなんとか男である事を隠して生き延び、そして、僕の死刑の時には公爵を道連れにする そう思った矢先に、夫の弟である第二王子に正体がバレてしまい……⁉︎ 切なく甘い新感覚転生BL! 下記の内容を含みます ・差別表現 ・嘔吐 ・座薬 ・R-18❇︎ 130話少し前のエリーサイド小説も投稿しています。(百合) 《イラスト》黒咲留時(@kurosaki_writer) ※流血表現、死ネタを含みます ※誤字脱字は教えて頂けると嬉しいです ※感想なども頂けると跳んで喜びます! ※恋愛描写は少なめですが、終盤に詰め込む予定です ※若干の百合要素を含みます

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

第一王子に転生したのに、毎日お仕置きされる日々を送る羽目になった

kuraku
BL
 ある日ボクは見知ら国の第一王子になっていた。  休日の街を歩いていたら強い衝撃に襲われて、目が覚めたら中世のヨーロッパのお屋敷みたいな所にいて、そこには医者がいて、馬車の事故で数日眠っていたと言われたけど、さっぱりその記憶はない。  鏡を見れば元の顔のボクがそこにいた。相変わらずの美少年だ。元々街を歩けばボーイッシュな女の子に間違われて芸能事務所にスカウトされるような容姿をしている。  これがいわゆる転生と呼ばれるものなのだろうか。

猫が崇拝される人間の世界で猫獣人の俺って…

えの
BL
森の中に住む猫獣人ミルル。朝起きると知らない森の中に変わっていた。はて?でも気にしない!!のほほんと過ごしていると1人の少年に出会い…。中途半端かもしれませんが一応完結です。妊娠という言葉が出てきますが、妊娠はしません。

処理中です...