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66:目からウロコの改善策
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至近距離から見るブレイン殿下の顔は、あいかわらずめちゃくちゃととのった造作をしている。
さすがは隠し攻略キャラクター、俺みたいなモブとは一線を画しているというか。
「キミはあいかわらず、私を頼ってはくれないんだね?」
「十分頼ってますよ?こんなに長い時間、パレルモ様と離れてすごすのは、はじめてのことですし……」
まぁこれは直接ブレイン殿下が、というよりは、スコッチ先輩のおかげではあるんだけど。
これまでは、俺が目を離した隙にロクでもないヤカラに襲われかけているなんてことは日常茶飯事だったし、襲われないまでもヤバそうなヤツらに平気でついていってたし、とにかく放置できなかったから。
こうして離れていても、なにもかんがえずに済むなんてこと、今までなかったんだ。
「そういうことではないのだけどね……たとえば今のキミは私の恋人なのだから、公爵家の子がキミになにを言おうと、私の力ではねかえすことも可能なんだよ?」
それは今朝の寮の部屋の交代劇のことを言っているのは、あきらかだった。
「そう、ですね……でもそこで俺が同室継続を無理に主張すれば角が立ちますし、クラス中がもろ手をあげて賛成するパレルモ様の提案を、俺ひとりの意思で引っくりかえすのは、やっぱりあつれきのもとだと思うので……」
というか、ぶっちゃけ反対なんてできる空気じゃなかった。
「……それで、今朝あったことをあらためて教えてくれるかい?」
「たいしたことではないですよ?」
そう前置きをして、淡々と転入生が来たことと、それによって寮の部屋を変わることになった細かな経緯を伝えた。
「なるほど……」
そこで黙り込むブレイン殿下の姿に、不安になる。
ひょっとして俺は、なにかまちがえた選択肢でも選んでしまったのだろうかって。
なるべく俺の不満に思う気持ちがにじまないようにと、気をつけて言葉を選んだハズだけど、もしも口調からもそれがにじんでしまっていたならしょうがない。
「まぁ、正直なところ寮の部屋を管理する部署の方々だけでも、まともでよかったと思ってます。てっきりパプリカ男爵令息と部屋を交代しろと、そのまま彼のために用意したひとり部屋に行けと言われる覚悟はしてたんですけど…… 」
そうなっていたら、さすがに付き人の数を減らさなきゃいけないかと思っていたけれど。
ついでに言えば、伯爵家の子息が男爵部屋に移るなんて、まるで懲罰対象になったようにも思えるから、外聞も悪いだろうと心配していた。
あくまでもパレルモ様を持ちあげるためのエピソードとはいえ、あの侵食者なら、ついでのように俺にシワ寄せをしてもいいとかんがえていそうだったし……。
「いくらなんでも、それはないだろう!キミは伯爵家の子息なのだから」
だから、あたりまえのことのように言ってくれるブレイン殿下のセリフが、今の俺にとってはとても心強かった。
「そう、なんですけどね……パレルモ様が絡むと、皆おかしくなるので……」
俺が言うとおり、パレルモ様を前にした人は、皆一様におかしくなってしまうから。
あきらめたように、ひとつ深いため息をつく。
「あぁ、例の魅了の魔法だね」
「それです……」
なんでだか知らないけれど、俺にはあの魔法が効かないんだけども、ほかの人にとってはかなり効果があるみたいだし。
でも、魔法自体が効きにくいセブンとちがって、俺はこの世界の魔法もふつうにかかるのにな?
だってそうじゃなきゃ、あの日の夜にブレイン殿下にかけられた状態異常耐性のデバフ魔法だって、効くハズないだろ?
「本人に自覚がないまま垂れ流しになっているのなら、いっそ『魔封じの腕輪』でもつけてもらおうか?」
ブレイン殿下の提案に、俺はピシリと固まった。
「……正直、その発想はなかったです……」
俺にしてみれば、改変の原因をただせば直ると思っていたことだけに、それをその前から封じようという発想はまるでなかったことに、言われてはじめて気がつく。
目からウロコが落ちる感覚というべきだろうか。
とにかく斬新な発想に、息を飲む。
そりゃ魅了の魔法を常時発動させてるせいで周囲がおかしいのなら、それを封じてしまえば元にもどるハズっていうのはたしかだけど。
でもそれ、可能なのか??
というより、『パレルモ様がだれからも愛される世界』に書き換えられているのなら、それはあとからどうにかできるものじゃないと思い込んでいたけれど、実はそうじゃないのだろうか?!
「試してみる価値はあると思うよ?」
「問題は、魔封じの腕輪なんてレア品、どうやって手に入れるかですよね……」
「キミのご実家の商会あたりなら、取り寄せも可能だろう?」
ブレイン殿下に言われ、顔をしかめる。
「あー……可能は可能だと思いますけど……問題は、それをパレルモ様に使うためってのが、ライムホルン公爵に許可されるかどうかですね……」
万が一それが反逆心のあらわれと断定されたなら、簡単に処刑エンドを迎えかねない。
でもたしかに、一考の余地はある案だった。
原作ゲームのなかじゃ、パプリカ男爵家は領地替え直後であまり裕福ではなかったから、ヒロインのベルは寮の部屋はロクに改装もせずにボロいままに使っていたけれど、俺の場合は改装しているわけだし、明日以降はかなり快適にすごせるハズだった。
あれ、ひょっとして、『物語創作者』の権能でされた改変は、この世界のなかの方法だけでも、改善可能なのか??
そりゃ、事後の対症療法みたいになるけれど、無理に俺が『世界創造者』の権能で立ち向かわなくていいのなら、それに越したことはなかった。
「───ありがとうございます、ブレイン殿下!」
その可能性に気づかせてくれた相手の手をとり、お礼を言う。
「なんだかよくわからないけれど、感謝を示すなら、キミのからだで示してもらってもかまわないのだけどね?」
「え……?」
こちらを見て、ニヤリと笑いを浮かべるブレイン殿下の瞳は、捕食者のそれになっていた。
それを目にした瞬間、悟る。
アッ、これ詰んだ、と。
なにしろここは、ブレイン殿下の私室だ。
それも対外的に俺は、『お持ち帰り』をされたようなもので。
それに加えて、借りた制服をかえすのもまだだという事実が横たわる。
今さらながら、逃げ場のない場所に自らついてきてしまったことに気づいて、サーッと顔から血の気が引いていく。
あああヤバい、俺の尻がピンチです……!!
どうしたらいいんだよ、この状況?!
さすがは隠し攻略キャラクター、俺みたいなモブとは一線を画しているというか。
「キミはあいかわらず、私を頼ってはくれないんだね?」
「十分頼ってますよ?こんなに長い時間、パレルモ様と離れてすごすのは、はじめてのことですし……」
まぁこれは直接ブレイン殿下が、というよりは、スコッチ先輩のおかげではあるんだけど。
これまでは、俺が目を離した隙にロクでもないヤカラに襲われかけているなんてことは日常茶飯事だったし、襲われないまでもヤバそうなヤツらに平気でついていってたし、とにかく放置できなかったから。
こうして離れていても、なにもかんがえずに済むなんてこと、今までなかったんだ。
「そういうことではないのだけどね……たとえば今のキミは私の恋人なのだから、公爵家の子がキミになにを言おうと、私の力ではねかえすことも可能なんだよ?」
それは今朝の寮の部屋の交代劇のことを言っているのは、あきらかだった。
「そう、ですね……でもそこで俺が同室継続を無理に主張すれば角が立ちますし、クラス中がもろ手をあげて賛成するパレルモ様の提案を、俺ひとりの意思で引っくりかえすのは、やっぱりあつれきのもとだと思うので……」
というか、ぶっちゃけ反対なんてできる空気じゃなかった。
「……それで、今朝あったことをあらためて教えてくれるかい?」
「たいしたことではないですよ?」
そう前置きをして、淡々と転入生が来たことと、それによって寮の部屋を変わることになった細かな経緯を伝えた。
「なるほど……」
そこで黙り込むブレイン殿下の姿に、不安になる。
ひょっとして俺は、なにかまちがえた選択肢でも選んでしまったのだろうかって。
なるべく俺の不満に思う気持ちがにじまないようにと、気をつけて言葉を選んだハズだけど、もしも口調からもそれがにじんでしまっていたならしょうがない。
「まぁ、正直なところ寮の部屋を管理する部署の方々だけでも、まともでよかったと思ってます。てっきりパプリカ男爵令息と部屋を交代しろと、そのまま彼のために用意したひとり部屋に行けと言われる覚悟はしてたんですけど…… 」
そうなっていたら、さすがに付き人の数を減らさなきゃいけないかと思っていたけれど。
ついでに言えば、伯爵家の子息が男爵部屋に移るなんて、まるで懲罰対象になったようにも思えるから、外聞も悪いだろうと心配していた。
あくまでもパレルモ様を持ちあげるためのエピソードとはいえ、あの侵食者なら、ついでのように俺にシワ寄せをしてもいいとかんがえていそうだったし……。
「いくらなんでも、それはないだろう!キミは伯爵家の子息なのだから」
だから、あたりまえのことのように言ってくれるブレイン殿下のセリフが、今の俺にとってはとても心強かった。
「そう、なんですけどね……パレルモ様が絡むと、皆おかしくなるので……」
俺が言うとおり、パレルモ様を前にした人は、皆一様におかしくなってしまうから。
あきらめたように、ひとつ深いため息をつく。
「あぁ、例の魅了の魔法だね」
「それです……」
なんでだか知らないけれど、俺にはあの魔法が効かないんだけども、ほかの人にとってはかなり効果があるみたいだし。
でも、魔法自体が効きにくいセブンとちがって、俺はこの世界の魔法もふつうにかかるのにな?
だってそうじゃなきゃ、あの日の夜にブレイン殿下にかけられた状態異常耐性のデバフ魔法だって、効くハズないだろ?
「本人に自覚がないまま垂れ流しになっているのなら、いっそ『魔封じの腕輪』でもつけてもらおうか?」
ブレイン殿下の提案に、俺はピシリと固まった。
「……正直、その発想はなかったです……」
俺にしてみれば、改変の原因をただせば直ると思っていたことだけに、それをその前から封じようという発想はまるでなかったことに、言われてはじめて気がつく。
目からウロコが落ちる感覚というべきだろうか。
とにかく斬新な発想に、息を飲む。
そりゃ魅了の魔法を常時発動させてるせいで周囲がおかしいのなら、それを封じてしまえば元にもどるハズっていうのはたしかだけど。
でもそれ、可能なのか??
というより、『パレルモ様がだれからも愛される世界』に書き換えられているのなら、それはあとからどうにかできるものじゃないと思い込んでいたけれど、実はそうじゃないのだろうか?!
「試してみる価値はあると思うよ?」
「問題は、魔封じの腕輪なんてレア品、どうやって手に入れるかですよね……」
「キミのご実家の商会あたりなら、取り寄せも可能だろう?」
ブレイン殿下に言われ、顔をしかめる。
「あー……可能は可能だと思いますけど……問題は、それをパレルモ様に使うためってのが、ライムホルン公爵に許可されるかどうかですね……」
万が一それが反逆心のあらわれと断定されたなら、簡単に処刑エンドを迎えかねない。
でもたしかに、一考の余地はある案だった。
原作ゲームのなかじゃ、パプリカ男爵家は領地替え直後であまり裕福ではなかったから、ヒロインのベルは寮の部屋はロクに改装もせずにボロいままに使っていたけれど、俺の場合は改装しているわけだし、明日以降はかなり快適にすごせるハズだった。
あれ、ひょっとして、『物語創作者』の権能でされた改変は、この世界のなかの方法だけでも、改善可能なのか??
そりゃ、事後の対症療法みたいになるけれど、無理に俺が『世界創造者』の権能で立ち向かわなくていいのなら、それに越したことはなかった。
「───ありがとうございます、ブレイン殿下!」
その可能性に気づかせてくれた相手の手をとり、お礼を言う。
「なんだかよくわからないけれど、感謝を示すなら、キミのからだで示してもらってもかまわないのだけどね?」
「え……?」
こちらを見て、ニヤリと笑いを浮かべるブレイン殿下の瞳は、捕食者のそれになっていた。
それを目にした瞬間、悟る。
アッ、これ詰んだ、と。
なにしろここは、ブレイン殿下の私室だ。
それも対外的に俺は、『お持ち帰り』をされたようなもので。
それに加えて、借りた制服をかえすのもまだだという事実が横たわる。
今さらながら、逃げ場のない場所に自らついてきてしまったことに気づいて、サーッと顔から血の気が引いていく。
あああヤバい、俺の尻がピンチです……!!
どうしたらいいんだよ、この状況?!
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