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63:イケメン同士のにらみ合いは極寒の地を生み出す
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「キミがいつ私のもとへと制服を届けに来てくれるのか、毎日楽しみに待っていたのだけどね?まさかその前に、堂々と浮気をされるとは思わなかったよ」
そう言って笑うブレイン殿下の目はちっとも笑っていなくて、腰が引けそうになる。
もちろん、しっかりとこちらの腰にまわされた腕のせいで、いかんともしがたかったけど。
それどころか、ぴったりとくっついた箇所から、相手の体温を制服越しに感じて、動揺しそうだった。
「それは……その、なかなか心がまえができてなかったというか……あの、でもセブンのことは誤解ですから!」
冷笑を浮かべるブレイン殿下の前で、必死にいいわけをする。
「そうですね、オレはテイラーの『友人』として、自覚の足りないゆるふわぶりについて説教をしていただけですよ、紫殿下。あなたのテイラーが、恋人から心配されるようなことはしないヤツだってことくらい、ちゃんとわかってらっしゃるんでしょう?」
ほら、セブンだってちゃんと弁解をしてくれている。
でもなんだろう、心なしかそのセリフはトゲトゲしさがある気がするんだけども……。
さっきまで、俺の前では無防備なかわいい笑顔を見せてくれていたというのに、今は無表情に近い、不機嫌そうな顔に見えた。
「そりゃあね、私のかわいい恋人は、そのあたりをきちんとわきまえた人だと信じているよ。キミに言われるまでもなく、ね」
そのせいで、応じるブレイン殿下まで機嫌が低下していっている気がした。
そして、ふたりの視線が真っ正面からぶつかり合う。
種類のちがうイケメン同士のにらみ合いは、とんでもない迫力があった。
そのせいで、なんかここだけ北極みたいに寒くて、凍えそうなんですけどっ?!
───本来ならゲーム本編では、けっして交わることのなかったふたりだ。
それなのに、どうしてこのふたりが、俺をはさんでにらみ合わなきゃなんないんだよ!?
「えっと、ふたりとも……」
「キミは黙ってなさい。もちろんあとで、じっくりと話を聞かせてもらうから、覚悟しておくように」
止めようとしたところで、ブレイン殿下にピシャリとはねのけられた。
なんだよ、覚悟って!
マジで怖いんですけども??
ことさら見せつけるように腰にまわされた相手の腕に力が入り、グッと抱き寄せられ、なかば抱きつくようなかたちになった。
とたんにブレイン殿下の香水の匂いがひときわ濃厚にただよってきて、服越しに触れる面積はさっきよりも増す。
うわ、どうしよう、たったそれだけのことなのに全然落ちつかない。
ヤバい……心臓が激しく脈打っているのが、相手にまで伝わってしまいそうだ!
一方でブレイン殿下は、こんなときでも恋人同士の演技にぬかりがなかった。
おかげで俺は現在進行形でドキドキが止まらなくなっているし、服越しに感じる相手の体温が妙に生々しく思えてくるから困る。
これはあくまでも『恋人同士であるという演技』であって、けっして本気にしてはいけないもののハズなのに、俺の心は理性なんて無視してときめきを訴えてくる。
思わず『この人が好きだ』なんて、そんな禁句を発してしまいそうだった。
「それにしても、いつの間にキミたちは仲よくなっていたのかな?スコーピオン男爵家の子と私の恋人は、ずいぶんと親しげだったように見えたけれど」
質問の形式をとりつつも、セブンにたいする牽制のようなイヤミが投げかけられた。
たしかにこれまでの俺は、パレルモ様の取りまきとして存在していただけだったから、取りまき仲間以外のクラスメイトとはロクに交流してこなかったけど。
そうだよ、どうせテイラーなんてパレルモ様がいなくなったら、ただのボッチじゃん!っていう。
「……そうだ、ちょうどいいところに紫殿下がいらっしゃったので、ご注進いたしますけれども。浮気をうたがってイラつくくらい大切に思っているのなら、テイラーのこと、早めに保護してやってください」
でもセブンはそれを受け流すと、さらにつづけた。
「なにしろあなたの恋人は、今朝ほど理不尽な理由により寮の部屋を追い出されて、今晩寝る場所もないようですからね。言うにこと欠いて『ロビーのソファーで寝る』だの、『セラーノ先生に頼んで保健室のベッドを借りる』なんて言っていましたから。自分が狙われているという自覚は、まるでないみたいですよ?」
「なっ!?」
「ほう?それは実に興味深いお話だね」
セブンからの告げ口のようなそれに面食らっていれば、ブレイン殿下の口もとは言葉のとおりに楽しげに弧をえがく。
「えぇっと、夜までに部屋の改装が終わらなかっただけですから!それに追い出されたわけじゃなく、俺自身が同意して出ることにしただけで……」
わざわざ相手に告げるまでもない話だろうに……なのにいつもは寡黙なハズのセブンは、なぜだか今日にかぎって、とても饒舌になっていた。
「ふぅん?今日来たばっかの男爵家の転校生のために公爵家のおぼっちゃんが、『ひとりじゃ不安だろうから自分の部屋にまねいてやりたい』なんて言い出して、元から同室だった伯爵家のあんたが出てくのは、あんたにとってはおかしなことじゃないのか?」
それはたしかに、俺も引っかかりをおぼえた点ではあったけど。
「へぇ、そんなことになっていたのか……突然キミから寮の空き部屋の造作申請が出てきたと聞いたものだから、てっきりあの子と仲たがいでもしたのかと思っていたのだけどね」
気のせいだろうか、なんとなくブレイン殿下から怒気がにじみ出ているような気がするのは。
俺から直接その話をしなかったのが、お気に召さなかったんだろうか?
だってわざわざ言うなんて、パレルモ様にたいする不満があるって言うようなものじゃないか!
そんなの、言えるわけがない!
「ハハハ、万が一そんなことになっていたら、ライムホルン公爵から先に断罪されてますよ、きっと……」
だからブレイン殿下のセリフには、乾いた笑いでかえす。
なにしろこの改変された世界では、ライムホルン公爵の親バカぶりは、いっそ笑いたくなるくらいに異常だからな。
仕方ないと、あきらめたように力なく笑うしかなかった。
そう言って笑うブレイン殿下の目はちっとも笑っていなくて、腰が引けそうになる。
もちろん、しっかりとこちらの腰にまわされた腕のせいで、いかんともしがたかったけど。
それどころか、ぴったりとくっついた箇所から、相手の体温を制服越しに感じて、動揺しそうだった。
「それは……その、なかなか心がまえができてなかったというか……あの、でもセブンのことは誤解ですから!」
冷笑を浮かべるブレイン殿下の前で、必死にいいわけをする。
「そうですね、オレはテイラーの『友人』として、自覚の足りないゆるふわぶりについて説教をしていただけですよ、紫殿下。あなたのテイラーが、恋人から心配されるようなことはしないヤツだってことくらい、ちゃんとわかってらっしゃるんでしょう?」
ほら、セブンだってちゃんと弁解をしてくれている。
でもなんだろう、心なしかそのセリフはトゲトゲしさがある気がするんだけども……。
さっきまで、俺の前では無防備なかわいい笑顔を見せてくれていたというのに、今は無表情に近い、不機嫌そうな顔に見えた。
「そりゃあね、私のかわいい恋人は、そのあたりをきちんとわきまえた人だと信じているよ。キミに言われるまでもなく、ね」
そのせいで、応じるブレイン殿下まで機嫌が低下していっている気がした。
そして、ふたりの視線が真っ正面からぶつかり合う。
種類のちがうイケメン同士のにらみ合いは、とんでもない迫力があった。
そのせいで、なんかここだけ北極みたいに寒くて、凍えそうなんですけどっ?!
───本来ならゲーム本編では、けっして交わることのなかったふたりだ。
それなのに、どうしてこのふたりが、俺をはさんでにらみ合わなきゃなんないんだよ!?
「えっと、ふたりとも……」
「キミは黙ってなさい。もちろんあとで、じっくりと話を聞かせてもらうから、覚悟しておくように」
止めようとしたところで、ブレイン殿下にピシャリとはねのけられた。
なんだよ、覚悟って!
マジで怖いんですけども??
ことさら見せつけるように腰にまわされた相手の腕に力が入り、グッと抱き寄せられ、なかば抱きつくようなかたちになった。
とたんにブレイン殿下の香水の匂いがひときわ濃厚にただよってきて、服越しに触れる面積はさっきよりも増す。
うわ、どうしよう、たったそれだけのことなのに全然落ちつかない。
ヤバい……心臓が激しく脈打っているのが、相手にまで伝わってしまいそうだ!
一方でブレイン殿下は、こんなときでも恋人同士の演技にぬかりがなかった。
おかげで俺は現在進行形でドキドキが止まらなくなっているし、服越しに感じる相手の体温が妙に生々しく思えてくるから困る。
これはあくまでも『恋人同士であるという演技』であって、けっして本気にしてはいけないもののハズなのに、俺の心は理性なんて無視してときめきを訴えてくる。
思わず『この人が好きだ』なんて、そんな禁句を発してしまいそうだった。
「それにしても、いつの間にキミたちは仲よくなっていたのかな?スコーピオン男爵家の子と私の恋人は、ずいぶんと親しげだったように見えたけれど」
質問の形式をとりつつも、セブンにたいする牽制のようなイヤミが投げかけられた。
たしかにこれまでの俺は、パレルモ様の取りまきとして存在していただけだったから、取りまき仲間以外のクラスメイトとはロクに交流してこなかったけど。
そうだよ、どうせテイラーなんてパレルモ様がいなくなったら、ただのボッチじゃん!っていう。
「……そうだ、ちょうどいいところに紫殿下がいらっしゃったので、ご注進いたしますけれども。浮気をうたがってイラつくくらい大切に思っているのなら、テイラーのこと、早めに保護してやってください」
でもセブンはそれを受け流すと、さらにつづけた。
「なにしろあなたの恋人は、今朝ほど理不尽な理由により寮の部屋を追い出されて、今晩寝る場所もないようですからね。言うにこと欠いて『ロビーのソファーで寝る』だの、『セラーノ先生に頼んで保健室のベッドを借りる』なんて言っていましたから。自分が狙われているという自覚は、まるでないみたいですよ?」
「なっ!?」
「ほう?それは実に興味深いお話だね」
セブンからの告げ口のようなそれに面食らっていれば、ブレイン殿下の口もとは言葉のとおりに楽しげに弧をえがく。
「えぇっと、夜までに部屋の改装が終わらなかっただけですから!それに追い出されたわけじゃなく、俺自身が同意して出ることにしただけで……」
わざわざ相手に告げるまでもない話だろうに……なのにいつもは寡黙なハズのセブンは、なぜだか今日にかぎって、とても饒舌になっていた。
「ふぅん?今日来たばっかの男爵家の転校生のために公爵家のおぼっちゃんが、『ひとりじゃ不安だろうから自分の部屋にまねいてやりたい』なんて言い出して、元から同室だった伯爵家のあんたが出てくのは、あんたにとってはおかしなことじゃないのか?」
それはたしかに、俺も引っかかりをおぼえた点ではあったけど。
「へぇ、そんなことになっていたのか……突然キミから寮の空き部屋の造作申請が出てきたと聞いたものだから、てっきりあの子と仲たがいでもしたのかと思っていたのだけどね」
気のせいだろうか、なんとなくブレイン殿下から怒気がにじみ出ているような気がするのは。
俺から直接その話をしなかったのが、お気に召さなかったんだろうか?
だってわざわざ言うなんて、パレルモ様にたいする不満があるって言うようなものじゃないか!
そんなの、言えるわけがない!
「ハハハ、万が一そんなことになっていたら、ライムホルン公爵から先に断罪されてますよ、きっと……」
だからブレイン殿下のセリフには、乾いた笑いでかえす。
なにしろこの改変された世界では、ライムホルン公爵の親バカぶりは、いっそ笑いたくなるくらいに異常だからな。
仕方ないと、あきらめたように力なく笑うしかなかった。
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