63 / 188
63:イケメン同士のにらみ合いは極寒の地を生み出す
しおりを挟む
「キミがいつ私のもとへと制服を届けに来てくれるのか、毎日楽しみに待っていたのだけどね?まさかその前に、堂々と浮気をされるとは思わなかったよ」
そう言って笑うブレイン殿下の目はちっとも笑っていなくて、腰が引けそうになる。
もちろん、しっかりとこちらの腰にまわされた腕のせいで、いかんともしがたかったけど。
それどころか、ぴったりとくっついた箇所から、相手の体温を制服越しに感じて、動揺しそうだった。
「それは……その、なかなか心がまえができてなかったというか……あの、でもセブンのことは誤解ですから!」
冷笑を浮かべるブレイン殿下の前で、必死にいいわけをする。
「そうですね、オレはテイラーの『友人』として、自覚の足りないゆるふわぶりについて説教をしていただけですよ、紫殿下。あなたのテイラーが、恋人から心配されるようなことはしないヤツだってことくらい、ちゃんとわかってらっしゃるんでしょう?」
ほら、セブンだってちゃんと弁解をしてくれている。
でもなんだろう、心なしかそのセリフはトゲトゲしさがある気がするんだけども……。
さっきまで、俺の前では無防備なかわいい笑顔を見せてくれていたというのに、今は無表情に近い、不機嫌そうな顔に見えた。
「そりゃあね、私のかわいい恋人は、そのあたりをきちんとわきまえた人だと信じているよ。キミに言われるまでもなく、ね」
そのせいで、応じるブレイン殿下まで機嫌が低下していっている気がした。
そして、ふたりの視線が真っ正面からぶつかり合う。
種類のちがうイケメン同士のにらみ合いは、とんでもない迫力があった。
そのせいで、なんかここだけ北極みたいに寒くて、凍えそうなんですけどっ?!
───本来ならゲーム本編では、けっして交わることのなかったふたりだ。
それなのに、どうしてこのふたりが、俺をはさんでにらみ合わなきゃなんないんだよ!?
「えっと、ふたりとも……」
「キミは黙ってなさい。もちろんあとで、じっくりと話を聞かせてもらうから、覚悟しておくように」
止めようとしたところで、ブレイン殿下にピシャリとはねのけられた。
なんだよ、覚悟って!
マジで怖いんですけども??
ことさら見せつけるように腰にまわされた相手の腕に力が入り、グッと抱き寄せられ、なかば抱きつくようなかたちになった。
とたんにブレイン殿下の香水の匂いがひときわ濃厚にただよってきて、服越しに触れる面積はさっきよりも増す。
うわ、どうしよう、たったそれだけのことなのに全然落ちつかない。
ヤバい……心臓が激しく脈打っているのが、相手にまで伝わってしまいそうだ!
一方でブレイン殿下は、こんなときでも恋人同士の演技にぬかりがなかった。
おかげで俺は現在進行形でドキドキが止まらなくなっているし、服越しに感じる相手の体温が妙に生々しく思えてくるから困る。
これはあくまでも『恋人同士であるという演技』であって、けっして本気にしてはいけないもののハズなのに、俺の心は理性なんて無視してときめきを訴えてくる。
思わず『この人が好きだ』なんて、そんな禁句を発してしまいそうだった。
「それにしても、いつの間にキミたちは仲よくなっていたのかな?スコーピオン男爵家の子と私の恋人は、ずいぶんと親しげだったように見えたけれど」
質問の形式をとりつつも、セブンにたいする牽制のようなイヤミが投げかけられた。
たしかにこれまでの俺は、パレルモ様の取りまきとして存在していただけだったから、取りまき仲間以外のクラスメイトとはロクに交流してこなかったけど。
そうだよ、どうせテイラーなんてパレルモ様がいなくなったら、ただのボッチじゃん!っていう。
「……そうだ、ちょうどいいところに紫殿下がいらっしゃったので、ご注進いたしますけれども。浮気をうたがってイラつくくらい大切に思っているのなら、テイラーのこと、早めに保護してやってください」
でもセブンはそれを受け流すと、さらにつづけた。
「なにしろあなたの恋人は、今朝ほど理不尽な理由により寮の部屋を追い出されて、今晩寝る場所もないようですからね。言うにこと欠いて『ロビーのソファーで寝る』だの、『セラーノ先生に頼んで保健室のベッドを借りる』なんて言っていましたから。自分が狙われているという自覚は、まるでないみたいですよ?」
「なっ!?」
「ほう?それは実に興味深いお話だね」
セブンからの告げ口のようなそれに面食らっていれば、ブレイン殿下の口もとは言葉のとおりに楽しげに弧をえがく。
「えぇっと、夜までに部屋の改装が終わらなかっただけですから!それに追い出されたわけじゃなく、俺自身が同意して出ることにしただけで……」
わざわざ相手に告げるまでもない話だろうに……なのにいつもは寡黙なハズのセブンは、なぜだか今日にかぎって、とても饒舌になっていた。
「ふぅん?今日来たばっかの男爵家の転校生のために公爵家のおぼっちゃんが、『ひとりじゃ不安だろうから自分の部屋にまねいてやりたい』なんて言い出して、元から同室だった伯爵家のあんたが出てくのは、あんたにとってはおかしなことじゃないのか?」
それはたしかに、俺も引っかかりをおぼえた点ではあったけど。
「へぇ、そんなことになっていたのか……突然キミから寮の空き部屋の造作申請が出てきたと聞いたものだから、てっきりあの子と仲たがいでもしたのかと思っていたのだけどね」
気のせいだろうか、なんとなくブレイン殿下から怒気がにじみ出ているような気がするのは。
俺から直接その話をしなかったのが、お気に召さなかったんだろうか?
だってわざわざ言うなんて、パレルモ様にたいする不満があるって言うようなものじゃないか!
そんなの、言えるわけがない!
「ハハハ、万が一そんなことになっていたら、ライムホルン公爵から先に断罪されてますよ、きっと……」
だからブレイン殿下のセリフには、乾いた笑いでかえす。
なにしろこの改変された世界では、ライムホルン公爵の親バカぶりは、いっそ笑いたくなるくらいに異常だからな。
仕方ないと、あきらめたように力なく笑うしかなかった。
そう言って笑うブレイン殿下の目はちっとも笑っていなくて、腰が引けそうになる。
もちろん、しっかりとこちらの腰にまわされた腕のせいで、いかんともしがたかったけど。
それどころか、ぴったりとくっついた箇所から、相手の体温を制服越しに感じて、動揺しそうだった。
「それは……その、なかなか心がまえができてなかったというか……あの、でもセブンのことは誤解ですから!」
冷笑を浮かべるブレイン殿下の前で、必死にいいわけをする。
「そうですね、オレはテイラーの『友人』として、自覚の足りないゆるふわぶりについて説教をしていただけですよ、紫殿下。あなたのテイラーが、恋人から心配されるようなことはしないヤツだってことくらい、ちゃんとわかってらっしゃるんでしょう?」
ほら、セブンだってちゃんと弁解をしてくれている。
でもなんだろう、心なしかそのセリフはトゲトゲしさがある気がするんだけども……。
さっきまで、俺の前では無防備なかわいい笑顔を見せてくれていたというのに、今は無表情に近い、不機嫌そうな顔に見えた。
「そりゃあね、私のかわいい恋人は、そのあたりをきちんとわきまえた人だと信じているよ。キミに言われるまでもなく、ね」
そのせいで、応じるブレイン殿下まで機嫌が低下していっている気がした。
そして、ふたりの視線が真っ正面からぶつかり合う。
種類のちがうイケメン同士のにらみ合いは、とんでもない迫力があった。
そのせいで、なんかここだけ北極みたいに寒くて、凍えそうなんですけどっ?!
───本来ならゲーム本編では、けっして交わることのなかったふたりだ。
それなのに、どうしてこのふたりが、俺をはさんでにらみ合わなきゃなんないんだよ!?
「えっと、ふたりとも……」
「キミは黙ってなさい。もちろんあとで、じっくりと話を聞かせてもらうから、覚悟しておくように」
止めようとしたところで、ブレイン殿下にピシャリとはねのけられた。
なんだよ、覚悟って!
マジで怖いんですけども??
ことさら見せつけるように腰にまわされた相手の腕に力が入り、グッと抱き寄せられ、なかば抱きつくようなかたちになった。
とたんにブレイン殿下の香水の匂いがひときわ濃厚にただよってきて、服越しに触れる面積はさっきよりも増す。
うわ、どうしよう、たったそれだけのことなのに全然落ちつかない。
ヤバい……心臓が激しく脈打っているのが、相手にまで伝わってしまいそうだ!
一方でブレイン殿下は、こんなときでも恋人同士の演技にぬかりがなかった。
おかげで俺は現在進行形でドキドキが止まらなくなっているし、服越しに感じる相手の体温が妙に生々しく思えてくるから困る。
これはあくまでも『恋人同士であるという演技』であって、けっして本気にしてはいけないもののハズなのに、俺の心は理性なんて無視してときめきを訴えてくる。
思わず『この人が好きだ』なんて、そんな禁句を発してしまいそうだった。
「それにしても、いつの間にキミたちは仲よくなっていたのかな?スコーピオン男爵家の子と私の恋人は、ずいぶんと親しげだったように見えたけれど」
質問の形式をとりつつも、セブンにたいする牽制のようなイヤミが投げかけられた。
たしかにこれまでの俺は、パレルモ様の取りまきとして存在していただけだったから、取りまき仲間以外のクラスメイトとはロクに交流してこなかったけど。
そうだよ、どうせテイラーなんてパレルモ様がいなくなったら、ただのボッチじゃん!っていう。
「……そうだ、ちょうどいいところに紫殿下がいらっしゃったので、ご注進いたしますけれども。浮気をうたがってイラつくくらい大切に思っているのなら、テイラーのこと、早めに保護してやってください」
でもセブンはそれを受け流すと、さらにつづけた。
「なにしろあなたの恋人は、今朝ほど理不尽な理由により寮の部屋を追い出されて、今晩寝る場所もないようですからね。言うにこと欠いて『ロビーのソファーで寝る』だの、『セラーノ先生に頼んで保健室のベッドを借りる』なんて言っていましたから。自分が狙われているという自覚は、まるでないみたいですよ?」
「なっ!?」
「ほう?それは実に興味深いお話だね」
セブンからの告げ口のようなそれに面食らっていれば、ブレイン殿下の口もとは言葉のとおりに楽しげに弧をえがく。
「えぇっと、夜までに部屋の改装が終わらなかっただけですから!それに追い出されたわけじゃなく、俺自身が同意して出ることにしただけで……」
わざわざ相手に告げるまでもない話だろうに……なのにいつもは寡黙なハズのセブンは、なぜだか今日にかぎって、とても饒舌になっていた。
「ふぅん?今日来たばっかの男爵家の転校生のために公爵家のおぼっちゃんが、『ひとりじゃ不安だろうから自分の部屋にまねいてやりたい』なんて言い出して、元から同室だった伯爵家のあんたが出てくのは、あんたにとってはおかしなことじゃないのか?」
それはたしかに、俺も引っかかりをおぼえた点ではあったけど。
「へぇ、そんなことになっていたのか……突然キミから寮の空き部屋の造作申請が出てきたと聞いたものだから、てっきりあの子と仲たがいでもしたのかと思っていたのだけどね」
気のせいだろうか、なんとなくブレイン殿下から怒気がにじみ出ているような気がするのは。
俺から直接その話をしなかったのが、お気に召さなかったんだろうか?
だってわざわざ言うなんて、パレルモ様にたいする不満があるって言うようなものじゃないか!
そんなの、言えるわけがない!
「ハハハ、万が一そんなことになっていたら、ライムホルン公爵から先に断罪されてますよ、きっと……」
だからブレイン殿下のセリフには、乾いた笑いでかえす。
なにしろこの改変された世界では、ライムホルン公爵の親バカぶりは、いっそ笑いたくなるくらいに異常だからな。
仕方ないと、あきらめたように力なく笑うしかなかった。
1
お気に入りに追加
405
あなたにおすすめの小説
転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい
翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。
それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん?
「え、俺何か、犬になってない?」
豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。
※どんどん年齢は上がっていきます。
※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

買われた悪役令息は攻略対象に異常なくらい愛でられてます
瑳来
BL
元は純日本人の俺は不慮な事故にあい死んでしまった。そんな俺の第2の人生は死ぬ前に姉がやっていた乙女ゲームの悪役令息だった。悪役令息の役割を全うしていた俺はついに天罰がくらい捕らえられて人身売買のオークションに出品されていた。
そこで俺を落札したのは俺を破滅へと追い込んだ王家の第1王子でありゲームの攻略対象だった。
そんな落ちぶれた俺と俺を買った何考えてるかわかんない王子との生活がはじまった。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜のたまにシリアス
・話の流れが遅い

転生したら乙女ゲームのモブキャラだったのでモブハーレム作ろうとしたら…BLな方向になるのだが
松林 松茸
BL
私は「南 明日香」という平凡な会社員だった。
ありふれた生活と隠していたオタク趣味。それだけで満足な生活だった。
あの日までは。
気が付くと大好きだった乙女ゲーム“ときめき魔法学院”のモブキャラ「レナンジェス=ハックマン子爵家長男」に転生していた。
(無いものがある!これは…モブキャラハーレムを作らなくては!!)
その野望を実現すべく計画を練るが…アーな方向へ向かってしまう。
元日本人女性の異世界生活は如何に?
※カクヨム様、小説家になろう様で同時連載しております。
5月23日から毎日、昼12時更新します。
転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!
めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。
ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。
兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。
義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!?
このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。
※タイトル変更(2024/11/27)
博愛主義の成れの果て
135
BL
子宮持ちで子供が産める侯爵家嫡男の俺の婚約者は、博愛主義者だ。
俺と同じように子宮持ちの令息にだって優しくしてしまう男。
そんな婚約を白紙にしたところ、元婚約者がおかしくなりはじめた……。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

俺は北国の王子の失脚を狙う悪の側近に転生したらしいが、寒いのは苦手なのでトンズラします
椿谷あずる
BL
ここはとある北の国。綺麗な金髪碧眼のイケメン王子様の側近に転生した俺は、どうやら彼を失脚させようと陰謀を張り巡らせていたらしい……。いやいや一切興味がないし!寒いところ嫌いだし!よし、やめよう!
こうして俺は逃亡することに決めた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる