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55:管理空間でのふたたびの邂逅

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「───しゅさま!我が創造主様!!」
「っ!?」
 ハッと気づいたのは、宇宙空間にも似た星がまたたく濃紺のなかだった。

「あぁ、よかった、創造主様とようやくお話しできますぅ!」
 目の前にいたのは、あの日俺を『星華せいかとき』の世界に誘ったこの世界を司る女神様だった。

「あれ……?えーと、数日ぶり……?」
「はいぃ!我が創造主様におかれましてはさっそくモテモテであらせられて……」
 ちょっと待て、そのあいさつはどうなんだ?!

 ていうか、ひょっとして世界の管理ができるなら、ここから見ようと思えばあのゲームの世界が見えたりするのか……?
 それって、つまりは……?

「いや~、先日の夜はあまりにも刺激が強すぎでしてぇ~、もう創造主様にいただいたティッシュペーパーの箱が手放せませんでしたわぁ!」
 赤くなったほっぺたを両手でおさえながら、興奮気味にしゃべる女神様には、威厳もなにもあったもんじゃないけれど。

「悪い、改変をたださなくちゃいけないってのに、むしろ俺があの世界を腐海に沈めるような改変しちゃってないか?!今すぐなおせるなら、ここから修正を……っ」
 管理世界なら、物語の修正だって直接できるのではないかと、そう思ってのことだったのに……。

「いえ、あれはこの世界のことわりには反しておりませんよ?」
「えっ?!」
 あたまを下げたところに、想定外のこたえがかえされた。

 まさかの、世界の理には反してない……だって……!?
 いやいや、そんなことはないだろ!?
 だってテイラーがブレイン殿下とくっつくなんて、本編にはそんな描写なかったっていうのに?

「我が創造主様、どうぞこの世界の理についてゆっくりとかんがえてみてくださいませ~。この世界を愛するあなた様なら、きっと気がつくはずですわぁ」
 にっこりと笑いかけてくるその顔は、慈愛に満ちた極上の笑みでいろどられている。

「ところで、創造主様がご活躍なさったおかげで、だいぶ私も力を取りもどして参りましたのですぅ~。侵食者にたいして、改変に際しての制約を課すことに成功いたしましたぁ!」
 両手をにぎりしめて報告してくる姿は、実に晴れ晴れとした表情だった。

「へぇ、『制約』って?」
「ずばり、『物語の整合性』です!!さすがにさかのぼっての適用はできなかったんですけど、これから先、彼女が行う改変についてはその内容の説明がつけられないものですとか、つじつまが合わない改変などができないようになりましたぁ!」

 なるほど、物語の整合性か。
 たしかに俺たち原作ゲームのシナリオライターたちは、そこにはとても気をつかっていたからな。
 ていうか、それまでの改変がヒドすぎたんだ!

 たとえば原作パレルモは、かわいらしい天使のような見た目にもかかわらず、相当悪辣なこともできてしまうそのギャップに、そしてそんな悪魔系キャラにもかかわらず、ヒロインにだけは見せる特別なデレ方というギャップにも、キャラクターとしての魅力がある。
 もちろんそこには、きちんと背景が設定されている。

 まず悪辣さは、公爵家の嫡男としての厳しい教育をきちんと受けてきたからこそ身についたものだし、だからこそ実は幼少期から愛に飢えた子どもだったりもする。
 そしてヒロインと出会ってその飢えを満たされ、人としての成長を遂げたことで、真の高位貴族としての自覚がめばえていくというストーリー展開になるわけだ。

 ───そう、つまりそこから言えることはただひとつ、どんな事象にもきちんとした理由がある、ということだ。
 きっかけこそ偶然かもしれないけれど、そこから先の事象はすべて必然だというのが、このゲームの世界観の根底にある。

 だからこそ、今回の侵食者にはもの申したいんだよ!
 パレルモ様がモテるならモテるで、その理由や背景を不自然のないようにきちんと書き込んでくれ、と。

 本来のこの世界の貴族たちは、権謀術数のうずまく世間で渡りあっている。
 仮にも次期公爵予定で、資産も潤沢にあり、本人の見た目もいいとしたら。
 ふつうなら、玉の輿をねらう貴族令嬢から、結婚相手として猛烈なアタックをかけられているところだろう。

 でもこの世界のパレルモ様はちがう。
 言うなれば、概念『現人神あらびとがみ』とでも言おうか?
 パレルモ様のモテかたは理屈ではなく、むしろ狂信者的な熱意さえ感じられるものだった。

 その一方で、男からだけは欲望の対象として見られ、油断をすればすぐに襲われかねない状況でもあって。
 暗がりだの空き教室だのに連れ込まれそうになったのは、もはや数えきれないくらいある。

 いやもうこの時点でも、ちょっと待てと言いたい。
 あんだけ実年齢以上に幼い子を見て、どうしてこの世界の男たちは性欲がわくんだよ?!
 むしろ今すぐ保護が必要なレベルにかわいそうで、残念かつ心配な子だろ!

 しかも、だ。
 この世界のパレルモ様は性的知識がまったくないとか、身分と年齢不相応なキャラ設定になっている。
 前にも思ったことだけど、あの年齢の公爵家嫡男なのに。

 だってふつうの貴族なら、この学校に入学する前に、まちがいが起きないようにと、息子たちに熱心に教育をほどこすものだ。
 まして玉の輿ねらいのさもしいご令嬢に引っかからないためにも、高位貴族の家ならば特に、自衛の知恵を授けるための必須教科だろーがっ!!

 ───要は、そんなことを言いたかった。

 一方で、それだけ不自然なキャラクター設定をしたということは、ある意味でこのゲームの根底にある世界観にふくまれる、この貴族社会の常識を真っ向から否定しようとしたことになる。
 それもロクな理屈も決めずに、ただ『物語創作ストーリーライター』という権能の力任せにだ。

 その結果としてなにが起きたかと言えば、この世界が崩壊を防ぐために、自らその空白を埋め、無理やりにつじつまを合わせようとしてきたんだ。

 それを具体的に言うならば、本人が無意識に魅了の魔法をふりまいてるせいで、周囲の人からモテモテなんていう、クソめんどくさい設定になっちまったというわけだった。
 こんなことくらいなら、わずか数日でも十分に理解できた。

「我が創造主様には、多くを語る必要はなさそうですねぇ。それでは最後にひとつだけ。そのを探し出すための近道ですが、まもなく物語は大きく動きます。どうぞそのときには、耳をお澄ましくださいませぇ~」
「なんだって?」
 俺が聞き取れたのは、そこまでだった。
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