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マツヲ。

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53:縮まる距離と秘される想い

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「ほら、しっかり冷やしとけよ?」
 魔法で出した水でぬらしたハンカチを差し出され、黙って受けとり目もとを冷やす。
 ひとしきり泣いてしまえば、あとにのこったのは、妙な気はずかしさだけだった。

 よりによって、うちの子の前で泣いてしまうとか!
 昨日からずっと、彼のなかにおけるテイラーという人物の、ダメなヤツ度の更新をしまくっている気がする。

 最初は、ヒロインに癒されるまでの間だけでも、俺がセブンを甘やかしてやりたいなんて思ってたハズなのに、気がついたら逆に俺が甘やかされてるとか、めちゃくちゃダメな大人すぎるだろ!
 クソ、うちの子がカッコよすぎるからいけないんだ!

「───なんか、意外だったな……あんたも泣いたりするんだな?」
 しばらくおたがいに無言ですごしていたところに、そんな言葉が投げかけられる。
 そのせいで、おさまりかけていたハズの羞恥心が、ふたたびよみがえってきた。

「っ、それについては、今猛烈にはずかしくなってるから、できれば忘れてもらいたい」
 おかげで俺は顔を赤くしたまま、そうかえすのがやっとだった。
 あぁ、きっとめちゃくちゃバカにされてんだろうなぁ。

 そう思ってそっと目もとにあてたハンカチをずらしてセブンを盗み見れば、たしかに彼は笑いを浮かべていた。
 ただし、俺が想像していたような、こちらを小馬鹿にするようなものではなく───ずっとやわらかい表情でほほえんでいる。

 それこそまるで、愛おしいものでも見るみたいな、そんなやさしい顔だ。
 ───って、これ、セブンルートのスチルだろ!?
 見おぼえのありすぎるショットに、動揺が隠しきれない。

「な、なな、なんだよ!?そんなふうに見られても、これ以上おかしなことなんてしないからな?!」
「あぁ、別におもしろいことなんて期待してないから安心しろ」
 そう言ってセブンは、おもむろにこちらに向かって手をのばしてくる。

「?」
 なんだろうか?そう思った矢先にあたまのうえにその手が置かれ、わしゃわしゃとなでられた。
「ちょっと、髪の毛がぐちゃぐちゃになるだろ!」
 思わず苦情を申し立てたところで、セブンはいっそう笑みを深くする。

「なぁ、今オレが手をのばしても、あんた怖くなかったのか?」
「え?あ、そういえば、大丈夫だったな……」
 まぁアレは、有象無象の手だと思うから怖いのであって、相手がセブンだとわかっているなら怖くなりようもない。

「そっか、じゃあオレは、あんたにとって怖くない存在なんだな?」
「あたりまえだろ!」
 こちらの目を見て、本心を確かめるようにたずねてくるセブンに、力強くうなずく。
 今度はおたがい、自然に笑えたと思う。

 でもやっぱり、原作ゲームとはアプローチの仕方もシチュエーションも、なにもかもちがうハズなのに、なぜだろうか、セブンからの好感度は確実にあがっているような気がする。
 その証拠のひとつが、今みたいに向こうから俺に触れてきたってことだ。

 好感度と接触の度合いが比例しているセブンは、きっかけさえまちがえなければ、そこまで攻略はむずかしくないとは思うけど……でもだからと言って、俺がヒロインに代わって攻略するわけにいかないだろ!
 そう思って、あわてて話題をそらそうとする。

「セブンは苦手に思うかもしれないけど、パレルモ様だって、セブンと仲よくしたいって気持ちは、ホンモノだと思うぞ?」
 変に苦手意識を持つよりは、と思って話しかければ、とたんにセブンは険しい顔になってしまう。

「アイツ……なんか苦手だ!すごい不自然なニオイがする……っ!」
 セブンは例の『力』の関係で、総じて身体能力が高い。
 だからなのか、第六感的な野生の勘とも言うべきものがそなわっていた。

 もしかしたら今回、この改変により多大なる影響を受けているパレルモ様に、彼だけはなにか感じているのかもしれない。
 きっと本人には、確固たる証拠があるわけではないんだろうけども。

「それはまぁ、否定しないけど……」
 だいたいそれには、俺だって思わず同意をしてしまう。
 だって、仮にも公爵家の跡取りとなる嫡男が、あんなにものを知らないのはおかしいだろ!

 たとえば立場的にもブレイン殿下を知らなかったのは不自然だし、しかもそれで周囲が名前を呼んでいて気づくチャンスはいくらでもあるのに、いまだに『お兄ちゃん』呼びをしているのだとか。
 ほかにも、性的知識がなさすぎるのも不自然だし。

「そうだな……パレルモ様は曲がりなりにも公爵家のご令息だから、仲よくしとくほうがなにかと便利だぞ?困ったときに利用してやるくらいのつもりでいいから、少しでいいからかまってやってくれるとありがたい……」
 じゃないとまた、テイラーばっかりズルいとか泣かれそうだしな……。

「おどろいたな……あんたでも、そういうこと言うんだ?」
「まぁな。俺も思うところがないわけではないし」
 セブンのつぶやきに、ここだけの話だと人差し指をくちびるにあてながら、そっと苦笑をもらす。

「そっか……あんたがこういうヤツだって、もっと早くから知ってたらよかったのに……知るのが少し遅かったな……」
「ん?別にこれから仲よくしてけばいいだけの話だろ?」
 あのセブンとクラスメイトとして仲よくできる日がくるなんて、俺からしたら夢みたいなんだからな?

「いや、少し……遅かったんだと思う……だって、あんたはもう……っ!」
 だけどうまく聞き取れないくらいの小さなつぶやきからは、ほんのりと苦しげな気配がにじんでいた。

「セブン……?」
 首をかしげて、相手の顔を見たところで、うつむいたその横顔からは、うまく表情が読み取れなかった。
「───ま、あんたが元気になったらオレは退散するわ。これ以上ふたりっきりでいたら、紫殿下にうらまれちまうからな!」
 やがて沈黙をやぶり、ベンチから立ち上がったセブンは、ヒラリとこちらに手を振る。

「それにあんたも、紫殿下からの嫉妬で、これ以上その紅い痕が増えて、足腰立たなくならないことを祈ってるぜ~!」
「う、うるせーっ!」
 去り際に、こちらをからかっていくセブンに、俺はただ顔を赤くして、そう言いかえすのがやっとだった。
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