53 / 188
53:縮まる距離と秘される想い
しおりを挟む
「ほら、しっかり冷やしとけよ?」
魔法で出した水でぬらしたハンカチを差し出され、黙って受けとり目もとを冷やす。
ひとしきり泣いてしまえば、あとにのこったのは、妙な気はずかしさだけだった。
よりによって、うちの子の前で泣いてしまうとか!
昨日からずっと、彼のなかにおけるテイラーという人物の、ダメなヤツ度の更新をしまくっている気がする。
最初は、ヒロインに癒されるまでの間だけでも、俺がセブンを甘やかしてやりたいなんて思ってたハズなのに、気がついたら逆に俺が甘やかされてるとか、めちゃくちゃダメな大人すぎるだろ!
クソ、うちの子がカッコよすぎるからいけないんだ!
「───なんか、意外だったな……あんたも泣いたりするんだな?」
しばらくおたがいに無言ですごしていたところに、そんな言葉が投げかけられる。
そのせいで、おさまりかけていたハズの羞恥心が、ふたたびよみがえってきた。
「っ、それについては、今猛烈にはずかしくなってるから、できれば忘れてもらいたい」
おかげで俺は顔を赤くしたまま、そうかえすのがやっとだった。
あぁ、きっとめちゃくちゃバカにされてんだろうなぁ。
そう思ってそっと目もとにあてたハンカチをずらしてセブンを盗み見れば、たしかに彼は笑いを浮かべていた。
ただし、俺が想像していたような、こちらを小馬鹿にするようなものではなく───ずっとやわらかい表情でほほえんでいる。
それこそまるで、愛おしいものでも見るみたいな、そんなやさしい顔だ。
───って、これ、セブンルートのスチルだろ!?
見おぼえのありすぎるショットに、動揺が隠しきれない。
「な、なな、なんだよ!?そんなふうに見られても、これ以上おかしなことなんてしないからな?!」
「あぁ、別におもしろいことなんて期待してないから安心しろ」
そう言ってセブンは、おもむろにこちらに向かって手をのばしてくる。
「?」
なんだろうか?そう思った矢先にあたまのうえにその手が置かれ、わしゃわしゃとなでられた。
「ちょっと、髪の毛がぐちゃぐちゃになるだろ!」
思わず苦情を申し立てたところで、セブンはいっそう笑みを深くする。
「なぁ、今オレが手をのばしても、あんた怖くなかったのか?」
「え?あ、そういえば、大丈夫だったな……」
まぁアレは、有象無象の手だと思うから怖いのであって、相手がセブンだとわかっているなら怖くなりようもない。
「そっか、じゃあオレは、あんたにとって怖くない存在なんだな?」
「あたりまえだろ!」
こちらの目を見て、本心を確かめるようにたずねてくるセブンに、力強くうなずく。
今度はおたがい、自然に笑えたと思う。
でもやっぱり、原作ゲームとはアプローチの仕方もシチュエーションも、なにもかもちがうハズなのに、なぜだろうか、セブンからの好感度は確実にあがっているような気がする。
その証拠のひとつが、今みたいに向こうから俺に触れてきたってことだ。
好感度と接触の度合いが比例しているセブンは、きっかけさえまちがえなければ、そこまで攻略はむずかしくないとは思うけど……でもだからと言って、俺がヒロインに代わって攻略するわけにいかないだろ!
そう思って、あわてて話題をそらそうとする。
「セブンは苦手に思うかもしれないけど、パレルモ様だって、セブンと仲よくしたいって気持ちは、ホンモノだと思うぞ?」
変に苦手意識を持つよりは、と思って話しかければ、とたんにセブンは険しい顔になってしまう。
「アイツ……なんか苦手だ!すごい不自然なニオイがする……っ!」
セブンは例の『力』の関係で、総じて身体能力が高い。
だからなのか、第六感的な野生の勘とも言うべきものがそなわっていた。
もしかしたら今回、この改変により多大なる影響を受けているパレルモ様に、彼だけはなにか感じているのかもしれない。
きっと本人には、確固たる証拠があるわけではないんだろうけども。
「それはまぁ、否定しないけど……」
だいたいそれには、俺だって思わず同意をしてしまう。
だって、仮にも公爵家の跡取りとなる嫡男が、あんなにものを知らないのはおかしいだろ!
たとえば立場的にもブレイン殿下を知らなかったのは不自然だし、しかもそれで周囲が名前を呼んでいて気づくチャンスはいくらでもあるのに、いまだに『お兄ちゃん』呼びをしているのだとか。
ほかにも、性的知識がなさすぎるのも不自然だし。
「そうだな……パレルモ様は曲がりなりにも公爵家のご令息だから、仲よくしとくほうがなにかと便利だぞ?困ったときに利用してやるくらいのつもりでいいから、少しでいいからかまってやってくれるとありがたい……」
じゃないとまた、テイラーばっかりズルいとか泣かれそうだしな……。
「おどろいたな……あんたでも、そういうこと言うんだ?」
「まぁな。俺も思うところがないわけではないし」
セブンのつぶやきに、ここだけの話だと人差し指をくちびるにあてながら、そっと苦笑をもらす。
「そっか……あんたがこういうヤツだって、もっと早くから知ってたらよかったのに……知るのが少し遅かったな……」
「ん?別にこれから仲よくしてけばいいだけの話だろ?」
あのセブンとクラスメイトとして仲よくできる日がくるなんて、俺からしたら夢みたいなんだからな?
「いや、少し……遅かったんだと思う……だって、あんたはもう……っ!」
だけどうまく聞き取れないくらいの小さなつぶやきからは、ほんのりと苦しげな気配がにじんでいた。
「セブン……?」
首をかしげて、相手の顔を見たところで、うつむいたその横顔からは、うまく表情が読み取れなかった。
「───ま、あんたが元気になったらオレは退散するわ。これ以上ふたりっきりでいたら、紫殿下にうらまれちまうからな!」
やがて沈黙をやぶり、ベンチから立ち上がったセブンは、ヒラリとこちらに手を振る。
「それにあんたも、紫殿下からの嫉妬で、これ以上その紅い痕が増えて、足腰立たなくならないことを祈ってるぜ~!」
「う、うるせーっ!」
去り際に、こちらをからかっていくセブンに、俺はただ顔を赤くして、そう言いかえすのがやっとだった。
魔法で出した水でぬらしたハンカチを差し出され、黙って受けとり目もとを冷やす。
ひとしきり泣いてしまえば、あとにのこったのは、妙な気はずかしさだけだった。
よりによって、うちの子の前で泣いてしまうとか!
昨日からずっと、彼のなかにおけるテイラーという人物の、ダメなヤツ度の更新をしまくっている気がする。
最初は、ヒロインに癒されるまでの間だけでも、俺がセブンを甘やかしてやりたいなんて思ってたハズなのに、気がついたら逆に俺が甘やかされてるとか、めちゃくちゃダメな大人すぎるだろ!
クソ、うちの子がカッコよすぎるからいけないんだ!
「───なんか、意外だったな……あんたも泣いたりするんだな?」
しばらくおたがいに無言ですごしていたところに、そんな言葉が投げかけられる。
そのせいで、おさまりかけていたハズの羞恥心が、ふたたびよみがえってきた。
「っ、それについては、今猛烈にはずかしくなってるから、できれば忘れてもらいたい」
おかげで俺は顔を赤くしたまま、そうかえすのがやっとだった。
あぁ、きっとめちゃくちゃバカにされてんだろうなぁ。
そう思ってそっと目もとにあてたハンカチをずらしてセブンを盗み見れば、たしかに彼は笑いを浮かべていた。
ただし、俺が想像していたような、こちらを小馬鹿にするようなものではなく───ずっとやわらかい表情でほほえんでいる。
それこそまるで、愛おしいものでも見るみたいな、そんなやさしい顔だ。
───って、これ、セブンルートのスチルだろ!?
見おぼえのありすぎるショットに、動揺が隠しきれない。
「な、なな、なんだよ!?そんなふうに見られても、これ以上おかしなことなんてしないからな?!」
「あぁ、別におもしろいことなんて期待してないから安心しろ」
そう言ってセブンは、おもむろにこちらに向かって手をのばしてくる。
「?」
なんだろうか?そう思った矢先にあたまのうえにその手が置かれ、わしゃわしゃとなでられた。
「ちょっと、髪の毛がぐちゃぐちゃになるだろ!」
思わず苦情を申し立てたところで、セブンはいっそう笑みを深くする。
「なぁ、今オレが手をのばしても、あんた怖くなかったのか?」
「え?あ、そういえば、大丈夫だったな……」
まぁアレは、有象無象の手だと思うから怖いのであって、相手がセブンだとわかっているなら怖くなりようもない。
「そっか、じゃあオレは、あんたにとって怖くない存在なんだな?」
「あたりまえだろ!」
こちらの目を見て、本心を確かめるようにたずねてくるセブンに、力強くうなずく。
今度はおたがい、自然に笑えたと思う。
でもやっぱり、原作ゲームとはアプローチの仕方もシチュエーションも、なにもかもちがうハズなのに、なぜだろうか、セブンからの好感度は確実にあがっているような気がする。
その証拠のひとつが、今みたいに向こうから俺に触れてきたってことだ。
好感度と接触の度合いが比例しているセブンは、きっかけさえまちがえなければ、そこまで攻略はむずかしくないとは思うけど……でもだからと言って、俺がヒロインに代わって攻略するわけにいかないだろ!
そう思って、あわてて話題をそらそうとする。
「セブンは苦手に思うかもしれないけど、パレルモ様だって、セブンと仲よくしたいって気持ちは、ホンモノだと思うぞ?」
変に苦手意識を持つよりは、と思って話しかければ、とたんにセブンは険しい顔になってしまう。
「アイツ……なんか苦手だ!すごい不自然なニオイがする……っ!」
セブンは例の『力』の関係で、総じて身体能力が高い。
だからなのか、第六感的な野生の勘とも言うべきものがそなわっていた。
もしかしたら今回、この改変により多大なる影響を受けているパレルモ様に、彼だけはなにか感じているのかもしれない。
きっと本人には、確固たる証拠があるわけではないんだろうけども。
「それはまぁ、否定しないけど……」
だいたいそれには、俺だって思わず同意をしてしまう。
だって、仮にも公爵家の跡取りとなる嫡男が、あんなにものを知らないのはおかしいだろ!
たとえば立場的にもブレイン殿下を知らなかったのは不自然だし、しかもそれで周囲が名前を呼んでいて気づくチャンスはいくらでもあるのに、いまだに『お兄ちゃん』呼びをしているのだとか。
ほかにも、性的知識がなさすぎるのも不自然だし。
「そうだな……パレルモ様は曲がりなりにも公爵家のご令息だから、仲よくしとくほうがなにかと便利だぞ?困ったときに利用してやるくらいのつもりでいいから、少しでいいからかまってやってくれるとありがたい……」
じゃないとまた、テイラーばっかりズルいとか泣かれそうだしな……。
「おどろいたな……あんたでも、そういうこと言うんだ?」
「まぁな。俺も思うところがないわけではないし」
セブンのつぶやきに、ここだけの話だと人差し指をくちびるにあてながら、そっと苦笑をもらす。
「そっか……あんたがこういうヤツだって、もっと早くから知ってたらよかったのに……知るのが少し遅かったな……」
「ん?別にこれから仲よくしてけばいいだけの話だろ?」
あのセブンとクラスメイトとして仲よくできる日がくるなんて、俺からしたら夢みたいなんだからな?
「いや、少し……遅かったんだと思う……だって、あんたはもう……っ!」
だけどうまく聞き取れないくらいの小さなつぶやきからは、ほんのりと苦しげな気配がにじんでいた。
「セブン……?」
首をかしげて、相手の顔を見たところで、うつむいたその横顔からは、うまく表情が読み取れなかった。
「───ま、あんたが元気になったらオレは退散するわ。これ以上ふたりっきりでいたら、紫殿下にうらまれちまうからな!」
やがて沈黙をやぶり、ベンチから立ち上がったセブンは、ヒラリとこちらに手を振る。
「それにあんたも、紫殿下からの嫉妬で、これ以上その紅い痕が増えて、足腰立たなくならないことを祈ってるぜ~!」
「う、うるせーっ!」
去り際に、こちらをからかっていくセブンに、俺はただ顔を赤くして、そう言いかえすのがやっとだった。
1
お気に入りに追加
404
あなたにおすすめの小説

乙女ゲームのサポートメガネキャラに転生しました
西楓
BL
乙女ゲームのサポートキャラとして転生した俺は、ヒロインと攻略対象を無事くっつけることが出来るだろうか。どうやらヒロインの様子が違うような。距離の近いヒロインに徐々に不信感を抱く攻略対象。何故か攻略対象が接近してきて…
ほのほのです。
※有難いことに別サイトでその後の話をご希望されました(嬉しい😆)ので追加いたしました。
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】
【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします
*
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!?
しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です!
めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので!
本編完結しました!
リクエストの更新が終わったら、舞踏会編をはじめる予定ですー!
王道学園なのに、王道じゃない!!
主食は、blです。
BL
今作品の主人公、レイは6歳の時に自身の前世が、陰キャの腐男子だったことを思い出す。
レイは、自身のいる世界が前世、ハマりにハマっていた『転校生は愛され優等生.ᐟ.ᐟ』の世界だと気付き、腐男子として、美形×転校生のBのLを見て楽しもうと思っていたが…

幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件
碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。
状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。
「これ…俺、なのか?」
何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。
《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》
────────────
~お知らせ~
※第3話を少し修正しました。
※第5話を少し修正しました。
※第6話を少し修正しました。
※第11話を少し修正しました。
※第19話を少し修正しました。
※第24話を少し修正しました。
────────────
※感想、いいね、お気に入り大歓迎です!!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる