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51:取りまきゆえの責任の所在

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 またもやうっかり攻略ルートに入ってしまいそうな気配を察し、気まずさに目がおよぐ。
 ダメ、ゼッタイ。
 なにかの標語のようなことを思いながら、必死に話題をそらさなくてはと、脳みそをフル回転させる。

「あ、そういえば昨日の放課後は、パレルモ様といっしょだったんだっけ?なにしてたんだ?」
 それは話題の転換というには、あまりにも不自然な切り替えだったかもしれないけれど、テイラーといったらパレルモ様の腰ぎんちゃくみたいなものだ。
 えらぶ話題としては、そう不自然ではないと思う。

 けれど、セブンにとっては、そうではなかったらしい。
 真っ赤だったほっぺたはスッと赤みが引いていき、一気に苦々しい表情へと変わっていく。
 そのあまりの変化におどろいて、ずっとあたまをなでていた手をあわてて引っ込める。

 あ、これはなんかヤラカシたかな、パレルモ様が。
 セブンは魔法が効きにくい体質だから、いつものように魅了の魔法を無意識にバラまくだけじゃ、攻略なんてムリだろうし。
 ちゃんと放課後の裏庭デートイベントを成功させないと、好感度をあげられないもんな?

「な、なんかパレルモ様が……」
「なんなんだよ、アイツ!無神経にもほどがあるだろ!!」
 遠慮がちに口をひらいた俺の質問にかぶせるように、セブンが吠える。

 ───やっぱり!なんかヤラカシていたようだ!!
「……なにがあったか聞いてもいいか?」
 おそるおそるたずねれば、セブンは苦虫を噛みつぶしたような顔で、ふたたび口をひらく。

「アイツ……いきなりバラ園に行こうって誘ってきて、オレはてっきりあんたにケガさせたことをとがめられるのかと思って、すなおについてったんだけど……」
「うん」
 一度言葉を区切ったセブンは、なかなかに凶悪な顔をしている。

「そこについていきなり、オレの手をにぎってきて『あなたは、なにも悪くない。その力は神様があなたにあたえたモノだから、誇りに思って』とか言い出してくるし!」
「…………………」
 ───うん、まちがいなくそれは改変者の仕業だな。

 たぶん俺は今、薄ら笑いのような口もとに張りついた笑みを浮かべたまま、固まっていることだろう。
 なんなら気分的には、口はしから吐血しそうだったけど。

 あなたは、なにも悪くないうんぬんっつーそれは、それこそ今さっき見たみたいに、セブンが照れた原因であり、ヒロインがセブンルートで好感度があがる直前に言うセリフだ。
 まんまパクってんじゃねーか!

 原作のゲームでは、セブンの蹴ったボールのいきおいにおどろいてしりもちをついたヒロイン(かすり傷程度)にたいして、謝罪するセブンにかえすセリフだった。
 たしかに状況的には、俺のおでこにボールがあたった件でも流用できそうな気もするけど……。

「アイツ、無神経すぎるだろ!ケガしたのはアイツじゃなくてあんたなのに、なに勝手にゆるそうとしてんだよ?!それにあんた、あの紫殿下のお気に入りだし!てっきり自分はゆるすけど、そっちには謝罪しろと言われるかと思ったのに……それもねぇ!!」
「お、おう……」

 憤激するセブンの感覚は、いたってふつうの感覚だった。
 ある意味で、パレルモ様は俺の主のようなものだから、俺の処遇に関しての決定権を持っているわけで。
 言い換えるなら、それは俺にたいする保護の責任を持つという意味でもあるハズなんだ。

 人のうえに立つものなら、その権利と責任はセットであると知っていてしかるべきなんだけど、あいにくとあのゆるふわぼっちゃんには縁遠い話だったようだ。
 基本的にこの世界のパレルモ様は、人から愛されるのが当然だと思っているフシがあるし、実際にそれに近い状況ではあるしな……。

「一応弁解をするなら、あの方には俺をないがしろにしようという悪意があったわけではなくて、ただセブンに気にしなくてもいいって伝えたかっただけだと思うよ?実際に俺は、まったく気にしてなかったわけだし」
 俺のセリフには、一応耳をかたむけてくれているけれど、まだパレルモ様にたいする敵がい心のようなものは晴れていない。

「だからって、なんでオレにいきなり『力』の話をふってくるんだ!アイツの前では、そんなこと話したつもりもないのに!」
 不信感もあらわに、セブンがイラ立つ。
 あー、うん、これは伏線もないのにいきなり回収させようとした改変者のミスだな。

 ほかのキャラクターなら、本人が無意識にバラまいている魅了の魔法の効果で、『パレルモったらやさしいな!』とかなるのかもしれないけど。
 あいにくとうちの子には、魔法にたいする耐性があるからな……。

「───うん、今回はパレルモ様が悪かった。俺にはよくわからないけど、セブンにとって不用意に踏み込んでほしくないことに、一方的に言及してきたんだろ?なら、そこに悪意がなかったからって、『ゆるされて当然だ』とはならないよ。セブンが嫌な思いをしたんなら、むしろこっちからあやまらなきゃいけない話だ。本当に……うちのぼっちゃんが失礼をした」

 その『力』の強さは、本人のなかでは誇りに思うどころかトラウマレベルに感じていたものだと思う。
 その力のせいで、今回またもやヤラカシてしまったのかと怯えているのを見て、そんなことはないと言って励ましたかったという気持ちもわかる。

 でも、だからといって本人があかしてくれたわけでもないトラウマ級の話に、こちらから勝手に入っていってゆるしをあたえるなんて傲慢もいいとこだろ!
 だれにだって、不用意にふれてほしくない話くらいあるのに。
 まして今回のように、発言者が直接の被害者でもないなら、義理堅いセブンにとっては逆効果にしかならないだろう。

「なっ!?なんで……あんたがあやまるんだよ!?」
 その場で立ち上がり、深々とあたまを下げる俺に、セブンが動揺した声をあげる。
 それでも俺は深い悔恨の念に満ちたまま、あたまを下げつづけたのだった。
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