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マツヲ。

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49:放課後の逃亡者

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「もう、勘弁してくれ……」
 思わず泣きごとが、口をついて出る。
 放課後のひとけもない裏庭の温室、その横にあるベンチにひとり腰かけて天をあおぐ。
 夕焼けにはまだ少しはやい時間だからか、空の青が目にまぶしかった。

 いやもう、今日は本当にさんざんな1日だった……。
 朝っぱらから物見高い連中にもみくちゃにされるわ、制服は脱がされかかるわ、大変だったんだよ。

 昼休みは昼休みで、いつものようにジミーとともにパレルモ様のおともで、カフェテリアでランチをしていたら、なぜかそこへブレイン殿下が乱入してくるし。
 いや、あんたには王族専用ブースがあるだろうが!

 パレルモ様は嬉々として受け入れてしまうし、それとは反対にジミーは逃げ出すし……。
 この、裏切り者~~っ!!
 そんなところに、ひとり取り残される一般人の身にもなれってんだ!

 周囲からの羨望のまなざしを浴びるどころか、射殺されそうな嫉妬の視線の集中砲火を浴びるはめにおちいったんだからな!?
 なにしろブレイン殿下は、今日も昼から相当おかしかったからな!

 言うにこと欠いて『デザートはキミを食べたいのだけど?』なんて言ってキスしてこようとするし。
 真っ昼間の衆人環視のなかでその言動とか、マジで怖いわ!!

 いくら『魅了香チャーム・パフューム』を広めた犯人を油断させるためにブレイン殿下が腑抜けた姿をアピールするのが目的とはいえ、俺みたいなモブが恋人とか、そもそもの設定的に無理があるだろ!?
 却下だ、却下!

 ……そう思うのに、あの世界を腐海に沈めようとする改変を却下してくれるハズの機械的な合成音声は、なぜか黙り込んだままだった。
 クソ!
 てことは、こんなに不自然だと思うのに、例の改変の影響は受けてないってことなのかよ?!

 とにかく、そんなわけで朝も昼もブレイン殿下効果で、周囲からの好奇心をこれでもかと煽りまくってしまっていたようで。
 放課後といえどもあのまま教室内にいたら朝の二の舞だし、逃げるにかぎるとばかりに、こうして校内でも人のいない場所をさがしてきたというわけだった。

 幸いにして、目を離した隙に男に襲われがちなパレルモ様については、ブレイン殿下の腹心にして風紀委員の副委員長でもあるスコッチ先輩が、責任をもって見守り人員を配置してくれているおかげで心配はいらない。
 ありがとう、スコッチ先輩!!

 俺とおなじく本編でのモブキャラとして、勝手にシンパシーを感じていたけど、ますます信頼が厚くなりました!!
 もう一生ついていきます!とか思っちゃうよね。

 それはさておき。
 こうして静かなところでぼんやりとしていると、どうしてもかんがえることは内向きになっていく。

 ───本来なら、テイラーなんて『星華せいかとき』の世界では、かろうじて本編に姿と名前が出てくるくらいの、ほんのモブにすぎないのに……。
 こんなに注目を浴びるなんて、おかしすぎるだろ!とか。

 なにしろテイラーが取りまきをしている『原作パレルモ』は、いわゆる『メイン攻略キャラ』とされるリオン殿下とくらべたら、脇役的当て馬キャラの立ち位置なんだ。
 さらにその影だと言われるくらいなんだから、テイラーの存在感なんて薄いうっすいものだと知れるだろう。

 要はなにがあろうと、物語の中心に据えていいキャラクターじゃない。
 というか彼の存在意義なんて、『原作パレルモ』が悪どいことをするときに使うアレコレの仕入れ先が、実家のダグラス家経営の商会だという一点にかかっていると言っても過言ではないくらいだ。

 だからこそ、『魅了香チャーム・パフューム』の出どころとして、ブレイン殿下やセラーノにうたがわれたんだろうけどな……。
 なんにしても、テイラーというサブキャラクターは、パレルモという攻略メインキャラクターのためだけに存在していると言い換えてもいい。

 それが、どこをどうまちがえて、ブレイン殿下などという原作屈指の人気キャラクターとの恋愛フラグとか立ててるんだよ!
 意味わかんないだろ!!

 それに……問題は、ほかにもあった。
 ほかでもない───俺自身のことになるけれど、あの今朝の一件だ。

 ただの興味本位でしかないクラスメイトたちの手がシャツにのびてきたとき、そんなことくらいで恐怖を感じて息もできなくなったなんて……。
 我ながらあまりにも情けなくて、落ち込む。

 そのきっかけとなった一昨日の夜は、そりゃモブにヤられそうになって気持ち悪かったし、『なんでだよ!』とか『ふざけんな!』とか思っていたけど。
 でも……それだけだ。

 あのときは別に、ふるえるほどに怖かったわけでもなんでもなかったし、第一、瀬戸際ながらもアレは未遂で済んでいる。
 なら、自分に向かってくる手ごときで怖がる必要なんてないはずだろ?
 それ以上のことを、ブレイン殿下からは実際にされているわけだし。

 そう自分に問いかけてみたところで、ダメだった。
 自分に向かってのびてくる、いくつもの手を想像するだけで、ゾッとする。
 ましてそれが、こちらの動きを封じ、シャツを脱がそうとしてボタンをはずしてくるのなんて、まったく耐えられそうになかった。

「なんなんだろうな、トラウマにでもなったか……?」
 思わず、疑問が口をついて出る。
 放課後のこの時間、裏庭にある温室付近なんてほかにひとけもないからと油断していた。

「なにが『トラウマ』になったんだ?」
「っ!?」
 だからまさか、そこでだれかに聞かれていることはおろか、話しかけられるとはみじんも思っていなかったせいで、わかりやすく肩がハネる。
 ……たぶん、猫ならシッポがボンと、たぬきみたいに太くなっているところだ。

「悪い、おどろかせたか?」
「セブン……??」
 近くの木陰からあらわれたのは黒髪の少年───俺にとっての『うちの子』、セブンだった。
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