48 / 188
48:突然のフラッシュバック
しおりを挟む
どうしろっていうんだよ、この状況!?
最初に思ったのは、それだった。
だってもう、あのパレルモ様をさしおいて、俺が囲まれてもみくちゃにされるとか、冗談キツいだろ!
基本的にテイラーもだけど、『俺』にしたって元来陰キャ側の人間なんだぞ?!
こんなふうに人に囲まれるのなんて、慣れてない。
どうさばいていいのか、わからなかった。
と、そのとき。
「ブレイン殿下とはまたたく間に恋に落ち、一夜にして激しく燃えあがったそうですわ!それはさながら、出会いがしらの正面衝突事故のごとく……!」
澄んだ高い声が響く。
声の主は、キャロライナ嬢だ。
どうやらいかんともしがたい状況におちいっている俺を見かねて、助けに入ってくれたらしい。
「まぁ、キャロライナ様!そのお話おうかがいしても?」
「えぇ、ワタクシのわかる範囲で教えてさしあげましてよ!」
そうして、きゃいきゃいはしゃぐご令嬢方を、一手に引き受けてくれた。
ありがたい、ありがたいんだけど、なんだか若干誤解がありそうな気もするし、大げさに語られそうな気もするのは気のせいだろうか?
正直なところ、不安しかなかった。
「それじゃ、女子もいなくなったところで……テイラー!ウワサのキスマーク見せてもらおーか!」
「嫌だ、冗談じゃない」
ニヤッと笑ったジミーが、ふざけたことを言い出したのに、見せものにされるのはごめんだとその場から逃げ出そうとしたのに……。
「スマン、テイラー!好奇心には勝てなかった!」
「なっ!?んなモン見ても、おもしろくもなんともないだろ?!」
気がつけばその他のクラスメイトによって囲まれ、退路はふさがれていた。
「そりゃふつうの男の裸なんて見てもおもしろくないけどさ、その痕をつけたのがブレイン殿下だと思ったら、俄然興味が湧いてきたというか……」
申し訳なさそうに言うわりに、顔には隠しきれない笑いが浮かんでいる。
「ということで、みんな、やっちゃって~!」
「「「よっしゃ、まかせろ!」」」
ジミーからの号令に、俺を取り囲んでいた男子生徒たちが一斉にこちらの腕や肩、腰をつかんでくる。
「はっ?ふざけんなよ!?朝礼前なんだぞ、冗談キツいだろ!」
さすがにはずかしさもあるし、こっちだって必死だ。
無愛想きわまりない顔になって、正面に立つクラスメイトをにらみつける。
けれど、どれだけ文句を言ったところで、暴走する彼らは止まらなかった。
そしてなにより、多勢に無勢。
相手を止めようにも、左右から複数で肩と腕を押さえつけられてしまえば、ロクな抵抗なんてできやしない。
「やめろよ!離せってば!!」
「それじゃー、失礼しまーす♪」
ネクタイに手をかけ、シュルリと音を立ててはずしてくるクラスメイトのモブ男子からは、楽しげな気配しか伝わってこない。
なにより本人は屈託のない笑顔だし、ちょっとした好奇心を満たすための悪ふざけにすぎないんだってことは、これに協力する周囲の生徒たちの笑い声からもわかることだった。
だけど、その手がシャツのボタンにかかったとたん、心臓は大きく飛びハネた。
「っ!」
なんだろう……まさかこんなことが───その手の動きが怖い、だなんて。
相手はただのクラスメイトで、そこに悪意はないハズなのに……。
まともに息ができないくらいに、からだが強ばっていく。
もちろんわかってる、あたまでは。
これはただ服の下に隠れたキスマークを見るための確認行為でしかなくて、状況はあのときとはちがうんだってことは。
それに、そもそも結果だけ見れば未遂で済んでいて、致命的ななにがあったわけでもなかった。
それでも、わらわらと周囲からのびてくる手が、有象無象の手によってシャツのボタンをはずされていくのが、あのとき───『魅了香』をかがされて無理やり襲われかけた一昨日の夜とかぶって感じられてしまって……。
そう思ってしまったら、もうダメだった。
「~~~~~っ!や、やめ……っ!」
ギュッと目をつぶって悲鳴をこらえたところで、代わりにかぼそい息がもれる。
必死にふるえそうになるからだをなだめても、きっと顔色の悪さは隠しようがない。
今の自分の姿は、彼らからすれば過剰反応を示しているようにしか見えないんだろう。
そのときだ。
バン!!
固いなにかを叩くような大きな音が、教室内に響いた。
「てめぇら、朝っぱらからうるせーんだよっ!!」
「「「…………………」」」
これでもかと不機嫌さがにじむ声に、室内は水をうったかのように静まりかえる。
机の上に手を置き、こちらをにらみつけてくる少年。
この世界では不吉とされる黒髪に、キツくつりあがる眉毛と、タレ気味な目もとをいろどる金の瞳。
声とおなじく、不機嫌を体現したかのようなしかめっ面。
声の主は、俺にとっての『うちの子』であるセブンだった。
「ご、ごめん……セブン……」
だれかがあやまったのをきっかけに、気まずそうな空気をまとったまま、俺に群がっていた生徒たちが解散していく。
おかげで、なかばシャツのボタンははずされていたものの、それ以上はだけさせられることもなく済んだ。
そのことにまずホッとして、息をつく。
そうすれば強ばっていたからだから、余計な力が抜けていった。
大丈夫、なんとかふるえてはいない。
……残念ながら、まだ顔色は悪いままかもしれないけれど。
そうして解放されたところで、深呼吸をくりかえしていれば、徐々に気持ちは元の自分にもどってくる。
前を合わせて、ギュッとにぎりしめたままだったシャツをそっと手放せば、困ったことにシワがついてしまっていた。
───ひょっとして今のって、セブンが助けてくれたのか……?
どういうつもりだったのかと相手の真意を探ろうとしたものの、セブンと目が合ったと思った瞬間に、ふいっとそらされる。
その横顔は、どことなく気まずそうに見えた。
最初に思ったのは、それだった。
だってもう、あのパレルモ様をさしおいて、俺が囲まれてもみくちゃにされるとか、冗談キツいだろ!
基本的にテイラーもだけど、『俺』にしたって元来陰キャ側の人間なんだぞ?!
こんなふうに人に囲まれるのなんて、慣れてない。
どうさばいていいのか、わからなかった。
と、そのとき。
「ブレイン殿下とはまたたく間に恋に落ち、一夜にして激しく燃えあがったそうですわ!それはさながら、出会いがしらの正面衝突事故のごとく……!」
澄んだ高い声が響く。
声の主は、キャロライナ嬢だ。
どうやらいかんともしがたい状況におちいっている俺を見かねて、助けに入ってくれたらしい。
「まぁ、キャロライナ様!そのお話おうかがいしても?」
「えぇ、ワタクシのわかる範囲で教えてさしあげましてよ!」
そうして、きゃいきゃいはしゃぐご令嬢方を、一手に引き受けてくれた。
ありがたい、ありがたいんだけど、なんだか若干誤解がありそうな気もするし、大げさに語られそうな気もするのは気のせいだろうか?
正直なところ、不安しかなかった。
「それじゃ、女子もいなくなったところで……テイラー!ウワサのキスマーク見せてもらおーか!」
「嫌だ、冗談じゃない」
ニヤッと笑ったジミーが、ふざけたことを言い出したのに、見せものにされるのはごめんだとその場から逃げ出そうとしたのに……。
「スマン、テイラー!好奇心には勝てなかった!」
「なっ!?んなモン見ても、おもしろくもなんともないだろ?!」
気がつけばその他のクラスメイトによって囲まれ、退路はふさがれていた。
「そりゃふつうの男の裸なんて見てもおもしろくないけどさ、その痕をつけたのがブレイン殿下だと思ったら、俄然興味が湧いてきたというか……」
申し訳なさそうに言うわりに、顔には隠しきれない笑いが浮かんでいる。
「ということで、みんな、やっちゃって~!」
「「「よっしゃ、まかせろ!」」」
ジミーからの号令に、俺を取り囲んでいた男子生徒たちが一斉にこちらの腕や肩、腰をつかんでくる。
「はっ?ふざけんなよ!?朝礼前なんだぞ、冗談キツいだろ!」
さすがにはずかしさもあるし、こっちだって必死だ。
無愛想きわまりない顔になって、正面に立つクラスメイトをにらみつける。
けれど、どれだけ文句を言ったところで、暴走する彼らは止まらなかった。
そしてなにより、多勢に無勢。
相手を止めようにも、左右から複数で肩と腕を押さえつけられてしまえば、ロクな抵抗なんてできやしない。
「やめろよ!離せってば!!」
「それじゃー、失礼しまーす♪」
ネクタイに手をかけ、シュルリと音を立ててはずしてくるクラスメイトのモブ男子からは、楽しげな気配しか伝わってこない。
なにより本人は屈託のない笑顔だし、ちょっとした好奇心を満たすための悪ふざけにすぎないんだってことは、これに協力する周囲の生徒たちの笑い声からもわかることだった。
だけど、その手がシャツのボタンにかかったとたん、心臓は大きく飛びハネた。
「っ!」
なんだろう……まさかこんなことが───その手の動きが怖い、だなんて。
相手はただのクラスメイトで、そこに悪意はないハズなのに……。
まともに息ができないくらいに、からだが強ばっていく。
もちろんわかってる、あたまでは。
これはただ服の下に隠れたキスマークを見るための確認行為でしかなくて、状況はあのときとはちがうんだってことは。
それに、そもそも結果だけ見れば未遂で済んでいて、致命的ななにがあったわけでもなかった。
それでも、わらわらと周囲からのびてくる手が、有象無象の手によってシャツのボタンをはずされていくのが、あのとき───『魅了香』をかがされて無理やり襲われかけた一昨日の夜とかぶって感じられてしまって……。
そう思ってしまったら、もうダメだった。
「~~~~~っ!や、やめ……っ!」
ギュッと目をつぶって悲鳴をこらえたところで、代わりにかぼそい息がもれる。
必死にふるえそうになるからだをなだめても、きっと顔色の悪さは隠しようがない。
今の自分の姿は、彼らからすれば過剰反応を示しているようにしか見えないんだろう。
そのときだ。
バン!!
固いなにかを叩くような大きな音が、教室内に響いた。
「てめぇら、朝っぱらからうるせーんだよっ!!」
「「「…………………」」」
これでもかと不機嫌さがにじむ声に、室内は水をうったかのように静まりかえる。
机の上に手を置き、こちらをにらみつけてくる少年。
この世界では不吉とされる黒髪に、キツくつりあがる眉毛と、タレ気味な目もとをいろどる金の瞳。
声とおなじく、不機嫌を体現したかのようなしかめっ面。
声の主は、俺にとっての『うちの子』であるセブンだった。
「ご、ごめん……セブン……」
だれかがあやまったのをきっかけに、気まずそうな空気をまとったまま、俺に群がっていた生徒たちが解散していく。
おかげで、なかばシャツのボタンははずされていたものの、それ以上はだけさせられることもなく済んだ。
そのことにまずホッとして、息をつく。
そうすれば強ばっていたからだから、余計な力が抜けていった。
大丈夫、なんとかふるえてはいない。
……残念ながら、まだ顔色は悪いままかもしれないけれど。
そうして解放されたところで、深呼吸をくりかえしていれば、徐々に気持ちは元の自分にもどってくる。
前を合わせて、ギュッとにぎりしめたままだったシャツをそっと手放せば、困ったことにシワがついてしまっていた。
───ひょっとして今のって、セブンが助けてくれたのか……?
どういうつもりだったのかと相手の真意を探ろうとしたものの、セブンと目が合ったと思った瞬間に、ふいっとそらされる。
その横顔は、どことなく気まずそうに見えた。
0
お気に入りに追加
399
あなたにおすすめの小説
【完結】だから俺は主人公じゃない!
美兎
BL
ある日通り魔に殺された岬りおが、次に目を覚ましたら別の世界の人間になっていた。
しかもそれは腐男子な自分が好きなキャラクターがいるゲームの世界!?
でも自分は名前も聞いた事もないモブキャラ。
そんなモブな自分に話しかけてきてくれた相手とは……。
主人公がいるはずなのに、攻略対象がことごとく自分に言い寄ってきて大混乱!
だから、…俺は主人公じゃないんだってば!
バッドエンドの異世界に悪役転生した僕は、全力でハッピーエンドを目指します!
あ
BL
16才の初川終(はつかわ しゅう)は先天性の心臓の病気だった。一縷の望みで、成功率が低い手術に挑む終だったが……。
僕は気付くと両親の泣いている風景を空から眺めていた。それから、遠くで光り輝くなにかにすごい力で引き寄せられて。
目覚めれば、そこは子どもの頃に毎日読んでいた大好きなファンタジー小説の世界だったんだ。でも、僕は呪いの悪役の10才の公爵三男エディに転生しちゃったみたい!
しかも、この世界ってバッドエンドじゃなかったっけ?
バッドエンドをハッピーエンドにする為に、僕は頑張る!
でも、本の世界と少しずつ変わってきた異世界は……ひみつが多くて?
嫌われ悪役の子どもが、愛されに変わる物語。ほのぼの日常が多いです。
◎体格差、年の差カップル
※てんぱる様の表紙をお借りしました。
王道学園なのに、王道じゃない!!
主食は、blです。
BL
今作品の主人公、レイは6歳の時に自身の前世が、陰キャの腐男子だったことを思い出す。
レイは、自身のいる世界が前世、ハマりにハマっていた『転校生は愛され優等生.ᐟ.ᐟ』の世界だと気付き、腐男子として、美形×転校生のBのLを見て楽しもうと思っていたが…
転生したら弟がブラコン重傷者でした!!!
Lynne
BL
俺の名前は佐々木塁、元高校生だ。俺は、ある日学校に行く途中、トラックに轢かれて死んでしまった...。
pixivの方でも、作品投稿始めました!
名前やアイコンは変わりません
主にアルファポリスで投稿するため、更新はアルファポリスのほうが早いと思います!
弟いわく、ここは乙女ゲームの世界らしいです
慎
BL
――‥ 昔、あるとき弟が言った。此処はある乙女ゲームの世界の中だ、と。我が侯爵家 ハワードは今の代で終わりを迎え、父・母の散財により没落貴族に堕ちる、と… 。そして、これまでの悪事が晒され、父・母と共に令息である僕自身も母の息の掛かった婚約者の悪役令嬢と共に公開処刑にて断罪される… と。あの日、珍しく滑舌に喋り出した弟は予言めいた言葉を口にした――‥ 。
乙女ゲームに転生したらヒロインではなく僕(モブ)が愛されます!?
めいず
BL
乙女ゲーム大好き人間の高校1年生『七瀬歩』は乙女ゲームのやり過ぎで死んでしまったーー
いい人生だった。と思ったら乙女ゲーム『異世界転生で推しに純愛されてます!』のモブに転生してしまったようで!?
学園に通い始めたら、冷酷王子で僕の推しであるユエ・ド・シフォンは僕に一目惚れと言ってきて!?
『ユエはヒロインと結ばれる運命なんだよ!』と思っていてもこの世界は男しかいないのでもちろんその言葉は届かず、
どうなる僕(モブ)!
冷酷王子ユエ・ド・シフォン
✖️
平凡で普通な(モブ)ユキ・ニードフェア
断罪済み悪役令息は、嫌われないようにおとなしく生きます!
七海咲良
BL
前世の記憶を思い出したのは、断罪後の馬車の中だった。プレイしたことのあるBLゲームの世界に転生したけど、その知識を使うまでもなく僕は舞台から離れていく。でもこれって、ある意味これからのストーリーに介入しなくていいってことだよね? やった! 自由だ! これからはおとなしく生きていくぞ~!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる