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47:周囲の圧が強すぎる!

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 さすがに2日つづけて、ブレイン殿下によって教室まで送られてくるとか、そんな目立つことをされれば、同級生から質問責めにあうのは必至だった。
 昨日はパレルモ様の取りまき仲間であるジミーと、やたらと人懐っこいカイエンからしか絡まれずに済んでいたけれど……。

 パレルモ様への朝のごあいさつが済んだクラスメイトたちは、ソワソワとした様子で、その背後に立つ俺に視線を向けてくる。
 うん、これはもう話を聞きたいという気持ちがダダもれてるな。
 まぁ、すなおに応じてやる気はないけど。

 うかつに目が合えば話しかけられやすくなるからと、わざと目線をはずして床を見る。
 これまでの空気のように影の薄かったテイラーなら、たぶんこれだけでも話しかけにくくなるハズ。

 ……なんて思っていたのに。

「ふーん、今朝は自分の制服着てこられたんだな!昨日は、無事に自分の部屋に帰れた感じだったんだ?てっきり今朝もブレイン様の制服着てくるかと思ったのに」
 思ったよりも近くから聞こえた声は、だれかなんて確認するまでもない。

「うるさい、カイエン!余計なこと言うんじゃない!」
 ムッとしてにらみつけたところで、『アホワンコ』ことカイエンは、まるでこたえた感じはしなかった。

「いや、だってさぁ、わざわざ放課後の教室まで迎えに来るとか、またお持ち帰りされたんだろうと思うじゃん!しかも俺なんて、ブレイン様からめっちゃ牽制されたし」
 それどころか、俺から『話しかけてくるんじゃない』というオーラが出ているのにもめげずに突進してくる。

 おかげでカイエンのセリフに、周囲の耳目が余計に集まってくるのを感じた。
 あぁ、こういう期待をされてる空気が嫌なのに!
 ついでのようにざわめきにまじって、『お持ち帰り』だとか『牽制』だとかの単語が聞こえてくるのが、また居たたまれない。

「カイエン、その話もっとくわしく!」
「え?いや、テイラー本人に聞けばよくない?目の前にいんだからさ」
「いや、だってなんか話しかけにくいし……」
 カイエンがなにかしらの事情を知っていると踏んだのか、一部のクラスメイトの標的はカイエンへとうつっていた。

「カイエン、余計なこと言うなよ?」
 ギロリとにらみつければ、さすがにアホワンコといえど、勝手に話していいことではないと気づいたのだろう。
 チラチラとこちらをうかがうような、気づかわしげな視線が送られてくる。

「でもさ、急にテイラーの雰囲気がなんつーかエロくなった感じするじゃん?こう、視線が色っぽくなったり、首とか腰つきが細いのも、やけに目立つようになった気がしてさ……その原因がなにかって、ついかんがえちゃうだろ!?」
「かんがえんな、アホか!」
 だけどアホワンコは、俺の想像以上に思春期まっさかりなアホだった。

「だって、あんなにたくさんの痕つけられるとか、しかもそれを全部ブレイン様がつけたのかとか、かんがえたらさー!もう俺、昨日の夜は悶々として眠れなかったんだぞ!?」
「だから!かんがえんな、バカ!!」
 顔を真っ赤にして、いらない告白をするカイエンに、思わずツッコミをくりかえす。

「しかも昨日の、ブレイン様が首に触れた瞬間のテイラーの、あのエロい声と顔があたまから離れなくて!俺、真っ正面から見ちゃったんだからな?!」
「もう、そんなん知らねーよ!!」
 そのときの自分の声とか顔なんて、どんなだったかなんてわかるわけがない。

「指で触れただけでそうなるんだから、あの痕つけられたときはどうだったんだろうって想像しちゃって……つーか思い出したらまた……ゴメン!!ちょっとトイレ行ってくるっ!!」
 なのにカイエンときたら、顔を真っ赤に染めたまま、前傾姿勢になって股間を手で隠しながら廊下へといきおいよく飛び出していく。

「え……ウソだろ……?」
 股間を隠して前傾姿勢って、え、いや……まさかのうっかり反応しちゃったパターンか?
 そりゃ思春期の男子なら、エッチな妄想ひとつで即臨戦態勢とれるかもしれないけどさ!

 でも、ちょっと待て。
 今の流れで……、ってことはそれ、俺の姿を想像しただけで勃ったってことか───??!
 その事実に、むしろこっちがはずかしくなってくる。

「どうしてくれんだよ、この空気……」
 気まずい、それはもう、ものすごく気まずかった。
 男子生徒は皆、カイエンのダッシュの理由に気づいているし、その原因となったという俺にたいして興味津々の様子で無遠慮な視線を向けてきている。

 そりゃな、今までテイラーなんてパレルモ様の影で、なんなら個人として認識すらされてなかったようなヤツがだよ?
 いきなりそんな評価を受けたところで、むしろどんな姿だったっけかと興味を引いてしまうことは、不可避だと思う。

 でも本人にしてみれば、そんなの気まずい以外のなにものでもないだろ!
 赤くなる顔を隠すように、片手で口もとをおおってうつむけば、ふいに腰のあたりにドスンと衝撃が走った。

「なぁなぁ、今のカイエンの言ってた『テイラーのエロい声と顔』ってなんの話?昨日の朝の件とは、また別ものなのか?」
 なにごとかと視線を下げた先には、目をかがやかせ、いかにもワクワクした様子で問いかけてくるジミーが、背後から腰のあたりに抱きついているのが見える。

「昨日の朝の、カイエンにうなじをさわられたときのテイラーの声も、わりとエロかったと思うんだけどさー!それ以上だったってこと?!超気になるんだけど!」
「………気にしなくてよろしい」
 いつもなら、俺がつまらなさそうにそう言えば終わりのはずだったのに。

「なー、教えてくれよ!ブレイン殿下と、どうやってお近づきになったんだ!?」
「そうですわ!あの方のお心をどうやって射止めたんですの?!」
 ジミーにつづけとばかりに、ほかのクラスメイトたちがこぞって押し寄せてくる。

「え、いや……ちょっと……」
 あまりの圧に、思わず腰が引ける。
 けれど目をキラキラさせた彼らのいきおいは止まることを知らず、俺はもみくちゃにされたのだった。

 だから、その喧騒のせいで気づけなかった。
 いつもはその輪の中心にいるはずのパレルモ様が、ぽつんとひとり取り残されているのに。
 ───そしてそれを見たが、こちらをにらみつけ、憎々しげに舌打ちをしていたのも……。
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