44 / 188
44:気づかぬフラグは、すなおすぎるゆえ
しおりを挟む
「───というわけで、私のかわいい恋人は照れ屋さんだから、皆もからかいすぎないようにね」
「頬に赤い手形をつけながら言われましても、まるで説得力がありませんよ、委員長」
「その件は、本当に申し訳なく……っ!」
ほっぺたを赤く腫らしたブレイン殿下が早くも作戦開始とばかりに、やにさがった顔でのろければ、副委員長が即座にツッコミを入れている。
その横で俺は、ただひたすらあやまりながら身を縮こませるしかできなかった。
あれから、調子に乗ったブレイン殿下がくちびるを割って舌をいれてきて、それに反発した俺がうっかりビンタをカマしてしまって、平あやまりすることになったり、まぁ……いろいろあった。
でも結果的にブレイン殿下が提案した作戦はそのまま採用されることになってしまったのだった。
「これは作戦上のことなんだから、キミには私のかわいい恋人でいてもらわなくてはね?キミも犯人をつかまえたいという気持ちには賛同してくれるんだろう?」
「うっ……たしかに、それはそうなんですけど……」
懲りずにパチリとウィンクをしてくるブレイン殿下に、口ごもる。
これは作戦上の擬似的なものにすぎないから、本当に付き合っているわけじゃない。
それは俺にとって、ありがたい言い訳ではあった。
だってきっと、俺が彼に惹かれる気持ちは……ホンモノだから。
でも物語の改変をただすべき立場として、ブレイン殿下の愛を受け入れるわけにはいかなくて。
その相反する思いにゆらぐ俺にとって、これ以上ない猶予があたえられたようなものだった。
「もちろん、無理を言って協力してもらうんだ。風紀委員長として、そして王族としての私の立場で叶えられるものならなんでも報酬としてあたえよう」
するりとほっぺたをなでられ、ピクリと肩がハネかける。
「そんなもの……いらないです。俺はただここに、あんな怪しい薬物を蔓延させたヤツをゆるせないだけで……」
そうだ、『魅了香』なんていう、強烈な催淫効果のある薬物、乙女ゲーの世界にはいらないんだよ!
しかもそれを使ってパレルモ様を襲うとか、本当にゆるせない。
「主をえらべないとはいえ、キミの忠誠心は見上げたものだね?その怒りは、ライムホルン公爵家の子が襲われたからかい?」
「………たしかに、あのままパレルモ様がアイツらに犯されていたら、たぶん今ごろ俺はこの世にいなかったと思いますしね」
とりあえず怒り狂ったライムホルン公爵の手によって、処刑されていただろうな……。
と、昨夜のことを思い出して怒りとむなしさとに襲われたところで、ハッと気づいた。
あれ、でもひょっとして俺が改変をたださなかったとしても、風紀委員はあの場に踏み込んでいたのでは……?
ならばそこで助け出されたパレルモ様とブレイン殿下のあいだで、親密度があがるイベントに発展してたんじゃないだろうか。
───いや、まちがいない、そうだったハズ。
あの改変を行った侵食者はパレルモ様激推しで、彼の総受け希望の腐女子なんだからな!
その改変のとおりの世界線なら、ブレイン殿下はたぶんギリギリのところで助け出されたパレルモ様のほうをお持ち帰りすることになっていたと思う。
さすがに手を出してきた相手が王族ならば俺の首も無事だろうし、まぁご都合主義ではあるけれど、しかもそれがパレルモ様を危険なところから助けてくれた相手となれば、あの公爵だってゆるしてくれるだろう。
ということは、だ。
俺がその改変をただしてしまったからこそ、あの薬物を創造したこの世界への侵食者は、想定外の展開にあせっているんじゃないだろうか?
パレルモ様ではなく、その横のモブであるテイラーがブレイン殿下とくっついてしまったとしたら。
案外これは、俺にとっても侵食者をあぶり出すイイ機会になるのかもしれない。
そこに気がついた瞬間、スッとあたまが冷えていく。
「わかりました、なんとしてでも犯人をつかまえましょう!あらためまして、こちらこそよろしくお願いいたします」
深々とあたまを下げれば、相手のおどろいたような気配が伝わってきた。
「これは……私としても、負けられないたたかいになりそうだね……」
うっすらと皮肉げな笑みを刷いたブレイン殿下が、挑発的な視線で俺を見つめてくる。
うっ、そんな顔もカッコいいとか、ズルすぎるだろ!
ムダにときめきを訴えてくる胸に、必死に気づかないふりをして平静をよそおおうとしたところで、赤くなるほっぺたは隠しきれなかった。
あぁもう、だからこれは擬似的なものなんだってば!と、懸命に己に言い聞かせる。
「───おどろいたな、本当にめずらしいこともあるものだ。あの殿下が恋わずらいとはね……すなおすぎるというのも、かえって難攻不落の原因となるわけか」
「うるさい、スコッチ!」
「いやいや……臣下として、副委員長として、その作戦の成功をお祈りしていますよ」
「クッ、からかうんじゃない!」
じゃれ合うふたりの会話は、さすがに長年の付き合いがあるだけに、親密なものだ。
なんの話をしているのか、俺にはわからないことでも、ふたりのあいだではきちんと通じているらしい。
「───あっ!そうだ、ひとつだけ報酬としてお願いしたいことがあります!」
そうだ、俺が表向きの囮になるとして、そのあいだに心配なことがひとつだけあった。
「うん、なんだい?」
「パレルモ様のこと、その……ご本人はどこまでもピュアな方なので、警戒心がひかえめと言いますか、人をうたがうことが苦手のようでして、常にボディーガードが必要と言いますか……」
あのガードゆるゆるぼっちゃんのことを、なるべく言葉をえらびながら説明する。
「あぁ、そのことなら問題ないよ。すでに昨夜のうちからずっと、交代で風紀委員が見張りについているし、ついでに我がボネット家の付き人からも魅了の魔法に耐えうる人材を出して密かに見張らせているからね」
そんな俺の苦労を知ってか、苦笑を浮かべた副委員長が請け負ってくれた。
「そうでしたか……ご配慮いただきまして、ありがとうございます。それならもう、ほかになにも望みませんので」
「そうか、君も特殊な主を持つと苦労するね」
ホッと息をつく俺に向けられたのは、たがいに面倒な主を持つもの同士のあたたかな同情的なほほえみだった。
「頬に赤い手形をつけながら言われましても、まるで説得力がありませんよ、委員長」
「その件は、本当に申し訳なく……っ!」
ほっぺたを赤く腫らしたブレイン殿下が早くも作戦開始とばかりに、やにさがった顔でのろければ、副委員長が即座にツッコミを入れている。
その横で俺は、ただひたすらあやまりながら身を縮こませるしかできなかった。
あれから、調子に乗ったブレイン殿下がくちびるを割って舌をいれてきて、それに反発した俺がうっかりビンタをカマしてしまって、平あやまりすることになったり、まぁ……いろいろあった。
でも結果的にブレイン殿下が提案した作戦はそのまま採用されることになってしまったのだった。
「これは作戦上のことなんだから、キミには私のかわいい恋人でいてもらわなくてはね?キミも犯人をつかまえたいという気持ちには賛同してくれるんだろう?」
「うっ……たしかに、それはそうなんですけど……」
懲りずにパチリとウィンクをしてくるブレイン殿下に、口ごもる。
これは作戦上の擬似的なものにすぎないから、本当に付き合っているわけじゃない。
それは俺にとって、ありがたい言い訳ではあった。
だってきっと、俺が彼に惹かれる気持ちは……ホンモノだから。
でも物語の改変をただすべき立場として、ブレイン殿下の愛を受け入れるわけにはいかなくて。
その相反する思いにゆらぐ俺にとって、これ以上ない猶予があたえられたようなものだった。
「もちろん、無理を言って協力してもらうんだ。風紀委員長として、そして王族としての私の立場で叶えられるものならなんでも報酬としてあたえよう」
するりとほっぺたをなでられ、ピクリと肩がハネかける。
「そんなもの……いらないです。俺はただここに、あんな怪しい薬物を蔓延させたヤツをゆるせないだけで……」
そうだ、『魅了香』なんていう、強烈な催淫効果のある薬物、乙女ゲーの世界にはいらないんだよ!
しかもそれを使ってパレルモ様を襲うとか、本当にゆるせない。
「主をえらべないとはいえ、キミの忠誠心は見上げたものだね?その怒りは、ライムホルン公爵家の子が襲われたからかい?」
「………たしかに、あのままパレルモ様がアイツらに犯されていたら、たぶん今ごろ俺はこの世にいなかったと思いますしね」
とりあえず怒り狂ったライムホルン公爵の手によって、処刑されていただろうな……。
と、昨夜のことを思い出して怒りとむなしさとに襲われたところで、ハッと気づいた。
あれ、でもひょっとして俺が改変をたださなかったとしても、風紀委員はあの場に踏み込んでいたのでは……?
ならばそこで助け出されたパレルモ様とブレイン殿下のあいだで、親密度があがるイベントに発展してたんじゃないだろうか。
───いや、まちがいない、そうだったハズ。
あの改変を行った侵食者はパレルモ様激推しで、彼の総受け希望の腐女子なんだからな!
その改変のとおりの世界線なら、ブレイン殿下はたぶんギリギリのところで助け出されたパレルモ様のほうをお持ち帰りすることになっていたと思う。
さすがに手を出してきた相手が王族ならば俺の首も無事だろうし、まぁご都合主義ではあるけれど、しかもそれがパレルモ様を危険なところから助けてくれた相手となれば、あの公爵だってゆるしてくれるだろう。
ということは、だ。
俺がその改変をただしてしまったからこそ、あの薬物を創造したこの世界への侵食者は、想定外の展開にあせっているんじゃないだろうか?
パレルモ様ではなく、その横のモブであるテイラーがブレイン殿下とくっついてしまったとしたら。
案外これは、俺にとっても侵食者をあぶり出すイイ機会になるのかもしれない。
そこに気がついた瞬間、スッとあたまが冷えていく。
「わかりました、なんとしてでも犯人をつかまえましょう!あらためまして、こちらこそよろしくお願いいたします」
深々とあたまを下げれば、相手のおどろいたような気配が伝わってきた。
「これは……私としても、負けられないたたかいになりそうだね……」
うっすらと皮肉げな笑みを刷いたブレイン殿下が、挑発的な視線で俺を見つめてくる。
うっ、そんな顔もカッコいいとか、ズルすぎるだろ!
ムダにときめきを訴えてくる胸に、必死に気づかないふりをして平静をよそおおうとしたところで、赤くなるほっぺたは隠しきれなかった。
あぁもう、だからこれは擬似的なものなんだってば!と、懸命に己に言い聞かせる。
「───おどろいたな、本当にめずらしいこともあるものだ。あの殿下が恋わずらいとはね……すなおすぎるというのも、かえって難攻不落の原因となるわけか」
「うるさい、スコッチ!」
「いやいや……臣下として、副委員長として、その作戦の成功をお祈りしていますよ」
「クッ、からかうんじゃない!」
じゃれ合うふたりの会話は、さすがに長年の付き合いがあるだけに、親密なものだ。
なんの話をしているのか、俺にはわからないことでも、ふたりのあいだではきちんと通じているらしい。
「───あっ!そうだ、ひとつだけ報酬としてお願いしたいことがあります!」
そうだ、俺が表向きの囮になるとして、そのあいだに心配なことがひとつだけあった。
「うん、なんだい?」
「パレルモ様のこと、その……ご本人はどこまでもピュアな方なので、警戒心がひかえめと言いますか、人をうたがうことが苦手のようでして、常にボディーガードが必要と言いますか……」
あのガードゆるゆるぼっちゃんのことを、なるべく言葉をえらびながら説明する。
「あぁ、そのことなら問題ないよ。すでに昨夜のうちからずっと、交代で風紀委員が見張りについているし、ついでに我がボネット家の付き人からも魅了の魔法に耐えうる人材を出して密かに見張らせているからね」
そんな俺の苦労を知ってか、苦笑を浮かべた副委員長が請け負ってくれた。
「そうでしたか……ご配慮いただきまして、ありがとうございます。それならもう、ほかになにも望みませんので」
「そうか、君も特殊な主を持つと苦労するね」
ホッと息をつく俺に向けられたのは、たがいに面倒な主を持つもの同士のあたたかな同情的なほほえみだった。
1
お気に入りに追加
402
あなたにおすすめの小説
王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜
・不定期
信じて送り出した養い子が、魔王の首を手柄に俺へ迫ってくるんだが……
鳥羽ミワ
BL
ミルはとある貴族の家で使用人として働いていた。そこの末息子・レオンは、不吉な赤目や強い黒魔力を持つことで忌み嫌われている。それを見かねたミルは、レオンを離れへ隔離するという名目で、彼の面倒を見ていた。
そんなある日、魔王復活の知らせが届く。レオンは勇者候補として戦地へ向かうこととなった。心配でたまらないミルだが、レオンはあっさり魔王を討ち取った。
これでレオンの将来は安泰だ! と喜んだのも束の間、レオンはミルに求婚する。
「俺はずっと、ミルのことが好きだった」
そんなこと聞いてないが!? だけどうるうるの瞳(※ミル視点)で迫るレオンを、ミルは拒み切れなくて……。
お人よしでほだされやすい鈍感使用人と、彼をずっと恋い慕い続けた令息。長年の執着の粘り勝ちを見届けろ!
※エブリスタ様、カクヨム様、pixiv様にも掲載しています
転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!
めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。
ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。
兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。
義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!?
このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。
※タイトル変更(2024/11/27)
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
異世界転移してΩになった俺(アラフォーリーマン)、庇護欲高めα騎士に身も心も溶かされる
ヨドミ
BL
もし生まれ変わったら、俺は思う存分甘やかされたい――。
アラフォーリーマン(社畜)である福沢裕介は、通勤途中、事故により異世界へ転移してしまう。
異世界ローリア王国皇太子の花嫁として召喚されたが、転移して早々、【災厄のΩ】と告げられ殺されそうになる。
【災厄のΩ】、それは複数のαを番にすることができるΩのことだった――。
αがハーレムを築くのが常識とされる異世界では、【災厄のΩ】は忌むべき存在。
負の烙印を押された裕介は、間一髪、銀髪のα騎士ジェイドに助けられ、彼の庇護のもと、騎士団施設で居候することに。
「αがΩを守るのは当然だ」とジェイドは裕介の世話を焼くようになって――。
庇護欲高め騎士(α)と甘やかされたいけどプライドが邪魔をして素直になれない中年リーマン(Ω)のすれ違いラブファンタジー。
※Rシーンには♡マークをつけます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる