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42:悪目立ちは不可避の模様
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ちゃんとさっき、ブレイン殿下からの気持ちを受け取るわけにはいかないと、お断りをしたはずなのに。
そう思う裏に、たしかにこうして縁が切れてしまわなかったことをよろこぶ己も存在していた。
本当に、どうしてそんなに俺の心は弱いんだろう?
ダメならキッパリとあきらめることも、大事なことなのに……。
それでも、と必死に気持ちを切り替える。
「なんなんですか、今の!確実にふたりに誤解を植えつけたでしょう?!」
だからといって、それを受け入れるわけにはいかないだろ!
だって、それはこの世界にもたらされてしまった異変が原因なんだし。
「おや、誤解ではないと思うけど?」
なのに俺のとがめる声は、あっさりと受け流されてしまう。
そしてニヤニヤと楽しげな笑みを口もとに浮かべたブレイン殿下は、その薔薇色の瞳にやさしげな光をたたえている。
「どこがですか!だいたいあなたは───って、ふわぁっ?!!」
思わずほだされそうになる心を叱咤し、必死に反論をする俺は、しかし話の途中で持ちあげられ、ふたたびブレイン殿下の肩のうえへと担がれていた。
「さぁて、それじゃあ行こうか?」
「どこへですか!?っていうか、おろしてください!重いでしょう?!」
声をはずませた殿下は、俺の抗議の声なんてまるで届いてないみたいに足取りも軽く歩き出す。
「だって、そうしたら逃げてしまうだろう?こうしていればキミはおとなしく運ばれてくれるし、いいかなって」
「なんでそうなるんですか!?」
こうしてさわいでいれば、当然のように周囲の視線をあつめてしまうわけで、気がつけば放課後の閑散としていたはずの廊下には、めずらしいもの見たさなのか、人が増えてきていた。
そりゃそうだ、まさかのブレイン殿下が楽しげに笑いながら、肩に俺みたいなモブ男を担いでいるんだから。
そんなの目立つに決まってる!
しかも俺の着ている制服も、そのうえのベストもブレイン殿下から借りたもので、それはベストの柄の紫色からわかってしまう。
この色を着ることをゆるされているのは、本来ブレイン殿下本人だけなんだから。
朝の騒動を知らなかった人も、実際に見ていた人も、そしてそんな話を人づてに聞いた人も、みんなこちらに注目しているという、この状況。
ざわめきの中身なんて、聞きたくない。
どうせ俺がつりあわないという声なんだろうし、できることなら今すぐ消えてしまいたかった。
なのにブレイン殿下ときたら、いつもは無視するはずの周囲からのあいさつにまで、お手ふり付きで、にこやかに応じて笑顔の大安売りをしている。
おかげで今なら殿下にあいさつをかえしてもらえるとばかりに、その場にいなかったはずの人たちまでもが寄ってくる始末で、俺はもう居たたまれないを通り越して死にそうだった。
「逃げませんから、お願いです、おろしてください……っ!」
ただでさえブレイン殿下本人がきらびやかなオーラを隠そうともせず全開にしてくるせいで悪目立ちするのに、さらに小柄な子ならばまだしも、平均身長以上ある俺を担ぐなんて、もう注目しろと言ってまわっているのも同然だ。
「私から逃げようとしたこと、反省したかい?」
「…………はい……」
「よろしい、ではおろしてあげよう」
いっそ鼻歌でも聞こえてきそうなほどに上機嫌になったブレイン殿下にたずねられ、すなおに白旗をあげれば、そっと床におろしてくれた。
そんな殿下の一挙手一投足は周囲からの注目をあびていて、ますます俺は気まずくてたまらなかった。
だって、なぜ皆のあこがれるブレイン殿下とそんなに親しげなのかと、嫉妬のまじった視線が次々と突き刺さってくるんだ。
こんなの、針のむしろだろ!?
いや待て、落ちつけ。
昨夜のことを思うに、俺が嫌がるからこそ、おもしろがってわざとされている可能性もあるわけだよな……。
なら、この場合は下手に抵抗しないほうがいいんだろうか……?
「───それで、どこまでついて行けばよろしいんですか?」
うつむいたまま、一度深呼吸をして意識を切り替えると、パッと顔をあげた。
そもそも、どこに向かっているのかと最初にたずねたときのこたえは、いまだにかえされていなかった。
「できることなら、私に一生ついてきてほしいものだけどね?」
「~~~っ、そういうことを言ってるんじゃなくて!」
なのにこの期におよんでブレイン殿下は俺のほっぺたに手を添えると、真っ正面から甘いセリフを吐いてくる。
なぁ、これ、本当になんの罰ゲームなんだよ?!
周囲からの視線のするどさが、今の一瞬にして数段あがったんだぞ!?
……うん、そろそろ泣いていいかな?
「フフ、冗談だよ。キミのその困った顔がかわいくて、ついからかいすぎてしまったようだ」
「~~~~っ、そういう冗談はけっこうですから」
この顔が、メインキャラクターとはちがって、この世界ではよくあるモブ顔なのは、百も承知している。
「おや、つれないね。まぁそういうところもふくめて、キミの魅力だからね」
「……………………」
まったく、なにをたくらんでいるんだろうか、この腹黒殿下は!?
「さてと、着いたよ……風紀委員室へようこそ!歓迎するよハニー」
そんなふうにモヤモヤをかかえているうちに、気がつけば目的地へ到着していたらしい。
そのセリフにあわせ、細やかな意匠が彫り込まれた木製の扉がひらかれる。
「風紀委員室……?」
「さぁ、まずはなかへ入って。話はそれからだ」
そうしてブレイン殿下にいざなわれるままに、俺は風紀委員室へと足を踏み入れたのだった。
そう思う裏に、たしかにこうして縁が切れてしまわなかったことをよろこぶ己も存在していた。
本当に、どうしてそんなに俺の心は弱いんだろう?
ダメならキッパリとあきらめることも、大事なことなのに……。
それでも、と必死に気持ちを切り替える。
「なんなんですか、今の!確実にふたりに誤解を植えつけたでしょう?!」
だからといって、それを受け入れるわけにはいかないだろ!
だって、それはこの世界にもたらされてしまった異変が原因なんだし。
「おや、誤解ではないと思うけど?」
なのに俺のとがめる声は、あっさりと受け流されてしまう。
そしてニヤニヤと楽しげな笑みを口もとに浮かべたブレイン殿下は、その薔薇色の瞳にやさしげな光をたたえている。
「どこがですか!だいたいあなたは───って、ふわぁっ?!!」
思わずほだされそうになる心を叱咤し、必死に反論をする俺は、しかし話の途中で持ちあげられ、ふたたびブレイン殿下の肩のうえへと担がれていた。
「さぁて、それじゃあ行こうか?」
「どこへですか!?っていうか、おろしてください!重いでしょう?!」
声をはずませた殿下は、俺の抗議の声なんてまるで届いてないみたいに足取りも軽く歩き出す。
「だって、そうしたら逃げてしまうだろう?こうしていればキミはおとなしく運ばれてくれるし、いいかなって」
「なんでそうなるんですか!?」
こうしてさわいでいれば、当然のように周囲の視線をあつめてしまうわけで、気がつけば放課後の閑散としていたはずの廊下には、めずらしいもの見たさなのか、人が増えてきていた。
そりゃそうだ、まさかのブレイン殿下が楽しげに笑いながら、肩に俺みたいなモブ男を担いでいるんだから。
そんなの目立つに決まってる!
しかも俺の着ている制服も、そのうえのベストもブレイン殿下から借りたもので、それはベストの柄の紫色からわかってしまう。
この色を着ることをゆるされているのは、本来ブレイン殿下本人だけなんだから。
朝の騒動を知らなかった人も、実際に見ていた人も、そしてそんな話を人づてに聞いた人も、みんなこちらに注目しているという、この状況。
ざわめきの中身なんて、聞きたくない。
どうせ俺がつりあわないという声なんだろうし、できることなら今すぐ消えてしまいたかった。
なのにブレイン殿下ときたら、いつもは無視するはずの周囲からのあいさつにまで、お手ふり付きで、にこやかに応じて笑顔の大安売りをしている。
おかげで今なら殿下にあいさつをかえしてもらえるとばかりに、その場にいなかったはずの人たちまでもが寄ってくる始末で、俺はもう居たたまれないを通り越して死にそうだった。
「逃げませんから、お願いです、おろしてください……っ!」
ただでさえブレイン殿下本人がきらびやかなオーラを隠そうともせず全開にしてくるせいで悪目立ちするのに、さらに小柄な子ならばまだしも、平均身長以上ある俺を担ぐなんて、もう注目しろと言ってまわっているのも同然だ。
「私から逃げようとしたこと、反省したかい?」
「…………はい……」
「よろしい、ではおろしてあげよう」
いっそ鼻歌でも聞こえてきそうなほどに上機嫌になったブレイン殿下にたずねられ、すなおに白旗をあげれば、そっと床におろしてくれた。
そんな殿下の一挙手一投足は周囲からの注目をあびていて、ますます俺は気まずくてたまらなかった。
だって、なぜ皆のあこがれるブレイン殿下とそんなに親しげなのかと、嫉妬のまじった視線が次々と突き刺さってくるんだ。
こんなの、針のむしろだろ!?
いや待て、落ちつけ。
昨夜のことを思うに、俺が嫌がるからこそ、おもしろがってわざとされている可能性もあるわけだよな……。
なら、この場合は下手に抵抗しないほうがいいんだろうか……?
「───それで、どこまでついて行けばよろしいんですか?」
うつむいたまま、一度深呼吸をして意識を切り替えると、パッと顔をあげた。
そもそも、どこに向かっているのかと最初にたずねたときのこたえは、いまだにかえされていなかった。
「できることなら、私に一生ついてきてほしいものだけどね?」
「~~~っ、そういうことを言ってるんじゃなくて!」
なのにこの期におよんでブレイン殿下は俺のほっぺたに手を添えると、真っ正面から甘いセリフを吐いてくる。
なぁ、これ、本当になんの罰ゲームなんだよ?!
周囲からの視線のするどさが、今の一瞬にして数段あがったんだぞ!?
……うん、そろそろ泣いていいかな?
「フフ、冗談だよ。キミのその困った顔がかわいくて、ついからかいすぎてしまったようだ」
「~~~~っ、そういう冗談はけっこうですから」
この顔が、メインキャラクターとはちがって、この世界ではよくあるモブ顔なのは、百も承知している。
「おや、つれないね。まぁそういうところもふくめて、キミの魅力だからね」
「……………………」
まったく、なにをたくらんでいるんだろうか、この腹黒殿下は!?
「さてと、着いたよ……風紀委員室へようこそ!歓迎するよハニー」
そんなふうにモヤモヤをかかえているうちに、気がつけば目的地へ到着していたらしい。
そのセリフにあわせ、細やかな意匠が彫り込まれた木製の扉がひらかれる。
「風紀委員室……?」
「さぁ、まずはなかへ入って。話はそれからだ」
そうしてブレイン殿下にいざなわれるままに、俺は風紀委員室へと足を踏み入れたのだった。
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