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39:新たな胃痛の原因登場
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教室へもどれば、すでに放課後の自由時間になっていた。
そのせいか、なかは閑散としていて、何人かがのこっているくらいだった。
正直、今朝からやたらと注目を浴びていたせいで居心地が悪かったから、人がいないのには少しホッとする。
「あ、テイラー!もどってきたんだな!さっきブレイン殿下がおまえのこと探しに来てたぞ?」
けれど、入ってさっそく大声で呼びかけられ、とっさに身がまえそうになった。
何人かの視線が、バッとこちらへ向けられる。
俺に声をかけてきたのは、派手な赤髪に黄色のカーディガンが目にまぶしい、ガタイのいい褐色の肌の少年だ。
今朝も俺に絡んできた『アホワンコ』こと、『星華の刻』の攻略キャラクターのひとり、カイエン・アマリージョだった。
俺にたいする周囲からの視線は、あまり好意的でないのはまちがいない。
今朝のパレルモ様からの、ベストおねだり事件が尾を引いているのかもしれないけれど……。
針のむしろとまではいかないかもしれないけれど、それにしたってなんだか前よりも、あきらかに距離を保たれているような気がする。
前は俺なんて空気にも等しかったから、逆にうまく溶け込めていたのにな、なんて思うけど。
「あぁ、さっき無事に会えたよ。それより……パレルモ様はどちらに?」
あの天真爛漫すぎるトラブルメイカーの姿が見当たらないと、それだけで不安が増すんだよな。
けれど、キョロキョロと周囲を見まわしたところで姿が見当たらなかったし、あのハイトーンボイスも聞こえなかった。
あのバカ、俺を待たずにどっか行きやがった!
俺のガードがついてないときは、やたらと変態に襲われがちなんだから、気をつけろって言ってあったのに……!
でも彼は無垢ゆえに人を信じやすいというか───ある意味で俺の忠告なんて無視しているからかもしれないけれど、自身ではまったく自衛する気がないようにしか見えなかった。
毎回襲われてんのに、そろそろ反省のひとつくらいしてほしいものだと思うのは、高望みなんだろうか?
ストレスゲージはまちがいなく今、ひとつあがったと思う。
姿が見えないだけで男に襲われてる心配をしなきゃいけないとか、乙女ゲーの世界なのに、本当に勘弁してほしい。
「あぁ、パレっちなら、セブンといっしょにさっき出てったばっかだぞ?」
「え、セブンと……?」
早くもキリキリと痛みはじめる胃をさする俺に、カイエンが有益な情報をもたらしてくれた。
セブン───フルネームはセブン・ナガ・スコーピオン。
黒の短髪に金の瞳を持つツンデレ系の少年で、前世の俺がメインでシナリオ担当をしていた『うちの子』だ。
ただ、この世界での黒髪は不吉の象徴なんて言われているだけに、彼の立ち位置は推して知るべしだったけど。
と、それはさておき。
「セブンなら、まぁ大丈夫かな……?」
とある事情でセブンには魔法が効きにくい。
だからパレルモ様の放つ魅了の魔法の影響を受けにくいだろうし、第一パレルモ様自体が、セブンの好みとは全然ちがうしな。
「へぇ、めずらしいじゃん、テイラーがそんなこと言うなんて!いつも『パレルモ様』『パレルモ様』ってうるさいし、めっちゃ過保護だもんな?」
カイエンにからかわれ、俺はムッと顔をしかめた。
「俺の命がかかってんだから、仕方ないだろ!なにかあってからじゃ遅いんだよ!」
パレルモ様の実父のライムホルン公爵閣下からは、『かわいいうちの天使ちゃんになにかあったら殺す』とよく言いふくめられているからな。
さすがにまだ10代という若さで、この世を去ることにはなりたくない。
……まぁ、パレルモ様本人が防犯意識のカケラもないゆるふわちゃんだから、常に俺の命は脅かされているようなものだけど。
本当に『知らない人からお菓子をあげると言われてもついていくな』とか、どこの小学校低学年への注意事項だよ!!
「でもさー、テイラーの場合、なにかあったところでブレイン様に守ってもらえばいいんじゃねーの?」
「───なんでそこでブレイン殿下の名前が出てくるんだよ?」
高位貴族の場合だと、後ろ楯としてそれぞれの王子たちについてたりするけれど、これまでうちのダグラス伯爵家とブレイン殿下とは、特に縁はなかったんだけども……。
「だって『お気に入り』なんだろ?」
「……だれが?」
「いや、テイラーが」
「どうしてそんな突飛な話になるんだよ?」
おかしい、話が平行線だ。
「それ。その制服見りゃ、だれでもそう思うって。今朝も言ったけどさ、これまでのブレイン様はお持ち帰りした相手がいても、自分の制服を着せることなんてなかったじゃん」
「それは……っ」
ビシッと指を突きつけてくるカイエンに、思わず口ごもる。
たしかに貴族にとって自分の恋人や許嫁に、自らにゆかりのある色をまとわせるというのは、自らの相方であるとの主張方法として認識されている手法ではある。
だからパーティーに同伴するときには、ドレスやらアクセサリーやらの色をそろえたり、自分の髪や瞳の色にするというのは、よく見られる光景だった。
「今回は、その……たまたまだ!やむなく貸してくださっただけで……っ!」
今、ブレイン殿下の話はいちばん触れてほしくない話題だったのに。
おかげで直前のあれこれを思い出して、情緒が不安定になりそうだった。
そのせいで、俺の言動には、めちゃくちゃ動揺があらわれてしまっていた。
「あら、そのお話、とっても興味深いですわね。ぜひとも、ワタクシにも聞かせていただきたいものですわ!」
さらにそこへかぶせるように、新たな声が割って入ってくるのに、あわてて声のしたほうにふりかえる。
「キャロライナ様……?!」
そこにいたのは、金髪のタテ巻きロールが似合う、いかにも性格のキツそうなご令嬢だった。
彼女こそ、『星華の刻』のヒロインの公式ライバル令嬢である、キャロライナ・ファタリー・レッドサヴィナ嬢だ。
国内でも有数の裕福さを誇るレッドサヴィナ侯爵家の一人娘にして、ブレイン殿下を狙うご令嬢の筆頭でもある。
「さぁ、聞かせてくださいな、昨夜のあなたとブレイン殿下のあいだになにがあったのかを!」
新たなゲームのメインキャラクターの出現に、面倒ごとの予感がヒシヒシと伝わってきて、さらに胃が痛くなりそうだった。
そのせいか、なかは閑散としていて、何人かがのこっているくらいだった。
正直、今朝からやたらと注目を浴びていたせいで居心地が悪かったから、人がいないのには少しホッとする。
「あ、テイラー!もどってきたんだな!さっきブレイン殿下がおまえのこと探しに来てたぞ?」
けれど、入ってさっそく大声で呼びかけられ、とっさに身がまえそうになった。
何人かの視線が、バッとこちらへ向けられる。
俺に声をかけてきたのは、派手な赤髪に黄色のカーディガンが目にまぶしい、ガタイのいい褐色の肌の少年だ。
今朝も俺に絡んできた『アホワンコ』こと、『星華の刻』の攻略キャラクターのひとり、カイエン・アマリージョだった。
俺にたいする周囲からの視線は、あまり好意的でないのはまちがいない。
今朝のパレルモ様からの、ベストおねだり事件が尾を引いているのかもしれないけれど……。
針のむしろとまではいかないかもしれないけれど、それにしたってなんだか前よりも、あきらかに距離を保たれているような気がする。
前は俺なんて空気にも等しかったから、逆にうまく溶け込めていたのにな、なんて思うけど。
「あぁ、さっき無事に会えたよ。それより……パレルモ様はどちらに?」
あの天真爛漫すぎるトラブルメイカーの姿が見当たらないと、それだけで不安が増すんだよな。
けれど、キョロキョロと周囲を見まわしたところで姿が見当たらなかったし、あのハイトーンボイスも聞こえなかった。
あのバカ、俺を待たずにどっか行きやがった!
俺のガードがついてないときは、やたらと変態に襲われがちなんだから、気をつけろって言ってあったのに……!
でも彼は無垢ゆえに人を信じやすいというか───ある意味で俺の忠告なんて無視しているからかもしれないけれど、自身ではまったく自衛する気がないようにしか見えなかった。
毎回襲われてんのに、そろそろ反省のひとつくらいしてほしいものだと思うのは、高望みなんだろうか?
ストレスゲージはまちがいなく今、ひとつあがったと思う。
姿が見えないだけで男に襲われてる心配をしなきゃいけないとか、乙女ゲーの世界なのに、本当に勘弁してほしい。
「あぁ、パレっちなら、セブンといっしょにさっき出てったばっかだぞ?」
「え、セブンと……?」
早くもキリキリと痛みはじめる胃をさする俺に、カイエンが有益な情報をもたらしてくれた。
セブン───フルネームはセブン・ナガ・スコーピオン。
黒の短髪に金の瞳を持つツンデレ系の少年で、前世の俺がメインでシナリオ担当をしていた『うちの子』だ。
ただ、この世界での黒髪は不吉の象徴なんて言われているだけに、彼の立ち位置は推して知るべしだったけど。
と、それはさておき。
「セブンなら、まぁ大丈夫かな……?」
とある事情でセブンには魔法が効きにくい。
だからパレルモ様の放つ魅了の魔法の影響を受けにくいだろうし、第一パレルモ様自体が、セブンの好みとは全然ちがうしな。
「へぇ、めずらしいじゃん、テイラーがそんなこと言うなんて!いつも『パレルモ様』『パレルモ様』ってうるさいし、めっちゃ過保護だもんな?」
カイエンにからかわれ、俺はムッと顔をしかめた。
「俺の命がかかってんだから、仕方ないだろ!なにかあってからじゃ遅いんだよ!」
パレルモ様の実父のライムホルン公爵閣下からは、『かわいいうちの天使ちゃんになにかあったら殺す』とよく言いふくめられているからな。
さすがにまだ10代という若さで、この世を去ることにはなりたくない。
……まぁ、パレルモ様本人が防犯意識のカケラもないゆるふわちゃんだから、常に俺の命は脅かされているようなものだけど。
本当に『知らない人からお菓子をあげると言われてもついていくな』とか、どこの小学校低学年への注意事項だよ!!
「でもさー、テイラーの場合、なにかあったところでブレイン様に守ってもらえばいいんじゃねーの?」
「───なんでそこでブレイン殿下の名前が出てくるんだよ?」
高位貴族の場合だと、後ろ楯としてそれぞれの王子たちについてたりするけれど、これまでうちのダグラス伯爵家とブレイン殿下とは、特に縁はなかったんだけども……。
「だって『お気に入り』なんだろ?」
「……だれが?」
「いや、テイラーが」
「どうしてそんな突飛な話になるんだよ?」
おかしい、話が平行線だ。
「それ。その制服見りゃ、だれでもそう思うって。今朝も言ったけどさ、これまでのブレイン様はお持ち帰りした相手がいても、自分の制服を着せることなんてなかったじゃん」
「それは……っ」
ビシッと指を突きつけてくるカイエンに、思わず口ごもる。
たしかに貴族にとって自分の恋人や許嫁に、自らにゆかりのある色をまとわせるというのは、自らの相方であるとの主張方法として認識されている手法ではある。
だからパーティーに同伴するときには、ドレスやらアクセサリーやらの色をそろえたり、自分の髪や瞳の色にするというのは、よく見られる光景だった。
「今回は、その……たまたまだ!やむなく貸してくださっただけで……っ!」
今、ブレイン殿下の話はいちばん触れてほしくない話題だったのに。
おかげで直前のあれこれを思い出して、情緒が不安定になりそうだった。
そのせいで、俺の言動には、めちゃくちゃ動揺があらわれてしまっていた。
「あら、そのお話、とっても興味深いですわね。ぜひとも、ワタクシにも聞かせていただきたいものですわ!」
さらにそこへかぶせるように、新たな声が割って入ってくるのに、あわてて声のしたほうにふりかえる。
「キャロライナ様……?!」
そこにいたのは、金髪のタテ巻きロールが似合う、いかにも性格のキツそうなご令嬢だった。
彼女こそ、『星華の刻』のヒロインの公式ライバル令嬢である、キャロライナ・ファタリー・レッドサヴィナ嬢だ。
国内でも有数の裕福さを誇るレッドサヴィナ侯爵家の一人娘にして、ブレイン殿下を狙うご令嬢の筆頭でもある。
「さぁ、聞かせてくださいな、昨夜のあなたとブレイン殿下のあいだになにがあったのかを!」
新たなゲームのメインキャラクターの出現に、面倒ごとの予感がヒシヒシと伝わってきて、さらに胃が痛くなりそうだった。
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