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33:なぜだか進む攻略ルート
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「なんていうか君は、本当に不思議な子だネ?解毒剤の味も知らない一方で、医学に関する知識はけっこうあるんだネ?」
カチャリと音を立てて、ティーセットが目の前にならべられていく。
そのついでのように、セラーノが俺の顔をじっと見つめながら言う。
俺は今、保健室の一角にしつらえられた丸テーブルをはさんで、セラーノと向かい合って座っていた。
えーと……というよりこれ、完全にセラーノルートの好感度上昇後に起きる『お茶会イベント』だよな?
最初にあった、手を取られて甲にキスされるのとか、『君のこと、もっと知りたくなっちゃったナ?』なんていうセリフも、完全に一致している。
だから何度も言うようだけど、君たちは乙女ゲーの攻略キャラクターなんだから、俺みたいなモブ男相手にそういうことをするなよな!?
まだ見ぬヒロインを思い、勝手に罪悪感をおぼえる。
……いや、でも相手を問わず医学のことや薬学のことではしゃぐセラーノもまた、ある意味でブレないキャラクターなだけかもしれないのか……??
そう思ったところで、あわてて意識を目の前のセラーノからされた質問に引きもどした。
その疑問は、たしかに的を射ている。
ふつうに医者を志すものならば、医学の知識だけでなく薬学の知識もセットで学ぶのが、この世界での常識だった。
だからこそ、俺の知識のかたよりが不思議に思えたんだろう。
「えぇと、あくまでもさっきのヤツは聞きかじりですから……しかも、どこで聞いたのかすらおぼえてないくらいあいまいな記憶ですし」
だから知っていたのは偶然にすぎないんだと、あわてていいわけをする。
「実はネ……昨日アレからずっと君のコト、かんがえてたンだ」
「な、なにを……?」
勝手に気まずい思いをしていた俺に、セラーノが話しかけてくる。
「えーと、あのネ……昨日君には本当に悪いことしちゃったナって……ゴメンネ?」
ちらちらと、こちらを見ながらあやまってくるセラーノは年上のハズなのに、小柄なのもあいまって、まるで叱られるのにおびえる子どものようにしか見えなくて……。
「そんなの、別にいいですよ。なにか事情があったんでしょう?」
思わず苦笑を浮かべて、ゆるしてしまう。
そりゃ、俺が本当にこの世界で生きるテイラーという少年としての意識しかなかったのなら話は別だけど、あいにくとこっちは中身が大人だもんな。
それになにより、それ以上のアレコレをブレイン殿下からされているわけだし。
セラーノからされたくらいのことなら、ノーカウントだ。
だって、あのときのセラーノからは、なにがあろうと『魅了香』の出どころをつかみたいっていう気概が感じられたし、なんなら個人的な恨みでもあるんじゃないかって思えたから。
もし原作どおりのセラーノなら、きっとそれは自分にとっての美しい存在を大切にするために剥いた牙のハズだ。
それこそ『少年愛のいきすぎた変態医者』という汚名をかぶろうともかまわないくらいの強い意思をもって、あの薬を流通させた犯人捜しをしようとしていたんだろ?
話し方が独特で、フワフワとしたキャラクターのように思われがちだけど、自国や王子としての身分を捨ててまで医者を志すくらいには、セラーノという人物は強い意思を持っている。
その意思で決めたことなら、俺がジャマするわけにはいかないだろ。
「君は……その『事情』を聞いてはこナイの?気にはなってるンでしょ?」
「逆に、俺なんかが聞いていいことなんですか?だれだって、人には言いたくないことのひとつやふたつ、あるでしょう?」
だってもし、セラーノが医者を志した件に絡む話なら、彼の出自にも言及しないといけない。
それこそセラーノルートの後半に入って、はじめてヒロインにだけあかす話なんだ。
そのためにも、取っておかなきゃいけないエピソードだろ。
……まぁ、それ以前から面識があったブレイン殿下はセラーノのことを知っていたんだけどさ。
だから今回にしても、その事情とやらを知っているブレイン殿下が風紀委員を動員して『魅了香』の使用者の摘発に協力したんだろうし、そのブレイン殿下は公式腹黒キャラだけあって、表向きはセラーノとの対立を演じているわけで。
でもたぶん俺じゃ、そういう演技は無理だ。
まぁ、こっちもこっちの事情で、あんな危険な薬物を流通させているヤツを捕まえてやる気満々なんだけどな。
それが俺の、この世界に来た意義のひとつでもあるんだろうし。
「それよりもこれから先、俺はどうすればあなたがたのジャマをせずに済みますか?昨晩ブレイン殿下にもお伝えしたんですけど、なにかあれば協力するつもりはあるので……」
「っ!」
俺がかえしたとたん、セラーノは息を飲む。
その顔が泣きそうに見えたのは、気のせいだっただろうか?
───いや、だってそれは後半の、それこそ出自をあかしたあとのスチルだった気がする。
いくらなんでも、ストーリー展開もなにもかも無視して、いきなり飛ぶはずがないよな?
「……そういうトコなのカナ、ブレインが気に入ったのは?いい意味で貴族らしくないっていうか、君と話してると、なンかなつかしくて……ホッとするンだヨネェ」
でも、この泣き笑いみたいな顔は、あの従者との思い出話をしたあとのスチルそのものだった。
それに気のせいだろうか、今日のセラーノはいつも以上に饒舌になっている気がする。
ふだんは自分からあまり話すことがないサポートキャラのセラーノは、ヒロインへの好感度があがるほど饒舌になっていくから、そういう意味ではわかりやすいんだけど……。
カタン、と音を立てて向かいの椅子から立ち上がると、セラーノはそっと窓にかかるカーテンをしめる。
「ゴメン、今だけはゆるして……」
「え……?」
セラーノの声が背後から聞こえてきたと思ったら、そのままギュッとうしろから抱きしめられた。
これって、やっぱり───!?
椅子に座ったままでのバックハグとか、後半のセラーノのイベントスチルとおなじなんじゃねぇの?!
突然のできごとに、どうしていいかわからなくて、やっぱり俺は固まることしかできなかった。
カチャリと音を立てて、ティーセットが目の前にならべられていく。
そのついでのように、セラーノが俺の顔をじっと見つめながら言う。
俺は今、保健室の一角にしつらえられた丸テーブルをはさんで、セラーノと向かい合って座っていた。
えーと……というよりこれ、完全にセラーノルートの好感度上昇後に起きる『お茶会イベント』だよな?
最初にあった、手を取られて甲にキスされるのとか、『君のこと、もっと知りたくなっちゃったナ?』なんていうセリフも、完全に一致している。
だから何度も言うようだけど、君たちは乙女ゲーの攻略キャラクターなんだから、俺みたいなモブ男相手にそういうことをするなよな!?
まだ見ぬヒロインを思い、勝手に罪悪感をおぼえる。
……いや、でも相手を問わず医学のことや薬学のことではしゃぐセラーノもまた、ある意味でブレないキャラクターなだけかもしれないのか……??
そう思ったところで、あわてて意識を目の前のセラーノからされた質問に引きもどした。
その疑問は、たしかに的を射ている。
ふつうに医者を志すものならば、医学の知識だけでなく薬学の知識もセットで学ぶのが、この世界での常識だった。
だからこそ、俺の知識のかたよりが不思議に思えたんだろう。
「えぇと、あくまでもさっきのヤツは聞きかじりですから……しかも、どこで聞いたのかすらおぼえてないくらいあいまいな記憶ですし」
だから知っていたのは偶然にすぎないんだと、あわてていいわけをする。
「実はネ……昨日アレからずっと君のコト、かんがえてたンだ」
「な、なにを……?」
勝手に気まずい思いをしていた俺に、セラーノが話しかけてくる。
「えーと、あのネ……昨日君には本当に悪いことしちゃったナって……ゴメンネ?」
ちらちらと、こちらを見ながらあやまってくるセラーノは年上のハズなのに、小柄なのもあいまって、まるで叱られるのにおびえる子どものようにしか見えなくて……。
「そんなの、別にいいですよ。なにか事情があったんでしょう?」
思わず苦笑を浮かべて、ゆるしてしまう。
そりゃ、俺が本当にこの世界で生きるテイラーという少年としての意識しかなかったのなら話は別だけど、あいにくとこっちは中身が大人だもんな。
それになにより、それ以上のアレコレをブレイン殿下からされているわけだし。
セラーノからされたくらいのことなら、ノーカウントだ。
だって、あのときのセラーノからは、なにがあろうと『魅了香』の出どころをつかみたいっていう気概が感じられたし、なんなら個人的な恨みでもあるんじゃないかって思えたから。
もし原作どおりのセラーノなら、きっとそれは自分にとっての美しい存在を大切にするために剥いた牙のハズだ。
それこそ『少年愛のいきすぎた変態医者』という汚名をかぶろうともかまわないくらいの強い意思をもって、あの薬を流通させた犯人捜しをしようとしていたんだろ?
話し方が独特で、フワフワとしたキャラクターのように思われがちだけど、自国や王子としての身分を捨ててまで医者を志すくらいには、セラーノという人物は強い意思を持っている。
その意思で決めたことなら、俺がジャマするわけにはいかないだろ。
「君は……その『事情』を聞いてはこナイの?気にはなってるンでしょ?」
「逆に、俺なんかが聞いていいことなんですか?だれだって、人には言いたくないことのひとつやふたつ、あるでしょう?」
だってもし、セラーノが医者を志した件に絡む話なら、彼の出自にも言及しないといけない。
それこそセラーノルートの後半に入って、はじめてヒロインにだけあかす話なんだ。
そのためにも、取っておかなきゃいけないエピソードだろ。
……まぁ、それ以前から面識があったブレイン殿下はセラーノのことを知っていたんだけどさ。
だから今回にしても、その事情とやらを知っているブレイン殿下が風紀委員を動員して『魅了香』の使用者の摘発に協力したんだろうし、そのブレイン殿下は公式腹黒キャラだけあって、表向きはセラーノとの対立を演じているわけで。
でもたぶん俺じゃ、そういう演技は無理だ。
まぁ、こっちもこっちの事情で、あんな危険な薬物を流通させているヤツを捕まえてやる気満々なんだけどな。
それが俺の、この世界に来た意義のひとつでもあるんだろうし。
「それよりもこれから先、俺はどうすればあなたがたのジャマをせずに済みますか?昨晩ブレイン殿下にもお伝えしたんですけど、なにかあれば協力するつもりはあるので……」
「っ!」
俺がかえしたとたん、セラーノは息を飲む。
その顔が泣きそうに見えたのは、気のせいだっただろうか?
───いや、だってそれは後半の、それこそ出自をあかしたあとのスチルだった気がする。
いくらなんでも、ストーリー展開もなにもかも無視して、いきなり飛ぶはずがないよな?
「……そういうトコなのカナ、ブレインが気に入ったのは?いい意味で貴族らしくないっていうか、君と話してると、なンかなつかしくて……ホッとするンだヨネェ」
でも、この泣き笑いみたいな顔は、あの従者との思い出話をしたあとのスチルそのものだった。
それに気のせいだろうか、今日のセラーノはいつも以上に饒舌になっている気がする。
ふだんは自分からあまり話すことがないサポートキャラのセラーノは、ヒロインへの好感度があがるほど饒舌になっていくから、そういう意味ではわかりやすいんだけど……。
カタン、と音を立てて向かいの椅子から立ち上がると、セラーノはそっと窓にかかるカーテンをしめる。
「ゴメン、今だけはゆるして……」
「え……?」
セラーノの声が背後から聞こえてきたと思ったら、そのままギュッとうしろから抱きしめられた。
これって、やっぱり───!?
椅子に座ったままでのバックハグとか、後半のセラーノのイベントスチルとおなじなんじゃねぇの?!
突然のできごとに、どうしていいかわからなくて、やっぱり俺は固まることしかできなかった。
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