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25:胸の痛みはなんのせい?
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昨夜のことは忘れる一択だとして、俺にはまだここを無事に抜け出して自分の部屋にもどるという任務がある。
おそらくここが寮内の王族専用フロアの貴賓室、ブレイン殿下の私室なのだとして、どうやって自分の部屋までもどればいいだろうか?
昨晩着ていた私服は、アレコレのせいできっと白濁まみれになっているだろうし、なにより授業を受けるための制服は、自室にいかなくてはないわけで。
でもって、現在の俺はブレイン殿下にしっかりとかかえ込まれたままに、相手の部屋のベッドのなかにいる、と。
難易度で言えば、まちがいなく鬼のヤツだ。
初見殺しもいいところだし、かなりの確率でミッションが失敗するヤツじゃん!!
まぁ、まちがいなく校内に数えきれないほどいるブレイン殿下のファンを敵にまわしたのはまちがいないし、これからのことを思うと、胃に穴が空きそうだった。
それに、あれ、昨日着ていた服ってどうなったんだろう?
ここに連れて来られたにしても、まさかの全裸とかじゃないよな??
と、そこまで思い至ったところで、サーッと血の気が引いていく。
とっさに視界にその姿を入れたくなくて、俺は寝がえりをうてない代わりに、首だけでもと横を向く。
いやいや、ちょっと待て!
昨晩のあれこれはもうこの際、酔ったいきおいのようなもので、どうしようもなかったもらい事故のようなものだと思うとして。
そもそもなんで俺が、ブレイン殿下個人の部屋にまで連れ込まれてんだよ?!
今度こそ俺みたいなモブ、保健室に放置でよかったんじゃねぇの!?
あそこなら、鍵かけとけば安全な場所だろ?
ヤリ捨て上等!
責任を取れなんて言って、迫ったりしねぇし、絶対!!
むしろそんなフラグは、自ら全力で折りに行かせていただきますとも!
……ていうか、もしかしてブレイン殿下はまだ寝てるのか……?
もしそうなら、これもおそらく本編のブレインルートのエピソードそのままなんだよなぁ……。
本来、王族というものは常に暗殺だとか夜這いだとかの危険もあるせいで人の気配に敏感になるものだから、ふだんから熟睡なんてできなくて、常に眠りは浅いという公式設定がある。
そのせいで近くにほかの人の気配があったら、まず気になってしまって眠れないか、もしくはその人よりも先に起きてしまうというような、そんな設定だ。
だからこそ、ヒロインとともにおなじベッドでむかえた朝、朝寝坊をするブレインがいかにめずらしいことなのか、そしてそれだけヒロインに心をゆるしているのかということを示すエピソードになるわけだ。
でも俺は───ゲームのなかのヒロインじゃない。
それこそ『星華の乙女』と呼ばれる特別な力を持った存在でもなければ、物語を左右する立場にもない純正モブ、それが俺なのに。
ましてブレインルートのイベントひとつすらこなさずにベッドインしたとかいう、最悪のパターンなわけで。
ブレイン殿下にとっては好みでもなければ、あくまでも自らが巻き込んだ相手にたいする責任感からくる救済措置か、都合のよい性欲処理の相手でしかなくて。
いつもの美食に飽きて、たまにジャンクフードを食べたくなるような感じの悪食をしただけだろうと思う。
だからもしこのあとに、またあのヒロインにたいする態度とおなじものをしてきたら、今度こそブレイン殿下は『こういうシチュエーションでは相手がだれであれ、そういう対応をする人』なのだと思わざるを得ない。
だって、公式設定の腹黒キャラというのは、バカにできないことだと思うから。
でもなんだろう、かすかに胸のあたりがモヤモヤして、心臓が痛い気がする。
シナリオライターとして『星華の刻』をいっしょになって作り上げた俺が、そこに出てくるキャラクターをうたがわなくちゃいけないのがツラいから、とかが理由だろうか?
愛する『星華の刻』の世界のキャラクターなら、皆等しく愛しい我が子のはずなのに……。
でもきっと、これで相手がブレイン殿下じゃなくて、俺がメインシナリオ部分を担当していたセブンだったなら、たとえ都合のいい相手になろうと、だまされてもいいとさえ思えるのにな。
───そこはやっぱり愛しい我が子、思い入れの差分だけ、ゆるせる範囲がちがってくるんだろうなぁ……。
なんて、モヤモヤとした思いにさいなまれつつ、かんがえごとをしていたそのときだった。
「っ!?」
「おはよう、ハニー。よく眠れたかい?」
チュ、と音を立てて首すじにキスをされ、ビクリと肩がふるえた。
……ちくしょー、完全に油断していた。
「ブレイン殿下……おはようございます」
そうこたえる声は、自分で思った以上にかすれていた。
うん、どうかんがえても昨夜さんざんあえがされすぎたせいだ。
「フフ、私としたことが朝寝坊をするとはね……」
来た、例のセリフ!
「本来王族というものは、人の気配には敏感でね。だれかがそばにいたら、熟睡なんてできないはずなのに───キミはどうやら特別らしい」
───あぁ、やっぱり。
最初に思ったのは、それだった。
思ったとおり、あのイベントスチルに発展する前のセリフを口にしたブレイン殿下に、とたんに胃のあたりが、氷を飲み込んだみたいにヒンヤリとしてくる。
ズキズキと痛みを訴えてくる心臓に気づかないふりをして、細く息を吐く。
なぜだかわからないままに胸のモヤモヤは、いよいよその存在を主張するように増してきていた。
おそらくここが寮内の王族専用フロアの貴賓室、ブレイン殿下の私室なのだとして、どうやって自分の部屋までもどればいいだろうか?
昨晩着ていた私服は、アレコレのせいできっと白濁まみれになっているだろうし、なにより授業を受けるための制服は、自室にいかなくてはないわけで。
でもって、現在の俺はブレイン殿下にしっかりとかかえ込まれたままに、相手の部屋のベッドのなかにいる、と。
難易度で言えば、まちがいなく鬼のヤツだ。
初見殺しもいいところだし、かなりの確率でミッションが失敗するヤツじゃん!!
まぁ、まちがいなく校内に数えきれないほどいるブレイン殿下のファンを敵にまわしたのはまちがいないし、これからのことを思うと、胃に穴が空きそうだった。
それに、あれ、昨日着ていた服ってどうなったんだろう?
ここに連れて来られたにしても、まさかの全裸とかじゃないよな??
と、そこまで思い至ったところで、サーッと血の気が引いていく。
とっさに視界にその姿を入れたくなくて、俺は寝がえりをうてない代わりに、首だけでもと横を向く。
いやいや、ちょっと待て!
昨晩のあれこれはもうこの際、酔ったいきおいのようなもので、どうしようもなかったもらい事故のようなものだと思うとして。
そもそもなんで俺が、ブレイン殿下個人の部屋にまで連れ込まれてんだよ?!
今度こそ俺みたいなモブ、保健室に放置でよかったんじゃねぇの!?
あそこなら、鍵かけとけば安全な場所だろ?
ヤリ捨て上等!
責任を取れなんて言って、迫ったりしねぇし、絶対!!
むしろそんなフラグは、自ら全力で折りに行かせていただきますとも!
……ていうか、もしかしてブレイン殿下はまだ寝てるのか……?
もしそうなら、これもおそらく本編のブレインルートのエピソードそのままなんだよなぁ……。
本来、王族というものは常に暗殺だとか夜這いだとかの危険もあるせいで人の気配に敏感になるものだから、ふだんから熟睡なんてできなくて、常に眠りは浅いという公式設定がある。
そのせいで近くにほかの人の気配があったら、まず気になってしまって眠れないか、もしくはその人よりも先に起きてしまうというような、そんな設定だ。
だからこそ、ヒロインとともにおなじベッドでむかえた朝、朝寝坊をするブレインがいかにめずらしいことなのか、そしてそれだけヒロインに心をゆるしているのかということを示すエピソードになるわけだ。
でも俺は───ゲームのなかのヒロインじゃない。
それこそ『星華の乙女』と呼ばれる特別な力を持った存在でもなければ、物語を左右する立場にもない純正モブ、それが俺なのに。
ましてブレインルートのイベントひとつすらこなさずにベッドインしたとかいう、最悪のパターンなわけで。
ブレイン殿下にとっては好みでもなければ、あくまでも自らが巻き込んだ相手にたいする責任感からくる救済措置か、都合のよい性欲処理の相手でしかなくて。
いつもの美食に飽きて、たまにジャンクフードを食べたくなるような感じの悪食をしただけだろうと思う。
だからもしこのあとに、またあのヒロインにたいする態度とおなじものをしてきたら、今度こそブレイン殿下は『こういうシチュエーションでは相手がだれであれ、そういう対応をする人』なのだと思わざるを得ない。
だって、公式設定の腹黒キャラというのは、バカにできないことだと思うから。
でもなんだろう、かすかに胸のあたりがモヤモヤして、心臓が痛い気がする。
シナリオライターとして『星華の刻』をいっしょになって作り上げた俺が、そこに出てくるキャラクターをうたがわなくちゃいけないのがツラいから、とかが理由だろうか?
愛する『星華の刻』の世界のキャラクターなら、皆等しく愛しい我が子のはずなのに……。
でもきっと、これで相手がブレイン殿下じゃなくて、俺がメインシナリオ部分を担当していたセブンだったなら、たとえ都合のいい相手になろうと、だまされてもいいとさえ思えるのにな。
───そこはやっぱり愛しい我が子、思い入れの差分だけ、ゆるせる範囲がちがってくるんだろうなぁ……。
なんて、モヤモヤとした思いにさいなまれつつ、かんがえごとをしていたそのときだった。
「っ!?」
「おはよう、ハニー。よく眠れたかい?」
チュ、と音を立てて首すじにキスをされ、ビクリと肩がふるえた。
……ちくしょー、完全に油断していた。
「ブレイン殿下……おはようございます」
そうこたえる声は、自分で思った以上にかすれていた。
うん、どうかんがえても昨夜さんざんあえがされすぎたせいだ。
「フフ、私としたことが朝寝坊をするとはね……」
来た、例のセリフ!
「本来王族というものは、人の気配には敏感でね。だれかがそばにいたら、熟睡なんてできないはずなのに───キミはどうやら特別らしい」
───あぁ、やっぱり。
最初に思ったのは、それだった。
思ったとおり、あのイベントスチルに発展する前のセリフを口にしたブレイン殿下に、とたんに胃のあたりが、氷を飲み込んだみたいにヒンヤリとしてくる。
ズキズキと痛みを訴えてくる心臓に気づかないふりをして、細く息を吐く。
なぜだかわからないままに胸のモヤモヤは、いよいよその存在を主張するように増してきていた。
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