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18:必死の攻防戦は、やや不利進行

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 さすがは貴族学校という設定だけあって、保健室のベッドですらも、ふつうにダブルサイズだった。
 つまりは、全然ふたりで乗っても問題ないわけで。

 しかも現代日本の学校によくあるようなパイプベッドみたいに簡易なヤツではなくて、しっかりと天蓋つきのカーテンでおおえるタイプとか、本当にこんな設定にしたのだれだよ!?
 思わず恨みごとを口にしそうになって、あわてて口をつぐむ。

 だってまだ、セラーノに盛られた自白剤もどきの効果がつづいているから、油断なんてできない。

 この世界にとっての俺は、本編にチラリと出てくる程度の影のうすいモブであると同時に、この世界に生きているだけなら絶対に知り得ないはずの知識をも持ち合わせているわけで。
 変にこの世界へと影響をおよぼしてしまうのは、できるだけ避けたかった。

 と、それはさておき。
 そんなことよりも俺は今、絶賛貞操の危機に直面中だった。
 いや、マジでおかしいだろ!!

「ブレイン殿下、あの、冗談ですよね……?」
「往生際が悪いぞキミ、あきらめておとなしく私に身を任せなさい」
 ベッドの上で押し倒され、顔の両脇には相手の手をつかれて、上からのぞきこまれているという、この状況。

 ───いや、どう見ても詰んでるだろ!!

「ほ、ほら夜間の点呼があるのでは?」
 ブレイン殿下は校内の風紀委員長をされていたはずだし、壁にかけられた時計はこの位置からでは見えないけれど、その時間帯にいないのはマズイはず。

「いや、もうとっくに点呼の時間はすぎているよ。私の不在は委員の皆には伝えてあるからね、なにも問題はないさ」
 さすがにそこは、抜かりないな?!

「じゃ、じゃあ夜間の警備員さんの見まわりが来るとか、だれかここに来るかもしれないですし!」
「夜間の学園内警備は、基本的に警戒魔法で行うだけだよ。だから警備員なんて来ないし、そもそもここは校内で流布するウワサの『変態医者の拠点』だよ?夜中に近づこうとする子なんているはずがないだろう?」

 クソ、ああ言えばこう言う!
 そのどれもが的を射ているこたえなだけに、逆に俺の退路がどんどんふさがれていく気がする。

「おとなしく私の寵愛を受け入れなさい。悪いようにはしないから」
 艶やかな笑みを口もとに刷いたブレイン殿下が、ささやいてくる。
 うわ、なんだよこのイケメン、顔面偏差値高すぎるだろ?!

 ついでにその声、耳から入って脳に染み入り、こっちの理性までとろかされてしまいそうというか、なんかとにかくヤバい!!
 うっかり胸がキュンと高鳴ってしまいそうだった。

「や、ちょっ…、待って、や……ンあぁッ!」
 派手にリップ音を立てて、顔やら首もとやらにふり散らされるキスがくすぐったい。
 さらに首すじにチリッとした刺激が走り、思わず変な声が出た。

「っ!!」
 バッと口もとを手でおおい隠しても、もう遅かった。
 カアァっと熱くなるほっぺたは、きっとわかりやすく耳まで真っ赤になっていることだろう。

 なんでこんな声出てんだよバカ……うぅ、めちゃくちゃはずかしいだろ!
 今の、なかったことには……ならないよなぁ?
 チラリと見上げたブレイン殿下の端正なお顔は、実に愉しげで、そしてなにより薔薇色の瞳は捕食者のそれだった。

「遠慮なく声を出してくれてもいいんだよ?この天幕を引いてしまえば、防音魔法が発動する仕組みになっているからね。どうだい、プライバシーに配慮されたベッドだろう?」
「そういう問題ですか、それ?!」
 むしろなんかそれ、犯罪の香りがプンプンするんですが!?

「ていうか、そもそも俺、殿下に責任取ってもらう必要なんてないと思ってるんですけど?!」
「ほう、私からの心配りはキミには不要だと?」
 マズイ、言い方が悪かったか?
 ワントーン下がる声色に、相手の機嫌が低下した気配を感じとる。

 今もマウントをとられたような姿勢で俺にまたがるブレイン殿下を見上げる姿勢だけに、余計に迫力がある。
 でも俺は責任とか、そういう義務みたいなことを相手に課すつもりはないのに……。

「だって、なんか事情があるんでしょう?さっきのデルソル先生の様子、尋常じゃなかったですし……そうしてまでもあの薬の出所を調べたかったんでしょう?」
 誤解からとはいえ、わりと本気で手酷いあつかいをされかかったというか。

「……それをキミが知って、どうするんだい?」
「俺だってこんなかたちで巻き込まれたの、不本意なんです。犯人として疑われたのもあるし……真犯人を捕まえるためなら、協力は惜しまないつもりです」
「───そう、か……」

 元々あの姿になったのは、セラーノが『少年愛をこじらせた変態というのが真実』という改変された世界線であるうちのできごとだ。
 そりゃ俺はその世界線でも、ゆらぐことなくモブにすぎないとはいえ、いささか相手の態度がおかしかったのは事実だ。

 なんて言ったらいいのかわかんないけど、本気で憎む相手でもなければ、あんなふうにはならないだろ!
 結果的にはセラーノの変態医者化というキャラクター改変が却下され、『実はそれは演技でした』ってことにむりやり修正されたけど……。

「それに責任とられるような、致命的なことがあったわけでもないし……そりゃ、アイツらになめられたりさわられたりしたところは、気持ち悪かったですけどっ!」
「おや、それはよろしくないね、ちゃんと消毒しなくては」
 あれ、なんかまた雲行きがあやしくなってきたような……?

「さて、あの不良どもになめられたのは、どこなんだい?」
「え、いや、あの……」
 一度俺の上からどいたと思ったら、消毒液を染み込ませた脱脂綿を手にしてもどってくると、こちらに迫ってくる。

「さ、キレイにしてあげるから……言って?」
「えっと……その……胸もとを……」
 圧が強い!!
 こちらに迫ってくる美形怖いよ!

 あと、こんなにも口が軽くなってしまった原因の自白剤成分とやら、お前は絶対にゆるさないからな?!
 絶対にだ!!

 せっかくセラーノの態度がおかしかった話題で、相手の意識をそらせたと思ったのに!!
 あきらかにターゲットにロックオンされたこのヒリつく空気に、あらためて口のなかが渇いていく。
 なぁこれ、本気で逃げられないヤツだったりしないか……!?
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