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16:ふたたびの危機脱出?
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それまでの『デルソル先生』呼びから一転して、親しげな『セラーノ』呼びになったブレイン殿下に、セラーノの視線がさまよう。
あぁ、そういえばゲームの公式設定でも、ここのふたりは元々の面識があるんだっけ?
「いいか、もう一度だけ言うぞ、早く解毒剤をよこせ」
「……………わかったヨ」
口のなかに突っ込まれていた指が引き抜かれ、ガチガチになるほどに刺激をあたえられたそこからも手がどけられる。
「ゲホッ……ごほっ!」
とたんに前傾姿勢になってせきこむ背中を、あたたかい手がさすってくれた───薬で無理やり高められている今は、逆効果な気がしなくもないけれど。
でも、助かった……のか……?
もちろん、まだ油断はできない。
世界の改変にたいする『修正命令』とやらが発動されたとして、どこまでが元にもどったんだろうか?
「……ハイ、解毒剤。これを飲ンでネ」
差し出されたのは、ショットグラスくらいの入れものに満たされた緑の液体だ。
見るからにドロリとしていて、濃いめに淹れすぎた抹茶みたいにも感じられる。
おそるおそる受けとると、落とさないように気をつけて持つ。
うわ、これ飲むのかよ……。
ちょっと勇気がいるヤツじゃねぇの、これ!?
でもずっと無理やりにからだを高められたままで、下だって今にもイキそうなところで寸止めされて、もう息をするのも苦しくてたまらない。
それこそ肩で息をするたびに、シャツが背中だの脇腹だのをかすめる感触にすら、勝手にビクついてしまう。
これを治すためには、必要なんだもんな……?
ふるえる手で口もとに持っていくと、ちょっとだけかたむけて飲む。
「むぐ……っ、苦ぁっ!」
なんだよ、これ、めちゃくちゃ舌に絡みついてくる!
しかも、いかにもだった見た目どおりにめちゃくちゃ苦い。
すっかりゆるんでしまった涙腺からは、ビックリするほどマズイそれに、あらたな涙がボロボロとこぼれていく。
ゆれる水面は、まるでヘドロのようにしか見えなくて、どうかんがえても飲み物には見えないけれど……。
これ以上悪い状況なんて、そうそう起こるはずないだろ!
えぇい、もうどうにでもなれ!
覚悟を決めて、一気にあおる。
「プハッ!マッズぅぅぅ~~~!!」
あまりの苦さとマズさに止まらなくなっていた涙を必死に手の甲でぬぐいながら顔をあげれば、おどろいたような顔のセラーノと目があった。
「飲ンだ……ってか、飲み切った……?なら本当に関係ナイのか……??」
ポカンと音がしそうなくらいに間の抜けた顔でこちらを見つめるセラーノが、もごもごとつぶやく。
「え……?なにがですか?」
まさか今飲んだクソマズくてめちゃくちゃ苦い緑の液体は、ニセモノだったとかなのか……?
この期におよんでなお、からかわれたんだとしたら気分のいいものではないけれど。
「だから言っただろう、その子は大丈夫だと」
「だがブレイン、ソイツはあのダグラス伯爵家の子どもナンだろう?」
「それでも、だ。だいたい薬物にくわしければ、ただの解毒剤がそんなに苦いはずがないって、知っているはずだろう?」
───え?!
いま、なんて言ったんだ!?
ただの解毒剤がそんなに苦いはずがない、だって??!
「っ!?」
あわてて背後に立つブレイン殿下をふりかえれば、ニヤニヤと悪い顔で笑う彼の姿が目に飛び込んできた。
これ、絶対に人をダマしているときの顔だろーー!!?
「ほら、このいかにも『ダマされた』みたいな愉快な顔!見てみなさい、どう見ても彼は『白』だ」
「たしかに……あンな苦い液体───しかも猛毒で知られる砂漠カズラの味に似せて調合サレた液体なのに、躊躇なく飲みキッてたネ……なら本当に知識がナイのか?」
ふたりだけの会話が、俺のあたま越しに交わされている。
ただ、なんの話をしているのかはわからなかったけれど、それでもなんとなく俺が無知だと言われていることだけは伝わった。
悪かったな、こんなに簡単にダマせるチョロいヤツで!!
「えっと、なンかゴメンね?誤解してヒドイことしちゃった……」
ちょこんと目の前にしゃがみこんだセラーノが、首をかしげながら、こちらの顔をのぞきこんでくる。
その顔は、いつもながらの糸目にもどっていた。
「これ、ニセモノなんですかっ?!」
俺にとっては、そっちのほうが大事なことだ。
「え?いや、一応解毒剤ベースではあるケド……でもよく飲めたネ、もしこれがこの味のとおりに砂漠カズラだったナラ、一口分だって致死量だったのに」
そこには、微妙なこたえがかえってきた。
「~~~っ、ふつうに生きてたら砂漠カズラの味なんて知るはずないでしょうが!それになんで保健医から解毒剤って言って、その反対の毒を差し出されるなんて思うんですか!?俺、いきなり殺されるようなこと、したおぼえないですよ?!」
なんで平和なはずの学園内で、いきなり毒殺されるのをうたがうんだよ?
「───ウン、たしかに……そうだヨネ……本人は解毒剤の味すら知らナイくらいだもンネ?」
「どうだ、わかったかセラーノ?」
「そうダね……いっそ心配にナルくらい、すなおな子だ。君が気に入るのも、わかった気がするヨ」
「………ひとこと余計だ」
どうやら、なにかしらの誤解は解けたらしい。
ホッと息をつこうとしたところで、しかし次のひとことに俺はピシリと音を立てて固まった。
「てっきり『魅了香』の出所は、ダグラス伯爵家だと思ってたのに……またイチから調べ直しカァ……」
なんだよそれ、うちの家がなんだって??
あのあやしい薬物の───出所だって!?
思っていた以上に複雑そうな背景に、無言で目をしばたかせるしかできなかった。
あぁ、そういえばゲームの公式設定でも、ここのふたりは元々の面識があるんだっけ?
「いいか、もう一度だけ言うぞ、早く解毒剤をよこせ」
「……………わかったヨ」
口のなかに突っ込まれていた指が引き抜かれ、ガチガチになるほどに刺激をあたえられたそこからも手がどけられる。
「ゲホッ……ごほっ!」
とたんに前傾姿勢になってせきこむ背中を、あたたかい手がさすってくれた───薬で無理やり高められている今は、逆効果な気がしなくもないけれど。
でも、助かった……のか……?
もちろん、まだ油断はできない。
世界の改変にたいする『修正命令』とやらが発動されたとして、どこまでが元にもどったんだろうか?
「……ハイ、解毒剤。これを飲ンでネ」
差し出されたのは、ショットグラスくらいの入れものに満たされた緑の液体だ。
見るからにドロリとしていて、濃いめに淹れすぎた抹茶みたいにも感じられる。
おそるおそる受けとると、落とさないように気をつけて持つ。
うわ、これ飲むのかよ……。
ちょっと勇気がいるヤツじゃねぇの、これ!?
でもずっと無理やりにからだを高められたままで、下だって今にもイキそうなところで寸止めされて、もう息をするのも苦しくてたまらない。
それこそ肩で息をするたびに、シャツが背中だの脇腹だのをかすめる感触にすら、勝手にビクついてしまう。
これを治すためには、必要なんだもんな……?
ふるえる手で口もとに持っていくと、ちょっとだけかたむけて飲む。
「むぐ……っ、苦ぁっ!」
なんだよ、これ、めちゃくちゃ舌に絡みついてくる!
しかも、いかにもだった見た目どおりにめちゃくちゃ苦い。
すっかりゆるんでしまった涙腺からは、ビックリするほどマズイそれに、あらたな涙がボロボロとこぼれていく。
ゆれる水面は、まるでヘドロのようにしか見えなくて、どうかんがえても飲み物には見えないけれど……。
これ以上悪い状況なんて、そうそう起こるはずないだろ!
えぇい、もうどうにでもなれ!
覚悟を決めて、一気にあおる。
「プハッ!マッズぅぅぅ~~~!!」
あまりの苦さとマズさに止まらなくなっていた涙を必死に手の甲でぬぐいながら顔をあげれば、おどろいたような顔のセラーノと目があった。
「飲ンだ……ってか、飲み切った……?なら本当に関係ナイのか……??」
ポカンと音がしそうなくらいに間の抜けた顔でこちらを見つめるセラーノが、もごもごとつぶやく。
「え……?なにがですか?」
まさか今飲んだクソマズくてめちゃくちゃ苦い緑の液体は、ニセモノだったとかなのか……?
この期におよんでなお、からかわれたんだとしたら気分のいいものではないけれど。
「だから言っただろう、その子は大丈夫だと」
「だがブレイン、ソイツはあのダグラス伯爵家の子どもナンだろう?」
「それでも、だ。だいたい薬物にくわしければ、ただの解毒剤がそんなに苦いはずがないって、知っているはずだろう?」
───え?!
いま、なんて言ったんだ!?
ただの解毒剤がそんなに苦いはずがない、だって??!
「っ!?」
あわてて背後に立つブレイン殿下をふりかえれば、ニヤニヤと悪い顔で笑う彼の姿が目に飛び込んできた。
これ、絶対に人をダマしているときの顔だろーー!!?
「ほら、このいかにも『ダマされた』みたいな愉快な顔!見てみなさい、どう見ても彼は『白』だ」
「たしかに……あンな苦い液体───しかも猛毒で知られる砂漠カズラの味に似せて調合サレた液体なのに、躊躇なく飲みキッてたネ……なら本当に知識がナイのか?」
ふたりだけの会話が、俺のあたま越しに交わされている。
ただ、なんの話をしているのかはわからなかったけれど、それでもなんとなく俺が無知だと言われていることだけは伝わった。
悪かったな、こんなに簡単にダマせるチョロいヤツで!!
「えっと、なンかゴメンね?誤解してヒドイことしちゃった……」
ちょこんと目の前にしゃがみこんだセラーノが、首をかしげながら、こちらの顔をのぞきこんでくる。
その顔は、いつもながらの糸目にもどっていた。
「これ、ニセモノなんですかっ?!」
俺にとっては、そっちのほうが大事なことだ。
「え?いや、一応解毒剤ベースではあるケド……でもよく飲めたネ、もしこれがこの味のとおりに砂漠カズラだったナラ、一口分だって致死量だったのに」
そこには、微妙なこたえがかえってきた。
「~~~っ、ふつうに生きてたら砂漠カズラの味なんて知るはずないでしょうが!それになんで保健医から解毒剤って言って、その反対の毒を差し出されるなんて思うんですか!?俺、いきなり殺されるようなこと、したおぼえないですよ?!」
なんで平和なはずの学園内で、いきなり毒殺されるのをうたがうんだよ?
「───ウン、たしかに……そうだヨネ……本人は解毒剤の味すら知らナイくらいだもンネ?」
「どうだ、わかったかセラーノ?」
「そうダね……いっそ心配にナルくらい、すなおな子だ。君が気に入るのも、わかった気がするヨ」
「………ひとこと余計だ」
どうやら、なにかしらの誤解は解けたらしい。
ホッと息をつこうとしたところで、しかし次のひとことに俺はピシリと音を立てて固まった。
「てっきり『魅了香』の出所は、ダグラス伯爵家だと思ってたのに……またイチから調べ直しカァ……」
なんだよそれ、うちの家がなんだって??
あのあやしい薬物の───出所だって!?
思っていた以上に複雑そうな背景に、無言で目をしばたかせるしかできなかった。
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