16 / 188
16:ふたたびの危機脱出?
しおりを挟む
それまでの『デルソル先生』呼びから一転して、親しげな『セラーノ』呼びになったブレイン殿下に、セラーノの視線がさまよう。
あぁ、そういえばゲームの公式設定でも、ここのふたりは元々の面識があるんだっけ?
「いいか、もう一度だけ言うぞ、早く解毒剤をよこせ」
「……………わかったヨ」
口のなかに突っ込まれていた指が引き抜かれ、ガチガチになるほどに刺激をあたえられたそこからも手がどけられる。
「ゲホッ……ごほっ!」
とたんに前傾姿勢になってせきこむ背中を、あたたかい手がさすってくれた───薬で無理やり高められている今は、逆効果な気がしなくもないけれど。
でも、助かった……のか……?
もちろん、まだ油断はできない。
世界の改変にたいする『修正命令』とやらが発動されたとして、どこまでが元にもどったんだろうか?
「……ハイ、解毒剤。これを飲ンでネ」
差し出されたのは、ショットグラスくらいの入れものに満たされた緑の液体だ。
見るからにドロリとしていて、濃いめに淹れすぎた抹茶みたいにも感じられる。
おそるおそる受けとると、落とさないように気をつけて持つ。
うわ、これ飲むのかよ……。
ちょっと勇気がいるヤツじゃねぇの、これ!?
でもずっと無理やりにからだを高められたままで、下だって今にもイキそうなところで寸止めされて、もう息をするのも苦しくてたまらない。
それこそ肩で息をするたびに、シャツが背中だの脇腹だのをかすめる感触にすら、勝手にビクついてしまう。
これを治すためには、必要なんだもんな……?
ふるえる手で口もとに持っていくと、ちょっとだけかたむけて飲む。
「むぐ……っ、苦ぁっ!」
なんだよ、これ、めちゃくちゃ舌に絡みついてくる!
しかも、いかにもだった見た目どおりにめちゃくちゃ苦い。
すっかりゆるんでしまった涙腺からは、ビックリするほどマズイそれに、あらたな涙がボロボロとこぼれていく。
ゆれる水面は、まるでヘドロのようにしか見えなくて、どうかんがえても飲み物には見えないけれど……。
これ以上悪い状況なんて、そうそう起こるはずないだろ!
えぇい、もうどうにでもなれ!
覚悟を決めて、一気にあおる。
「プハッ!マッズぅぅぅ~~~!!」
あまりの苦さとマズさに止まらなくなっていた涙を必死に手の甲でぬぐいながら顔をあげれば、おどろいたような顔のセラーノと目があった。
「飲ンだ……ってか、飲み切った……?なら本当に関係ナイのか……??」
ポカンと音がしそうなくらいに間の抜けた顔でこちらを見つめるセラーノが、もごもごとつぶやく。
「え……?なにがですか?」
まさか今飲んだクソマズくてめちゃくちゃ苦い緑の液体は、ニセモノだったとかなのか……?
この期におよんでなお、からかわれたんだとしたら気分のいいものではないけれど。
「だから言っただろう、その子は大丈夫だと」
「だがブレイン、ソイツはあのダグラス伯爵家の子どもナンだろう?」
「それでも、だ。だいたい薬物にくわしければ、ただの解毒剤がそんなに苦いはずがないって、知っているはずだろう?」
───え?!
いま、なんて言ったんだ!?
ただの解毒剤がそんなに苦いはずがない、だって??!
「っ!?」
あわてて背後に立つブレイン殿下をふりかえれば、ニヤニヤと悪い顔で笑う彼の姿が目に飛び込んできた。
これ、絶対に人をダマしているときの顔だろーー!!?
「ほら、このいかにも『ダマされた』みたいな愉快な顔!見てみなさい、どう見ても彼は『白』だ」
「たしかに……あンな苦い液体───しかも猛毒で知られる砂漠カズラの味に似せて調合サレた液体なのに、躊躇なく飲みキッてたネ……なら本当に知識がナイのか?」
ふたりだけの会話が、俺のあたま越しに交わされている。
ただ、なんの話をしているのかはわからなかったけれど、それでもなんとなく俺が無知だと言われていることだけは伝わった。
悪かったな、こんなに簡単にダマせるチョロいヤツで!!
「えっと、なンかゴメンね?誤解してヒドイことしちゃった……」
ちょこんと目の前にしゃがみこんだセラーノが、首をかしげながら、こちらの顔をのぞきこんでくる。
その顔は、いつもながらの糸目にもどっていた。
「これ、ニセモノなんですかっ?!」
俺にとっては、そっちのほうが大事なことだ。
「え?いや、一応解毒剤ベースではあるケド……でもよく飲めたネ、もしこれがこの味のとおりに砂漠カズラだったナラ、一口分だって致死量だったのに」
そこには、微妙なこたえがかえってきた。
「~~~っ、ふつうに生きてたら砂漠カズラの味なんて知るはずないでしょうが!それになんで保健医から解毒剤って言って、その反対の毒を差し出されるなんて思うんですか!?俺、いきなり殺されるようなこと、したおぼえないですよ?!」
なんで平和なはずの学園内で、いきなり毒殺されるのをうたがうんだよ?
「───ウン、たしかに……そうだヨネ……本人は解毒剤の味すら知らナイくらいだもンネ?」
「どうだ、わかったかセラーノ?」
「そうダね……いっそ心配にナルくらい、すなおな子だ。君が気に入るのも、わかった気がするヨ」
「………ひとこと余計だ」
どうやら、なにかしらの誤解は解けたらしい。
ホッと息をつこうとしたところで、しかし次のひとことに俺はピシリと音を立てて固まった。
「てっきり『魅了香』の出所は、ダグラス伯爵家だと思ってたのに……またイチから調べ直しカァ……」
なんだよそれ、うちの家がなんだって??
あのあやしい薬物の───出所だって!?
思っていた以上に複雑そうな背景に、無言で目をしばたかせるしかできなかった。
あぁ、そういえばゲームの公式設定でも、ここのふたりは元々の面識があるんだっけ?
「いいか、もう一度だけ言うぞ、早く解毒剤をよこせ」
「……………わかったヨ」
口のなかに突っ込まれていた指が引き抜かれ、ガチガチになるほどに刺激をあたえられたそこからも手がどけられる。
「ゲホッ……ごほっ!」
とたんに前傾姿勢になってせきこむ背中を、あたたかい手がさすってくれた───薬で無理やり高められている今は、逆効果な気がしなくもないけれど。
でも、助かった……のか……?
もちろん、まだ油断はできない。
世界の改変にたいする『修正命令』とやらが発動されたとして、どこまでが元にもどったんだろうか?
「……ハイ、解毒剤。これを飲ンでネ」
差し出されたのは、ショットグラスくらいの入れものに満たされた緑の液体だ。
見るからにドロリとしていて、濃いめに淹れすぎた抹茶みたいにも感じられる。
おそるおそる受けとると、落とさないように気をつけて持つ。
うわ、これ飲むのかよ……。
ちょっと勇気がいるヤツじゃねぇの、これ!?
でもずっと無理やりにからだを高められたままで、下だって今にもイキそうなところで寸止めされて、もう息をするのも苦しくてたまらない。
それこそ肩で息をするたびに、シャツが背中だの脇腹だのをかすめる感触にすら、勝手にビクついてしまう。
これを治すためには、必要なんだもんな……?
ふるえる手で口もとに持っていくと、ちょっとだけかたむけて飲む。
「むぐ……っ、苦ぁっ!」
なんだよ、これ、めちゃくちゃ舌に絡みついてくる!
しかも、いかにもだった見た目どおりにめちゃくちゃ苦い。
すっかりゆるんでしまった涙腺からは、ビックリするほどマズイそれに、あらたな涙がボロボロとこぼれていく。
ゆれる水面は、まるでヘドロのようにしか見えなくて、どうかんがえても飲み物には見えないけれど……。
これ以上悪い状況なんて、そうそう起こるはずないだろ!
えぇい、もうどうにでもなれ!
覚悟を決めて、一気にあおる。
「プハッ!マッズぅぅぅ~~~!!」
あまりの苦さとマズさに止まらなくなっていた涙を必死に手の甲でぬぐいながら顔をあげれば、おどろいたような顔のセラーノと目があった。
「飲ンだ……ってか、飲み切った……?なら本当に関係ナイのか……??」
ポカンと音がしそうなくらいに間の抜けた顔でこちらを見つめるセラーノが、もごもごとつぶやく。
「え……?なにがですか?」
まさか今飲んだクソマズくてめちゃくちゃ苦い緑の液体は、ニセモノだったとかなのか……?
この期におよんでなお、からかわれたんだとしたら気分のいいものではないけれど。
「だから言っただろう、その子は大丈夫だと」
「だがブレイン、ソイツはあのダグラス伯爵家の子どもナンだろう?」
「それでも、だ。だいたい薬物にくわしければ、ただの解毒剤がそんなに苦いはずがないって、知っているはずだろう?」
───え?!
いま、なんて言ったんだ!?
ただの解毒剤がそんなに苦いはずがない、だって??!
「っ!?」
あわてて背後に立つブレイン殿下をふりかえれば、ニヤニヤと悪い顔で笑う彼の姿が目に飛び込んできた。
これ、絶対に人をダマしているときの顔だろーー!!?
「ほら、このいかにも『ダマされた』みたいな愉快な顔!見てみなさい、どう見ても彼は『白』だ」
「たしかに……あンな苦い液体───しかも猛毒で知られる砂漠カズラの味に似せて調合サレた液体なのに、躊躇なく飲みキッてたネ……なら本当に知識がナイのか?」
ふたりだけの会話が、俺のあたま越しに交わされている。
ただ、なんの話をしているのかはわからなかったけれど、それでもなんとなく俺が無知だと言われていることだけは伝わった。
悪かったな、こんなに簡単にダマせるチョロいヤツで!!
「えっと、なンかゴメンね?誤解してヒドイことしちゃった……」
ちょこんと目の前にしゃがみこんだセラーノが、首をかしげながら、こちらの顔をのぞきこんでくる。
その顔は、いつもながらの糸目にもどっていた。
「これ、ニセモノなんですかっ?!」
俺にとっては、そっちのほうが大事なことだ。
「え?いや、一応解毒剤ベースではあるケド……でもよく飲めたネ、もしこれがこの味のとおりに砂漠カズラだったナラ、一口分だって致死量だったのに」
そこには、微妙なこたえがかえってきた。
「~~~っ、ふつうに生きてたら砂漠カズラの味なんて知るはずないでしょうが!それになんで保健医から解毒剤って言って、その反対の毒を差し出されるなんて思うんですか!?俺、いきなり殺されるようなこと、したおぼえないですよ?!」
なんで平和なはずの学園内で、いきなり毒殺されるのをうたがうんだよ?
「───ウン、たしかに……そうだヨネ……本人は解毒剤の味すら知らナイくらいだもンネ?」
「どうだ、わかったかセラーノ?」
「そうダね……いっそ心配にナルくらい、すなおな子だ。君が気に入るのも、わかった気がするヨ」
「………ひとこと余計だ」
どうやら、なにかしらの誤解は解けたらしい。
ホッと息をつこうとしたところで、しかし次のひとことに俺はピシリと音を立てて固まった。
「てっきり『魅了香』の出所は、ダグラス伯爵家だと思ってたのに……またイチから調べ直しカァ……」
なんだよそれ、うちの家がなんだって??
あのあやしい薬物の───出所だって!?
思っていた以上に複雑そうな背景に、無言で目をしばたかせるしかできなかった。
1
お気に入りに追加
404
あなたにおすすめの小説
異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話
深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?
【完結】イケメン騎士が僕に救いを求めてきたので呪いをかけてあげました
及川奈津生
BL
気づいたら十四世紀のフランスに居た。百年戦争の真っ只中、どうやら僕は密偵と疑われているらしい。そんなわけない!と誤解をとこうと思ったら、僕を尋問する騎士が現代にいるはずの恋人にそっくりだった。全3話。
※pome村さんがXで投稿された「#イラストを投げたら文字書きさんが引用rtでssを勝手に添えてくれる」向けに書いたものです。元イラストを表紙に設定しています。投稿元はこちら→https://x.com/pomemura_/status/1792159557269303476?t=pgeU3dApwW0DEeHzsGiHRg&s=19
【完結】だから俺は主人公じゃない!
美兎
BL
ある日通り魔に殺された岬りおが、次に目を覚ましたら別の世界の人間になっていた。
しかもそれは腐男子な自分が好きなキャラクターがいるゲームの世界!?
でも自分は名前も聞いた事もないモブキャラ。
そんなモブな自分に話しかけてきてくれた相手とは……。
主人公がいるはずなのに、攻略対象がことごとく自分に言い寄ってきて大混乱!
だから、…俺は主人公じゃないんだってば!
王道学園なのに、王道じゃない!!
主食は、blです。
BL
今作品の主人公、レイは6歳の時に自身の前世が、陰キャの腐男子だったことを思い出す。
レイは、自身のいる世界が前世、ハマりにハマっていた『転校生は愛され優等生.ᐟ.ᐟ』の世界だと気付き、腐男子として、美形×転校生のBのLを見て楽しもうと思っていたが…
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
博愛主義の成れの果て
135
BL
子宮持ちで子供が産める侯爵家嫡男の俺の婚約者は、博愛主義者だ。
俺と同じように子宮持ちの令息にだって優しくしてしまう男。
そんな婚約を白紙にしたところ、元婚約者がおかしくなりはじめた……。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
乙女ゲームのサポートメガネキャラに転生しました
西楓
BL
乙女ゲームのサポートキャラとして転生した俺は、ヒロインと攻略対象を無事くっつけることが出来るだろうか。どうやらヒロインの様子が違うような。距離の近いヒロインに徐々に不信感を抱く攻略対象。何故か攻略対象が接近してきて…
ほのほのです。
※有難いことに別サイトでその後の話をご希望されました(嬉しい😆)ので追加いたしました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる