【完結】愛されチートの隣の子

マツヲ。

文字の大きさ
8 / 24

Ep.8 突きつけられる現実の壁

しおりを挟む
 次に目を覚ましたのは、やわらかなベッドのなかだった。
「ロト!よかった、目ぇ覚めた……」
 泣きそうな顔でこちらをのぞきこむ黒髪の少年が、そのまま抱きついてくる。

「………ハルト?」
 なんでハルトが泣きそうな顔をしているんだろう?
 いまだにボンヤリしたままのあたまでは、状況がよく飲み込めなかった。

「ロトが倒れたって聞いて……すっごく心配したんだよ!もしかして、具合悪かったのに無理しちゃったとか?」
 それは心からこちらを案じる言葉で、ハルトのやさしさがにじむものだ。

「そっか……ボク、倒れたのか……その、心配かけてごめんね?」
 大切な年下の幼なじみを安心させたくて、笑顔を見せようとして、頬の筋肉が強ばったままなことに気がついた。

 あれ、おかしいな。
 なんで笑えないんだろう?
 必死に笑おうとするのに───やっぱり顔が強ばる。

「ロト、顔色がめちゃくちゃ悪いもん、まだ無理しちゃダメだよ?」
「うん、ありがと」
 手をのばしてこちらの両頬を包むと、コツンとおでこをあててくるハルトに、うなずきかえす。
 ……あぁ、ホントにやさしいな、ハルトは。

「それにしても、そんな倒れるほどロトの具合悪かったなんて、なんで気づけなかったんだろう!?本当に気づかなくてゴメン!それとも───まさかキャスターに、なんかされたとか?!」
「えっと……なんでそこで、いきなりキャスター様が出てくるの……?」
 肩をつかまれてそう問われ、首をかしげた。

「だって、いきなり厨房にロトをかついだキャスターが来て、お芋の入ったバケツを置いていったって聞いたから」
「えぇっ、キャスター様が?!」
 なんてことだろう、ボクがキャスター様にかつがれてただって!?

「あり得ないだろ、かつぐってなんだよ!倒れてたロトを助けたんなら、せめてちゃんと抱きかかえて来いよな!?」
 なぜか憤るハルトに、もうボクは申し訳なさでいっぱいだった。

 だって、キャスター様はリュクス様とおなじく、この王宮内でも高い地位とされる王宮騎士団の副団長で、本来ならボクのような平民以下の存在は、話しかけることすらためらうほどの相手なんだぞ!?

 まさか倒れたとはいえ、そんな偉い人の手をわずらわせてしまったなんて。
 とたんにこみあげてくる申し訳なさに、下くちびるを噛む。

 さっきから名前を呼びすてにしているハルトがおかしいだけで、本来この国では厳然たる身分差があって、王宮騎士団の副団長ともなれば、ボクのようなお情けで置いてもらっているような存在なんて、見殺しにしたところで、なんら非難されるいわれもないレベルなんだ。

「あ、あやまらなきゃ……」
 そう言いながらも、ボクはもう泣きそうだった。
「大丈夫だよ、自分のベッドを貸してくれるくらいだし、キャスターもロトのこと心配してると思うから」
 なのにボクの幼なじみは、天使のような笑顔のままに追撃をかけてくる。

「えぇぇぇ!?」
 まさか、このふかふかのベッドが、キャスター様のお部屋のものだって!!?
 たしかに、こんなにやわらかくて大きなベッドなんて、そうそうあるもんじゃないと思ってたけど!

「ど、どうしよう、ハルト!?」
 ボクなんかを寝かせた場所なんて、汚いと言われないだろうか?
「なにが?本人が連れてきたんだし、いいんじゃないの?」
 でもボクの心配は、どうやらまったく相手には伝わらないみたいだ。

「キャスターもさ、どうせなら医務室まで運んでくれればいいのに、遠くて面倒だからって自分の部屋に医者を呼びつけるとか、ホント面倒くさがりだよねー」
 なおも言葉をかさねるハルトに、ボクは必死であたまをふって否定する。

「ハルト、そうじゃない。ハルトは特別な『神子』様だから、そうなのかもしれないけど、ふつうはそんなことなくて……」
「そうなのかなぁ?まぁロトが言うなら信じるけど、でもあいつら、わりと話しやすいと思うんだけどな……」

 そうやって小首をかしげるハルトは、きっと自分がどれだけ特別な存在なのか気づいていない。
 そういう変に偉ぶらないところも、彼のいいところではあるんだけど。

「それにしても、めずらしい組み合わせだよね、ロトとキャスターがいっしょにいるなんて。しょっちゅうロトのお仕事を、ジャマしに行ってるリュクスならともかくさ」
「え……?」
 素朴な疑問を呈してくるハルトに、なぜだろうかとかんがえたところで、ふいに倒れる前の記憶がよみがえってきた。

『まさか、あのときの子どもが、お前だったとは───』
 たしかにキャスター様は、そう口にした。

 ギクリ

 とたんに、からだが目に見えて強ばる。
 そうだ、たしかに彼はそう言った、『』と。

「あ……」
 必死に記憶の底に沈めていたモノが、呼び起こされる。
 あのとき目にした地獄のような凄惨な光景も、その後に我が身を襲った不幸なできごとも。

「───ロト、本当にキャスターになんかされたんじゃ?!」
「ち、ちがう……」
 一瞬にして血の気が引いていき、カタカタとふるえだすからだに、血相を変えたハルトが身をのり出す。
 でもそれは誤解で、これは過去を思い出してしまったからにすぎない。

「急に、思い出しちゃったんだ───のこと……」
「あぁ……うん、そっか、それはツラかったね……」
「うん……」
 ぎゅっと抱きしめてくれるそのあたたかさに、ホッとしてからだから余計な力が抜けていく。

 こういうとき、ハルトは余計なことは言わない。
 本当はなんでいきなり思い出したのかってことも気になるだろうに、ただボクが落ちつくまで、こうして抱きしめていてくれる。
 そのやさしさが、今のボクにはありがたかった。






 そうして、しばらくすれば、浅くなってしまっていた息も、ようやくととのってきた。
「ありがと、ハルト、もう大丈夫だから……」
 お礼を言えば、そっと腕がゆるめられ、解放される。

「本当に?無理しないでね、ロトは僕にとって、いちばん大切な友だちなんだからね?!」
「うん、ありがと……」
 本当に、そのやさしさがうれしくて。
 あぁ、ハルトのことが大好きだって思う。

 だからこそ、心のなかに苦しさがこみ上げてくる。
 もうここには、いられないんじゃないかって、そんなことを考えてしまう。

 だって、自分にとって忘れたい過去を、知られてしまったんだ。
 それもよりによって、リュクス様の双子の兄であるキャスター様に。

 このおふたりの間には、秘密なんてあってないようなものだというのは、王宮騎士団の周辺では有名な話だった。
 元より双子で実力も拮抗し、ふだんから言葉もいらないくらいに意思の疎通ができていて、そしておたがいに王宮騎士団の副団長という立場ときたら、そうなるのも必然で。

 そして、そんなおふたりが大事なものを共有する傾向があるのは言うまでもない。
 なにしろおふたりともが、ボクの幼なじみのハルトに熱をあげて口説いているのは日常の光景だったし、どちらが先に落とせるかを競うというよりかは、ふたりで仲良くハルトのことを愛でたがっているように見える。

 ───つまり、キャスター様に知られたということは、近いうちにリュクス様にも知られるということだ。
 そのとき、どう思われるのかをかんがえたら、すごく……怖かった。

「もう、ここにはいられないかなぁ……」
「えっ!?どういうことなの、ロト?!」
「あ……うん、えぇと、やっぱりボクには華やかな王宮は似合わないっていうか、気おくれしちゃうなって」
 ……マズイ、かんがえてることが口から出ていた。

 おどろいたように顔をあげるハルトに、とっさにそれらしいことで、いいわけをする。
 たしかにそれを言うなら、『神子』であるハルトはさておき、スラムに住んでいたようなボクが住むには、いくら裏方で働く人のための宿舎でも過分な気もするし。

「そんな!ロトは美人さんだから、似合わないってことはないと思うけど……でもここに連れてきたのは僕のエゴからだったから、もし本気でロトが嫌だと思ってたなら、今まで気づかなくてごめん!!」
「……ありがと、ハルトはやさしいね?」
 こんなときでも真っ先にボクを気づかってくれるハルトは、やっぱりとってもいい子だと思う。

 だからこそ、余計に心が苦しくなる。
 ハルトはこんなにいい子なのに、ボクの醜い嫉妬心は、彼を憎みさえしている。

 どんなに恋い焦がれても、決して叶うことのない相手から想われる、その立ち位置にいることに。
 どうでもいい前世の常識なんかにとらわれて、愛する人からの好意をすなおに受け止められないその意地っ張りさが、妬ましくて、恨めしくてたまらなかった。

 こんな気持ちでハルトとリュクス様のそばにいることなんて、できっこないよ!
 どうしよう、やっぱりボクは、こんなところにいちゃいけなかったんだ……!
 今はただ、そんな思いにばかり支配されていた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】恋人になりたかった

ivy
BL
初めてのキスは、 すべてが始まった合図だと思っていた。 優しい大地と過ごす時間は、 律にとって特別で、 手放したくないものになっていく。 けれど……

僕の彼氏は僕のことを好きじゃないⅠ/Ⅱ

MITARASI_
BL
I 彼氏に愛されているはずなのに、どうしてこんなに苦しいんだろう。 「好き」と言ってほしくて、でも返ってくるのは沈黙ばかり。 揺れる心を支えてくれたのは、ずっと隣にいた幼なじみだった――。 不器用な彼氏とのすれ違い、そして幼なじみの静かな想い。 すべてを失ったときに初めて気づく、本当に欲しかった温もりとは。 切なくて、やさしくて、最後には救いに包まれる救済BLストーリー。 Ⅱ 高校を卒業し、同じ大学へ進学した陸と颯馬。  別々の学部に進みながらも支え合い、やがて同棲を始めた二人は、通学の疲れや家事の分担といった小さな現実に向き合いながら、少しずつ【これから】を形にしていく。  未来の旅行を計画し、バイトを始め、日常を重ねていく日々。  恋人として選び合った関係は、穏やかに、けれど確かに深まっていく。  そんな中、陸の前に思いがけない再会をする。  過去と現在が交差するその瞬間が、二人の日常に小さな影を落としていく。  不安も、すれ違いも、言葉にできない想いも抱えながら。  それでも陸と颯馬は、互いの手を離さずに進もうとする。  高校編のその先を描く大学生活編。  選び続けることの意味を問いかける、二人の新たな物語。 続編執筆中

【完結】薄幸文官志望は嘘をつく

七咲陸
BL
サシャ=ジルヴァールは伯爵家の長男として産まれるが、紫の瞳のせいで両親に疎まれ、弟からも蔑まれる日々を送っていた。 忌々しい紫眼と言う両親に幼い頃からサシャに魔道具の眼鏡を強要する。認識阻害がかかったメガネをかけている間は、サシャの顔や瞳、髪色までまるで別人だった。 学園に入学しても、サシャはあらぬ噂をされてどこにも居場所がない毎日。そんな中でもサシャのことを好きだと言ってくれたクラークと言う茶色の瞳を持つ騎士学生に惹かれ、お付き合いをする事に。 しかし、クラークにキスをせがまれ恥ずかしくて逃げ出したサシャは、アーヴィン=イブリックという翠眼を持つ騎士学生にぶつかってしまい、メガネが外れてしまったーーー… 認識阻害魔道具メガネのせいで2人の騎士の間で別人を演じることになった文官学生の恋の話。 全17話 2/28 番外編を更新しました

王太子殿下に触れた夜、月影のように想いは沈む

木風
BL
王太子殿下と共に過ごした、学園の日々。 その笑顔が眩しくて、遠くて、手を伸ばせば届くようで届かなかった。 燃えるような恋ではない。ただ、触れずに見つめ続けた冬の夜。 眠りに沈む殿下の唇が、誰かの名を呼ぶ。 それが妹の名だと知っても、離れられなかった。 「殿下が幸せなら、それでいい」 そう言い聞かせながらも、胸の奥で何かが静かに壊れていく。 赦されぬ恋を抱いたまま、彼は月影のように想いを沈めた。 ※本作は「小説家になろう」「アルファポリス」にて同時掲載しております。 表紙イラストは、雪乃さんに描いていただきました。 ※イラストは描き下ろし作品です。無断転載・無断使用・AI学習等は一切禁止しております。 ©︎月影 / 木風 雪乃

【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜

ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。 そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。 幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。 もう二度と同じ轍は踏まない。 そう決心したアリスの戦いが始まる。

使用人の俺を坊ちゃんが構う理由

真魚
BL
【貴族令息×力を失った魔術師】  かつて類い稀な魔術の才能を持っていたセシルは、魔物との戦いに負け、魔力と片足の自由を失ってしまった。伯爵家の下働きとして置いてもらいながら雑用すらまともにできず、日々飢え、昔の面影も無いほど惨めな姿となっていたセシルの唯一の癒しは、むかし弟のように可愛がっていた伯爵家次男のジェフリーの成長していく姿を時折目にすることだった。  こんなみすぼらしい自分のことなど、完全に忘れてしまっているだろうと思っていたのに、ある夜、ジェフリーからその世話係に仕事を変えさせられ…… ※ムーンライトノベルズにも掲載しています

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

幼馴染がいじめるのは俺だ!

むすめっすめ
BL
幼馴染が俺の事いじめてたのは、好きな子いじめちゃうやつだと思ってたのに... 「好きな奴に言われたんだ...幼馴染いじめるのとかガキみてーだって...」 「はっ...ぁ??」 好きな奴って俺じゃないの___!? ただのいじめっ子×勘違いいじめられっ子 ーーーーーー 主人公 いじめられっ子 小鳥遊洸人 タカナシ ヒロト 小学生の頃から幼馴染の神宮寺 千透星にいじめられている。 姉の助言(?)から千透星が自分のこといじめるのは小学生特有の“好きな子いじめちゃうヤツ“だと思い込むようになり、そんな千透星を、可愛いじゃん...?と思っていた。 高校で初めて千透星に好きな人が出来たことを知ったことから、 脳破壊。 千透星への恋心を自覚する。 幼馴染 いじめっ子 神宮寺 千透星 ジングウジ チトセ 小学生の頃から幼馴染の小鳥遊 洸人をいじめている。 美形であり、陰キャの洸人とは違い周りに人が集まりやすい。(洸人は千透星がわざと自分の周りに集まらないように牽制していると勘違いしている) 転校生の須藤千尋が初恋である

処理中です...