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Ep.6 目覚めてみれば、拘束されていた

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「はー……キレイなもんだな、その目。まるで宝石みてぇだ」
 そのままあごをつかまれて顔を持ち上げられると、至近距離からのぞきこまれる。
 その声色は、どことなくうっとりとしたものだった。

 だけどそのセリフには、違和感しか覚えなかった。
 目が、宝石みたいにキレイだって……?
 冷たそう、ではなく??

 オレの瞳の色は、父親ゆずりのアイスブルーだ。
 父親はくっきりとした二重まぶただからなのか、『涼しげな色香ただよう目もと』と言われて誉められていたけれど、一重まぶたのオレは周囲から『冷たそうな色をしている』としか言われたことがない。

 その間にもオレのあごをつかむ男は、目を細めてこちらを遠慮なく見てくる。
 その眼光は、やけに鋭かった。
 ……というかそれよりも……顔が近い、近すぎる!

 ついでにいうと、今まで生きてきたなかで、こんな髪からあごまでがつながるほど、濃くひげの生えた人は初めて見たというか。
 とにかく、ビックリした。
 いきなり近くで見るには、迫力がありすぎる容貌だ。

「んん、むぐ……っ!?」
『ここは、いったいどこなんだ?』とたずねようとして、声がうまく出せないことに気づく。
 そして同時に感じた息苦しさで、それまでぼんやりとしていたあたまから血の気が引いていき、急激に覚醒していく。

 ───そうだ、オレは領地を出たとたん、人攫いに遭ったんだった!
 そして奴隷として売られるためにどこかに連れてこられたにちがいない!!

「~~~~っ!?」
 そんな危険きわまりない環境に置かれているであろう自分に気がつき、危機感にせき立てられるようにして身を起こす。
 その瞬間、ジャラっと金属同士がぶつかる音が立った。

 あわててその音がしたほうを見下ろせば、首にはめられたベルトのようなものから、鎖が2本のびていた。
 その鎖の先は、オレの両手首をそれぞれ戒める黒革のベルト式の腕輪のような枷へと繋がっている。

 両手首にはめられた革の枷同士は、首からつながる鎖とは別の短いそれでつなげられていて、あまり自由にはなりそうにない。
 試しに何度か左右に引っ張ったところで、手首に巻きつけられた革の手枷がゆるむこともなく、ただジャラジャラと鎖同士がぶつかる音がするだけだった。

 ───いったい、どういう状況なんだこれは?!

 口もとには猿ぐつわがかまされているようだし、どうやさしく見積もっても、なかなかにハードな環境にある。
 さすがにオレも、自分が置かれたこの状況のもたらす危機感に、身体の芯がひんやりとしていく。

「そいつは頑丈だからよ、てめぇのその細腕じゃ、ちぎれはしないぜ?」
 だから、脱走しようとしてもムダだ、とつづけられる。

 たしかに手首だけでなく、オレの右の足首にも黒革の枷がはめられていて、そこから伸びる鎖の先には、わかりやすく重そうな金属のかたまりがつながれていた。
 一見しただけで、貧相なこの足の筋肉じゃ、その重石を引きずって走るのは無理だろうということがわかる。

 とりあえず逃げ出せないように自由を奪う拘束具というオプションは、まごうことなき奴隷商人へ売り飛ばされる奴隷スタイルだった。
 ……それにしては手枷も足枷も金属製じゃなくて、肌へのあたりがやわらかい革製なのは、オレ的には助かるけれど、たぶんこれはふつうではないんだろうな……とは思う。
 あと、やけに気合いの入った装飾過多な革の枷のデザインなんかも、気にはなるんだけど……。

 というよりむしろ、手足に巻かれた拘束具もアレだけど、ほかにももっとツッコむべきことは多々あった。
 たとえばそれは、今の自分の着せられている服装についてだろうか?

 実家を出るときに着ていたはずの洗いざらしのシャツは、なぜだか肌が透けて見える、ごく薄い布でできた───それもやたらと布面積が少ない羽織ものに変えられていて。
 下も、まるで布を巻きつけただけみたいな、露出の多いものに変わっていた。

 さらに腰に巻かれた絹のような肌ざわりの布は膝上丈しかないせいで、ちょっと動くだけで、するりと肌をすべって太もものきわどいところまで見えてしまう仕様だった。

 えーと、あれ……??

 奴隷として売る前に少しでもお金にするために、あの平民服でさえ奪われて簡素な貫頭衣を着せられているというのなら、まだわかる。
 なにしろ相手は、出会いがしらにいきなり略奪行為をはたらくような非常識なヤツらなんだから。

 一般的に奴隷の売買の際には、そうした格好をしているというイメージもあるわたけだし、そうおかしくはない。
 実際、オレが前に街中で見かけたことがある奴隷商人が引き連れてたヤツらは、そんな感じの格好だったように記憶しているし。

 だからまだ、そんなボロを着せられていたなら、意味がわかったんだけど。
 なのに、どうやらオレが着せられている服もどきは、おそらく肌にあたる感覚からしても、元々着ていたやつよりも、はるかに高級そうな生地だった。

 …………ん?
 えぇっと……??
 これはいったい、どういう状況なんだ?!

 なんて言うか、オレが今、身にまとっているこの露出度の高い服の雰囲気をひとことであらわすならば、『南国の踊り子が着ているような服』だろうか。
 しかも、女性用の。
 ……なぁ、だからこれはいったい、どういうことなんだ!?

 オレの常識に照らし合わせるかぎりじゃ、これって、どう見てもふつうの奴隷に着せる服じゃないよな?!
 だれか、オレにこの国の奴隷の売買の常識を教えてくれ!なんてさけびたくなったのはいたしかたなかった。

 しかも、今さら気づいたことだけど、必死に状況を把握しようと周囲を見まわしてみても、オレとおなじ幌馬車に乗せられていたほかの男たちの姿は見当たらない。
 ここにいるのは、たぶんオレと目の前の熊男だけだ。

 単純にかんがえれば、もう彼らには買い手がついて先に売れた、といったところだろうか。
 彼らの方が体格は良かったし、単純に労働力として期待が持てるのだろうと思うし。
 だけどそれにしては、なんでオレが置かれている場所が牢屋じゃないんだろう?という疑問はわきあがってくる。

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