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公爵家での夜
しおりを挟む 予約の合間に、控室でアオイは急いでコンビニのおにぎりを頬張っていた。
どうやら上がりらしい加藤が「お疲れ様で~す」とにこやかに顔を出し、旧式のタイムレコーダーでガチャコンとタイムカードの退勤を切った。うきうきと帰り支度をはじめた加藤だが「あ、そうそう! アオイさん!」とにこにこしながら話し掛けてくる。
加藤は阿部と同じくこの店のボーイだ。明るい髪色に八重歯がチャームポイントの人懐っこい男で、見た目は二十代後半か、三十そこそこか。若く見えるだけで、実際は四十路手前だという話だ。
「今日十八時から予約のお客さん、昨日直接お店に来てくれたんですよ~。アオイさんが今日出勤するって教えてあげたら、出直しますーって。無事予約取れたみたいでよかったですよね~」
それだけなら、別にめずらしい話でもなんでもない。
自惚れでもなんでもなく、事実アオイは大人気で予約を取るのが困難だ。
何せこの店の元No.1。
単純に指名数がランキングに直結するので、社会人となり月に一度か二度程度の出勤しかしないアオイは今でこそランキング圏外だが、その人気は未だ衰えていない。
しかし気になったのはその後に続いた言葉だ。
「若くてイケメンでしたよ。ちょっと不慣れな感じで、可愛かったな~」
思い出したのは、先月新規で接客したあの男――……恐らく身長は一八〇センチ超え。体格もよく、ややタレ目な甘い顔立ちのイケメンだった。
しかし脱いだらガッカリの、まさかの短小・仮性包茎ときた。おまけに、早漏。
肩幅もしっかりあるのに、ややなで肩で、どことなく頼りなく見える。大の男が真っ赤になってオタオタしたり、コンプレックスに苛まれ羞恥に打ち震える姿などは、最高に……。
――は~、可愛かったよな~。
彼はきっとまた来るだろう。いや、来て欲しいと思った。
予約の時間の五分前。「アオイちゃん、予約のお客様いらっしゃいましたよー」と阿部からのコールをもらい、控室へモニターを確認しに行く。
――あ、やっぱり。
相変わらず白黒の、鮮明とは言えない映像だが、あれは間違いなく。
そこに映る若い男の姿に、アオイは思わずにやりと笑った。
「アオイくん、悪い顔してる」
控室でカップ麺をすすっていたスバルが怪訝な顔をする。アオイは笑って誤魔化し準備に向かった。
男を誘ったのは、ほんの気まぐれだった。
そこは大抵、バイトの後に麗とシンと一緒に行く店だ。さっきスバルが食べていたラーメンの匂いを嗅いだせいかもしれない。
予約が詰まっていたせいで、朝からおにぎり一個しか食べていないのだ。とにかく腹が減っていた。
帰り支度と整え店を出ると、男は律儀に店の向かいにあるコンビニの前で待っていた。
店から出てきたアオイを見て、ぺこりと頭を下げる。
――なんっか、可愛いんだよな……。
自分より随分体の大きなこの男が、妙に可愛く思えてしょうがない。
これまで、エルミタージュの客に外で会おうと誘われたことは何度もある。大体はうまくかわすが、昔からの常連客とは外で食事をすることなどもあった。しかし自ら進んで客と接触を図ったのは初めてだ。
単に若いイケメンがめずらしいのか。
それとも初心な反応が面白いのか……。
不本意そうにも〝アオイに会いたくて会いたくてたまらなかった〟という顔を隠し切れていないこの男に、アオイは興味津々だ。
どうやら上がりらしい加藤が「お疲れ様で~す」とにこやかに顔を出し、旧式のタイムレコーダーでガチャコンとタイムカードの退勤を切った。うきうきと帰り支度をはじめた加藤だが「あ、そうそう! アオイさん!」とにこにこしながら話し掛けてくる。
加藤は阿部と同じくこの店のボーイだ。明るい髪色に八重歯がチャームポイントの人懐っこい男で、見た目は二十代後半か、三十そこそこか。若く見えるだけで、実際は四十路手前だという話だ。
「今日十八時から予約のお客さん、昨日直接お店に来てくれたんですよ~。アオイさんが今日出勤するって教えてあげたら、出直しますーって。無事予約取れたみたいでよかったですよね~」
それだけなら、別にめずらしい話でもなんでもない。
自惚れでもなんでもなく、事実アオイは大人気で予約を取るのが困難だ。
何せこの店の元No.1。
単純に指名数がランキングに直結するので、社会人となり月に一度か二度程度の出勤しかしないアオイは今でこそランキング圏外だが、その人気は未だ衰えていない。
しかし気になったのはその後に続いた言葉だ。
「若くてイケメンでしたよ。ちょっと不慣れな感じで、可愛かったな~」
思い出したのは、先月新規で接客したあの男――……恐らく身長は一八〇センチ超え。体格もよく、ややタレ目な甘い顔立ちのイケメンだった。
しかし脱いだらガッカリの、まさかの短小・仮性包茎ときた。おまけに、早漏。
肩幅もしっかりあるのに、ややなで肩で、どことなく頼りなく見える。大の男が真っ赤になってオタオタしたり、コンプレックスに苛まれ羞恥に打ち震える姿などは、最高に……。
――は~、可愛かったよな~。
彼はきっとまた来るだろう。いや、来て欲しいと思った。
予約の時間の五分前。「アオイちゃん、予約のお客様いらっしゃいましたよー」と阿部からのコールをもらい、控室へモニターを確認しに行く。
――あ、やっぱり。
相変わらず白黒の、鮮明とは言えない映像だが、あれは間違いなく。
そこに映る若い男の姿に、アオイは思わずにやりと笑った。
「アオイくん、悪い顔してる」
控室でカップ麺をすすっていたスバルが怪訝な顔をする。アオイは笑って誤魔化し準備に向かった。
男を誘ったのは、ほんの気まぐれだった。
そこは大抵、バイトの後に麗とシンと一緒に行く店だ。さっきスバルが食べていたラーメンの匂いを嗅いだせいかもしれない。
予約が詰まっていたせいで、朝からおにぎり一個しか食べていないのだ。とにかく腹が減っていた。
帰り支度と整え店を出ると、男は律儀に店の向かいにあるコンビニの前で待っていた。
店から出てきたアオイを見て、ぺこりと頭を下げる。
――なんっか、可愛いんだよな……。
自分より随分体の大きなこの男が、妙に可愛く思えてしょうがない。
これまで、エルミタージュの客に外で会おうと誘われたことは何度もある。大体はうまくかわすが、昔からの常連客とは外で食事をすることなどもあった。しかし自ら進んで客と接触を図ったのは初めてだ。
単に若いイケメンがめずらしいのか。
それとも初心な反応が面白いのか……。
不本意そうにも〝アオイに会いたくて会いたくてたまらなかった〟という顔を隠し切れていないこの男に、アオイは興味津々だ。
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