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最終章【鳥と獣と箒の女神】
神々の領域
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宇宙船となったキュートに乗って眠りながら半年間の航海。そのとてつもなく長く、けれど当人達にとっては数時間程度にしか感じられない旅路を経てアイムとニャーンはついに神々の領域まで辿り着いた。
しかし二人の目には何も映らない。全く何も無いように見える。眼前に広がるのは相変わらず星の海だけ。
自分達を運んで来たキュートへ訊ねる。
「本当にここか?」
【アルトゥール様から教えられた座標は、この位置を示しています】
「黄金時計の塔みたいに見えなくなってるんでしょうか……?」
「その可能性もあるな」
守界七柱の一柱たるオクノケセラが住んでいた太陽に通じる塔。あれも位相の異なる空間とやらに隠されていた。ここにある神々の領域も同様の処置を施してあるのかもしれない。
「じゃあ、あの時みたいに入口を作ってみます」
「うむ」
アイムの場合、人間より遥かに優れたその嗅覚で異空間と自分達のいる空間との接点を見つけて強引にこじ開けたのだが、ここには戦いに来たわけではない。なるべく穏便な手段で侵入した方がいいだろう。
そう思ってニャーンに任せたところ、彼女が『入口』を作るより先に二人の脳内でキュートとは別の声が響いた。
【その必要は無い。君達には呼び鈴を鳴らすという文化が無いのか? 入口はこちらで開けるから入って来たまえ】
直後、目の前に渦巻く藍色の光が現れた。顔を見合わせる二人。
「今の声って……たしか眼神アル……トオル……様?」
「アルトゥールじゃ。これから仲間になるんじゃろ、ちゃんと覚えてやれ」
「すいません、文字数が多くて……」
「そんなに多かないわい。ったく、神になっても相変わらず記憶力はポンコツじゃな」
「ポ、ポンコツじゃないです。それに神様になった実感も、まだいまいち……」
「まあ、あんまり変わったように見えんのは確かじゃ」
半年前の戦いでオクノケセラから力を継承し、ニャーンは神になった――らしいのだが、それを実感できる部分は今のところほとんど見当たらない。能力は以前と大差無いように見えるし奇跡も一度しか起こさなかった。
(あのユニを改心させた……あれだけは、たしかにとんでもない偉業じゃったがな)
ただ、あれはアイムには神の起こした御業というよりニャーンの元々持っていた性質の成せる業ではないかとも思える。たとえ神だとてオクノケセラに同じことができたはずはない。神々にさえ手の付けられない『悪意』の塊だったからこそ、あの男は千年以上もこの異世界で好き放題できていたのだ。
(そもそも、こやつは何の神なのだ? オクノケセラの力を継いだなら、やはり試練の神になったのか?)
しかし、そうなると流石に人選ミスと言わざるを得ない。ニャーンの優しすぎる性格は人を試し成長を促す神の後継には不向きだ。そんなことはオクノケセラもわかっていたはず。
(これから決まる……ということかもしれんな)
なんにせよ、先に進めばわかること。結論付けた彼は正面の光を改めて見据える。
「よし、行くぞ」
「はい。キュート、お願い」
【わかりました】
すでに神々と対話する覚悟は決まっている。二人と一体の怪物は迷うことなく光の中へ進んだ。
そして目の前に広がったのは、これまで見ていた宇宙とは似ているようで異なる光景。
「こ、ここが……神様達のいる場所?」
【ええ、すでにお待ちのはずです】
宇宙船から白い鳥に戻って二人を地面に下ろすキュート。それは地面というか透明なガラス板のような代物だった。ニャーンとアイムにとっては正直心許無い。
「割れたりしませんよね……?」
「流石にそんな脆かないじゃろ……まあ、不安にはなるが」
こんなところで落ち着いて話ができるのか? 神々の感覚はわからんとアイムは嘆く。
「これ、星……じゃない。すぐ近くにある……」
周囲に浮かぶ星のようなものは、よく見ると泡。彼女達の入った空間全体を包む大きな泡の中に無数の小さな泡が浮遊している。なんとも幻想的で不思議な光景。
ニャーンは黄金時計の塔の中でオクノケセラから見せられた界球器とその中の並行世界群の映像を思い出した。もしかすると、この大きな泡と小さな泡は――
直後、口を開けて呆然と見渡していた彼女はアイムに背中を叩かれる。バシンという音が神々の領域に響いた。
「ひゃんっ!?」
「シャキッとせい! 今はお主も神じゃろうが!」
「だ、だからまだ実感が……もうっ、すぐ叩くのやめてください」
「すぐ叩かれるような振る舞いを改めんかい! まったく、これじゃあおちおち……」
「おちおち?」
何故か黙ってしまった彼の態度を不思議に思い、小首を傾げる。
けれどアイムはフンと鼻を鳴らすと話題を変えてしまった。
「んなことより、ほれ、あそこにいるのがワシらを呼んだ連中じゃろ」
「あっ」
ようやくニャーンも気付く。上ばかり見ていたせいで見えてなかったけれど、たしかに行く手に数人の男女の姿があった。慌てて走り出す彼女。ギョッとしながらついて行くアイム。キュートも羽を広げて彼女の頭上を飛ぶ。
【ニャーン、どうして走るのですか?】
「だ、だって! お待たせしてしまったら失礼だし!」
「目の前で走るのは失礼ちゃうんかい!」
そんなこんなで二人と一体は慌ただしく六柱の前へ駆け込んだ。立ち止まり、息を切らしながら問いかけるニャーン。
「あ、あの! しゅ、しゅ……」
【守界七柱】
「あっ、ありがとキュート。しゅかいななちゅー様ですよね!」
「お主、さてはどういう字かわかっとらんな……?」
問いかけられた六柱側は半数以上が困惑顔。
「おい、これが本当にオクノケセラの選んだ後継か……?」
「ううむ……」
「本当に務まるのかね?」
「人間の中でも鈍くさい部類に見える」
「あうっ……」
いきなりの言われようにたじろぐニャーン。けれども彼女には大事な使命がある。それを果たすべく、まずは礼儀を尽くさねばと考えて呼吸を整えながら頭を下げた。まだ質問に答えてもらっていないけれど、見覚えのあるアルトゥールがいる以上この方々が『しゅかいななちゅー』で合っているはず。
「はじめまして! ニャーン・アクラタカです! 本日は皆様とお話しをさせていただきたぐえっ、ひゃなふへ! たふっ、思ひ! お邪魔させていただきました!」
舌を噛みながらもどうにか事前に考えておいた言葉を言い切る。神様になって回復力が上がっていて良かった。もう痛みも無い。
すると青い肌の妖艶な美女がゆったりした足取りで近付いて来る。やけに肌の露出の多い服装で色んな意味でドキドキ。
「まあまあ、そう固くならないで」
一見、白と見紛うほど薄い水色の瞳。ニャーンよりさらに背が高く、中心にいくほど僅かに色が濃くなる不思議な双眸で面白そうに上から覗き込む。なんだか吸い込まれそう。
「リラックスしてちょうだい子猫ちゃん。ところで貴女、私達が『守界七柱』だと思っているようだけれど違うと言ったらどうするの? アルトゥールだけがそうで、他の五人は全く別の何かかもしれないわよ?」
「そうなんですか!? すすすすす、すいませんっ!」
「いやいや、どう見てもこいつらじゃろ」
呆れ顔で指差すアイム。青い肌の女神はケラケラ笑った。
「あはは、面白い。流石はオクノケセラが選んだ子ね、私の好みにも合う」
「ネスラ、からかうな」
窘めるアルトゥール。それからニャーンを見てピクリとも動かない鉄面皮のまま答えた。
「安心しろ、間違えてはいない、ここにいるのはたしかに全員が守界七柱。その軽佻浮薄な女神も含めてな。彼女は知恵の神ケナセネスラ、オクノケセラとは双子の姉妹のような関係にある」
「なに?」
ニャーンより素早く反応するアイム。彼にとってオクノケセラは育て親だった。だが姉妹がいるなどと聞いた覚えは無い。
今度は当人がアルトゥールに対し反論を行う。
「モデルとなった『魔王』が同じなだけでしょ。妾達『知神』は『カロラクシュカ』の知性を参考にして創られた。オクノケセラ達『嵐神』は彼女の心を惑わす力を再現した。それだけの話でしかないわ」
だからと言葉を続け、今度はアイムの方に顔を向ける。
「気に病む必要は無いの子犬ちゃん。妾にとって彼女の死は家族の死ではなく友人の死。いつかの再会も約束されている以上、それほど悲しくはない。貴方がアイム・ユニティね?」
「……ああ」
「なるほど」
今度は揃って納得顔で頷くアルトゥール以外の五柱。値踏みするようにアイムを無遠慮に見つめ、口々に評価を下し始める。
「ケセラに似てるわ」
「ゲルニカの面影もある。奴の因子はたしかに覚醒済みだ」
「うむ、強い」
「たしか千歳程度だったはずだね。その年齢でそこまで到達できるのは、なかなかのものだ」
「ゆえにこそ、極めて危険と言えよう」
「!」
反射的に身構えるアイム。六柱のうち半数から凄まじい殺気が発せられた。隠そうとすらしないそれが肌をヒリつかせる。拳すら合わせぬうちに伝わってくる圧倒的な存在感。
強い、途方も無く。
「ど、どういうことですか!」
ニャーンも感じ取って杖を構える。キュートはそんな彼女の背に取りついて巨大な白い翼に変化した。彼女には戦うつもりなど全く無い。けれど六柱がアイムを害しようとするなら当然、一緒に抗う。
もちろん、その必要は無かった。少なくとも今は。
神々の中で最も幼い容姿の、少女のようにも少年のようにも見える神が踵を返す。アイムに対し強烈な殺意を叩きつけた三柱の中の一柱だが、真っ先に背中を向けた。
「皆、座れ。我等は蛮神に非ず、まずは話し合おう」
「アルヴザインの言う通りよ。大人しくなさいテムガモシリ、ウーヌラカルボ」
「わかっている」
「チェッ、アルヴが真っ先に仕掛けたくせに。ずるいんだからなあ、もう」
文句を言いながらも従う他の二柱。彼等と共にケナセネスラも奥に見える椅子が並んだ場所へと歩いて行く。
残った二柱、アルトゥールと名も知らぬ白髪の老人のうち後者が恭しくお辞儀しながら先へ進むよう促した。
「どうぞ、あちらへ」
「はい……」
「フン、釘を刺されたわけか」
強がりながらもアイムはニャーン同様に冷や汗をかいている。さっきのほんの数秒の対峙だけで理解できた。今の自分ではまだこの六柱に勝つことはできない。たとえ『限りなき獣』として力を使っても、おそらくは一柱とて倒せずに終わる。
(ユニの奴がニャーンの力まで欲しがったわけだ。奴の知識と眼力、こやつの能力、さらにワシの力まで組み合わせてようやく勝負になるかどうかといったところじゃろう)
流石に世界の守護者たる者達。格が違う。
「こっちだ」
討議の場はすぐそこなのだが、律義に先に立って導くアルトゥール。それから一度だけ軽く振り返りながら言った。
「ようこそ、我等の庭園へ」
しかし二人の目には何も映らない。全く何も無いように見える。眼前に広がるのは相変わらず星の海だけ。
自分達を運んで来たキュートへ訊ねる。
「本当にここか?」
【アルトゥール様から教えられた座標は、この位置を示しています】
「黄金時計の塔みたいに見えなくなってるんでしょうか……?」
「その可能性もあるな」
守界七柱の一柱たるオクノケセラが住んでいた太陽に通じる塔。あれも位相の異なる空間とやらに隠されていた。ここにある神々の領域も同様の処置を施してあるのかもしれない。
「じゃあ、あの時みたいに入口を作ってみます」
「うむ」
アイムの場合、人間より遥かに優れたその嗅覚で異空間と自分達のいる空間との接点を見つけて強引にこじ開けたのだが、ここには戦いに来たわけではない。なるべく穏便な手段で侵入した方がいいだろう。
そう思ってニャーンに任せたところ、彼女が『入口』を作るより先に二人の脳内でキュートとは別の声が響いた。
【その必要は無い。君達には呼び鈴を鳴らすという文化が無いのか? 入口はこちらで開けるから入って来たまえ】
直後、目の前に渦巻く藍色の光が現れた。顔を見合わせる二人。
「今の声って……たしか眼神アル……トオル……様?」
「アルトゥールじゃ。これから仲間になるんじゃろ、ちゃんと覚えてやれ」
「すいません、文字数が多くて……」
「そんなに多かないわい。ったく、神になっても相変わらず記憶力はポンコツじゃな」
「ポ、ポンコツじゃないです。それに神様になった実感も、まだいまいち……」
「まあ、あんまり変わったように見えんのは確かじゃ」
半年前の戦いでオクノケセラから力を継承し、ニャーンは神になった――らしいのだが、それを実感できる部分は今のところほとんど見当たらない。能力は以前と大差無いように見えるし奇跡も一度しか起こさなかった。
(あのユニを改心させた……あれだけは、たしかにとんでもない偉業じゃったがな)
ただ、あれはアイムには神の起こした御業というよりニャーンの元々持っていた性質の成せる業ではないかとも思える。たとえ神だとてオクノケセラに同じことができたはずはない。神々にさえ手の付けられない『悪意』の塊だったからこそ、あの男は千年以上もこの異世界で好き放題できていたのだ。
(そもそも、こやつは何の神なのだ? オクノケセラの力を継いだなら、やはり試練の神になったのか?)
しかし、そうなると流石に人選ミスと言わざるを得ない。ニャーンの優しすぎる性格は人を試し成長を促す神の後継には不向きだ。そんなことはオクノケセラもわかっていたはず。
(これから決まる……ということかもしれんな)
なんにせよ、先に進めばわかること。結論付けた彼は正面の光を改めて見据える。
「よし、行くぞ」
「はい。キュート、お願い」
【わかりました】
すでに神々と対話する覚悟は決まっている。二人と一体の怪物は迷うことなく光の中へ進んだ。
そして目の前に広がったのは、これまで見ていた宇宙とは似ているようで異なる光景。
「こ、ここが……神様達のいる場所?」
【ええ、すでにお待ちのはずです】
宇宙船から白い鳥に戻って二人を地面に下ろすキュート。それは地面というか透明なガラス板のような代物だった。ニャーンとアイムにとっては正直心許無い。
「割れたりしませんよね……?」
「流石にそんな脆かないじゃろ……まあ、不安にはなるが」
こんなところで落ち着いて話ができるのか? 神々の感覚はわからんとアイムは嘆く。
「これ、星……じゃない。すぐ近くにある……」
周囲に浮かぶ星のようなものは、よく見ると泡。彼女達の入った空間全体を包む大きな泡の中に無数の小さな泡が浮遊している。なんとも幻想的で不思議な光景。
ニャーンは黄金時計の塔の中でオクノケセラから見せられた界球器とその中の並行世界群の映像を思い出した。もしかすると、この大きな泡と小さな泡は――
直後、口を開けて呆然と見渡していた彼女はアイムに背中を叩かれる。バシンという音が神々の領域に響いた。
「ひゃんっ!?」
「シャキッとせい! 今はお主も神じゃろうが!」
「だ、だからまだ実感が……もうっ、すぐ叩くのやめてください」
「すぐ叩かれるような振る舞いを改めんかい! まったく、これじゃあおちおち……」
「おちおち?」
何故か黙ってしまった彼の態度を不思議に思い、小首を傾げる。
けれどアイムはフンと鼻を鳴らすと話題を変えてしまった。
「んなことより、ほれ、あそこにいるのがワシらを呼んだ連中じゃろ」
「あっ」
ようやくニャーンも気付く。上ばかり見ていたせいで見えてなかったけれど、たしかに行く手に数人の男女の姿があった。慌てて走り出す彼女。ギョッとしながらついて行くアイム。キュートも羽を広げて彼女の頭上を飛ぶ。
【ニャーン、どうして走るのですか?】
「だ、だって! お待たせしてしまったら失礼だし!」
「目の前で走るのは失礼ちゃうんかい!」
そんなこんなで二人と一体は慌ただしく六柱の前へ駆け込んだ。立ち止まり、息を切らしながら問いかけるニャーン。
「あ、あの! しゅ、しゅ……」
【守界七柱】
「あっ、ありがとキュート。しゅかいななちゅー様ですよね!」
「お主、さてはどういう字かわかっとらんな……?」
問いかけられた六柱側は半数以上が困惑顔。
「おい、これが本当にオクノケセラの選んだ後継か……?」
「ううむ……」
「本当に務まるのかね?」
「人間の中でも鈍くさい部類に見える」
「あうっ……」
いきなりの言われようにたじろぐニャーン。けれども彼女には大事な使命がある。それを果たすべく、まずは礼儀を尽くさねばと考えて呼吸を整えながら頭を下げた。まだ質問に答えてもらっていないけれど、見覚えのあるアルトゥールがいる以上この方々が『しゅかいななちゅー』で合っているはず。
「はじめまして! ニャーン・アクラタカです! 本日は皆様とお話しをさせていただきたぐえっ、ひゃなふへ! たふっ、思ひ! お邪魔させていただきました!」
舌を噛みながらもどうにか事前に考えておいた言葉を言い切る。神様になって回復力が上がっていて良かった。もう痛みも無い。
すると青い肌の妖艶な美女がゆったりした足取りで近付いて来る。やけに肌の露出の多い服装で色んな意味でドキドキ。
「まあまあ、そう固くならないで」
一見、白と見紛うほど薄い水色の瞳。ニャーンよりさらに背が高く、中心にいくほど僅かに色が濃くなる不思議な双眸で面白そうに上から覗き込む。なんだか吸い込まれそう。
「リラックスしてちょうだい子猫ちゃん。ところで貴女、私達が『守界七柱』だと思っているようだけれど違うと言ったらどうするの? アルトゥールだけがそうで、他の五人は全く別の何かかもしれないわよ?」
「そうなんですか!? すすすすす、すいませんっ!」
「いやいや、どう見てもこいつらじゃろ」
呆れ顔で指差すアイム。青い肌の女神はケラケラ笑った。
「あはは、面白い。流石はオクノケセラが選んだ子ね、私の好みにも合う」
「ネスラ、からかうな」
窘めるアルトゥール。それからニャーンを見てピクリとも動かない鉄面皮のまま答えた。
「安心しろ、間違えてはいない、ここにいるのはたしかに全員が守界七柱。その軽佻浮薄な女神も含めてな。彼女は知恵の神ケナセネスラ、オクノケセラとは双子の姉妹のような関係にある」
「なに?」
ニャーンより素早く反応するアイム。彼にとってオクノケセラは育て親だった。だが姉妹がいるなどと聞いた覚えは無い。
今度は当人がアルトゥールに対し反論を行う。
「モデルとなった『魔王』が同じなだけでしょ。妾達『知神』は『カロラクシュカ』の知性を参考にして創られた。オクノケセラ達『嵐神』は彼女の心を惑わす力を再現した。それだけの話でしかないわ」
だからと言葉を続け、今度はアイムの方に顔を向ける。
「気に病む必要は無いの子犬ちゃん。妾にとって彼女の死は家族の死ではなく友人の死。いつかの再会も約束されている以上、それほど悲しくはない。貴方がアイム・ユニティね?」
「……ああ」
「なるほど」
今度は揃って納得顔で頷くアルトゥール以外の五柱。値踏みするようにアイムを無遠慮に見つめ、口々に評価を下し始める。
「ケセラに似てるわ」
「ゲルニカの面影もある。奴の因子はたしかに覚醒済みだ」
「うむ、強い」
「たしか千歳程度だったはずだね。その年齢でそこまで到達できるのは、なかなかのものだ」
「ゆえにこそ、極めて危険と言えよう」
「!」
反射的に身構えるアイム。六柱のうち半数から凄まじい殺気が発せられた。隠そうとすらしないそれが肌をヒリつかせる。拳すら合わせぬうちに伝わってくる圧倒的な存在感。
強い、途方も無く。
「ど、どういうことですか!」
ニャーンも感じ取って杖を構える。キュートはそんな彼女の背に取りついて巨大な白い翼に変化した。彼女には戦うつもりなど全く無い。けれど六柱がアイムを害しようとするなら当然、一緒に抗う。
もちろん、その必要は無かった。少なくとも今は。
神々の中で最も幼い容姿の、少女のようにも少年のようにも見える神が踵を返す。アイムに対し強烈な殺意を叩きつけた三柱の中の一柱だが、真っ先に背中を向けた。
「皆、座れ。我等は蛮神に非ず、まずは話し合おう」
「アルヴザインの言う通りよ。大人しくなさいテムガモシリ、ウーヌラカルボ」
「わかっている」
「チェッ、アルヴが真っ先に仕掛けたくせに。ずるいんだからなあ、もう」
文句を言いながらも従う他の二柱。彼等と共にケナセネスラも奥に見える椅子が並んだ場所へと歩いて行く。
残った二柱、アルトゥールと名も知らぬ白髪の老人のうち後者が恭しくお辞儀しながら先へ進むよう促した。
「どうぞ、あちらへ」
「はい……」
「フン、釘を刺されたわけか」
強がりながらもアイムはニャーン同様に冷や汗をかいている。さっきのほんの数秒の対峙だけで理解できた。今の自分ではまだこの六柱に勝つことはできない。たとえ『限りなき獣』として力を使っても、おそらくは一柱とて倒せずに終わる。
(ユニの奴がニャーンの力まで欲しがったわけだ。奴の知識と眼力、こやつの能力、さらにワシの力まで組み合わせてようやく勝負になるかどうかといったところじゃろう)
流石に世界の守護者たる者達。格が違う。
「こっちだ」
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