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四章【赤い波を越えて】
迎撃準備(1)
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――第七大陸での死闘から三ヶ月が経過した。いつも通り統一性の無い服装のアイムと僧服姿のニャーンは互いに出会った第四大陸へ戻り、今もまた並んで空を見上げている。煌々と無数の星が瞬く宇宙を。
夥しい数の凶星。それが赤い輝きを放ちながら全天を包囲しつつある。その前進が止まることはなく、この惑星を粉微塵に粉砕するまで無慈悲に突き進み続けるだろう。
なのにアイム達は、さほど焦っていない。
「十万か。数だけ聞くと大したもんだが、こうして実際に目にすると存外まばらだな」
「いつも見えているお星様の方が多いですもんね」
夜空が広すぎて星々の中にぽつんぽつんと赤い光が混じっている感じである。想像していたほど迫力は無い。
もっとも、まだ距離があるからの話だ。さらに近付かれたら印象も変わるに違いない。星に凶星の息吹がかかるほど近くなったなら、おそらくは空を赤い光が埋め尽くしてしまう。
できれば、そうなる前に対処せねばならない。
「作戦を確認しよう」
そう言ったのは第四大陸を二分する二大国の王の片割れ、バイシャネイルの皇帝ヌダラス。荒野に敷いた本陣の中央、机の上に作戦概略図を広げて周囲の者達を呼び集める。
「何故お前が仕切る?」
「別にいいだろう」
「兄さん、作戦会議だって。ニャーンさんのお尻を見るのは後にして」
「し、尻なんて見てない!」
まずやって来たのは彼と対立する国家の王であり、幼い頃からの友人でもあるゾテアーロの国王スアルマ。そして第一大陸の英雄グレン・ハイエンド。第五大陸の新星ズウラと妹スワレ。さらに何人かの精霊に祝福されし者達と二大国の軍の将官達。
面識の無かった者達は騒がしい兄妹に注目する。
「あれが例の、第五大陸に隠されていたという……」
「ああ、地下都市の住民だ」
「兄妹揃ってかなり強力な能力者らしいぞ」
「なんか見られてないかオレ達?」
「見られてるよ」
好奇の目を向けられ、まだ外界の人間に慣れていない二人は少しばかり緊張した。そこへアイムとニャーンが近付いて行って声をかける。
「シャンとせい、堂々としとりゃええんじゃ」
「そ、そ、そ、そうですよ。わわわわわ私も、いっしょですから」
「落ち着いてニャーンさん」
「オレ達より緊張してるじゃないですか……」
今なお自己評価の低いニャーンはお偉方だらけのこの場の雰囲気に飲まれてしまっているようだ。おかげで双子の方はかえってリラックスできた。彼女を見ているとこの人は自分達が支えなければ駄目だという意識が働く。
「ったく、相変わらずのポンコツめ。まあ、お主はそれでいいのかもしれんな。周りが勝手に成長して支えてくれる」
嘆息しつつヌダラスとスアルマ、第四大陸の二大王が並ぶ位置の対面に立つアイム。ニャーンは自然とその隣に並び、そんな彼女とアイムを挟むようにして双子も足を止めた。グレンはどちらのグループにも属さず別方向から概略図を見下ろす。
といっても作戦はシンプルである。正面に立つ四人と彼から見て左に立ったグレンを順に見渡すヌダラス。
「我々には一部を除いて宇宙へ上がる手段が無い。その一部の例外であるアイムとグレン殿の二人にはこの線の辺り、月の周回軌道より外側の第一防衛線での迎撃を任せる」
そう言って指したのは母星を取り巻く形で描かれた三重の輪の最も外側の円。つまりこの場から最も遠く、迫り来る敵には一番近いラインである。ここを最強の矛たる二人が担当する。
「うむ」
「任せてくれ」
それぞれ頷くアイムとグレン。星獣のアイムは元々この星を守るために宇宙空間でも活動可能な肉体で生み出された。グレンも精霊と同化した状態でなら問題無く星外活動が可能だとこの三ヶ月の間に実験を繰り返して実証されている。
二人の意志を確認したヌダラスは、次にニャーンを見つめながら指先を二つ目の輪へ移動させた。今度は月の周回軌道よりも内側。
「ニャーンさんは、彼等より後方で援護と怪塵の回収を」
「はい! 頑張ろうね、キュート」
【お任せください。戦力を考えればこれが妥当な作戦でしょう】
彼女の後ろで控えていた白鳥が首だけ隙間から突っ込んで概略図を見ながら評価する。この星に落ちて来た『最初の凶星』でもある彼は『船』となって彼女を守ってくれるらしい。だから彼女も宇宙で活動できる。
最優先で守るべき少女を前線へ送り出さねばならないのがこの作戦の難点だが、この怪物は強力な護衛でもあるし、もう一人頼もしい仲間が同乗する予定にもなっている。きっと守ってくれるに違いない。
「スワレ殿、ニャーン殿を頼みますぞ」
「はい。今度こそ守り抜いてみせます」
スアルマの言葉に迷いなく頷くスワレ。三ヶ月前の事件でユニ・オーリに後れを取りニャーンを拉致されてしまった彼女は同じ轍を踏むまいと誰よりも強く意気込んでいるのだ。そのために傷が治ってから毎日欠かさず訓練して来た。彼女も今や一人前の能力者である。
ヌダラスは概略図に書かれた母星の、その周囲を取り巻く三重の輪を改めて外から順番に指していく。万が一にも失敗はできない。各員が誤解したまま作戦に取りかからぬよう、しっかりと確認しておく必要がある。だから主要メンバー以外にも聞こえるよう声を張り上げた。
「第一防衛線はアイム殿とグレン殿の担当。やることは単純で、とにかくひたすら赤い凶星を破壊。極力弱らせ、理想としては怪塵の状態にしてこちらの第二防衛線を守るニャーンさんとスワレさんの元に送り込む」
「まあ、勝手に引き寄せられるだろう。怪塵の状態でなら星の重力に引っ張られるし、凶星のままだとしても元々この星を目指しているわけだからな」
補足するスアルマ。たしかにと頷く一同。こちらが何をしなくとも敵は絶対にこちらへ近付いて来る。
「そこで今度はニャーン殿の出番だ。彼女の能力で敵を順次味方に引き入れる」
【私と同じようにですね】
今度はキュートが補足。彼は元々この星を破壊しに来た赤い凶星の一つだったがニャーンの力で管理者権限を書き換えられて人類側の戦力になった。それと同じことをこの戦いでも実行する。
つまり最前線のアイムとグレン、そしてその次に控えるニャーンが頑張れば頑張るほどこちらの戦力は増大し、向こうは疲弊していく。最終的には今回送り込まれてきた全戦力を奪い取ることが目標。敵が撤退するかこちらが全滅させられない限りは、おそらくそうなる。
「問題は数ですな」
「この作戦では初動こそ最も重要です。そこで失敗すると確実に被害が大きくなる」
立て続けに指摘したのはバイシャネイルとゾテアーロが保有する対怪物部隊のそれぞれの指揮官。今回は合同作戦なので長々と協議した結果バイシャネイル側が総司令、ゾテアーロ側は補佐という役割分担になっている。
総司令を務める黒髪の偉丈夫はアイムとグレンを厳めしい顔つきで見つめた。隠しているがその目には不安の色が滲んでいる。
「向こうは十万。しかも全方向から攻めて来るのに対し、こちらは攻撃役がたった二人です。敵をこちらに取り込む力を持っているのもニャーン殿一人。となると作戦の肝は、いかに素早く敵戦力を減らして自軍を増強できるかにかかっています」
「そこでまず、アイム様とグレン様にはこの大陸の直上で戦ってもらいます」
と、メガネの位置を直しながら言ったのはゾテアーロ軍の代表。名はナナサン。軍人だがなんとまだうら若き女性である。目には見えない不可視の波の精霊に祝福されし者でもある彼女は、その力とたゆまぬ研鑽によって実力第一主義のゾテアーロで初の女性大将の地位まで上り詰めた。
長年メガネを愛用している者の癖で無意識にくいっとツルを持ち上げるナナサン。レンズが光を反射してきらりと輝く。
「母星の周辺宙域を表と裏に二分してお二人にそれぞれを担当してもらう案もありましたが、それでは撃破に時間がかかるかもしれません。寝返らせる能力を持つニャーン嬢もお一人。双方の戦域を行き来するのも手間です。なので戦力を分散させるより集中させて戦いましょう」
「うむ、異論は無い」
「分散しては各個撃破の的になりかねないしな」
アイムもグレンも三ヶ月前よりさらに強くなっている。とはいえ相手は一体一体が極めて強力な兵器だ、甘く見てかかれば足下を掬われるだろう。まして数ではこちらが大幅に負けている。数の暴力に対抗するには、こちらも可能な限り結束するしかない。
「そして、こちら側に取り込んだ戦力は順次その宙域の防衛に充てて次へ移動します。念のために確認しますが可能ですね? ニャーンさん」
「はい。味方にした子はキュートが説得して『ぼうえいしすてむ』? とかいうのに変えてくれるそうです」
【主の意向により攻撃機能は持たせませんが、強力な防壁を構築して敵に足止めないし迂回を強要します】
「であれば問題ありません。状況に合わせて対応は柔軟に変えなければなりませんし、実際にどう動くかは御三方次第です。ですが、撃ち漏らしは極力第五大陸へと集まるようにしていただければ助かります」
「わかっとる、そのために第五の連中を避難させたんじゃ」
フンと鼻を鳴らすアイム。凶星が一つでも母星に辿り着いてしまえば人類は終わり。挙句に総数は十万。もはや地下に隠れても意味はあるまいと考え、今まで存在を秘してきたテアドラスも含め第五大陸の住民全てをここ第四大陸に避難させた。無人になった第五大陸はこの作戦中、星を守る最終防衛線として機能することになる。
つまり三重の輪の最後の一つは地上に残る戦力を示す。
「頼むぞズウラ、最後はお主が頼りじゃ」
「は、はいっ!」
大役に任ぜられたことを思い出し、再び緊張した面持ちで答えるズウラ。今や彼の能力はそれによって引き起こせる事象の規模だけで言うとニャーンに匹敵する。つまりアイムやグレンより強大な力を発揮できるのだ。だからこその最終防衛線の要。
もちろん戦力は彼だけではない。各大陸では今、住民達を守りやすい場所に集結させつつ軍隊や能力者達もその場に集って守りを固めている。
「ニャーンの能力でも全ての怪塵を集め切れるとは限らん。むしろ、この広大な戦場で全体の状況を正確に把握することは不可能に近い。凶星の状態では絶対に近付かせんが、それでも星の引力によって必ず地上に辿り着く怪塵怪物が現れる。そいつらから皆を守るのが主らの役目じゃ」
「うむ」
「任せてくれ。そのために我々も力を蓄えて来た」
不敵に笑うヌダラスとスアルマ。ナナサンら対怪物連合軍の兵達も雄叫びを上げる。
「いよいよ、我等の本領を発揮する時が来た!」
「負けたら全て終わる! だが、勝てば我等の名は歴史に残るだろう!」
「オオッ!」
そんな彼等の姿を、ニャーンは複雑そうな表情で見つめている。
夥しい数の凶星。それが赤い輝きを放ちながら全天を包囲しつつある。その前進が止まることはなく、この惑星を粉微塵に粉砕するまで無慈悲に突き進み続けるだろう。
なのにアイム達は、さほど焦っていない。
「十万か。数だけ聞くと大したもんだが、こうして実際に目にすると存外まばらだな」
「いつも見えているお星様の方が多いですもんね」
夜空が広すぎて星々の中にぽつんぽつんと赤い光が混じっている感じである。想像していたほど迫力は無い。
もっとも、まだ距離があるからの話だ。さらに近付かれたら印象も変わるに違いない。星に凶星の息吹がかかるほど近くなったなら、おそらくは空を赤い光が埋め尽くしてしまう。
できれば、そうなる前に対処せねばならない。
「作戦を確認しよう」
そう言ったのは第四大陸を二分する二大国の王の片割れ、バイシャネイルの皇帝ヌダラス。荒野に敷いた本陣の中央、机の上に作戦概略図を広げて周囲の者達を呼び集める。
「何故お前が仕切る?」
「別にいいだろう」
「兄さん、作戦会議だって。ニャーンさんのお尻を見るのは後にして」
「し、尻なんて見てない!」
まずやって来たのは彼と対立する国家の王であり、幼い頃からの友人でもあるゾテアーロの国王スアルマ。そして第一大陸の英雄グレン・ハイエンド。第五大陸の新星ズウラと妹スワレ。さらに何人かの精霊に祝福されし者達と二大国の軍の将官達。
面識の無かった者達は騒がしい兄妹に注目する。
「あれが例の、第五大陸に隠されていたという……」
「ああ、地下都市の住民だ」
「兄妹揃ってかなり強力な能力者らしいぞ」
「なんか見られてないかオレ達?」
「見られてるよ」
好奇の目を向けられ、まだ外界の人間に慣れていない二人は少しばかり緊張した。そこへアイムとニャーンが近付いて行って声をかける。
「シャンとせい、堂々としとりゃええんじゃ」
「そ、そ、そ、そうですよ。わわわわわ私も、いっしょですから」
「落ち着いてニャーンさん」
「オレ達より緊張してるじゃないですか……」
今なお自己評価の低いニャーンはお偉方だらけのこの場の雰囲気に飲まれてしまっているようだ。おかげで双子の方はかえってリラックスできた。彼女を見ているとこの人は自分達が支えなければ駄目だという意識が働く。
「ったく、相変わらずのポンコツめ。まあ、お主はそれでいいのかもしれんな。周りが勝手に成長して支えてくれる」
嘆息しつつヌダラスとスアルマ、第四大陸の二大王が並ぶ位置の対面に立つアイム。ニャーンは自然とその隣に並び、そんな彼女とアイムを挟むようにして双子も足を止めた。グレンはどちらのグループにも属さず別方向から概略図を見下ろす。
といっても作戦はシンプルである。正面に立つ四人と彼から見て左に立ったグレンを順に見渡すヌダラス。
「我々には一部を除いて宇宙へ上がる手段が無い。その一部の例外であるアイムとグレン殿の二人にはこの線の辺り、月の周回軌道より外側の第一防衛線での迎撃を任せる」
そう言って指したのは母星を取り巻く形で描かれた三重の輪の最も外側の円。つまりこの場から最も遠く、迫り来る敵には一番近いラインである。ここを最強の矛たる二人が担当する。
「うむ」
「任せてくれ」
それぞれ頷くアイムとグレン。星獣のアイムは元々この星を守るために宇宙空間でも活動可能な肉体で生み出された。グレンも精霊と同化した状態でなら問題無く星外活動が可能だとこの三ヶ月の間に実験を繰り返して実証されている。
二人の意志を確認したヌダラスは、次にニャーンを見つめながら指先を二つ目の輪へ移動させた。今度は月の周回軌道よりも内側。
「ニャーンさんは、彼等より後方で援護と怪塵の回収を」
「はい! 頑張ろうね、キュート」
【お任せください。戦力を考えればこれが妥当な作戦でしょう】
彼女の後ろで控えていた白鳥が首だけ隙間から突っ込んで概略図を見ながら評価する。この星に落ちて来た『最初の凶星』でもある彼は『船』となって彼女を守ってくれるらしい。だから彼女も宇宙で活動できる。
最優先で守るべき少女を前線へ送り出さねばならないのがこの作戦の難点だが、この怪物は強力な護衛でもあるし、もう一人頼もしい仲間が同乗する予定にもなっている。きっと守ってくれるに違いない。
「スワレ殿、ニャーン殿を頼みますぞ」
「はい。今度こそ守り抜いてみせます」
スアルマの言葉に迷いなく頷くスワレ。三ヶ月前の事件でユニ・オーリに後れを取りニャーンを拉致されてしまった彼女は同じ轍を踏むまいと誰よりも強く意気込んでいるのだ。そのために傷が治ってから毎日欠かさず訓練して来た。彼女も今や一人前の能力者である。
ヌダラスは概略図に書かれた母星の、その周囲を取り巻く三重の輪を改めて外から順番に指していく。万が一にも失敗はできない。各員が誤解したまま作戦に取りかからぬよう、しっかりと確認しておく必要がある。だから主要メンバー以外にも聞こえるよう声を張り上げた。
「第一防衛線はアイム殿とグレン殿の担当。やることは単純で、とにかくひたすら赤い凶星を破壊。極力弱らせ、理想としては怪塵の状態にしてこちらの第二防衛線を守るニャーンさんとスワレさんの元に送り込む」
「まあ、勝手に引き寄せられるだろう。怪塵の状態でなら星の重力に引っ張られるし、凶星のままだとしても元々この星を目指しているわけだからな」
補足するスアルマ。たしかにと頷く一同。こちらが何をしなくとも敵は絶対にこちらへ近付いて来る。
「そこで今度はニャーン殿の出番だ。彼女の能力で敵を順次味方に引き入れる」
【私と同じようにですね】
今度はキュートが補足。彼は元々この星を破壊しに来た赤い凶星の一つだったがニャーンの力で管理者権限を書き換えられて人類側の戦力になった。それと同じことをこの戦いでも実行する。
つまり最前線のアイムとグレン、そしてその次に控えるニャーンが頑張れば頑張るほどこちらの戦力は増大し、向こうは疲弊していく。最終的には今回送り込まれてきた全戦力を奪い取ることが目標。敵が撤退するかこちらが全滅させられない限りは、おそらくそうなる。
「問題は数ですな」
「この作戦では初動こそ最も重要です。そこで失敗すると確実に被害が大きくなる」
立て続けに指摘したのはバイシャネイルとゾテアーロが保有する対怪物部隊のそれぞれの指揮官。今回は合同作戦なので長々と協議した結果バイシャネイル側が総司令、ゾテアーロ側は補佐という役割分担になっている。
総司令を務める黒髪の偉丈夫はアイムとグレンを厳めしい顔つきで見つめた。隠しているがその目には不安の色が滲んでいる。
「向こうは十万。しかも全方向から攻めて来るのに対し、こちらは攻撃役がたった二人です。敵をこちらに取り込む力を持っているのもニャーン殿一人。となると作戦の肝は、いかに素早く敵戦力を減らして自軍を増強できるかにかかっています」
「そこでまず、アイム様とグレン様にはこの大陸の直上で戦ってもらいます」
と、メガネの位置を直しながら言ったのはゾテアーロ軍の代表。名はナナサン。軍人だがなんとまだうら若き女性である。目には見えない不可視の波の精霊に祝福されし者でもある彼女は、その力とたゆまぬ研鑽によって実力第一主義のゾテアーロで初の女性大将の地位まで上り詰めた。
長年メガネを愛用している者の癖で無意識にくいっとツルを持ち上げるナナサン。レンズが光を反射してきらりと輝く。
「母星の周辺宙域を表と裏に二分してお二人にそれぞれを担当してもらう案もありましたが、それでは撃破に時間がかかるかもしれません。寝返らせる能力を持つニャーン嬢もお一人。双方の戦域を行き来するのも手間です。なので戦力を分散させるより集中させて戦いましょう」
「うむ、異論は無い」
「分散しては各個撃破の的になりかねないしな」
アイムもグレンも三ヶ月前よりさらに強くなっている。とはいえ相手は一体一体が極めて強力な兵器だ、甘く見てかかれば足下を掬われるだろう。まして数ではこちらが大幅に負けている。数の暴力に対抗するには、こちらも可能な限り結束するしかない。
「そして、こちら側に取り込んだ戦力は順次その宙域の防衛に充てて次へ移動します。念のために確認しますが可能ですね? ニャーンさん」
「はい。味方にした子はキュートが説得して『ぼうえいしすてむ』? とかいうのに変えてくれるそうです」
【主の意向により攻撃機能は持たせませんが、強力な防壁を構築して敵に足止めないし迂回を強要します】
「であれば問題ありません。状況に合わせて対応は柔軟に変えなければなりませんし、実際にどう動くかは御三方次第です。ですが、撃ち漏らしは極力第五大陸へと集まるようにしていただければ助かります」
「わかっとる、そのために第五の連中を避難させたんじゃ」
フンと鼻を鳴らすアイム。凶星が一つでも母星に辿り着いてしまえば人類は終わり。挙句に総数は十万。もはや地下に隠れても意味はあるまいと考え、今まで存在を秘してきたテアドラスも含め第五大陸の住民全てをここ第四大陸に避難させた。無人になった第五大陸はこの作戦中、星を守る最終防衛線として機能することになる。
つまり三重の輪の最後の一つは地上に残る戦力を示す。
「頼むぞズウラ、最後はお主が頼りじゃ」
「は、はいっ!」
大役に任ぜられたことを思い出し、再び緊張した面持ちで答えるズウラ。今や彼の能力はそれによって引き起こせる事象の規模だけで言うとニャーンに匹敵する。つまりアイムやグレンより強大な力を発揮できるのだ。だからこその最終防衛線の要。
もちろん戦力は彼だけではない。各大陸では今、住民達を守りやすい場所に集結させつつ軍隊や能力者達もその場に集って守りを固めている。
「ニャーンの能力でも全ての怪塵を集め切れるとは限らん。むしろ、この広大な戦場で全体の状況を正確に把握することは不可能に近い。凶星の状態では絶対に近付かせんが、それでも星の引力によって必ず地上に辿り着く怪塵怪物が現れる。そいつらから皆を守るのが主らの役目じゃ」
「うむ」
「任せてくれ。そのために我々も力を蓄えて来た」
不敵に笑うヌダラスとスアルマ。ナナサンら対怪物連合軍の兵達も雄叫びを上げる。
「いよいよ、我等の本領を発揮する時が来た!」
「負けたら全て終わる! だが、勝てば我等の名は歴史に残るだろう!」
「オオッ!」
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