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二章【雨に打たれてなお歩み】
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『攻撃!? お主が攻撃だと!?』
愕然とするアイムの眼前でニャーンは次々に怪塵の槍を形成し、敵の巨体に叩き込んでいく。一片の躊躇も無く剥き出しの殺意を形にして放ち続ける。
「殺す、殺す、殺す、殺す、殺す……」
何度もそれを呟く。まだ微かに残っている理性を塗り潰そうと繰り返し。
頭の中では思い出が次々に蘇る。殺意を燃やす薪のように。
『ニャーン、院長先生は確かに厳しいけれど、貴女のためを思ってのことなのです。辛いでしょうが、もう少し頑張ってみましょう。ここからは私が教えますからね』
『すぐに逃げ出してはなりません。もっと自分に誇りを持ちなさい。自信が無いから勇気も奮い立たないのです。少しくらい物覚えが悪いからなんですか? 鈍くさいことは罪になりますか? 違います、人の欠点に対し寛容になれないことこそが罪なのです。自分を認めてあげなさい。彼等にそうしているように』
先生達は優しかった。良い大人だった。
ずっと気が付けなくてごめんなさい。
心を開けなくてごめんなさい。
本当は大好きでした。
「死ね、死ね、死ね、死ね!!」
人が変わったような凶暴性。攻撃の手を緩めない。止めたら戦えなくなる。湧き出して来るこの記憶と悲しみに押し潰される。
ああ、あの日の夜には──
『ニャーンねえちゃん……どうしよう……』
『んん……どうしたの……?』
『おしっこ……もれた……』
『あ、ああ~……』
『おこられる……』
『うん……』
『……』
『な、泣かないでリュテラ、交換しよう。シーツとか全部、私のと交換したらきっとバレないよ。ねえ、いい考えだよねプラスタちゃん?』
『アンタが十五でおもらししたってことになるけど、それでいいならね』
『いいよ、去年まで本当にしてたし。ほらリュテラ、気付かれないうちに取りかえちゃお。その代わり、もうポンコツって言わないでね』
『うん……』
『約束だよ』
『ったく、お人好しなんだから』
家族だった。先生達は親で子供達は兄弟。
皆、自分の大切な家族だった。
なのに奪われた。
守れなかった。
『頑張れ、アタシの親友』
たった一人の親友さえ。
「うあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!」
頭が痛い。割れるように痛い。思考と感情が、殺意と理性が鬩ぎ合う。
殺意以外いらない。もう、あの怪物さえ倒せたらそれでいい。
【危険性さらに増大。回避行動を──】
「逃げるな!」
怪塵で鎖を形成して縛り付ける。動きを封じた上でさらに突き刺す。刺しても刺しても死なない。散らすしか怪物を倒す手段は無い。封印なんかしない。消し去りたい。
(だったら──)
突き刺した槍を敵の内部で変形させ風車のような形にする。そして、それを回転させた。グレンが多用する技に似た攻撃手段。下手に近付けば巻き添えを喰らいかねない。
距離を取って回復しつつアイムは確信を抱く。このままならば勝つと。
(やはりか)
ニャーンは今まで相手を攻撃できなかった。優しさが枷となり彼女の力に大幅な制限をかけてしまっていた。
その枷さえ外れてしまえばこの通りだ。怒りと憎しみに塗り潰された今の彼女は自分やグレンをすら圧倒するだろう。それほどまでに今のニャーンは凄まじい。
だが、それでいいのか?
本当にそれで──
『ニャーン、お主は……』
【行動パターン変更】
『むっ!?』
アイムがニャーンに語りかけようとした時、敵は予想外の一手を打った。巨体が突如として縮小し人間サイズになったのだ。しかも見覚えのあるシルエットに。
【対象一を模倣。攻撃再開】
『こやつ!』
よりにもよって自分の姿に化けた敵を前脚で踏み潰すアイム。ところが踏みつけた彼の方が激痛に顔を歪める。
『くうっ!?』
硬い。なんという密度、彼の力を以てしてもこの硬さでは破壊できない。しかも僅かな隙をついて脱出された。想像を絶する速度。
『クソッ、ちょこまかと!』
爪で斬りつけようとしても小さい上に動きが素早すぎて当たらない。そして全ての攻撃を掻い潜った敵は彼を無視してニャーンを狙う。
『行ったぞ!』
「!」
敵の動きが素早すぎてやはり攻撃できずにいたニャーンは、目の前に怪物が迫った瞬間、翼を形成して己が身を守った。
だが、いきなり深々と敵の繰り出した手刀が突き刺さる。超高密度に圧縮された攻撃は彼女の翼でも防ぎ切れない。
「今行く!」
アイムも人の姿になって接近した。あのサイズが相手ならこちらの方が立ち回りやすい。ニャーンに作らせた棍を握り、瞬時に数百の打撃をぶつけ合って鎬を削る。
周囲で風が吹き荒れた。竜巻が二つぶつかったようなもの。その激しい衝突の末、先に砕けたのはアイムの武器。
「駄目か……!」
この棍の強度はニャーンの翼と同じ。当然勝てるはずも無い。
「ならば!」
象勁。強烈な足踏みによって敵の足下を崩し動きを止める。自在に変形できる怪物相手では一瞬の時間稼ぎ。だが、その一瞬さえあれば次に繋げられる。
「蛇咬!」
敵に組みつき、左手で首を掴む。この間合いならば絶対に外さない。
「重牙!」
瞬間的に右足を狼のそれに変え、人体の構造上不可能な力強さで踏み込む。その力を拳に乗せ、さらに拳から牙を生やして顔面に叩き込んだ。
貫く。今度は敵にダメージが入った。
しかしおかしい。
(違う!)
手応えが無い。敵は攻撃される瞬間、そこに自ら穴を空けてアイムの拳を素通りさせたのだ。そして、その穴を絞めて彼の手を逆に拘束する。
「しまっ──」
【アイメル】
「がっ!?」
まったく同じ技で返される。風穴こそ開かなかったが、顔面を殴られのけぞる彼。
それでも次の瞬間にはまた攻撃を繰り出す。左手も離さない。
(上等じゃ、化け物!)
攻撃パターンを学習されている。なら、これはどうだ? 肩口に噛みつき食い千切ってやった。吐き捨て、膝に蹴りを叩き込む。こちらは防がれた。
相手の反撃を今度はこちらも防ぐ。
「そうだ、この距離ならば関係無い。読まれていようが喰らいつく! さあ、こっからは削り合いじゃ!」
【脅威度を更新。A-】
「やかましい!」
今度は頭突き。まともに喰らう怪物。
同時にアイムの腹も貫かれた。鋭い手刀で。
「ぐぶっ……!」
「そのまま掴んでいて!」
ニャーンが鎖を形成して怪物を捕える。敵は再び変形して逃れようとするが、どれだけ姿形を変えてもさらに新たな鎖が絡み付いて来て動きを止める。
さらに、
「なっ──がはっ!?」
アイムも鎖に打ち据えられ、後ろへ吹き飛んだ。何度かバウンドしながら地面を転がり、穴の開いた腹部を手で押さえつつ立ち上がる。
「何をしよ……っ」
文句を言おうとして絶句。ニャーンは血の涙を流していた。耳と鼻からも出血している。限界を超えて能力を行使しているのか?
「やめろ! 今すぐやめろ!」
止めようとする。けれど鎖が邪魔をする。近付かせてもらえない。
「いや……です……」
拒絶するニャーン。ようやく再び捕えた。今度は絶対に逃がさない。ここで殺す。あの怪物を必ず殺す。
「あ、ぐ……!?」
頭が痛い。視界が血で濁って何も見えない。でも関係無い。必要な情報は全て怪塵から伝わって来る。家族の命を奪ったこの邪悪な物質が自分の武器になり目にもなる。なんて皮肉。
(いらない……この怪物さえ倒せたら、目も、耳も、命も)
もう何もいらない。
「やめよと言うとる!」
「邪魔しないで!」
「がっ!?」
再び鎖でアイムを弾く。思ったより強く叩いてしまって驚く。
「あ、れ……?」
意識が遠のいてきた。焦る。
まだ駄目。もう少し、せめてトドメを刺すまで。
「う、ぐ、ううっ!」
唇からも出血。自分で噛んだ。無理矢理意識を引き戻して今までで最も強い槍を脳内でイメージする。敵が圧縮して強くなったように、こちらもありったけの怪塵を押し固めてぶつける。
(そうだ)
槍では駄目だ、矢にしよう。巨大な弓も同時に形成する。これで加速して一撃で粉々にしてやる。
「あ、あ……っ!?」
また意識が遠ざかる。制御が乱れる。
その隙をついて敵は鎖の檻から飛び出して来た。
「っ!?」
寸前で盾を形成して止める。爪が深く食い込んだもののどうにか止まった。
そして、それでもなお敵は強引に手刀を押し込んで来る。
【脅威を排除する】
「消える、のは……そっち!」
翼を広げ、両腕の代わりにして巨大な弓を構える。矢を番え、弦を引いて狙いを定める。
鎖に邪魔されながらアイムが叫んだ。
「やめろ、死ぬ気か!?」
「あ……」
そうか、この怪物を一瞬で粉砕できる一撃なら、きっと目の前にいる自分も砕け散って死ぬのだろう。
考えていなかった。けれど、それでもいい。
倒せれば、他には何もいらない。
また意識が飛びかけている。
もう、ここしかない。
早く、矢を──
その一瞬、時間が止まったような気がした。
そして声が聴こえた。
「何やってんのよ、馬鹿」
パンと乾いた音を立て、平手が彼女の頬を打った。
愕然とするアイムの眼前でニャーンは次々に怪塵の槍を形成し、敵の巨体に叩き込んでいく。一片の躊躇も無く剥き出しの殺意を形にして放ち続ける。
「殺す、殺す、殺す、殺す、殺す……」
何度もそれを呟く。まだ微かに残っている理性を塗り潰そうと繰り返し。
頭の中では思い出が次々に蘇る。殺意を燃やす薪のように。
『ニャーン、院長先生は確かに厳しいけれど、貴女のためを思ってのことなのです。辛いでしょうが、もう少し頑張ってみましょう。ここからは私が教えますからね』
『すぐに逃げ出してはなりません。もっと自分に誇りを持ちなさい。自信が無いから勇気も奮い立たないのです。少しくらい物覚えが悪いからなんですか? 鈍くさいことは罪になりますか? 違います、人の欠点に対し寛容になれないことこそが罪なのです。自分を認めてあげなさい。彼等にそうしているように』
先生達は優しかった。良い大人だった。
ずっと気が付けなくてごめんなさい。
心を開けなくてごめんなさい。
本当は大好きでした。
「死ね、死ね、死ね、死ね!!」
人が変わったような凶暴性。攻撃の手を緩めない。止めたら戦えなくなる。湧き出して来るこの記憶と悲しみに押し潰される。
ああ、あの日の夜には──
『ニャーンねえちゃん……どうしよう……』
『んん……どうしたの……?』
『おしっこ……もれた……』
『あ、ああ~……』
『おこられる……』
『うん……』
『……』
『な、泣かないでリュテラ、交換しよう。シーツとか全部、私のと交換したらきっとバレないよ。ねえ、いい考えだよねプラスタちゃん?』
『アンタが十五でおもらししたってことになるけど、それでいいならね』
『いいよ、去年まで本当にしてたし。ほらリュテラ、気付かれないうちに取りかえちゃお。その代わり、もうポンコツって言わないでね』
『うん……』
『約束だよ』
『ったく、お人好しなんだから』
家族だった。先生達は親で子供達は兄弟。
皆、自分の大切な家族だった。
なのに奪われた。
守れなかった。
『頑張れ、アタシの親友』
たった一人の親友さえ。
「うあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!」
頭が痛い。割れるように痛い。思考と感情が、殺意と理性が鬩ぎ合う。
殺意以外いらない。もう、あの怪物さえ倒せたらそれでいい。
【危険性さらに増大。回避行動を──】
「逃げるな!」
怪塵で鎖を形成して縛り付ける。動きを封じた上でさらに突き刺す。刺しても刺しても死なない。散らすしか怪物を倒す手段は無い。封印なんかしない。消し去りたい。
(だったら──)
突き刺した槍を敵の内部で変形させ風車のような形にする。そして、それを回転させた。グレンが多用する技に似た攻撃手段。下手に近付けば巻き添えを喰らいかねない。
距離を取って回復しつつアイムは確信を抱く。このままならば勝つと。
(やはりか)
ニャーンは今まで相手を攻撃できなかった。優しさが枷となり彼女の力に大幅な制限をかけてしまっていた。
その枷さえ外れてしまえばこの通りだ。怒りと憎しみに塗り潰された今の彼女は自分やグレンをすら圧倒するだろう。それほどまでに今のニャーンは凄まじい。
だが、それでいいのか?
本当にそれで──
『ニャーン、お主は……』
【行動パターン変更】
『むっ!?』
アイムがニャーンに語りかけようとした時、敵は予想外の一手を打った。巨体が突如として縮小し人間サイズになったのだ。しかも見覚えのあるシルエットに。
【対象一を模倣。攻撃再開】
『こやつ!』
よりにもよって自分の姿に化けた敵を前脚で踏み潰すアイム。ところが踏みつけた彼の方が激痛に顔を歪める。
『くうっ!?』
硬い。なんという密度、彼の力を以てしてもこの硬さでは破壊できない。しかも僅かな隙をついて脱出された。想像を絶する速度。
『クソッ、ちょこまかと!』
爪で斬りつけようとしても小さい上に動きが素早すぎて当たらない。そして全ての攻撃を掻い潜った敵は彼を無視してニャーンを狙う。
『行ったぞ!』
「!」
敵の動きが素早すぎてやはり攻撃できずにいたニャーンは、目の前に怪物が迫った瞬間、翼を形成して己が身を守った。
だが、いきなり深々と敵の繰り出した手刀が突き刺さる。超高密度に圧縮された攻撃は彼女の翼でも防ぎ切れない。
「今行く!」
アイムも人の姿になって接近した。あのサイズが相手ならこちらの方が立ち回りやすい。ニャーンに作らせた棍を握り、瞬時に数百の打撃をぶつけ合って鎬を削る。
周囲で風が吹き荒れた。竜巻が二つぶつかったようなもの。その激しい衝突の末、先に砕けたのはアイムの武器。
「駄目か……!」
この棍の強度はニャーンの翼と同じ。当然勝てるはずも無い。
「ならば!」
象勁。強烈な足踏みによって敵の足下を崩し動きを止める。自在に変形できる怪物相手では一瞬の時間稼ぎ。だが、その一瞬さえあれば次に繋げられる。
「蛇咬!」
敵に組みつき、左手で首を掴む。この間合いならば絶対に外さない。
「重牙!」
瞬間的に右足を狼のそれに変え、人体の構造上不可能な力強さで踏み込む。その力を拳に乗せ、さらに拳から牙を生やして顔面に叩き込んだ。
貫く。今度は敵にダメージが入った。
しかしおかしい。
(違う!)
手応えが無い。敵は攻撃される瞬間、そこに自ら穴を空けてアイムの拳を素通りさせたのだ。そして、その穴を絞めて彼の手を逆に拘束する。
「しまっ──」
【アイメル】
「がっ!?」
まったく同じ技で返される。風穴こそ開かなかったが、顔面を殴られのけぞる彼。
それでも次の瞬間にはまた攻撃を繰り出す。左手も離さない。
(上等じゃ、化け物!)
攻撃パターンを学習されている。なら、これはどうだ? 肩口に噛みつき食い千切ってやった。吐き捨て、膝に蹴りを叩き込む。こちらは防がれた。
相手の反撃を今度はこちらも防ぐ。
「そうだ、この距離ならば関係無い。読まれていようが喰らいつく! さあ、こっからは削り合いじゃ!」
【脅威度を更新。A-】
「やかましい!」
今度は頭突き。まともに喰らう怪物。
同時にアイムの腹も貫かれた。鋭い手刀で。
「ぐぶっ……!」
「そのまま掴んでいて!」
ニャーンが鎖を形成して怪物を捕える。敵は再び変形して逃れようとするが、どれだけ姿形を変えてもさらに新たな鎖が絡み付いて来て動きを止める。
さらに、
「なっ──がはっ!?」
アイムも鎖に打ち据えられ、後ろへ吹き飛んだ。何度かバウンドしながら地面を転がり、穴の開いた腹部を手で押さえつつ立ち上がる。
「何をしよ……っ」
文句を言おうとして絶句。ニャーンは血の涙を流していた。耳と鼻からも出血している。限界を超えて能力を行使しているのか?
「やめろ! 今すぐやめろ!」
止めようとする。けれど鎖が邪魔をする。近付かせてもらえない。
「いや……です……」
拒絶するニャーン。ようやく再び捕えた。今度は絶対に逃がさない。ここで殺す。あの怪物を必ず殺す。
「あ、ぐ……!?」
頭が痛い。視界が血で濁って何も見えない。でも関係無い。必要な情報は全て怪塵から伝わって来る。家族の命を奪ったこの邪悪な物質が自分の武器になり目にもなる。なんて皮肉。
(いらない……この怪物さえ倒せたら、目も、耳も、命も)
もう何もいらない。
「やめよと言うとる!」
「邪魔しないで!」
「がっ!?」
再び鎖でアイムを弾く。思ったより強く叩いてしまって驚く。
「あ、れ……?」
意識が遠のいてきた。焦る。
まだ駄目。もう少し、せめてトドメを刺すまで。
「う、ぐ、ううっ!」
唇からも出血。自分で噛んだ。無理矢理意識を引き戻して今までで最も強い槍を脳内でイメージする。敵が圧縮して強くなったように、こちらもありったけの怪塵を押し固めてぶつける。
(そうだ)
槍では駄目だ、矢にしよう。巨大な弓も同時に形成する。これで加速して一撃で粉々にしてやる。
「あ、あ……っ!?」
また意識が遠ざかる。制御が乱れる。
その隙をついて敵は鎖の檻から飛び出して来た。
「っ!?」
寸前で盾を形成して止める。爪が深く食い込んだもののどうにか止まった。
そして、それでもなお敵は強引に手刀を押し込んで来る。
【脅威を排除する】
「消える、のは……そっち!」
翼を広げ、両腕の代わりにして巨大な弓を構える。矢を番え、弦を引いて狙いを定める。
鎖に邪魔されながらアイムが叫んだ。
「やめろ、死ぬ気か!?」
「あ……」
そうか、この怪物を一瞬で粉砕できる一撃なら、きっと目の前にいる自分も砕け散って死ぬのだろう。
考えていなかった。けれど、それでもいい。
倒せれば、他には何もいらない。
また意識が飛びかけている。
もう、ここしかない。
早く、矢を──
その一瞬、時間が止まったような気がした。
そして声が聴こえた。
「何やってんのよ、馬鹿」
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