ワールド・スイーパー

秋谷イル

文字の大きさ
上 下
33 / 136
一章【災禍操るポンコツ娘】

神々の邂逅

しおりを挟む
『……ふむ』
 遠く離れた位相すら異なる暗黒の空間。その女は海辺で眠る一頭と一人の様子を観察し、密やかに微笑む。
 すると背後から近付く者があった。気配で何者か察する。
『珍しいな、トゥール』
【このような形での訪問、まずは詫びよう】
 振り返ると、相手の姿はおぼろげで明確な像を結んでいなかった。この異空間に介入し遠隔で映像と音声だけを送りつけて来ている。幾重にも張り巡らせた障壁を突破するとは流石。
『とうに主らと袂を分かったワシに、今さら何の用じゃ?』
【やはり戻るつもりは無いのか。その惑星にそれだけの価値があると?】
『わからんやつじゃのう、主も。何度も説明したではないか、価値がどうのこうのという話ではない。試練を司る神として気に入らん。一方的で理不尽な虐殺などな』
【だからといって何の意味がある? 君が情けをかけたところで彼等の運命は変わらない。今もまだ未来は確定したままだ。その星からは近い将来、宇宙全体にとっての深刻な脅威が生まれる。そして免疫システムはそれを防ぐため動き出した。
 正常な動作だ。我々に止める理由は無い。今のうちに対処しなければ他の星々が犠牲となる。だから私達は──】
『知っておる』

 女は立ち上がった、そしておぼろな映像に近付く。向こうでも同じように見えているのだろう。表情がしっかり再現されているといいが。
 恨みは無い。憎しみも無い。たとえあの星が滅ぼされようとそれは変わらない。これは自分のただのわがまま。使命にかこつけた気晴らし。永遠を生きる神の暇潰し。
 だとしても、あの場所で生きている彼等には全てを賭した神聖な戦い。

『トゥール、覚悟して聞け。ワシはこれ以上、直接介入するつもりは無い。だがお主らにあやつらの邪魔をさせるつもりも無い。過去現在未来の全てを見通す主とて絶対的な予知はできない。必ずどこかに綻びがある。
 ワシはそれを信じたい。あやつらなら見つけられるかもしれぬと、希望はあると信じて待ちたい。あの方、我らが創造主ウィンゲイトならそうなさるはずじゃ。違うか?』
【……】
 その通りだ。介入者、眼神がんしんアルトゥールにもわかっている。だから千年間、説得は試みても力づくで彼女を、嵐神らんしんオクノケセラを連れ戻そうとはしなかった。創造主以外の神々は対等。誰も誰にも命令などできない。
『ワシはお主も信じとるよ、トゥール。なんせ唯一無二の友だものな』
【君は卑怯だな、ケセラ】
 いつも同じ言葉で諦めてしまう。彼女の決意は何よりも固いと思い知らされて。神同士の長く続いた友情を天秤にかけるほどだと。
【もちろん我々も介入はしない。だが、これ以上の譲歩もできない。する必要も無いのだ、彼等は死ぬ。私の予知は絶対ではないが、相手がより上位の神々でもない限り、限りなくそれに近い精度を誇る】
『もちろん、それも知っておる』

 だとしてもオクノケセラは信じたい。あの日、初めて免疫システムが赤い星を落とした夜に出会った可能性を。
 青い目をした子犬と、彼の見出した希望を。
 この手で育てた子と、その相棒を。

『案ずるな、審判の日は近い。特異点は現れた』
【ああ】
『答えはもうすぐ出る。さて、どのような結果になるものか。なんにせよ気張れ。ワシはいつもここから応援しとるぞ、子供達』





                              (二章に続く)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

今日の授業は保健体育

にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり) 僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。 その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。 ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。

処理中です...