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破界遊戯(3)
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「な、なんだこれは!?」
天士たちに助けられ再び門の前に集まってきた民衆は、しかし天士の手で開け放たれた門から外へ逃げようとした途端、新たな障害の存在に気が付き絶望した。
「壁がある! 見えない壁があって出られない!」
「何してんだ、早く行け!」
「馬鹿、押すな! 出られないんだ!」
「やめて! うちの子が潰れる!」
「ママ!?」
あっという間に阿鼻叫喚の地獄絵図。一刻も早く魔都と化したこの街を出ようと殺到した人々が見えない壁に阻まれ足を止められた前方の市民を圧し潰そうとしている。後方の者たちからは何が起きているのか理解できない。門はどう見ても開いているのだから。
「ユニ……!」
仕掛けを見逃していたことに気付き歯噛みするアイズ。だが後悔は一瞬だけ。先にすべきことをする。そのために走り出す。
「アイズ!?」
驚愕するブレイブとアリスの視線の先で跳躍した彼女は、軽々と人々の頭上を飛び越え、空中で剣を一閃した。
次の瞬間、見えない壁が無くなって群衆の先頭にいた者たちが転倒する。アイズもまた壁の外に着地した。そして振り返って叫ぶ。
「待て! 落ち着いて避難を――」
しかし恐怖に駆られている人々は聞かなかった。行く手を遮っていた壁が取り除かれた途端、倒れた者たちを踏みつけにして我先にと逃げ出してしまう。
「……ッ!」
さらなる後悔の念に襲われ膝をつくアイズ。胸が締め付けられる。先に人々を門から引き離しておくべきだった。
だが彼らに罪は無い。誰もが生き残るのに必死なのだ。この状況で他人の命にまで気遣っていられるものか。
――いや、南門へ集まってきた群衆が全て外へ出る前に気付く。誰一人他人に踏まれて命を落としてはいないと。剣を支えに立ち上がり門の中へ視線を送る。
その視線の先で少女がこくりと頷いた。アリスだ。地面に倒れた人々は彼女の髪によって保護されている。
ここにいる人々だけではない。オルトランド各所で信じ難い光景が展開され人々を驚かせる。
「な、なんだ?」
「魔獣が、魔獣を――」
なんと魔獣同士が戦い始めたのだ。最初に彼等を襲っていたのとは別の、まるで識別しやすくするために塗り替えられたような白い魔獣たちが現れ、天士と共闘して人々を守る。
アイズは素早く仲間たちに伝達した。
【白い魔獣には手を出すな。アリスが生み出してくれた味方だ】
「マジか!?」
「仲間だと思うと、本当に心強い」
驚きつつも、すでに共闘を済ませていたインパクトたちは即座に支援を受け入れる。他の天士たちも戸惑いながらアイズの指示に従い、白い魔獣たちへの手出しは控えた。
アイズはさらにノウブルに呼びかける。
【ノウブル、敵は門を『魔法』で封鎖している。これは天士の力でも突破できない。解除には知識か強引に突破できるだけの力が必要だ】
彼女はアルトルの知識を借りて見えない壁の綻びを探し、そこを斬って強制解除した。魔法の知識を持たない他の団員たちに同じことはできない。だがノウブルなら力ずくでこじ開けられる。
【東西の門は任せる。行き来のための仕掛けは済ませた】
「わかった」
多くを語らずとも理解したノウブルは、まず手近な東門へ魔獣の群れを蹴散らしつつ接近して行く。やはり南門と同じように市民が殺到して押し合いになっていた。
そんな彼らの背後で一瞬、助走のための溜めに入る。
「龍――」
龍来儀。地脈と自身を一体化させ、星の内部を巡るエネルギーを自身の強化に用いる秘奥。これを使えばおそらく魔法の壁も突破できる。だからアイズは自分に頼んできた。
しかし、そんな彼に襲いかかる無数の影――天士たちが門を開けに来ることを読んで待ち構えていた異教徒の部隊。
「させん!」
「愚民もろとも朽ち果てよ!」
彼等の動力甲冑を動かす背面腰部の筒に収められた魔素結晶が強い輝きを放つ。この結晶に『破壊』のイメージを入力すれば即座に強力な爆弾と化すのだ。
つまりは自爆特攻。名高い天遣騎士団副長とて、この数の結晶を同時に爆破されれば防ぐ術など無い。
そう思った瞬間、上空から飛来した白い鳥の群れが体当りして異教徒の一団の注意を逸らす。
「なっ!?」
「うぐっ――」
さらに、遥か彼方から伸びてきた桜色の髪に掴まれる彼ら。
南門の前でアリスが吠えた。
「邪魔よ!」
爆発寸前の異教徒たちを、髪を使ってまとめて空中高く放り投げる彼女。
アイズの指示で集まってきた防御系の力を持つ天士たちが建物の屋根の上でそれぞれの能力を発揮する。
瞬間、大爆発が起こって夜空を明るく照らした。衝撃で街全体が激しく揺れる。
予想以上の威力だったが、アリスと天士たちの活躍で群衆は守られた。
ノウブルも仲間を信じ、そのまま突き進む。
「――来儀!」
アイズを蝕んでいるアルトルの力と同じで、この技も負担が大きく長い時間の継続使用は不可能。だが数秒あれば事足りる。アイズの言う通りにすでに仕掛けは済んでいるのだ。
「副長!」
駆けつけてきた部下がすぐ近くに鉄製の箱を置いた。光の矢と化し一瞬のうちに東門を封鎖する見えない壁を破壊したノウブルは、すぐさま折り返してその箱の中へ飛び込む。
次の瞬間、彼はもう西門の前にいた。先のアクターとの戦いで戦死した彼の部下、天士マジシャンの能力。アイズは返還されたそれを使って東西の門の間を一瞬で行き来できる道を作ってくれた。
箱から飛び出した巨漢は再び『盾』を見えない壁に叩き付けて破壊する。予想だにしていなかった出来事に驚愕し足を止める群衆。
「て、天士様……」
「どこから……」
アイズの時と違って派手だったことが幸いした。呆気に取られた人々は前にいる者たちを押し潰したりせず、やがて天士たちに促されてようやく我に返る。
「皆さん、早急に避難を!」
「可能な限り遠く離れて下さい! 聖都に戻ることは危険です!」
「は、はいっ……」
「行こう!」
そうして東西の門からも多くの人々が出て行った。
直後、何かに気付くアイズ。
「!」
門だ。誰も触れていないのに全ての門が自動的に閉じていく。
さらに彼女の目にしか映らなかったが、上空や地下までも含む全方位が球体状の『見えない壁』によって包まれた。
再び、今度は大聖堂を覆う形でユニの幻影が出現する。
【おめでとう諸君。君たちの活躍によって市民は無事に退避できた。もちろん生きている分だけだがね】
市街地には死屍累々の屍が横たわっている。異教徒と魔獣、助けが間に合わなかった市民の亡骸。
屍の山を築き上げた当人は相変わらずニヤニヤ笑ったままだ。心底この胸糞悪いゲームを楽しんでいるらしい。
【素晴らしいよ。それなりの時間と労力、予算を注ぎ込んで戦力を整えておいたのに、まさか一人も倒せず第一関門を突破されてしまうとは】
イリアムの作品を模倣した魔獣の群れだけならともかく、動力甲冑の力で天士に匹敵する膂力と機動性、さらに疑似魔法まで使えるようになった異教徒たちも大して対抗できていない。
彼等が弱いと言うより天士たちが強いのだ。ブレイブの教育が良かったのだろう。個々の能力はともかく連携させるとかなり手強い。エアーズの力を借りたアイズの情報支援も厄介極まる。
【正直、予想以上だ。実に楽しませてもらっているよ。その調子で第二のゲームもクリアしてくれたまえ。だが、彼は強いぞ】
「来るか……」
街の中心に向かって走りつつ、いよいよだと気を引き締め直すブレイブ。彼と仲間たちは門が閉ざされた直後には移動を始めていた。市街地各所に散開した仲間も同じ場所を目指して集結しつつある。
敵も動いた。生き残りの魔獣と異教徒たちは追われつつ大聖堂付近まで後退を続ける。
やがて彼等は、ほとんど同時に立ち止まった。
「来る……」
アイズも止まって身構えた。ユニと戦うまで可能な限りの余力を残しておきたい。しかし、これから戦う相手のことを考えると難しい。
彼女たちは敵の切り札を知っている。アルトルの記憶を継いだアイズと天遣騎士団の結成に関わったブレイブだけは元から知っていた。
その『天士』の存在を。
一柱の神が生み出せる天士の数は四十九人。だがアルトルは自らの記憶を封じ、己を天士であると偽って席を一つ確保した。
だからいるのだ、本当の四十九人目が。彼女の都合で弾き出され三柱教へと託された唯一の例外。三柱教が天遣騎士団の裏切りに備えてアルトルに要求し、条件を飲んだ彼女によって特別な加護を与えられた対天士特化の能力者。
ここへ来る前にすでに仲間たちにも伝えてある。だから全員がこの場で足を止めて立ち止まった。迂闊に攻め込めば、ブレイブやノウブルでさえ一瞬で喰われかねない。
「霧……」
「いや、あれは……」
「地吹雪だ」
白く煙る風が大聖堂周辺に吹き荒れる。その天士は『雪』の加護を持ち、冷気を自在に操って氷雪を生み出す。熱を操る力を持っていたフューリーと同系統の加護。ただし効果範囲は桁違いに広い。
それに、ただの冷気ではない。アルトルの未来予知の力の一端まで与えられた彼は、ありえないものまで凍結させてしまえる。
次の瞬間、地吹雪を割って一人の青年が飛び出してきた。他の仲間たちと同じ白い甲冑で身を包んだ中性的な美貌の天士。
その名はホワイトアウト。
天士たちに助けられ再び門の前に集まってきた民衆は、しかし天士の手で開け放たれた門から外へ逃げようとした途端、新たな障害の存在に気が付き絶望した。
「壁がある! 見えない壁があって出られない!」
「何してんだ、早く行け!」
「馬鹿、押すな! 出られないんだ!」
「やめて! うちの子が潰れる!」
「ママ!?」
あっという間に阿鼻叫喚の地獄絵図。一刻も早く魔都と化したこの街を出ようと殺到した人々が見えない壁に阻まれ足を止められた前方の市民を圧し潰そうとしている。後方の者たちからは何が起きているのか理解できない。門はどう見ても開いているのだから。
「ユニ……!」
仕掛けを見逃していたことに気付き歯噛みするアイズ。だが後悔は一瞬だけ。先にすべきことをする。そのために走り出す。
「アイズ!?」
驚愕するブレイブとアリスの視線の先で跳躍した彼女は、軽々と人々の頭上を飛び越え、空中で剣を一閃した。
次の瞬間、見えない壁が無くなって群衆の先頭にいた者たちが転倒する。アイズもまた壁の外に着地した。そして振り返って叫ぶ。
「待て! 落ち着いて避難を――」
しかし恐怖に駆られている人々は聞かなかった。行く手を遮っていた壁が取り除かれた途端、倒れた者たちを踏みつけにして我先にと逃げ出してしまう。
「……ッ!」
さらなる後悔の念に襲われ膝をつくアイズ。胸が締め付けられる。先に人々を門から引き離しておくべきだった。
だが彼らに罪は無い。誰もが生き残るのに必死なのだ。この状況で他人の命にまで気遣っていられるものか。
――いや、南門へ集まってきた群衆が全て外へ出る前に気付く。誰一人他人に踏まれて命を落としてはいないと。剣を支えに立ち上がり門の中へ視線を送る。
その視線の先で少女がこくりと頷いた。アリスだ。地面に倒れた人々は彼女の髪によって保護されている。
ここにいる人々だけではない。オルトランド各所で信じ難い光景が展開され人々を驚かせる。
「な、なんだ?」
「魔獣が、魔獣を――」
なんと魔獣同士が戦い始めたのだ。最初に彼等を襲っていたのとは別の、まるで識別しやすくするために塗り替えられたような白い魔獣たちが現れ、天士と共闘して人々を守る。
アイズは素早く仲間たちに伝達した。
【白い魔獣には手を出すな。アリスが生み出してくれた味方だ】
「マジか!?」
「仲間だと思うと、本当に心強い」
驚きつつも、すでに共闘を済ませていたインパクトたちは即座に支援を受け入れる。他の天士たちも戸惑いながらアイズの指示に従い、白い魔獣たちへの手出しは控えた。
アイズはさらにノウブルに呼びかける。
【ノウブル、敵は門を『魔法』で封鎖している。これは天士の力でも突破できない。解除には知識か強引に突破できるだけの力が必要だ】
彼女はアルトルの知識を借りて見えない壁の綻びを探し、そこを斬って強制解除した。魔法の知識を持たない他の団員たちに同じことはできない。だがノウブルなら力ずくでこじ開けられる。
【東西の門は任せる。行き来のための仕掛けは済ませた】
「わかった」
多くを語らずとも理解したノウブルは、まず手近な東門へ魔獣の群れを蹴散らしつつ接近して行く。やはり南門と同じように市民が殺到して押し合いになっていた。
そんな彼らの背後で一瞬、助走のための溜めに入る。
「龍――」
龍来儀。地脈と自身を一体化させ、星の内部を巡るエネルギーを自身の強化に用いる秘奥。これを使えばおそらく魔法の壁も突破できる。だからアイズは自分に頼んできた。
しかし、そんな彼に襲いかかる無数の影――天士たちが門を開けに来ることを読んで待ち構えていた異教徒の部隊。
「させん!」
「愚民もろとも朽ち果てよ!」
彼等の動力甲冑を動かす背面腰部の筒に収められた魔素結晶が強い輝きを放つ。この結晶に『破壊』のイメージを入力すれば即座に強力な爆弾と化すのだ。
つまりは自爆特攻。名高い天遣騎士団副長とて、この数の結晶を同時に爆破されれば防ぐ術など無い。
そう思った瞬間、上空から飛来した白い鳥の群れが体当りして異教徒の一団の注意を逸らす。
「なっ!?」
「うぐっ――」
さらに、遥か彼方から伸びてきた桜色の髪に掴まれる彼ら。
南門の前でアリスが吠えた。
「邪魔よ!」
爆発寸前の異教徒たちを、髪を使ってまとめて空中高く放り投げる彼女。
アイズの指示で集まってきた防御系の力を持つ天士たちが建物の屋根の上でそれぞれの能力を発揮する。
瞬間、大爆発が起こって夜空を明るく照らした。衝撃で街全体が激しく揺れる。
予想以上の威力だったが、アリスと天士たちの活躍で群衆は守られた。
ノウブルも仲間を信じ、そのまま突き進む。
「――来儀!」
アイズを蝕んでいるアルトルの力と同じで、この技も負担が大きく長い時間の継続使用は不可能。だが数秒あれば事足りる。アイズの言う通りにすでに仕掛けは済んでいるのだ。
「副長!」
駆けつけてきた部下がすぐ近くに鉄製の箱を置いた。光の矢と化し一瞬のうちに東門を封鎖する見えない壁を破壊したノウブルは、すぐさま折り返してその箱の中へ飛び込む。
次の瞬間、彼はもう西門の前にいた。先のアクターとの戦いで戦死した彼の部下、天士マジシャンの能力。アイズは返還されたそれを使って東西の門の間を一瞬で行き来できる道を作ってくれた。
箱から飛び出した巨漢は再び『盾』を見えない壁に叩き付けて破壊する。予想だにしていなかった出来事に驚愕し足を止める群衆。
「て、天士様……」
「どこから……」
アイズの時と違って派手だったことが幸いした。呆気に取られた人々は前にいる者たちを押し潰したりせず、やがて天士たちに促されてようやく我に返る。
「皆さん、早急に避難を!」
「可能な限り遠く離れて下さい! 聖都に戻ることは危険です!」
「は、はいっ……」
「行こう!」
そうして東西の門からも多くの人々が出て行った。
直後、何かに気付くアイズ。
「!」
門だ。誰も触れていないのに全ての門が自動的に閉じていく。
さらに彼女の目にしか映らなかったが、上空や地下までも含む全方位が球体状の『見えない壁』によって包まれた。
再び、今度は大聖堂を覆う形でユニの幻影が出現する。
【おめでとう諸君。君たちの活躍によって市民は無事に退避できた。もちろん生きている分だけだがね】
市街地には死屍累々の屍が横たわっている。異教徒と魔獣、助けが間に合わなかった市民の亡骸。
屍の山を築き上げた当人は相変わらずニヤニヤ笑ったままだ。心底この胸糞悪いゲームを楽しんでいるらしい。
【素晴らしいよ。それなりの時間と労力、予算を注ぎ込んで戦力を整えておいたのに、まさか一人も倒せず第一関門を突破されてしまうとは】
イリアムの作品を模倣した魔獣の群れだけならともかく、動力甲冑の力で天士に匹敵する膂力と機動性、さらに疑似魔法まで使えるようになった異教徒たちも大して対抗できていない。
彼等が弱いと言うより天士たちが強いのだ。ブレイブの教育が良かったのだろう。個々の能力はともかく連携させるとかなり手強い。エアーズの力を借りたアイズの情報支援も厄介極まる。
【正直、予想以上だ。実に楽しませてもらっているよ。その調子で第二のゲームもクリアしてくれたまえ。だが、彼は強いぞ】
「来るか……」
街の中心に向かって走りつつ、いよいよだと気を引き締め直すブレイブ。彼と仲間たちは門が閉ざされた直後には移動を始めていた。市街地各所に散開した仲間も同じ場所を目指して集結しつつある。
敵も動いた。生き残りの魔獣と異教徒たちは追われつつ大聖堂付近まで後退を続ける。
やがて彼等は、ほとんど同時に立ち止まった。
「来る……」
アイズも止まって身構えた。ユニと戦うまで可能な限りの余力を残しておきたい。しかし、これから戦う相手のことを考えると難しい。
彼女たちは敵の切り札を知っている。アルトルの記憶を継いだアイズと天遣騎士団の結成に関わったブレイブだけは元から知っていた。
その『天士』の存在を。
一柱の神が生み出せる天士の数は四十九人。だがアルトルは自らの記憶を封じ、己を天士であると偽って席を一つ確保した。
だからいるのだ、本当の四十九人目が。彼女の都合で弾き出され三柱教へと託された唯一の例外。三柱教が天遣騎士団の裏切りに備えてアルトルに要求し、条件を飲んだ彼女によって特別な加護を与えられた対天士特化の能力者。
ここへ来る前にすでに仲間たちにも伝えてある。だから全員がこの場で足を止めて立ち止まった。迂闊に攻め込めば、ブレイブやノウブルでさえ一瞬で喰われかねない。
「霧……」
「いや、あれは……」
「地吹雪だ」
白く煙る風が大聖堂周辺に吹き荒れる。その天士は『雪』の加護を持ち、冷気を自在に操って氷雪を生み出す。熱を操る力を持っていたフューリーと同系統の加護。ただし効果範囲は桁違いに広い。
それに、ただの冷気ではない。アルトルの未来予知の力の一端まで与えられた彼は、ありえないものまで凍結させてしまえる。
次の瞬間、地吹雪を割って一人の青年が飛び出してきた。他の仲間たちと同じ白い甲冑で身を包んだ中性的な美貌の天士。
その名はホワイトアウト。
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