人竜千季

秋谷イル

文字の大きさ
上 下
21 / 148
第一部

五章・襲撃(5)

しおりを挟む
 その時、彼方から轟音が響き渡る。また落雷か? その場の全員が身構えた。
 地面がグラグラ揺れ続ける。そして急に視界が暗くなった。

「班長! あれ!」
「言われなくても見えてるわよ」
 友之の言葉に嘆息する朱璃。その息遣いこそ聴こえたが、表情はわからなかった。トンネルの元来た方向の出口が土砂崩れで塞がってしまい、光量が大幅に減ったからだ。
 通常の災害か、それともさっきの落雷が引き起こした記憶災害が原因なのか、どちらかわからないが、ともかくこれで引き返すことは出来なくなった。
「また地形が変わっちまった」
「次にここを通る時は別のルートを開拓しないといけませんね」
 マーカスや小波の発言から察するに、こういうことは日常的に起きているらしい。普通の自然災害に加えて記憶災害まで頻発するのだから環境は刻一刻と変化してしまう。そのため常に同じ道が使えるとは限らないわけだ。
「光よ」
 そんな厳かな声が聞こえたかと思うと、頭上に一つ光の球が生まれた。
「うわっ、なにこれ!?」
「説明したでしょ、魔法よ」
「ん」
 朱璃の言葉に頷く巨漢。照明を生み出したのはウォールだった。星海班の中で最も許容量の多い彼は、こういう役回りを積極的に引き受ける。

 魔法──体内に蓄積された魔素と神経系を流れる生体電流、そして人間の想像力を組み合わせて人為的に小規模な環境型記憶災害を発生させる技術。
 一歩間違えば命に関わるような危険な現象でも、生きるためには利用する。そんな現代の人々の逞しさにアサヒは今さらながらも驚いた。

(凄いなあ……)
 いや、しかし、直後に考えを改める。これまで自分が気付いていなかっただけで人間はずっとそうやって生きて来たのではないか? 火を、火薬を、石油を、原子力を──危険と隣り合わせの技術を数多く使って文明を発展させてきた。
 つまり、それが人間なのだ。
 だから、どんな世界になろうとも世界が存在している限り、人間はしぶとく生き延びていくのだと思う。
 そんな想像をして、やはり、少しだけ心が軽くなった。
「さあ、行くわよ」
「うん」
 雨が止んだことを確認した彼等は再び出発する。

 ──だが、時に圧倒的な力を前に、為す術なく押し潰されてしまうことも、やはり人の宿命だ。
 トンネルを抜けた瞬間、今度は前方に雷が落ちた。そしてそこにアサヒの想像を軽々と凌駕するものが出現した。

 カチ、カチ、カチ。
 まるで時計の秒針のように、機械的な音を立てながら無数の突起がリズミカルに動いている。
「な、なんだ、あれ……」
 色とりどりの鋭角的な水晶を組み合わせた物体が突然そこに現れていた。大きさは五mほど。ただし、瞬間的にその倍近くになることもあれば縮むこともある。一瞬たりとて同じ形を保っていない。まるでCG映像のように。
「竜だよ」
 真司郎がそう呟く。彼等は一斉に馬上で銃を構えた。
「竜?」
「通称よ」
 朱璃もやはりマーカスの肩を土台にして狙いを定め、説明を補足する。
「生物型記憶災害にもさらにいくつか種類があるの。昔は全部ひっくるめて“魔物”と呼んでいたけれど、その中でも落雷から生み出された魔物は別格の強さを誇る。
 それに“生物型記憶災害”って呼称は長いでしょ? だから私達はアレのことをこうも呼ぶ。シンプルに“竜”ってね」
 その“竜”は次の瞬間、威嚇するかのような凄まじい高音を発したかと思うと、突起の一つを細く長く伸ばし攻撃を仕掛けて来た。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

転生無双なんて大層なこと、できるわけないでしょう!〜公爵令息が家族、友達、精霊と送る仲良しスローライフ〜

西園寺わかば🌱
ファンタジー
転生したラインハルトはその際に超説明が適当な女神から、訳も分からず、チートスキルをもらう。 どこに転生するか、どんなスキルを貰ったのか、どんな身分に転生したのか全てを分からず転生したラインハルトが平和な?日常生活を送る話。 - カクヨム様にて、週間総合ランキングにランクインしました! - アルファポリス様にて、人気ランキング、HOTランキングにランクインしました! - この話はフィクションです。

人の才能が見えるようになりました。~いい才能は幸運な俺が育てる~

犬型大
ファンタジー
突如として変わった世界。 塔やゲートが現れて強いものが偉くてお金も稼げる世の中になった。 弱いことは才能がないことであるとみなされて、弱いことは役立たずであるとののしられる。 けれども違ったのだ。 この世の中、強い奴ほど才能がなかった。 これからの時代は本当に才能があるやつが強くなる。 見抜いて、育てる。 育てて、恩を売って、いい暮らしをする。 誰もが知らない才能を見抜け。 そしてこの世界を生き残れ。 なろう、カクヨムその他サイトでも掲載。 更新不定期

アロマおたくは銀鷹卿の羽根の中。~召喚されたらいきなり血みどろになったけど、知識を生かして楽しく暮らします!

古森真朝
ファンタジー
大学生の理咲(りさ)はある日、同期生・星蘭(せいら)の巻き添えで異世界に転移させられる。その際の着地にミスって頭を打ち、いきなり流血沙汰という散々な目に遭った……が、その場に居合わせた騎士・ノルベルトに助けられ、どうにか事なきを得る。 怪我をした理咲の行動にいたく感心したという彼は、若くして近衛騎士隊を任される通称『銀鷹卿』。長身でガタイが良い上に銀髪蒼眼、整った容姿ながらやたらと威圧感のある彼だが、実は仲間想いで少々不器用、ついでに万年肩凝り頭痛持ちという、微笑ましい一面も持っていた。 世話になったお礼に、理咲の持ち込んだ趣味グッズでアロマテラピーをしたところ、何故か立ちどころに不調が癒えてしまう。その後に試したノルベルトの部下たちも同様で、ここに来て『じゃない方』の召喚者と思われた理咲の特技が判明することに。 『この世界、アロマテラピーがめっっっっちゃ効くんだけど!?!』 趣味で極めた一芸は、異世界での活路を切り開けるのか。ついでに何かと手を貸してくれつつ、そこそこ付き合いの長い知人たちもびっくりの溺愛を見せるノルベルトの想いは伝わるのか。その背景で渦巻く、王宮を巻き込んだ陰謀の行方は?

スター・スフィア-異世界冒険はお喋り宝石と共に-

黒河ハル
ファンタジー
——1つの星に1つの世界、1つの宙《そら》に無数の冒険—— 帰り道に拾った蒼い石がなんか光りだして、なんか異世界に飛ばされた…。 しかもその石、喋るし、消えるし、食べるしでもう意味わからん! そんな俺の気持ちなどおかまいなしに、突然黒いドラゴンが襲ってきて—— 不思議な力を持った宝石たちを巡る、異世界『転移』物語! 星の命運を掛けた壮大なSFファンタジー!

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

処理中です...