億劫アルファは恋をしない。

佐倉花那

文字の大きさ
上 下
2 / 6

No.2

しおりを挟む
 「はぁぁ~~……ガチで今日は呑みすぎた。」

 あのあと結局、イケメンアルファへの僻みが消えずに酒を滝のように浴びてしまった。

 いつもならもっとセーブ出来たはずなのに……

 しばらく呑み会は控えようかな。

 居酒屋の店内に居るのがとても暑く感じてしまい、酔いで火照った身体を夜風で冷やそうと外に出た。

 昔ながらの引き戸の障子をガラガラと開けた途端、涼しい風が頬を撫でた。

 知らない間にあのイケメンアルファもあの卓から居なくなってたみたいだし、もう良いか。

 「あっちぃなぁ、」

 パタパタと手で顔を扇ぎながら、辺りをキョロキョロと見回す。

 ちょうど、近くの河川敷が目に入った。

 水辺に行けばより涼しくなるだろう、そう思って、河川敷の橋を渡っていく。

 橋を渡っていた途中で、見覚えのある人間が、橋の柵に寄りかかっているのが見えた。

 綺麗だな、そう思った。

 月明かりの下で、その冷たい美しさがより際立っているように感じた。

 まるで時が止まったかのように、しばらくそちらを見つめることしか出来なかった。

 「あ、」

 あちらも俺に気がついたようで、橋を眺めていた綺麗な目が、こちらの姿をじっと捉えている。

 「あ、ちっす……」

 やり場のない一方的な気まずさを感じ、小さく腰を折り曲げ礼をする。

 「……あの、」

 「あ、?は、はい。なんすか?」

 どうしようと心の中で慌てふためいていると、いきなり話しかけられる。

 「さっき、あの……俺の自意識過剰だったら恥ずかしいんですけど、俺の事見てましたよね?」

 言いづらそうにこちらの表情を伺いながら、そう問いかけられた。

 火照った身体が、一瞬で冷たくなる感覚が走った。

 「あ、すんません。イケメンだったからつい見ちゃって……」

 この際、もうどうにでもなれ。

 どうせこの先このアルファと遭遇する機会もないだろう。

 テキトーに受け流して、テキトーに終わらせれば良いんだ。

 これが最善策なんだ。

 「あ、え?ぁ……そーなんですね、ビックリした。」

 でも……

 「俺とちょっと話しましょうよ。」

 "もっとコイツと話してたい" そう思ったときにはもう、コイツの隣の柵に同じようにもたれかかっていた。

 「どーしたんすか、こんなところで。」

 「え、どーしたって、何が?」

 「ん?だから、呑み会抜け出して河川敷に居るのはなんで?って。」

 自分も人のことなんて言えないのにな、などと思いながら、そう問いかける。

 俺に尋ねられた途端、一瞬驚いたような表情を浮かべたが、俺の言葉に促されるようにして冷静に答えた。

 「考え事だ。」

 「考え事?え、お前みたいな完璧アルファにお悩みなんかあんの?」

 そう呟くと、彼は度肝を抜かれたような表情になって、そのまま固まってしまった。

 「あ、え?ごめん、なんか俺ダメなこと言っちゃった?」

 いや、でもそりゃ人間なんだもの、悩みの種の一つや二つくらいあるもんか。

 こんなに容姿端麗で、知的で、スタイルも良くて、クールな雰囲気があって、すげぇモテそうだとしても。

 「いや、俺……」

 「ん?何、どーした?」

 彼は困ったように、顎に手を当てて考える素振りを見せる。

 「なんだよ、何でも言ってみろよ。」

 「いや、俺……アルファじゃない、から。」

 「はぇっ……?」

 一瞬、たぶん、ほんの一瞬。

 時が止まった。

 「アルファじゃねぇの……?」

 「……うん、アルファじゃねぇの、」

 「いや、んなわけなくない?」

 「いや、んなわけあるんだよ、」

 俺は思いっきり、橋の柵を両手でぶん殴った。

 「はっ?いきなり何してん……」

 再び驚いた顔をするコイツを横目に、俺は今までの妬みや僻みを開放した。

 いや、そうせざるを得なかったんだ。

 こんなのって、ただの不可抗力なだけであって、俺はなんっにも悪くない!

 「はぁぁ……!?こんなイケメンくんがアルファじゃないだとぉぉ!?んじゃ俺のこの顔面はどーしてくれんだよ!お前みたいに脚も長くねぇ短足で豚足なんだけど!」

 「え、ごめ……え、?」

 「俺アルファだよ!アルファなんだよ!なのになんでお前の方がハイスペックカマしちゃってるわけぇ!?頭良さそうだし、運動神経も良さそうだし!ってかこんなの運動神経悪くても許せるだろぉ……!」

 「ちょちょ、ホントに待って。君も充分カッコイイと思うよ……」

 「あぁん?んなのちっとも慰めになってねーっつーの!俺よりイケメンな奴にイケメンって言われて、どこの馬鹿が信じんだよ!お前は今すぐ全てのアルファのためにハゲろ!!!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

毒/同級生×同級生/オメガバース(α×β)

ハタセ
BL
βに強い執着を向けるαと、そんなαから「俺はお前の運命にはなれない」と言って逃げようとするβのオメガバースのお話です。

うるせぇ!僕はスライム牧場を作るんで邪魔すんな!!

かかし
BL
強い召喚士であることが求められる国、ディスコミニア。 その国のとある侯爵の次男として生まれたミルコは他に類を見ない優れた素質は持っていたものの、どうしようもない事情により落ちこぼれや恥だと思われる存在に。 両親や兄弟の愛情を三歳の頃に失い、やがて十歳になって三ヶ月経ったある日。 自分の誕生日はスルーして兄弟の誕生を幸せそうに祝う姿に、心の中にあった僅かな期待がぽっきりと折れてしまう。 自分の価値を再認識したミルコは、悲しい決意を胸に抱く。 相棒のスライムと共に、名も存在も家族も捨てて生きていこうと… のんびり新連載。 気まぐれ更新です。 BがLするまでかなり時間が掛かる予定ですので注意! 人外CPにはなりません ストックなくなるまでは07:10に公開 3/10 コピペミスで1話飛ばしていたことが判明しました!申し訳ございません!!

目標、それは

mahiro
BL
画面には、大好きな彼が今日も輝いている。それだけで幸せな気分になれるものだ。 今日も今日とて彼が歌っている曲を聴きながら大学に向かえば、友人から彼のライブがあるから一緒に行かないかと誘われ……?

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

言い逃げしたら5年後捕まった件について。

なるせ
BL
 「ずっと、好きだよ。」 …長年ずっと一緒にいた幼馴染に告白をした。 もちろん、アイツがオレをそういう目で見てないのは百も承知だし、返事なんて求めてない。 ただ、これからはもう一緒にいないから…想いを伝えるぐらい、許してくれ。  そう思って告白したのが高校三年生の最後の登校日。……あれから5年経ったんだけど…  なんでアイツに馬乗りにされてるわけ!? ーーーーー 美形×平凡っていいですよね、、、、

美形な幼馴染のヤンデレ過ぎる執着愛

月夜の晩に
BL
愛が過ぎてヤンデレになった攻めくんの話。 ※ホラーです

元ベータ後天性オメガ

桜 晴樹
BL
懲りずにオメガバースです。 ベータだった主人公がある日を境にオメガになってしまう。 主人公(受) 17歳男子高校生。黒髪平凡顔。身長170cm。 ベータからオメガに。後天性の性(バース)転換。 藤宮春樹(ふじみやはるき) 友人兼ライバル(攻) 金髪イケメン身長182cm ベータを偽っているアルファ 名前決まりました(1月26日) 決まるまではナナシくん‥。 大上礼央(おおかみれお) 名前の由来、狼とライオン(レオ)から‥ ⭐︎コメント受付中 前作の"番なんて要らない"は、編集作業につき、更新停滞中です。 宜しければ其方も読んで頂ければ喜びます。

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

処理中です...