第七魔眼の契約者

文月ヒロ

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第二章:光と叡智交錯する魔の祭典

第62話悪魔の囁き

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 ――時は遡って、バフォメットによる第六魔法学院襲撃より数時間が経過した頃。

 城谷白は、学院の屋上から静かに校庭を見下ろしていた。
 放課後だからだろう、下の景色の中に生徒の姿が多く交じっている。

 そこに和灘悟の影を探している自分に気付いた城谷は、小さく舌打ちした。

「随分とご機嫌斜めみたいじゃないか、第一魔眼の【適合者】」

「――ッ、またお前か。今度は何の用だ……」

 不意に背後から飛んで来た声に対し、少年が振り向くと、そこに見知った顔が佇んでいた。

 背丈は城谷とほとんど変わらないくらいの青年だ。

 後ろで一纏めにしたやや長めの赤茶髪。
 微笑みを絶やさない顔。
 体は細く、頼りなさを覚える。

「あぁ、覚えててくれてたんだ。嬉しいな。名乗っておくものだね」

「名前なんて忘れた」

「シャド=ブラック。ほら、覚えた」

 厚かましいシャドに、城谷は微かな苛立ちを顔に滲ませた。

 そう。城谷白は以前、この青年と会った事がある。
 偶然出会ったのではなく、今回のように、向こうから直接接触して来たのだ。

 それも敵として。

「俺と話をするためにやったのか、今回も」

「悪魔共の話?違うよ。前回は兎も角、今回はそれだけのためにやったんじゃないさ。安心してくれ」

「お前の言葉の何に安心しろと言うんだ」

「つれないなぁ、僕達似た者同士じゃないか」

「何だと……ッ」

 一瞬にして、険悪な雰囲気に包まれる周囲。
 城谷の敵意を剝き出しにした視線がシャドへ突き刺さる。


「君は半神半人、僕は。どっちも半端者だろう?」

「お前と一緒にするなッ」

 静かで、けれど鋭い声がシャドの言葉を否定した。

「――第七魔眼の【契約者】。凄かったね」

「ッ!」

「まさかバフォメットが消滅するなんて思ってもなかったよ。まぁ、十三体の内の一体が死んだだけ、って言えばそれだけなんだけどさ。あんな事出来るのは魔王か神くらいなもんだよ」

「俺には不可能だと言いたいのか」

「あぁ。君は魔眼持ちで、その身に半分神の血を持っていて、強い【魔術師】だ。けど、伝説に聞く怪物を殺せる程でもなければ、神を殺せる程でもない。半神にしてはあまりに半端。君の周りのお爺さん達にも、同じ事を言われているんだろう?」

 激しい動揺が、城谷の胸を駆け抜けた。
 静まろうとしていた焦燥が加速する。そうだ、城谷白は英雄でなければならない。

 それを望まれたから、その道しか自分にはないのだから。

 だけれども、どうしてか至れない。
 英雄と呼ばれる程の功績を、未だ世界に示せないでいる。
 今回のバフォメットとの戦いがそのいい例だ。

 シャドは無害そうな笑みを消す事なく再び口を開いた。

「だから、話があるんだ。前のような勧誘じゃない、これは協力だ。僕達を、君を、世界に認めさせるために――和灘悟のに手を貸してほしい」

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