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第二章:光と叡智交錯する魔の祭典
第59話休日の集い
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「それで先輩は、第一魔眼の【適合者】に目を付けられたと」
「ふ、不本意ながら……」
休日の午前。
カフェの外に設けられた席に座る悟が、言葉に詰まりつつ言葉を返した。
昨日の、悪魔達による学院襲撃で、城谷白との間に生まれてしまった因縁。
理由は明確に分かっていないが、悟が彼を刺激してしまったのだ。
よりにもよって魔眼の【適合者】を、だ。
魔眼の所持者は、単に強大な力を与えられた【魔術師】ではない。
神すら殺し得る力を有する存在である。
無論、城谷はまだその能力を使えない。
しかし、それがなくとも、対立すれば十分に厄介な障害となる。
自分もノウズも敵対などしたくなかったし、するつもりもなかった。
だというのに、この始末だ。ぐうの音も出ない。
少年の正面で紅茶を片手に持ち、尋ねた猫真緋嶺は、器を静かに受け皿へ戻す。
おもむろに、緋色の瞳を悟へ戻すと、彼女は再び口を開いた。
「でも、魔法祭には出るんですね」
「……あぁ。【魔術師】同士の勢力争いの話、お前もしてたろ。その火の粉がこっちに飛んで来てて、放っておいたら大火事になりそうでな」
「そうですか。取り敢えず、話は分かりました。そういう事であれば、手伝いますよ先輩」
その言葉を聞いて内心で安堵する。
悟が頼れる【魔術師】は多くない。
緋嶺に断られれば、あとは琴梨くらいだが、生憎彼女は生徒ではなく教師だ。
当然あの容姿なら、生徒に扮するのは不可能ではないだろうが……別の意味で無理がある。色々と。
何より、そんな恐ろしい事をあのドS教師に頼むなど自殺行為だ。
ビビってんのか?と笑わば笑え。
笑った馬鹿には派手にジャーマン・スープレックスを決めて、「てめぇは一回、お仕置き受けて来やがれぇッ!」と叫んでやろう。
ともあれ、問題は解決した。
魔法祭の出場に必要な【魔術師】の数は揃った。
悟と緋嶺、そしてもう一人は――
「ところで訊きたいんだけど、何でわざわざカフェで?」
赤眼瞳の声が斜め右から聞こえ、悟が顔をそちらへ向ける。
「集まるなら他の場所の方が、変装しなくていい気がするんだけど」
彼女は、緋嶺の被る真紅のベレー帽を気にしながら言葉を続けた。
鮮やかなその帽子が隠しているのは緋嶺の猫耳。
変装、というのはそれについてだろう。
確かに、ベレー帽を被っているのは騒ぎを恐れての事だ。
瞳の意見も一理あるのだが……。
「?あぁ、それはデートだからです赤眼先輩」
「………………へ?」
緋嶺の返答に瞳の体が、表情が、固まった。
悟は、言うと思ったと、小さく溜息を零した。
「で、デートって……だ、誰と…………」
「当然、先輩とです!」
屈託のない笑みだ。
しかし、そんな緋嶺とは裏腹に、瞳の笑みは引きつっていた。
その強張った微笑が悟に向いた。
「へ、へぇ……いい度胸じゃない、ねぇ、悟?」
悟の座る椅子の足が、床を擦りながら後ろに下がる。
――き、キレてらっしゃる……ッ。
――君に呼ばれて来たのに、本人は浮かれた気分でデート中。ふむ、怒らない道理がないね。
悟の中に宿るノウズが、そう思念を送った。
――浮かれてねぇよ!
――本当に?君ともあろう者が?それは驚きだね。
――こ、コイツぅッ……!
内心で額に青筋を浮かべつつも、悟はこれ以上状況を悪化させないように、何とか苦笑いを顔に貼り付けた。
落ち着け。ここは慎重に言葉選びをして――
「いいじゃないですか赤眼先輩。魔法祭の話はついでなんですから。大事な話も済みましたし、今日は解散にしましょうか」
「ハロハロ神様緋嶺様!?」
駄目だった。
そして、今のが止止めだったらしい。
瞳の体から、赤黒い魔力が蒸気のように漏れ出始めた。
「魔力、制御が甘くなってますよ赤眼先輩?」
「魔力量が多いと調整が難しいのよね。少し発散すればマシになるんだけど、当然手伝ってくれるわよね?だって私達仲間なんだし」
「構いませんよ。昼食前の運動がてらに、一緒に殺りましょう。何せ、仲間、ですからね」
やりましょう、の意味がまるで違う気がする。
そんな事を言える雰囲気ではなかった。
――ま、まずい……ッ。
瞳も緋嶺も、笑みを浮かべているというのに、全く笑っているように見えなかった。
一触即発。
非常に危険な状況だ。どうにかしなければ……。
「ふむ、このまま放置しておくのも面白そうではあるが、その辺にしておいた方がいいのだぞ、小娘二人」
背後から学院長・メルキ=レグルスの声が聞こえたのは、その時だった。
「ふ、不本意ながら……」
休日の午前。
カフェの外に設けられた席に座る悟が、言葉に詰まりつつ言葉を返した。
昨日の、悪魔達による学院襲撃で、城谷白との間に生まれてしまった因縁。
理由は明確に分かっていないが、悟が彼を刺激してしまったのだ。
よりにもよって魔眼の【適合者】を、だ。
魔眼の所持者は、単に強大な力を与えられた【魔術師】ではない。
神すら殺し得る力を有する存在である。
無論、城谷はまだその能力を使えない。
しかし、それがなくとも、対立すれば十分に厄介な障害となる。
自分もノウズも敵対などしたくなかったし、するつもりもなかった。
だというのに、この始末だ。ぐうの音も出ない。
少年の正面で紅茶を片手に持ち、尋ねた猫真緋嶺は、器を静かに受け皿へ戻す。
おもむろに、緋色の瞳を悟へ戻すと、彼女は再び口を開いた。
「でも、魔法祭には出るんですね」
「……あぁ。【魔術師】同士の勢力争いの話、お前もしてたろ。その火の粉がこっちに飛んで来てて、放っておいたら大火事になりそうでな」
「そうですか。取り敢えず、話は分かりました。そういう事であれば、手伝いますよ先輩」
その言葉を聞いて内心で安堵する。
悟が頼れる【魔術師】は多くない。
緋嶺に断られれば、あとは琴梨くらいだが、生憎彼女は生徒ではなく教師だ。
当然あの容姿なら、生徒に扮するのは不可能ではないだろうが……別の意味で無理がある。色々と。
何より、そんな恐ろしい事をあのドS教師に頼むなど自殺行為だ。
ビビってんのか?と笑わば笑え。
笑った馬鹿には派手にジャーマン・スープレックスを決めて、「てめぇは一回、お仕置き受けて来やがれぇッ!」と叫んでやろう。
ともあれ、問題は解決した。
魔法祭の出場に必要な【魔術師】の数は揃った。
悟と緋嶺、そしてもう一人は――
「ところで訊きたいんだけど、何でわざわざカフェで?」
赤眼瞳の声が斜め右から聞こえ、悟が顔をそちらへ向ける。
「集まるなら他の場所の方が、変装しなくていい気がするんだけど」
彼女は、緋嶺の被る真紅のベレー帽を気にしながら言葉を続けた。
鮮やかなその帽子が隠しているのは緋嶺の猫耳。
変装、というのはそれについてだろう。
確かに、ベレー帽を被っているのは騒ぎを恐れての事だ。
瞳の意見も一理あるのだが……。
「?あぁ、それはデートだからです赤眼先輩」
「………………へ?」
緋嶺の返答に瞳の体が、表情が、固まった。
悟は、言うと思ったと、小さく溜息を零した。
「で、デートって……だ、誰と…………」
「当然、先輩とです!」
屈託のない笑みだ。
しかし、そんな緋嶺とは裏腹に、瞳の笑みは引きつっていた。
その強張った微笑が悟に向いた。
「へ、へぇ……いい度胸じゃない、ねぇ、悟?」
悟の座る椅子の足が、床を擦りながら後ろに下がる。
――き、キレてらっしゃる……ッ。
――君に呼ばれて来たのに、本人は浮かれた気分でデート中。ふむ、怒らない道理がないね。
悟の中に宿るノウズが、そう思念を送った。
――浮かれてねぇよ!
――本当に?君ともあろう者が?それは驚きだね。
――こ、コイツぅッ……!
内心で額に青筋を浮かべつつも、悟はこれ以上状況を悪化させないように、何とか苦笑いを顔に貼り付けた。
落ち着け。ここは慎重に言葉選びをして――
「いいじゃないですか赤眼先輩。魔法祭の話はついでなんですから。大事な話も済みましたし、今日は解散にしましょうか」
「ハロハロ神様緋嶺様!?」
駄目だった。
そして、今のが止止めだったらしい。
瞳の体から、赤黒い魔力が蒸気のように漏れ出始めた。
「魔力、制御が甘くなってますよ赤眼先輩?」
「魔力量が多いと調整が難しいのよね。少し発散すればマシになるんだけど、当然手伝ってくれるわよね?だって私達仲間なんだし」
「構いませんよ。昼食前の運動がてらに、一緒に殺りましょう。何せ、仲間、ですからね」
やりましょう、の意味がまるで違う気がする。
そんな事を言える雰囲気ではなかった。
――ま、まずい……ッ。
瞳も緋嶺も、笑みを浮かべているというのに、全く笑っているように見えなかった。
一触即発。
非常に危険な状況だ。どうにかしなければ……。
「ふむ、このまま放置しておくのも面白そうではあるが、その辺にしておいた方がいいのだぞ、小娘二人」
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