第七魔眼の契約者

文月ヒロ

文字の大きさ
上 下
60 / 64
第二章:光と叡智交錯する魔の祭典

第59話休日の集い

しおりを挟む
「それで先輩は、第一魔眼の【適合者】に目を付けられたと」

「ふ、不本意ながら……」

 休日の午前。
 カフェの外に設けられた席に座る悟が、言葉に詰まりつつ言葉を返した。

 昨日の、悪魔達による学院襲撃で、城谷白との間に生まれてしまった因縁。
 理由は明確に分かっていないが、悟が彼を刺激してしまったのだ。

 よりにもよって魔眼の【適合者】を、だ。
 魔眼の所持者は、単に強大な力を与えられた【魔術師】ではない。

 を有する存在である。

 無論、城谷はまだその能力を使えない。
 しかし、それがなくとも、対立すれば十分に厄介な障害となる。

 自分もノウズも敵対などしたくなかったし、するつもりもなかった。
 だというのに、この始末だ。ぐうの音も出ない。

 少年の正面で紅茶を片手に持ち、尋ねた猫真緋嶺あかねは、器を静かに受け皿へ戻す。

 おもむろに、緋色の瞳を悟へ戻すと、彼女は再び口を開いた。

「でも、魔法祭には出るんですね」

「……あぁ。【魔術師】同士の勢力争いの話、お前もしてたろ。その火の粉がこっちに飛んで来てて、放っておいたら大火事になりそうでな」

「そうですか。取り敢えず、話は分かりました。そういう事であれば、手伝いますよ先輩」

 その言葉を聞いて内心で安堵する。

 悟が頼れる【魔術師】は多くない。
 緋嶺に断られれば、あとは琴梨くらいだが、生憎彼女は生徒ではなく教師だ。

 当然あの容姿なら、生徒にふんするのは不可能ではないだろうが……別の意味で無理がある。色々と。

 何より、そんな恐ろしい事をあのドS教師に頼むなど自殺行為だ。

 ビビってんのか?と笑わば笑え。
 笑った馬鹿には派手にジャーマン・スープレックスを決めて、「てめぇは一回、受けて来やがれぇッ!」と叫んでやろう。

 ともあれ、問題は解決した。
 魔法祭の出場に必要な【魔術師】の数は揃った。
 悟と緋嶺、そしてもう一人は――

「ところで訊きたいんだけど、何でわざわざカフェで?」

 赤眼瞳の声が斜め右から聞こえ、悟が顔をそちらへ向ける。

「集まるなら他の場所の方が、変装しなくていい気がするんだけど」

 彼女は、緋嶺の被る真紅のベレー帽を気にしながら言葉を続けた。
 鮮やかなその帽子が隠しているのは緋嶺の猫耳。
 変装、というのはそれについてだろう。

 確かに、ベレー帽を被っているのは騒ぎを恐れての事だ。

 瞳の意見も一理あるのだが……。

「?あぁ、それはデートだからです赤眼先輩」





「………………へ?」








 緋嶺の返答に瞳の体が、表情が、固まった。
 悟は、言うと思ったと、小さく溜息を零した。

「で、デートって……だ、誰と…………」

「当然、先輩とです!」

 屈託のない笑みだ。
 しかし、そんな緋嶺とは裏腹に、瞳の笑みは引きつっていた。
 その強張った微笑が悟に向いた。

「へ、へぇ……いい度胸じゃない、ねぇ、悟?」

 悟の座る椅子の足が、床を擦りながら後ろに下がる。

 ――き、キレてらっしゃる……ッ。

 ――君に呼ばれて来たのに、本人は浮かれた気分でデート中。ふむ、怒らない道理がないね。

 悟の中に宿るノウズが、そう思念を送った。

 ――浮かれてねぇよ!

 ――本当に?君ともあろう者が?それは驚きだね。

 ――こ、コイツぅッ……!

 内心で額に青筋を浮かべつつも、悟はこれ以上状況を悪化させないように、何とか苦笑いを顔に貼り付けた。

 落ち着け。ここは慎重に言葉選びをして――

「いいじゃないですか赤眼先輩。魔法祭の話はついでなんですから。大事な話も済みましたし、今日は解散にしましょうか」

「ハロハロ神様緋嶺様!?」

 駄目だった。
 そして、今のがとどとどめだったらしい。

 瞳の体から、赤黒い魔力が蒸気のように漏れ出始めた。

「魔力、制御が甘くなってますよ赤眼先輩?」

「魔力量が多いと調整が難しいのよね。少し発散すればマシになるんだけど、当然手伝ってくれるわよね?だって私達なんだし」

「構いませんよ。昼食前の運動がてらに、一緒にりましょう。何せ、、ですからね」

 やりましょう、の意味がまるで違う気がする。

 そんな事を言える雰囲気ではなかった。

 ――ま、まずい……ッ。

 瞳も緋嶺も、笑みを浮かべているというのに、全く笑っているように見えなかった。
 一触即発。

 非常に危険な状況だ。どうにかしなければ……。






「ふむ、このまま放置しておくのも面白そうではあるが、その辺にしておいた方がいいのだぞ、小娘二人」

 背後から学院長・メルキ=レグルスの声が聞こえたのは、その時だった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

紘朱伝

露刃
キャラ文芸
神女が幻術師を打ち滅ぼしたという伝説が残る村。そこに、主人公たちは住んでいる。 一人は現時点で最後の能力者、朱莉。彼女は四精霊を従えている。そしてもう一人は朱莉の幼馴染の紘毅。 平和に暮らしていた二人だが、ある日朱莉は都へ行かなければならなくなり、二人は離れ離れとなった。 朱莉が出てから村に異常が発生し、紘毅はそれに巻き込まれる。 四精霊の力を借りながら二人は再会し、村の平和の為に戦っていく。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

処理中です...