第七魔眼の契約者

文月ヒロ

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第二章:光と叡智交錯する魔の祭典

第50話魔眼【契約者】の選択(2)

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「――で、これで満足かよ、クソじじい

 開口一番、鳴神徹はそう言葉を吐き捨てた。

 第六魔法学院の校舎。その外に造られた庭の中で、中央にある噴水の音だけが絶えず聞こえて来る。
 背後では、小萌蛇操沙と如月小雪の顔が、曇った表情で俯いていた。
 佇む徹の視線は、眼前のベンチへ、足を組んでずっしりと座る老いた男に向いていた。
 しかし、その目はすぐに何もない横の空間へれる。

「面白くねぇか?徹」

 老人――祖父の言葉に、徹の胸の鼓動する音が一段大きくなる。
 そして、霜が降りきった髪を手で乱暴に搔きながら、怠そうに腰を上げた祖父へ再び視線が向く。
 相変わらずの体格だ。大きく、分厚い。
 先程まで見下ろしていたはずが、今度は逆に見上げる形となり、徹は後退る。

「あ、あぁ、面白くねぇな。面白くねぇ。何だって魔法祭の出場用紙を、俺等三人の名前だけ書いて出した?はっ、さっすが鳴神家当主様だ、ご丁寧に俺が提出した事になってたぜ。寝耳に水どころか、全身に水ぶっかけられた気分だわ」

「だろうな。何せてめぇ、あの最弱者ワーストのガキも誘うつもりだっもんなぁ」

 見透かしたような祖父の視線が突き刺さるが、その程度で何も言えなくなる徹ではない。

「最底辺の【魔術師】が邪魔だってか?残念だったな、クソじじい。悟はもう、ただの最弱者ワーストじゃねぇぞ。アイツはこの先もっと強くなる、俺よりも、アンタよりも。今のうちにこっちの勢力に引き込んどけば、ぜってぇ利益になる」

「いいや、ならねぇな。だからハッキリ言う。――和灘悟あのガキとはもう、金輪際関わるな」

「なッ……!?はぁ?アンタ話聞いてたのかよ。だ、だって悟は魔眼保有者で!」





「だから、駄目なんだよ大馬鹿が」

 狼狽が加速した。
 その様子に、徹の祖父は溜息を吐いた。

「あのなぁ徹、てめぇはあの魔眼持ちの影響力を盛大に測り間違えてやがるぞ。【契約者】なんざ聞いた事もねぇが、新たな魔眼保有者には変わりない。……だから、「もっと強くなる」じゃねぇ、既に災害みたいな力を持ってんだよ。しっかも、それの手綱は誰も握ってねぇと来た。今にデカい家の【魔術師】共の間で、激しい取り合いが始まるだろうよ。下手にうちや小萌蛇、如月がそこに加わっちまったら、連中に完膚なきまでに潰されるのがオチだ。なら、今まで通りこの三家で協力し合っていく方が良い」

「……」

「つーワケだ。

 徹は俯き、拳をグッと強く握り締めたッ。
 同時に自分の口の中から聞こえたのは、鈍い歯軋り音。

 ――クソッ……。

 見抜かれていた。見抜かれた上で敢えて同じ土俵に立たれ、挙句、論破された。

「ははっ、図星かぁ。まぁどうでもいいが。言われなくても、操紗ちゃんと小雪ちゃんはこの話理解してる。儂の代わりに、しっかり徹のブレーキ役になってやってくれぃ」










「待てよ」

 自分を歯牙にもかけず横を通り去って行く祖父に、鳴神家当主に、鳴神徹は待ったをかけた。
 冷や汗が頬を伝う。

「あ?」

「上位だ。今度の魔法祭で俺達が上位に入ったら、俺達三人全員を当主候補に、いや当主候補筆頭にしろ」

「はぁ、何を言い出すかと思えば。……んな事、儂一人で決められる訳ねぇだろうが。第一な徹、賭けに他人巻き込――」

「なら、その賭けに勝ったら、今後俺達のする事に邪魔入れるな。代わりに、負けたらアンタの言う事に全部従ってやるよ、クソ爺。これはただの賭けじゃねぇ、【決闘】だ。はっ、まさか天下の鳴神家当主サマが、下剋上が怖くて断るなんて言わねぇよな?」

 祖父の方を向いて、徹は挑戦的な笑みを浮かべた。
 いつか見た、起死回生の一手を放つ時の悟の表情のように。
 そうして操紗、小雪に視線を飛ばす。
 返って来たのは無言の肯定。

「俺達はそれでいいぞ?選べよクソ爺。当主の威厳を守るか、三流【魔術師】ごときから逃げたヘタレのレッテル貼られるか」

「……チッ、口と知恵だけは達者になりやがって、馬鹿孫が。誰の影響だよ、クソ忌々しい」

 悪態をつきながら、こちらを睨む祖父。
 しかし。

「まっ、見えてる勝敗だ。いいだろう。鳴神家当主において、その【決闘】、受けて立つ。逃げんなよ三人共」

 軽くそう言って、鳴神家の当主は庭を去って行く。











 ――その様子を、は物陰に隠れて静かに見ていた。

「悟……」

 隣にいた魔眼・ノウズが声をかけて来る。
 分かっている。「どうするつもりだい」そう訊きたいのだろう。
 けれど。

「行くぞノウズ。便所の時間にしたら長過ぎだ、サボりで減点食らう」

 呟くようにそれだけ言って、悟はその場を後にしたのだった。
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