第七魔眼の契約者

文月ヒロ

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第二章:光と叡智交錯する魔の祭典

第49話魔眼【契約者】の選択(1)

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 ――数日が経過した頃。

 担任の琴梨から用意された補習も全て終え、悟は完全な意味で日常を取り戻していた。

「で、実戦演習サボってるワケだけど、どうしたの?」

 授業中、【魔術演習場】にて魔術を交わす生徒達から少し離れた場所で、彼らの様子を眺める赤眼瞳は、隣の悟に尋ねた。

「休憩中、な。サボりなんて、滅多な事言うもんじゃねぇぞ」

「はいはい、そうね。そういう事にしておいた方が、都合いいし」

「そーゆーこった。……んで、瞳、ちょっと話があんだけどさ」

 本題に入ったな、と思い、瞳は悟の方へ顔を向けた。

「話?」

「そっ、もうすぐ魔法祭あるだろ。一緒に出ねぇかって思ってさ」

「えっと……操紗達と出るんじゃなかったの?ていうか、さっきから、その三人が見あたらないけど……」

「さぁ?連れションとかじゃねぇの。まぁ、それは置いておいて、話を戻すとだな。俺も徹達と出るつもりだったんだけど、色々理由付けられてなかった事になって」

「理由ねぇ……ちなみに、どんなのよ?」

 そう訊くと、悟は何か引っかかるのか、少し考えるような顔をする。
 心なしか、その表情は困惑しているようにも見えた。

「分かんねぇんだよな。理由らしい理由は聞いたけど、本当のところは多分はぐらかされて。ま、そんなこんなで暇になったんだけど、折角だし一回魔法祭に出てみようかなと思ってんだ」

「なるほどね。でも、【魔術師】科とか【魔具師】科とかならまだしも、【迷宮】科は団体出場が必須でしょ。ほら、毎年うちの科は魔法祭で【迷宮】攻略で競うし、確か最低三人だったような気がするけど。仮に私が出たとして、条件人数が足りてないじゃない」

「いや、当ては一人いる。だから、瞳が入ってくれりゃあ人数は足りるけど、どうする?駄目なら他の――」

「そう、だったら出る」

「……えっ、いいの、か?本当に。だって、あれ団体行動で…………」

 自分から誘っておいて、予想が外れた、とでも言いたそうな表情を悟は浮かべた。
 それがおかしくて、瞳はクスッと笑った。

「えぇ、【迷宮】を一人で潜るの、やめたから。それに――一緒に【迷宮】攻略した仲でしょ?」

 悟はきょとんとした顔になる。
 しかし、それも一瞬の事。

「……そうか、そうだな」

 吸血鬼のような鋭い犬歯をあらわにして、ニィと快活な笑みを浮かべた。

「それじゃあ、そろそろ授業に戻って実戦演習の続きね。悟、私の相手しなさい」

「おう、任せとけ――っとワリィ、その前にちょっと便所」

「ったく、アンタは……」

 ――【名無し】を相手にしてた時みたいに振る舞ってたら、少しは格好がつくのに。
 思わず、そう口にしそうになって、瞳は口をつぐんだ。
 何故だろう、大した発言じゃないはずなのに、いざ言おうとしたら恥ずかしい。というより、顔が心なしか熱くなって来る。

「ん?どうしたよ瞳?」

「う、うっさい!とっとと行きなさいッ」

「お、おぉ、キレてらっしゃる……」

 てっきり呆れられたと思っていたのだが、どうやら、怒りを買ったようだった。

 ――分かんねぇ。ノウズみたく、相手の思考が見えりゃあな……。

 無論、行使する能力に制限のかかった【契約者】には出来ないが。
 瞳から逃げるようにして、トイレに向かって走りながら、悟は少しだけ【適合者】が羨ましいと思った。
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