第七魔眼の契約者

文月ヒロ

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第二章:光と叡智交錯する魔の祭典

第47話猫耳少女の願い事(1)

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「は~い、じゃあ今日はここまでなの。先生的にはちょっと物足りないけど、お疲れ様、悟君」

「……さ、左様ですかッ。出来れば、もっと早く……そ、その台詞が聞きたかったっす琴梨先生。色々限界なんですが」

【魔術演習場】にて、和灘悟は地面へ盛大に背を預けながら、絞り出すようにそう返事を返した。疲労によって垂れた瞼を無理やりに開き、半眼を担任に向ける。

「あら、そうかしら?悟君ってば今日、先生の鞭と魔術、ほとんど避けてたと思うの。――っていうか君、よね?」

「まぁ」

「……へぇ、それが悟君の魔眼のチカラかぁ。これなら呪い、解けるかもね。うんうん、良かった良かった」

 弛緩した空気を醸し出しながら、ほがらかに笑って言う深緑の髪の少女。一見すれば、成人を迎えたとは思えない容姿だが、彼女――鞭野琴梨を知る悟は間違えない。この【魔術師】を見た目で判断するなど愚の骨頂だ。
 叡智の魔眼の能力により、【天眼】を使えるようになって、それが改めて分かる。

「じゃ、先生はもう行くけど、悟君は寄り道はほどほどにして、外が暗くならない内に家に帰るの」

「うい~っす」

 去って行く琴梨の姿を、上体を起こして見送ると、魔眼・ノウズが虚空より唐突に現われた。

「彼女、かなりの量の魔力を持っているね」

「だな……。藪蛇つつきそうだから訊かねぇけどさ、どう見たって第七位階級の魔力量じゃねぇよ、あの人」

 もっとも、本当の意味で恐ろしいのは、その魔力を駆使した高度な戦闘能力だ。
 病み上がりで、全力とはいかないものの、魔眼の力を使っても琴梨にはほとんど防戦一方の状況に追い込まれたのがその証拠。
 今の自分なら一勝くらいはできるかもしれない、など甘過ぎる考えだった。
 立ち上がり、ジャージの所々についた砂を手で軽く払うと、悟は更衣室へ足を進め、

「あ、あかん。そ、想像以上に俺の体が悲鳴を上げてらっしゃった……ッ」

 芝生の生えた小さな坂を少し上った所で、悟は前のめりに地面へ倒れた。
 何とか力を振り絞って上体を腹筋で持ち上げるが、座った状態から抜け出せない。膝が笑っている。

「喜べノウズ、今日は家に帰れねぇぞ」

「なるほど。確かに、たまには開放的な空間で野宿も悪くないかもしれない。数千年ぶりだから、ワクワクするじゃないか」

「……冗談言ったの俺だけど、笑えねぇよその返し」

 悟は、隣で愉快そうな表情を浮かべるノウズに呆れた視線を向けた。
 本人は特に、トラウマを抱えている素振りを見せていない。とはいえ、軽口にしては、別の意味で少しばかり闇が深い気もする。
 深く考えるのはよすけれど。
 


「えい」

「冷――ッ!」

 不意に、首筋に氷を当てられたような刺激が走った。
 思わず振り返ると、そこには見慣れた小柄な少女の姿があった。
 猫真緋嶺、彼女だった。

「はい、お疲れ様です先輩」

「ぉお、あんがと……」

 驚かされた事に文句を言う前に、スポーツ飲料水の入ったペットボトルを差し出され、悟はそれを受け取った。
 調子を崩される悟を他所に、緋嶺は彼の隣の芝生に座る。

「飲み物、そっちの魔眼さん?にも持って来た方が良かったですね。すみません」

「いや、構わないさ。ボクは食事を必要としないから。それと、自己紹介がまだだったね。ボクは叡智の魔眼・ノウズ。第七魔眼とも呼ばれているらしいけれど、それはそれとして、よろしく頼むよ」

「猫真緋嶺です。こちらこそ、よろしくお願いしますね」

「……で、どうした?」

 二人の会話が一区切りついたところで、悟が緋嶺に尋ねた。

「いえ、たまたま見かけたので。それと、まぁ、少し話がありまして」

「そういや、昼もんな事言ってたな」

「いきなりしますか、その話?ほら、久しぶりなんですから、もっと何かあるじゃないですか普通。だからモテないんですよ、先輩は」

「ほっとけ。……アレだ、ちょっと気になったんだよ」

 いつものように軽口叩きつつ、悟は本心を口にした。
「そうですか」と微笑を浮かべた緋嶺。そうして、そのまましばらく、静寂が続いた。
 沈黙を破ったのは、緋嶺だった。

「実は……ちょっと、困ってまして」

「その相談って訳か」

「話が早くて助かります。そう難しい話でもないんですが――近々、婚約を結ばないといけなくなりました」

「は?」



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