第七魔眼の契約者

文月ヒロ

文字の大きさ
上 下
44 / 64
第二章:光と叡智交錯する魔の祭典

第43話合格祝いの席の中(2)

しおりを挟む
「ん?」

 耳に届いた聞き覚えのある声に反応し、悟は後ろを振り向く。

「おっ、さっきぶりぃ。遅かったな瞳」

 赤眼あかのめひとみ、彼女がそこにいた。

「用事があったのよ、誘うなら直前はやめなさいっての」

「そうしたいのは山々だったんだけどな、色々忙しかった上に……ほら、俺今日ほとんどの授業出席してなかったろ」

「確かに。何してたの?」

「琴梨先生プレゼンツ“お仕置き補習”超増し増し……」

 定食を乗せたトレイを長机に置くと自分の隣に座った瞳。
 悟はそんな彼女に対し、遠い目をして言った。

「なるほどね、

「あぁ、まったくだー……」

 どうやら瞳には理解してもらえなかったようだ。であれば、あの魔界にでも放り込まれた――もちろん、行った事はない――ような時間を是非とも体験してほしい。
 今の悟のように、説明するのも気疲れするレベルに濃い時間を味わえるだろう。

 悟が密かにそう思ったのを、魔眼以外は誰も知らない。

「おひさー瞳」

「久しぶりね操沙。二人も」

「うっすッ」

「お久しぶりです赤眼あかのめさん」

 瞳と操沙達のやり取りを見守りながら、そういえば今日は休み明けだったか、と若干の休みボケを再認識する悟。それともう一つ。

「そうか、お前等、俺が寝てる間に会ってたんだっけか」

「見舞い行ったら病室でな」

「あの、えと、そこから学校でもよくお話をするようになりまして――」

「はいはい、盛り上がってるとこ悪いけど小雪、あと徹と悟、あんまし長引かせると昼休終わるわよ」

 言いながら、操沙は食堂の時計を親指で指した。

「ですね」

「んじゃ、ちょっと遅くなったけど、悟の追試合格祝いってことで……」

 小雪に続き徹が言うと、各々用意した飲み物の容器を手に取って、顔の高さまで持ち上げる。
 そして、

「「「「「乾杯!」」」」」

 ようやく悟の落第回避の祝いが始まった。
 第一位階が一人に、第二位階が二人、第三と第五位階がそれぞれ一人ずつという珍しい組み合わせ。おまけに魔眼付きだ。

 ――魔眼、か……。

「なぁ瞳、第一魔眼の【適合者】ってどんな奴か知ってるか?」

「え?えぇっと、悪いけど私まだ会った事なくて」

「あっ、あたし遠めからなら見た。――一言で言ったら白い男子ね。あと超顔が良い」

「二言じゃねぇか……」

 加えて後半は心底どうでもいい。
 それはさておき、だ。少々気になって訊いてみたが思っていたより情報が集まらない。
 いや、夏休みはまだ少し先だとはいえ、この変な時期に【適合者】は編入して来たのだ。まだ学院に通い始めて日が浅いだろうし、悟達とはクラスも違う。得られる情報など、案外こんなものなのかもしれない。

 ――ミスったな。

 ――あとで【天眼】で探してみるかい?

 ――ぁあ、今日はパスで……琴梨先生の補習、まだ終わってねぇから。

 あまり休み過ぎた感覚はないものの、学習の遅れはやはりあった。小さな試験もいくつかあったらしい。
 今回の落第は寸前の所で回避したが、学院の成績評価は少し特殊で加点と減点の両立方式だ。決められた試験や課題に合格しなければ減点され、持ち点が一定ラインを下回れば即落第。学院生活全体を通しての言動も、評価対象となる事もある。
 悟のような最底辺の成績だとまた落第しかねないのだが、琴梨の計らいでそれら全てを補習で賄えるようにしてもらえた。

 ……あれ、この人ただ趣味に走っただけでは?と気付いたのはつい先程の事だったが。

 兎に角、今日は一日補習漬け確定だろう。

「ま、後で探すのは賛成だけどよ」

 呟くようにノウズに返事をすると、悟は椅子の背にもたれた。
 急ぎの用事でもない。今くらいはゆっくりしようと考えて――

「あれ、先輩?」

 不意に、直ぐ近くで偶然居合わせた猫耳の少女と目が合った。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

紘朱伝

露刃
キャラ文芸
神女が幻術師を打ち滅ぼしたという伝説が残る村。そこに、主人公たちは住んでいる。 一人は現時点で最後の能力者、朱莉。彼女は四精霊を従えている。そしてもう一人は朱莉の幼馴染の紘毅。 平和に暮らしていた二人だが、ある日朱莉は都へ行かなければならなくなり、二人は離れ離れとなった。 朱莉が出てから村に異常が発生し、紘毅はそれに巻き込まれる。 四精霊の力を借りながら二人は再会し、村の平和の為に戦っていく。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ほとりのカフェ

藤原遊
キャラ文芸
『ほとりのカフェ - 小川原湖畔に紡がれる物語』 静かな湖畔に佇む小さなカフェ。 そこには、人々の心をそっと解きほぐす温かな時間が流れている。 都会に疲れた移住者、三沢基地に勤めるアメリカ軍人、 そして、地元に暮らす人々── 交差する人生と記憶が、ここでひとつの物語を紡ぎ出す。 温かなコーヒーの香りとともに、 あなたもこのカフェで、大切な何かを見つけてみませんか? 異文化交流と地方の暮らしが織りなす連作短編集。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

処理中です...