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第一章:始まりの契約
第20話最下層
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◆◇◆◇◆◇◆
――熱い。
初めに思ったのは、それだった。
数メートル先の地面に散らばっている、先程まで小さな壺だった物の破片。
視線を自分の腹へ移すと、大きく穴が開き、大量の血が流れていた。
『う、そ…だろッ……』
体から漏れ出る血液とは別の熱源。
その正体に気付いた時、熱はようやく強烈な痛みへと変換された。
『ぐ、ぅ……ッ!』
痛い、熱い、痛い、熱い熱い痛いッ。
――ヤバ、い…死ぬ。
その場で倒れ込み、自らの鮮血で作り出した深紅の絨毯の上で、意識が薄れて行くのをただただ感じている事しか出来なかった。
――死ぬ。
嫌だ、死にたく、ない。
死にたくない、死にたくない、死にたくない、死にたくない、死にたくなんてない。
まだ、生きていたいッ。
けれど、次の瞬間、和灘悟の意識は暗闇の中へ消えて行った。
◆◇◆◇◆◇◆
目覚めは、頭に響くような鈍痛の中での事だった。
「……痛ぅッ。ん?どこだ、ここ」
徐々に治りつつある頭痛に、右手で軽く頭を押さえる悟は、上体を起こし辺りを見渡す。
特例最下層よりも薄暗い空間。ごつごつとした地面や壁も相まって、洞窟の中にいるような感覚がする。そして、少し肌寒い。
今いるこの場所がどこなのか見当もつかず、気が付けばここで倒れていた。
しかし、まぁ、
「生きてる、な。ちゃんと」
少なくともそれは確かだった。
当然だ、先程見ていたのは夢。しかも、約二年前の記憶を忠実に再現した。
死んでいる訳がない。
「あぁ、ビビったぁ。夢の癖に現実感あり過ぎだろ、ったく。……さ~て、どうすっかねぇ。マジでさ」
推測するに、恐らく悟は、特例最下層で最後に見たあの魔法陣によって別空間へ転移させられたのだ。
一緒にいた瞳の姿がないのも、多分その所為だろう。
だが、問題は悟が今いる場所だ。
一体どこなのだろう。【迷宮】の中である事は確実だと思うが、それ以外がまるで分からない。
動けば危険かもしれない。とはいえ、このままでいるのも得策とは断言出来ない。
「ホントどこだよ……」
『ふふ、答えは簡単さ。今君がいるのは、この【迷宮】の最下層だよ』
そんな時だった、誰かが唐突に話しかけてきたのは。
「誰だ?てか、今頭に直接声が……」
『おっと、驚かせてしまったようだね。いやすまない、ボクとしたことが会話の順序を間違えてしまったよ。何せ久方ぶりの来客、それも人間だったものだから』
まただ、声が耳ではなく頭に届いている。今ので確信した、これは勘違いなどではない。
だとしたら、一体どこで、どうやって話しかけている?
周りを見渡しても、それらしい人影はどこにも存在しない。おまけに、声が中性的過ぎて、男か女かすら判断が付かないと来た。話し方からして男の――少年の可能性が高いが。
とにかく、分からない事だらけな所為で、不気味で仕方がない。本当は、この声について色々と知りたい所だ。
が、それは後にしておこう。
「それより、さっき最下層って言ったか?」
『あぁ、言ったとも』
「特例最下層じゃなくて?」
『ふむ。特例最下層、という名称が何を指すのかは置いておくとして、ここが最下層なのは変わらないよ。階層で言えば、第十層だったかな』
「え、は?あ、えっ……じゅ、十層!?」
少年らしき者の声が告げた言葉に、悟は驚愕するしかなかった。
追試に使われたのは、全九層からなる【迷宮】。
だというのに、十層目が存在した?
いや、仮にそうだとして、こうもあっさりと見つかるものだろうか。
『いいや、見つからないだろうね』
「!?」
考えている最中、あの声が再び悟に語りかけて来た。
それも。
――コイツ、俺の思考を読んだッ?
『読んだ、というよりは見たんだよ。和灘悟』
「はは…マジか、名前まで分かんのかよ……」
『それがボクの能力だからねぇ。とはいえ、不快だったなら控えよう。それと謝罪も』
悟は「別に気にしてねぇよ」と返事を返した後、小さく溜息を零した。
どうせ、こっそりその能力が使われていても悟は気付けないのだ。常に頭の中を監視されているとでも思っておこう。
「で、誰だよお前」
数百年前に発見されて以来、誰も辿り着けなかった最下層。
そんな場所にいるこの声の主は、明らかに普通ではない。
『あぁ、そういえば挨拶がまだだったね』
尋ねられた声の主が、言いながら、微かに笑みを浮かべた。悟にはそう感じられた。
『ボクはノウズ――君の持つ知識で言えば、この世界における七つ目の魔眼さ』
――熱い。
初めに思ったのは、それだった。
数メートル先の地面に散らばっている、先程まで小さな壺だった物の破片。
視線を自分の腹へ移すと、大きく穴が開き、大量の血が流れていた。
『う、そ…だろッ……』
体から漏れ出る血液とは別の熱源。
その正体に気付いた時、熱はようやく強烈な痛みへと変換された。
『ぐ、ぅ……ッ!』
痛い、熱い、痛い、熱い熱い痛いッ。
――ヤバ、い…死ぬ。
その場で倒れ込み、自らの鮮血で作り出した深紅の絨毯の上で、意識が薄れて行くのをただただ感じている事しか出来なかった。
――死ぬ。
嫌だ、死にたく、ない。
死にたくない、死にたくない、死にたくない、死にたくない、死にたくなんてない。
まだ、生きていたいッ。
けれど、次の瞬間、和灘悟の意識は暗闇の中へ消えて行った。
◆◇◆◇◆◇◆
目覚めは、頭に響くような鈍痛の中での事だった。
「……痛ぅッ。ん?どこだ、ここ」
徐々に治りつつある頭痛に、右手で軽く頭を押さえる悟は、上体を起こし辺りを見渡す。
特例最下層よりも薄暗い空間。ごつごつとした地面や壁も相まって、洞窟の中にいるような感覚がする。そして、少し肌寒い。
今いるこの場所がどこなのか見当もつかず、気が付けばここで倒れていた。
しかし、まぁ、
「生きてる、な。ちゃんと」
少なくともそれは確かだった。
当然だ、先程見ていたのは夢。しかも、約二年前の記憶を忠実に再現した。
死んでいる訳がない。
「あぁ、ビビったぁ。夢の癖に現実感あり過ぎだろ、ったく。……さ~て、どうすっかねぇ。マジでさ」
推測するに、恐らく悟は、特例最下層で最後に見たあの魔法陣によって別空間へ転移させられたのだ。
一緒にいた瞳の姿がないのも、多分その所為だろう。
だが、問題は悟が今いる場所だ。
一体どこなのだろう。【迷宮】の中である事は確実だと思うが、それ以外がまるで分からない。
動けば危険かもしれない。とはいえ、このままでいるのも得策とは断言出来ない。
「ホントどこだよ……」
『ふふ、答えは簡単さ。今君がいるのは、この【迷宮】の最下層だよ』
そんな時だった、誰かが唐突に話しかけてきたのは。
「誰だ?てか、今頭に直接声が……」
『おっと、驚かせてしまったようだね。いやすまない、ボクとしたことが会話の順序を間違えてしまったよ。何せ久方ぶりの来客、それも人間だったものだから』
まただ、声が耳ではなく頭に届いている。今ので確信した、これは勘違いなどではない。
だとしたら、一体どこで、どうやって話しかけている?
周りを見渡しても、それらしい人影はどこにも存在しない。おまけに、声が中性的過ぎて、男か女かすら判断が付かないと来た。話し方からして男の――少年の可能性が高いが。
とにかく、分からない事だらけな所為で、不気味で仕方がない。本当は、この声について色々と知りたい所だ。
が、それは後にしておこう。
「それより、さっき最下層って言ったか?」
『あぁ、言ったとも』
「特例最下層じゃなくて?」
『ふむ。特例最下層、という名称が何を指すのかは置いておくとして、ここが最下層なのは変わらないよ。階層で言えば、第十層だったかな』
「え、は?あ、えっ……じゅ、十層!?」
少年らしき者の声が告げた言葉に、悟は驚愕するしかなかった。
追試に使われたのは、全九層からなる【迷宮】。
だというのに、十層目が存在した?
いや、仮にそうだとして、こうもあっさりと見つかるものだろうか。
『いいや、見つからないだろうね』
「!?」
考えている最中、あの声が再び悟に語りかけて来た。
それも。
――コイツ、俺の思考を読んだッ?
『読んだ、というよりは見たんだよ。和灘悟』
「はは…マジか、名前まで分かんのかよ……」
『それがボクの能力だからねぇ。とはいえ、不快だったなら控えよう。それと謝罪も』
悟は「別に気にしてねぇよ」と返事を返した後、小さく溜息を零した。
どうせ、こっそりその能力が使われていても悟は気付けないのだ。常に頭の中を監視されているとでも思っておこう。
「で、誰だよお前」
数百年前に発見されて以来、誰も辿り着けなかった最下層。
そんな場所にいるこの声の主は、明らかに普通ではない。
『あぁ、そういえば挨拶がまだだったね』
尋ねられた声の主が、言いながら、微かに笑みを浮かべた。悟にはそう感じられた。
『ボクはノウズ――君の持つ知識で言えば、この世界における七つ目の魔眼さ』
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