第七魔眼の契約者

文月ヒロ

文字の大きさ
上 下
16 / 64
第一章:始まりの契約

第15話凸凹コンビの【迷宮】探索

しおりを挟む
 訳が分からない。

 和灘悟という存在に関して、赤眼瞳が初めにそう思ったのは果たして何時だっただろうか。

 三日程前、出会い頭に、彼から告白まがいの頼み事をされた時か。
 それともその後、彼が圧倒的な実力差のある第四位階の【魔術師】を負かした時か。
 もしかしたら、一年前くらいに、三百年ぶりに第一位階の【魔術師】が現れたと聞いた時かもしれない。

 正直に言えば、はっきりと覚えていない。

 ただ、今明確に言える事があるとするならばこれに限る。

「なんっなのよアンタッ……!さっきから見てれば、目に付く【トラップ】【トラップ】全部発動させて、ホント何がしたい訳!?」

 こめかみに青筋を浮かべた瞳の口から、堰を切ったように怒声が飛び出し【迷宮】内で響いた。
 視線の先、そこには仰向けに倒れている和灘悟の姿があった。

 そう、この男だ、この男は一体何なのだろうか?

【迷宮】へと潜って十秒も経たない内に、悟が最初の【トラップ】に引っ掛かった事が発端だった。
 それから数分後、またしても【トラップ】に嵌まり、三つ目を発動させてしまったのがそれから一分前後経った頃の話。
 その後も、事あるごとに【トラップ】の設置された場所に触れ、悟は被害を被っていた。

 飛び出して来た矢や剣によって、服が所々裂かれており、地雷を喰らって焦げているのがその証拠。
 ちなみに悟が今倒れているのは、十秒程前に発動させた地雷系の【トラップ】に嵌まり、回避したはいい物の衝撃波で吹き飛んだ為である。

「んな事、言ったって……これ体質なんだからしょうが――」

 ――シュトンッ。
 上体を起こしながら言い訳をしようとした悟の眼前を矢が横切り、直後、【迷宮】の壁にそれが突き刺さる音がした。

 ギギギギッ、と悟が壊れたロボットのように顔を下へ向け、地面に着いた手を見れば、床が不自然な形で、もっと言えば長方形に凹んでいる。なるほど、どうやらまた【トラップ】を発動させてしまったらしい。
 あと数センチ頭に近ければ、脳味噌を【迷宮】内の床にぶちまけていたかもしれない。

 肝を冷やしつつ、当たらなくて良かったと安堵した悟は、瞳に視線を戻すと再び口を開く。

「兎に角、俺が【トラップ】に嵌まりやすいのは体質――てか多分、文字通りの意味でだから。今のとか、さっきのとか、その前のとか全部仕方ねぇんだよ」

「なッ……!」

 悟の発言に、瞳は心底呆れた。
 ここは本物の【迷宮】、偽物とは訳が違うのだ。悟の話が正しいのだとして、そんなふざけた呪いに掛かった人間が立ち入って良い場所ではない。
 だが、どうも眼前のこの少年は引き返す気などないらしい。

「はぁ、何でこんな馬鹿に付いて行こうなんて考えただろ私……」

「知らねーよ」

「うっさい、別にアンタに訊いてないってのッ。ほら、とっとと立って歩く。試験合格するんでしょ?……ったく」

 呑気に座ったままいる悟に背を向け、瞳は止まっていた歩みを再び進め出した。
 悟への協力を約束してしまった手前、ここで投げ出す訳にはいかない。
 とはいえ、こんな手伝い早く終わらせるに限る。

 ――そんな風に、油断をしていた。

「踏むな、赤眼ッ!」

 背後から飛んで来た悟の声。
 だが、もう遅かった。






「ぇ……?」

 足元に浮かび上がった魔法陣。
 急速に輝きを増していくその白光。

 ――しまッ……避け、ないと…!

 死ぬ。
トラップ】に気付いてからまだ約一秒。理由は分からない、けれど、瞳の勘がそう言っていた。
 だが、間に合わない、回避が間に合わないッ。

 体は自然と、次の瞬間に来る激痛に耐える準備をしていた。
 大丈夫だ、死なない、死なない。この分なら、最悪でも重傷で済――

「【加速】!」

「きゃッ……」

 そんな瞳を、悟が突き飛ばした。
 転んだ瞳は、咄嗟に、先程まで自分がいた場所へ首を向ける。

トラップ】が発動し悟を襲ったのは、その直後だった。

「……ッ!」

 衝撃的な光景に、大きく見開かれる瞳の目。
 時の流れが、遅くなったように感じた。

 駆け出さなければならない。
 逃げろ、と叫ばなければならない。
 分かっているのに、体の動きが遅くって。

 眼前。赤眼瞳の目に映った物。
 それは、数本の巨大な鉄の棘、その一つが悟の胸を貫いている様子だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合系サキュバス達に一目惚れされた

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

デリバリー・デイジー

SoftCareer
キャラ文芸
ワケ有りデリヘル嬢デイジーさんの奮闘記。 これを読むと君もデリヘルに行きたくなるかも。いや、行くんじゃなくて呼ぶんだったわ……あっ、本作品はR-15ですが、デリヘル嬢は18歳にならないと呼んじゃだめだからね。 ※もちろん、内容は百%フィクションですよ!

AIアイドル活動日誌

ジャン・幸田
キャラ文芸
 AIアイドル「めかぎゃるず」はレトロフューチャーなデザインの女の子型ロボットで構成されたアイドルグループである。だからメンバーは全てカスタマーされた機械人形である!  そういう設定であったが、実際は「中の人」が存在した。その「中の人」にされたある少女の体験談である。

ニンジャマスター・ダイヤ

竹井ゴールド
キャラ文芸
 沖縄県の手塚島で育った母子家庭の手塚大也は実母の死によって、東京の遠縁の大鳥家に引き取られる事となった。  大鳥家は大鳥コンツェルンの創業一族で、裏では日本を陰から守る政府機関・大鳥忍軍を率いる忍者一族だった。  沖縄県の手塚島で忍者の修行をして育った大也は東京に出て、忍者の争いに否応なく巻き込まれるのだった。

処理中です...