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第一章:始まりの契約
第13話追試の開始
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予想だにしなかった人物の登場に、悟と瞳は同時に驚愕の声を上げた。
「あらメルちゃん、どうしたの?」
「あぁ、ここの特殊転移魔法陣が故障しておったのを思い出してな。一応だが、何時か使う事もあるかと、近々修理を考えていたが……まさか、こんなに早く使用する羽目になるとは予想してしていなかったのだぞ」
話の途中、腕を胸の前で組み、悟に面白がるような顔を向けつつ含みのある言葉をかけたメルキ。
そんな彼女に、琴梨が口を尖らせ不満を言う。
「むぅ……それならもっと早く気付いて欲しかったの」
「いや、早い時間に気付いてはいたのだがな。遅れた理由は、焦る事でもないかと思って歩いて来たのと――」
言いながら、メルキが後ろを一瞥した直後、部屋の出入り口の端より複数の人影が現れぞろぞろと室内に入って来た。
「お、お前等…ッ!」
それに気付き後ろを振り向いた悟が目にしたのは、小萌蛇操沙、如月小雪、鳴神徹の三人だった。
友人達の唐突な登場に当惑していると、彼等がこちらに近付いて来た。
「ぃようっ、悟。操沙から聞いたぜ、【迷宮】に潜るんだってな。見送りに来てやったぞ」
「当然、この操沙様もね」
「あ、あの、私も2人と同じで見送りに……」
初めは徹、次に操沙、そして最後に小雪の順で悟に話しかけた。
それにしては随分と遅い登場だったな、と思いつつそう尋ねると、返って来た答えを聞いて納得した。
本当ならば、三人の到着は本来の試験開始時刻には間に合っていたらしい。しかし、途中でメルキと偶然出会い、彼女と会話しつつこの塔を目指していたらこの時間になったのだとか。
悟の質問に代表者として答えた操沙は、言葉を続け、
「急ごうと思ったんだけど、学院長が大丈夫だって言うからさ。で、来てみたら本当に間に合った訳だけど……これ、どういう状況?」
「あぁ、ちょっとトラブってて。何かこの部屋の特殊転移魔法陣が壊れてるらしい」
「「「えッ…!?」」」
尋ねられ悟が返答すると、操沙だけでなく後のニ人も揃って驚きの声を上げた。
しかし、何時の間にか悟と瞳の隣まで近付いて来ていたメルキの声が、思い出したようにこう言った。
「その事だがな、先ほども言った通り諦めるのはまだ早いのだぞ。というより、これは儂の失態。ならばその儂自ら責任を取るのが筋というもの。幸い、儂は転移魔術が使えて、更にあの転移魔法陣の転移先には行った事があるしな。向こうの結界は、以前行った時に儂自ら貼り直した故、結界が原因で転移出来んという事態も有り得ん。……それよりも、だ。お主ら、まだこの小僧に用があるのではなかったか?」
試験開始が可能になった事に安堵の表情を浮かべた赤眼瞳。その横で同じように安心に頬を緩ませていた悟の背中へその華奢な手を向かわせると、喋りながらメルキは目の前に立っていた徹達へ視線を向けた。
学院長たる少女の言葉に、途端、疑問を表情に浮かべた悟。
そんな中、「あ、そうだったそうだった」と徹が一歩前に出た。
「今日の試験は初めての【迷宮】攻略だろ?だから、餞別の品を用意して来たぜ」
「おぉ!良いのか、あんがとな徹」
悟にとって【迷宮】は、攻略どころか立ち入った事すらない場所だ。
おまけに、【罠】誘発体質という問題も抱えている。
現状、少しでも攻略の成功率が上がるのなら非常に助かる。
……のだが。
「っと、その前に悟、取り敢えず一発ぶん殴っていいか?」
「い、いやちょっと待てッ、状況が飲み込めねぇ。どういう事だよ」
「どういう事だぁ!?それはこっちの台詞だ、悟。確かに、【迷宮】で追試する、ってのは聞いた。けど、赤眼瞳連れてくなんて聞いてねぇぞこの野郎ッ!」
なんて、瞳を指差して徹はキレながら叫んだ。
徹の言いたい事が何となく分かってしまった悟は、面倒臭そうな表情で口を開く。
「おぉ、そ、それで?」
「分っかんねぇのかッ。お前の【罠】誘発体質×【迷宮】に、美少女ってワードぶち込んだら、方程式の答えはどうなると思う。エロ【罠】だ!」
「あ―…なるほ、ど……つまり?」
「俺も美少女が触手に絡まれてる所、見たかったッ……」
「何っでもう俺がそのシーン見た体になってんだ。まだ【迷宮】にすら入ってねぇよ!?」
「黙れこの裏切り者めぇッ、これから見るんなら同じ事だろうがぁ!!」
「ちょ、やめッ、首が閉ま、息が…ぐ、ぐるじい……ッ」
血走った目の徹に胸倉を掴まれ、悟は必死に抵抗するが全く放してくれない。足が地面とさよならしてしまっている。
おかしい、魔術を使っている訳でもないのに、何故この男は性欲などが絡むとこんなにも馬鹿力が出るのだろうか。
もちろん、悟も同じ男として、徹の気持ちが分からない訳ではない。
しかし、相手は第五位階の【魔術師】様だ、そんな状況になったら流石に命の保障はない。
悟だって、童貞のまま死ぬのは御免なのである。
故に、どうやったって徹のような反応は出来ないのだ、頼むからもう少し胸倉を掴む力を弱めて欲しい。
というより、そろそろ息が持たなくなって来た。マジで死ぬ……。
「そこまでにしときなさい、徹」
「ぐぇッ!?」
なんて考えていると、小萌蛇操沙が徹の襟首を引っ張り、悟から引き剝がした。
「ったく、馬鹿な真似してないで、さっさと渡す物渡して帰るわよ。学院長にあんまり時間もないって言われてたでしょうが。――っと、はい悟、これあたしからの奴ね」
「ん?これって……」
操沙が悟に差し出したのは、縦に長い筒形の木箱だった。
蓋を開けると、その中には焦げ茶色の泥団子のような物が詰まっていた。
「マヤクよ」
「なッ、麻薬だぁ!?」
「いや、そっちじゃなくて、魔薬――魔力回復薬の事」
「へぇ、んなのがあんだな」
「使い道が『魔力の回復だけ』って限られてるから、あんま有名じゃないんだけどね、ポーションと違って長い間保存がきくのよ。家に前作って残ってた奴があったから、持って来たってワケ」
ポーションは魔力回復に加え、体力回復、怪我の治癒、身体能力向上……など、様々な種類がある。
その為、【迷宮】に潜る際の必需品だったりする。
――のだが、安物ですら意外に高額で、悟は傷の治癒用のを一本しか買えていない。
使用可能である魔術が一つな上に、魔力量も少ない悟としては、丁度魔力回復用のアイテムが欲しかった所だ。
「そっか、助かる。で、これって何で出来てんだ?」
なんて、悟は興味本位で尋ねてみた。
だが、そこで何故か、訊かれた操沙が石になったように固まった。
沈黙。視線が悟からスーッと静かに横へずれて行く。
「……えぇ、あ~っと、何…だっけなぁ。ワ、ワスレチャッター」
「待てやコラッ、何だ今の間。おい、これホントに何が入ってやがる、食えんだよな?食って大丈夫な奴なんだよな!?」
「だ、大丈夫、命の保障はするから」
「何で命しか保障しねぇんだよ。怖ぇよ、逆に何が保障されてねぇの、超怖ぇよ」
「あっ、あと、瞳には飲ませないでね。これ確か――ううん、何でもない。取り敢えず、それだけ守ってくれたらいいから」
「おぉ、取り敢えず一回、この魔薬捨てるか考えるわ……」
とはいえ、試験に使える為、結局悟は携帯する事にしたのだが。それでも、出来れば使いたくない類の切り札になった感は否めなかった。
「で、これが……」
「あぁ、俺様からのプレゼンツッ」
徹から渡されたのは、中心に魔法陣の描かれたお札二枚だった。
「【呪符】かぁ」
「俺の雷撃魔術が込めてある。ホント陰陽術って、こういうの長けてるから助かるよなぁ。多少魔力が操れりゃあ誰でも使えるしさ。ま、今じゃ魔術サマのお陰で廃れた技術だけどよ」
その類の愚痴は、耳にタコが出来る程聞いたのだが……何時もの事なので黙っておいた。
――と、悟が徹に薄く苦笑いを浮かべていると、右腕の袖が引っ張られる感覚を覚えた。
「ん?」
視線をそちらの方へ向けると、悟の目に映ったのは如月小雪だった。
こちらへ差し出すように出した掌の上には、手に収まる程の大きさをした金属の円盤。中心に、紫色の宝石が埋め込まれている。
「あの、和灘君……これ、どうぞ。タリスマンです。最初は御守りをと思ったんですけど、【迷宮】に潜るなら頑丈な方が良いかと思ったので。宝石代わりに、真ん中へ加工した魔石を嵌めてあるので……その、試験頑張ってください」
上目遣いに、はにかむような笑顔で小雪は最後にそう付け足した。
――何ソレ可愛い。
悟は流れるような動きで即座に彼女の手を取り、膝を付くと真顔でこう言った。
「俺と、結婚してください」
「え、えぇッ!?そ、そんな、いきなり……!」
顔を林檎のように赤くさせ、取り乱した小雪の台詞など何処吹く風。
悟はプロポ―ズの続きを――
「何口走ってんのアンタはッ」
しようとして、操沙の拳骨が悟の頭に落ちた。
「ち、ちげーっての操沙…これはアレだ、つい口が滑ったつーか……」
「オーケー、とりまアンタが馬鹿な事考えてたってのは分かった」
操沙の呆れた声。
おかしい、質問に答えただけだというのに反応が冷たい。いや、割と早まった行為をしたのは事実なのだが。
「ふん、言動がアレストのそれじゃなお主」
どうやらまだ冷静でないらしい思考の中、そんなくだらない事を真剣に考えていると、メルキの声が悟に話し掛けて来た。
「話は終わったか?」
「あ、はい、どもっす」
「構わん――お主を見ていると飽きんからなぁ」
「え゛ッ……!?」
悪戯っぽい笑みを浮かべるメルキを見た悟の背筋に、強烈な悪寒が走った。そう、まるで琴梨に嗜虐的な目で見つめられた時のような、そんな悪寒だ。
――あ、あれっ、俺……このロリ学院長にロックオンされてるくね?
知らぬ間に自分が不味い状況に陥っているのだと、悟は今更ながら気付いた。
美少女にロックオンされて喜ばないなんて、と笑わば笑え。笑った馬鹿には投げ技をキメた後、世の中には目ぇ付けられたらヤバイ美少女だっていんだよッ、このヴァーカッ、と声高に言って八つ当たりしてやろう。
「さて、そろそろ試験を始めるとしよう」
「えぇ、そうねメルちゃん、予定より試験開始時間遅くなっちゃってるし」
悟の焦りなど気にした様子もなく、メルキと琴梨は追試の再開へ話を進める。
隣を一瞥すると、先程徹と餞別の話になっていた時に、視界の端で操沙と何やら会話していた赤眼瞳が既に戻って来ていた。
そういえば二人が何の話をしていたのか、悟は少し気になったが、『試験も始まるし、まぁいいか』と思い直し気を引き締める。
「では、転移魔術を使う。試験開始は現地に着いた瞬間からなのだぞ。よいな?」
メルキの声に、悟と瞳は同時に頷く。
そして、次の瞬間、悟達の足元に灰色に輝く魔法陣が出現した。
「【転移】」
一瞬にして強まる魔法陣の光に、メルキの声が重なった。
――こうして、悟の追試が始まった。
「あらメルちゃん、どうしたの?」
「あぁ、ここの特殊転移魔法陣が故障しておったのを思い出してな。一応だが、何時か使う事もあるかと、近々修理を考えていたが……まさか、こんなに早く使用する羽目になるとは予想してしていなかったのだぞ」
話の途中、腕を胸の前で組み、悟に面白がるような顔を向けつつ含みのある言葉をかけたメルキ。
そんな彼女に、琴梨が口を尖らせ不満を言う。
「むぅ……それならもっと早く気付いて欲しかったの」
「いや、早い時間に気付いてはいたのだがな。遅れた理由は、焦る事でもないかと思って歩いて来たのと――」
言いながら、メルキが後ろを一瞥した直後、部屋の出入り口の端より複数の人影が現れぞろぞろと室内に入って来た。
「お、お前等…ッ!」
それに気付き後ろを振り向いた悟が目にしたのは、小萌蛇操沙、如月小雪、鳴神徹の三人だった。
友人達の唐突な登場に当惑していると、彼等がこちらに近付いて来た。
「ぃようっ、悟。操沙から聞いたぜ、【迷宮】に潜るんだってな。見送りに来てやったぞ」
「当然、この操沙様もね」
「あ、あの、私も2人と同じで見送りに……」
初めは徹、次に操沙、そして最後に小雪の順で悟に話しかけた。
それにしては随分と遅い登場だったな、と思いつつそう尋ねると、返って来た答えを聞いて納得した。
本当ならば、三人の到着は本来の試験開始時刻には間に合っていたらしい。しかし、途中でメルキと偶然出会い、彼女と会話しつつこの塔を目指していたらこの時間になったのだとか。
悟の質問に代表者として答えた操沙は、言葉を続け、
「急ごうと思ったんだけど、学院長が大丈夫だって言うからさ。で、来てみたら本当に間に合った訳だけど……これ、どういう状況?」
「あぁ、ちょっとトラブってて。何かこの部屋の特殊転移魔法陣が壊れてるらしい」
「「「えッ…!?」」」
尋ねられ悟が返答すると、操沙だけでなく後のニ人も揃って驚きの声を上げた。
しかし、何時の間にか悟と瞳の隣まで近付いて来ていたメルキの声が、思い出したようにこう言った。
「その事だがな、先ほども言った通り諦めるのはまだ早いのだぞ。というより、これは儂の失態。ならばその儂自ら責任を取るのが筋というもの。幸い、儂は転移魔術が使えて、更にあの転移魔法陣の転移先には行った事があるしな。向こうの結界は、以前行った時に儂自ら貼り直した故、結界が原因で転移出来んという事態も有り得ん。……それよりも、だ。お主ら、まだこの小僧に用があるのではなかったか?」
試験開始が可能になった事に安堵の表情を浮かべた赤眼瞳。その横で同じように安心に頬を緩ませていた悟の背中へその華奢な手を向かわせると、喋りながらメルキは目の前に立っていた徹達へ視線を向けた。
学院長たる少女の言葉に、途端、疑問を表情に浮かべた悟。
そんな中、「あ、そうだったそうだった」と徹が一歩前に出た。
「今日の試験は初めての【迷宮】攻略だろ?だから、餞別の品を用意して来たぜ」
「おぉ!良いのか、あんがとな徹」
悟にとって【迷宮】は、攻略どころか立ち入った事すらない場所だ。
おまけに、【罠】誘発体質という問題も抱えている。
現状、少しでも攻略の成功率が上がるのなら非常に助かる。
……のだが。
「っと、その前に悟、取り敢えず一発ぶん殴っていいか?」
「い、いやちょっと待てッ、状況が飲み込めねぇ。どういう事だよ」
「どういう事だぁ!?それはこっちの台詞だ、悟。確かに、【迷宮】で追試する、ってのは聞いた。けど、赤眼瞳連れてくなんて聞いてねぇぞこの野郎ッ!」
なんて、瞳を指差して徹はキレながら叫んだ。
徹の言いたい事が何となく分かってしまった悟は、面倒臭そうな表情で口を開く。
「おぉ、そ、それで?」
「分っかんねぇのかッ。お前の【罠】誘発体質×【迷宮】に、美少女ってワードぶち込んだら、方程式の答えはどうなると思う。エロ【罠】だ!」
「あ―…なるほ、ど……つまり?」
「俺も美少女が触手に絡まれてる所、見たかったッ……」
「何っでもう俺がそのシーン見た体になってんだ。まだ【迷宮】にすら入ってねぇよ!?」
「黙れこの裏切り者めぇッ、これから見るんなら同じ事だろうがぁ!!」
「ちょ、やめッ、首が閉ま、息が…ぐ、ぐるじい……ッ」
血走った目の徹に胸倉を掴まれ、悟は必死に抵抗するが全く放してくれない。足が地面とさよならしてしまっている。
おかしい、魔術を使っている訳でもないのに、何故この男は性欲などが絡むとこんなにも馬鹿力が出るのだろうか。
もちろん、悟も同じ男として、徹の気持ちが分からない訳ではない。
しかし、相手は第五位階の【魔術師】様だ、そんな状況になったら流石に命の保障はない。
悟だって、童貞のまま死ぬのは御免なのである。
故に、どうやったって徹のような反応は出来ないのだ、頼むからもう少し胸倉を掴む力を弱めて欲しい。
というより、そろそろ息が持たなくなって来た。マジで死ぬ……。
「そこまでにしときなさい、徹」
「ぐぇッ!?」
なんて考えていると、小萌蛇操沙が徹の襟首を引っ張り、悟から引き剝がした。
「ったく、馬鹿な真似してないで、さっさと渡す物渡して帰るわよ。学院長にあんまり時間もないって言われてたでしょうが。――っと、はい悟、これあたしからの奴ね」
「ん?これって……」
操沙が悟に差し出したのは、縦に長い筒形の木箱だった。
蓋を開けると、その中には焦げ茶色の泥団子のような物が詰まっていた。
「マヤクよ」
「なッ、麻薬だぁ!?」
「いや、そっちじゃなくて、魔薬――魔力回復薬の事」
「へぇ、んなのがあんだな」
「使い道が『魔力の回復だけ』って限られてるから、あんま有名じゃないんだけどね、ポーションと違って長い間保存がきくのよ。家に前作って残ってた奴があったから、持って来たってワケ」
ポーションは魔力回復に加え、体力回復、怪我の治癒、身体能力向上……など、様々な種類がある。
その為、【迷宮】に潜る際の必需品だったりする。
――のだが、安物ですら意外に高額で、悟は傷の治癒用のを一本しか買えていない。
使用可能である魔術が一つな上に、魔力量も少ない悟としては、丁度魔力回復用のアイテムが欲しかった所だ。
「そっか、助かる。で、これって何で出来てんだ?」
なんて、悟は興味本位で尋ねてみた。
だが、そこで何故か、訊かれた操沙が石になったように固まった。
沈黙。視線が悟からスーッと静かに横へずれて行く。
「……えぇ、あ~っと、何…だっけなぁ。ワ、ワスレチャッター」
「待てやコラッ、何だ今の間。おい、これホントに何が入ってやがる、食えんだよな?食って大丈夫な奴なんだよな!?」
「だ、大丈夫、命の保障はするから」
「何で命しか保障しねぇんだよ。怖ぇよ、逆に何が保障されてねぇの、超怖ぇよ」
「あっ、あと、瞳には飲ませないでね。これ確か――ううん、何でもない。取り敢えず、それだけ守ってくれたらいいから」
「おぉ、取り敢えず一回、この魔薬捨てるか考えるわ……」
とはいえ、試験に使える為、結局悟は携帯する事にしたのだが。それでも、出来れば使いたくない類の切り札になった感は否めなかった。
「で、これが……」
「あぁ、俺様からのプレゼンツッ」
徹から渡されたのは、中心に魔法陣の描かれたお札二枚だった。
「【呪符】かぁ」
「俺の雷撃魔術が込めてある。ホント陰陽術って、こういうの長けてるから助かるよなぁ。多少魔力が操れりゃあ誰でも使えるしさ。ま、今じゃ魔術サマのお陰で廃れた技術だけどよ」
その類の愚痴は、耳にタコが出来る程聞いたのだが……何時もの事なので黙っておいた。
――と、悟が徹に薄く苦笑いを浮かべていると、右腕の袖が引っ張られる感覚を覚えた。
「ん?」
視線をそちらの方へ向けると、悟の目に映ったのは如月小雪だった。
こちらへ差し出すように出した掌の上には、手に収まる程の大きさをした金属の円盤。中心に、紫色の宝石が埋め込まれている。
「あの、和灘君……これ、どうぞ。タリスマンです。最初は御守りをと思ったんですけど、【迷宮】に潜るなら頑丈な方が良いかと思ったので。宝石代わりに、真ん中へ加工した魔石を嵌めてあるので……その、試験頑張ってください」
上目遣いに、はにかむような笑顔で小雪は最後にそう付け足した。
――何ソレ可愛い。
悟は流れるような動きで即座に彼女の手を取り、膝を付くと真顔でこう言った。
「俺と、結婚してください」
「え、えぇッ!?そ、そんな、いきなり……!」
顔を林檎のように赤くさせ、取り乱した小雪の台詞など何処吹く風。
悟はプロポ―ズの続きを――
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しようとして、操沙の拳骨が悟の頭に落ちた。
「ち、ちげーっての操沙…これはアレだ、つい口が滑ったつーか……」
「オーケー、とりまアンタが馬鹿な事考えてたってのは分かった」
操沙の呆れた声。
おかしい、質問に答えただけだというのに反応が冷たい。いや、割と早まった行為をしたのは事実なのだが。
「ふん、言動がアレストのそれじゃなお主」
どうやらまだ冷静でないらしい思考の中、そんなくだらない事を真剣に考えていると、メルキの声が悟に話し掛けて来た。
「話は終わったか?」
「あ、はい、どもっす」
「構わん――お主を見ていると飽きんからなぁ」
「え゛ッ……!?」
悪戯っぽい笑みを浮かべるメルキを見た悟の背筋に、強烈な悪寒が走った。そう、まるで琴梨に嗜虐的な目で見つめられた時のような、そんな悪寒だ。
――あ、あれっ、俺……このロリ学院長にロックオンされてるくね?
知らぬ間に自分が不味い状況に陥っているのだと、悟は今更ながら気付いた。
美少女にロックオンされて喜ばないなんて、と笑わば笑え。笑った馬鹿には投げ技をキメた後、世の中には目ぇ付けられたらヤバイ美少女だっていんだよッ、このヴァーカッ、と声高に言って八つ当たりしてやろう。
「さて、そろそろ試験を始めるとしよう」
「えぇ、そうねメルちゃん、予定より試験開始時間遅くなっちゃってるし」
悟の焦りなど気にした様子もなく、メルキと琴梨は追試の再開へ話を進める。
隣を一瞥すると、先程徹と餞別の話になっていた時に、視界の端で操沙と何やら会話していた赤眼瞳が既に戻って来ていた。
そういえば二人が何の話をしていたのか、悟は少し気になったが、『試験も始まるし、まぁいいか』と思い直し気を引き締める。
「では、転移魔術を使う。試験開始は現地に着いた瞬間からなのだぞ。よいな?」
メルキの声に、悟と瞳は同時に頷く。
そして、次の瞬間、悟達の足元に灰色に輝く魔法陣が出現した。
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