12 / 64
第一章:始まりの契約
第11話リプレイとリテイク
しおりを挟む
――約五秒。
和灘悟が動き出してから、勝敗が決するまでに掛かった時間がそれだった。
勝負を一部始終、もしくは途中から見ていた周囲の生徒達からも、驚きの声が上がっていた。
同時に『まぐれ』、『何かの間違い』と判断し、その大半は半信半疑といった様子だった。
かく言う赤眼瞳も驚愕し、体が硬直していた。
「アレが、まぐ……れ?――そんな訳ない」
だが反面、彼女だけはその毛色が違った。
時が経つ程に思考が加速し、理解が追い付き、驚嘆に深みが増すのだ。
瞳は視線だけを和灘悟へ向けた。
……きっと、悟の動きを追えていたのは自分くらいだろう。
そう思いながら、瞳は自分の記憶を脳裏で再生する。
彼女が見ていたのは、二人の体から溢れ出ていた魔力だ。
その為、保有魔力量が元々少ない悟が放っていた魔力は更に微少。
魔術の才に恵まれた彼女でさえ、一瞬、彼を見失いかけた程だったのだから。
そして、悟を見失ったのは、戦闘中だった東条陽流真も例外ではなかった。
【罠】を踏んだ直後、和灘悟は魔術により大きく跳躍し、爆発による衝撃波を糧に加速。
放物線を描いて跳躍を続けながら、魔術で速度を更に上昇させ、東条の背後へと着地。
恐らくだが、そこで靴裏が砂利の地面に着く音が微かに聞こえたのだろう、東条は後ろを振り返ろうとした。
しかし、時既に遅し。
動作の途中、魔術により駿足と化し、東条の眼前まで迫っていた悟の鋭い右の拳が彼の左頬を殴り付けた。
それにより、東条は脳震盪を起こし勝敗は決した。
……そう、決した。
少しタイミングを間違えただけで大惨事になったであろう間合いの詰め方に、和灘悟が成功し。
幾ら見えづらかったとはいえ、魔術の才に恵まれた東条があの程度の目くらましを見破れず。
剰え、彼が自身に身体強化魔術を施しておらず、和灘悟の攻撃を完全に無防備な状態で受け……。
そんな、通常あり得ない事象が面白い程に重なり合って、勝敗が決したのだ。
【奇跡】だ。そう言えばいい、それを許そう、それを認めよう。
だが間違うな、それは必然であって偶然ではない。
一連の和灘悟の動きに迷いはなく、そして冷静だった。
対する東条陽流真は、油断し頭に血が上った状態だった。いや、悟によってそんな心理状態にさせられていた、と言うべきだろう。あるいは、悟の術中に嵌まっていたとも。
……しかし、だからこそ、東条が仕掛けた【罠】に嵌まってから発動するまでの時間くらい、正確に把握出来ていなければおかしい。
でなければ、【罠】をあんな風に利用するなど限りなく不可能に近い。
だから和灘悟は動き出した時既に、十中八九それを知っていた。
だから、驚きを通り越し、瞳にはあの少年が不気味な存在に見えた。
だって当然ではないか。
それが正しいのだとして、つまり少なくとも和灘悟は、一度罠に嵌まったあの時より前からこの作戦を考え付いていたという事になるのだから。
気付かなかった、気付けなかった、戦闘経験で遥かに勝る第五位階の自分の目を以てしても。
背中に悪寒が走った。
和灘悟という人間を、ある程度ではあるが理解したつもりでいた。しかし、それはやはり“そのつもり”でしかなかったのだ。
何を見ている、何を知っている、何を考えている?分からない、他者より最弱のレッテルを貼られたあの少年の事が分からない。
だが、思うのだ、あの【最弱者】は危険だ…ッ。
無意識に浅く、早くなっていく呼吸。
すると一瞬――和灘悟の視線が自分に向いた。
「……ッ!」
まるで全てを見透かしたかのような彼の眼に、その瞬間、瞳の心臓が大きく鼓動した。
直後、それが起爆剤となり、心拍数が一気に跳ね上がる。
不味い、バレてしまったッ?あの秘密が、あの少年に…!
「……ぇ?」
ふと下を見ると、自分の右足が一歩後退っていた。
いや、それ以前にこの呼吸の仕方、この心臓の音、この思考。
そんな、これでは、これではまるで……。
――私がアイツに怯えているみたいじゃないッ!
有り得ない、認めない、そんな自分は許せない。
自己嫌悪に瞳は歯軋りする。
「わ、和灘君…ッ!」
「ん?如月さん、どったの?」
「どうしたもこうしたも、どうして自分から【罠】に引っ掛かりに行くんですかッ!死んじゃったり、そうでなくても怪我したらどうするつもりだったんですか!ねぇ、どうするつもりだったんですかッッ」
「え、まさかのマジギレ!?」
慌てて悟に詰め寄り、彼を叱咤する如月小雪。
だが、そんな事はどうだっていい。
「いやいや、まず東条を倒した事褒めたげなよ小雪。ねぇ?ひと――」
「……和灘悟、だったかしら?」
瞳に同意を求めようとした操沙の隣には、既に彼女の姿はなかった。
「ん?あ、あぁそうだけど」
赤眼瞳の注意は、もう悟にしか向いていなかった。
あの秘密を暴かれるのは避けたい。
しかし、何時からそれに怯えなければならなくなった?
ふざけるな、ふざけるなッ。
だから、彼女は和灘悟との距離を詰め、彼の目の前で立ち止まり。
「上等よ、えぇ上等よ……!アンタの試験、付き合ってあげようじゃないッ!」
先程あった教室前でのやり取りのやり直しをするかのように、悟にそんな言葉を突き付けた。
和灘悟が動き出してから、勝敗が決するまでに掛かった時間がそれだった。
勝負を一部始終、もしくは途中から見ていた周囲の生徒達からも、驚きの声が上がっていた。
同時に『まぐれ』、『何かの間違い』と判断し、その大半は半信半疑といった様子だった。
かく言う赤眼瞳も驚愕し、体が硬直していた。
「アレが、まぐ……れ?――そんな訳ない」
だが反面、彼女だけはその毛色が違った。
時が経つ程に思考が加速し、理解が追い付き、驚嘆に深みが増すのだ。
瞳は視線だけを和灘悟へ向けた。
……きっと、悟の動きを追えていたのは自分くらいだろう。
そう思いながら、瞳は自分の記憶を脳裏で再生する。
彼女が見ていたのは、二人の体から溢れ出ていた魔力だ。
その為、保有魔力量が元々少ない悟が放っていた魔力は更に微少。
魔術の才に恵まれた彼女でさえ、一瞬、彼を見失いかけた程だったのだから。
そして、悟を見失ったのは、戦闘中だった東条陽流真も例外ではなかった。
【罠】を踏んだ直後、和灘悟は魔術により大きく跳躍し、爆発による衝撃波を糧に加速。
放物線を描いて跳躍を続けながら、魔術で速度を更に上昇させ、東条の背後へと着地。
恐らくだが、そこで靴裏が砂利の地面に着く音が微かに聞こえたのだろう、東条は後ろを振り返ろうとした。
しかし、時既に遅し。
動作の途中、魔術により駿足と化し、東条の眼前まで迫っていた悟の鋭い右の拳が彼の左頬を殴り付けた。
それにより、東条は脳震盪を起こし勝敗は決した。
……そう、決した。
少しタイミングを間違えただけで大惨事になったであろう間合いの詰め方に、和灘悟が成功し。
幾ら見えづらかったとはいえ、魔術の才に恵まれた東条があの程度の目くらましを見破れず。
剰え、彼が自身に身体強化魔術を施しておらず、和灘悟の攻撃を完全に無防備な状態で受け……。
そんな、通常あり得ない事象が面白い程に重なり合って、勝敗が決したのだ。
【奇跡】だ。そう言えばいい、それを許そう、それを認めよう。
だが間違うな、それは必然であって偶然ではない。
一連の和灘悟の動きに迷いはなく、そして冷静だった。
対する東条陽流真は、油断し頭に血が上った状態だった。いや、悟によってそんな心理状態にさせられていた、と言うべきだろう。あるいは、悟の術中に嵌まっていたとも。
……しかし、だからこそ、東条が仕掛けた【罠】に嵌まってから発動するまでの時間くらい、正確に把握出来ていなければおかしい。
でなければ、【罠】をあんな風に利用するなど限りなく不可能に近い。
だから和灘悟は動き出した時既に、十中八九それを知っていた。
だから、驚きを通り越し、瞳にはあの少年が不気味な存在に見えた。
だって当然ではないか。
それが正しいのだとして、つまり少なくとも和灘悟は、一度罠に嵌まったあの時より前からこの作戦を考え付いていたという事になるのだから。
気付かなかった、気付けなかった、戦闘経験で遥かに勝る第五位階の自分の目を以てしても。
背中に悪寒が走った。
和灘悟という人間を、ある程度ではあるが理解したつもりでいた。しかし、それはやはり“そのつもり”でしかなかったのだ。
何を見ている、何を知っている、何を考えている?分からない、他者より最弱のレッテルを貼られたあの少年の事が分からない。
だが、思うのだ、あの【最弱者】は危険だ…ッ。
無意識に浅く、早くなっていく呼吸。
すると一瞬――和灘悟の視線が自分に向いた。
「……ッ!」
まるで全てを見透かしたかのような彼の眼に、その瞬間、瞳の心臓が大きく鼓動した。
直後、それが起爆剤となり、心拍数が一気に跳ね上がる。
不味い、バレてしまったッ?あの秘密が、あの少年に…!
「……ぇ?」
ふと下を見ると、自分の右足が一歩後退っていた。
いや、それ以前にこの呼吸の仕方、この心臓の音、この思考。
そんな、これでは、これではまるで……。
――私がアイツに怯えているみたいじゃないッ!
有り得ない、認めない、そんな自分は許せない。
自己嫌悪に瞳は歯軋りする。
「わ、和灘君…ッ!」
「ん?如月さん、どったの?」
「どうしたもこうしたも、どうして自分から【罠】に引っ掛かりに行くんですかッ!死んじゃったり、そうでなくても怪我したらどうするつもりだったんですか!ねぇ、どうするつもりだったんですかッッ」
「え、まさかのマジギレ!?」
慌てて悟に詰め寄り、彼を叱咤する如月小雪。
だが、そんな事はどうだっていい。
「いやいや、まず東条を倒した事褒めたげなよ小雪。ねぇ?ひと――」
「……和灘悟、だったかしら?」
瞳に同意を求めようとした操沙の隣には、既に彼女の姿はなかった。
「ん?あ、あぁそうだけど」
赤眼瞳の注意は、もう悟にしか向いていなかった。
あの秘密を暴かれるのは避けたい。
しかし、何時からそれに怯えなければならなくなった?
ふざけるな、ふざけるなッ。
だから、彼女は和灘悟との距離を詰め、彼の目の前で立ち止まり。
「上等よ、えぇ上等よ……!アンタの試験、付き合ってあげようじゃないッ!」
先程あった教室前でのやり取りのやり直しをするかのように、悟にそんな言葉を突き付けた。
0
お気に入りに追加
30
あなたにおすすめの小説
隣の家に住むイクメンの正体は龍神様でした~社無しの神とちびっ子神使候補たち
鳴澤うた
キャラ文芸
失恋にストーカー。
心身ともにボロボロになった姉崎菜緒は、とうとう道端で倒れるように寝てしまって……。
悪夢にうなされる菜緒を夢の中で救ってくれたのはなんとお隣のイクメン、藤村辰巳だった。
辰巳と辰巳が世話する子供たちとなんだかんだと交流を深めていくけれど、子供たちはどこか不可思議だ。
それもそのはず、人の姿をとっているけれど辰巳も子供たちも人じゃない。
社を持たない龍神様とこれから神使となるため勉強中の動物たちだったのだ!
食に対し、こだわりの強い辰巳に神使候補の子供たちや見守っている神様たちはご不満で、今の現状を打破しようと菜緒を仲間に入れようと画策していて……
神様と作る二十四節気ごはんを召し上がれ!

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!
仁徳
ファンタジー
あらすじ
リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。
彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。
ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。
途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。
ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。
彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。
リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。
一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。
そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。
これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

魔法適性ゼロと無能認定済みのわたしですが、『可視の魔眼』で最強の魔法少女を目指します!~妹と御三家令嬢がわたしを放そうとしない件について~
白藍まこと
ファンタジー
わたし、エメ・フラヴィニー15歳はとある理由をきっかけに魔法士を目指すことに。
最高峰と謳われるアルマン魔法学園に入学しましたが、成績は何とビリ。
しかも、魔法適性ゼロで無能呼ばわりされる始末です……。
競争意識の高いクラスでは馴染めず、早々にぼっちに。
それでも負けじと努力を続け、魔力を見通す『可視の魔眼』の力も相まって徐々に皆に認められていきます。
あれ、でも気付けば女の子がわたしの周りを囲むようになっているのは気のせいですか……?
※他サイトでも掲載中です。

転生して捨てられたけど日々是好日だね。【二章・完】
ぼん@ぼおやっじ
ファンタジー
おなじみ異世界に転生した主人公の物語。
転生はデフォです。
でもなぜか神様に見込まれて魔法とか魔力とか失ってしまったリウ君の物語。
リウ君は幼児ですが魔力がないので馬鹿にされます。でも周りの大人たちにもいい人はいて、愛されて成長していきます。
しかしリウ君の暮らす村の近くには『タタリ』という恐ろしいものを封じた祠があたのです。
この話は第一部ということでそこまでは完結しています。
第一部ではリウ君は自力で成長し、戦う力を得ます。
そして…
リウ君のかっこいい活躍を見てください。


のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる