シャム猫

大器晩成らしい

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ジョエルの場合57

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「もう行くね」

「忘れ物はない?」

ついつい、引き止めるような言葉が口から零れる。

湖箔は周りを見回し、自分のポッケを叩いて忘れ物はないかを確認。

そんな仕草も可愛い。

「うん、大丈夫。じゃあ」

どちらとも無く顔を寄せ合い、軽い口付け。

ぎゅっと強く抱きしめた後、その華奢な身体から腕を離した。

そして、扉を開け、振り返り、俺に向けて小さく手を振りながら、出て行く姿を見送る。

湖箔の姿が、完全に扉の向こうに消えると、途端に、胸が苦しくなる。

湖箔に出会う前は、これが当たり前だったのに、今1人なのが、この静けさが、無性に寂しい。


こんな時は、とっとと眠るに限る。

今日は、シャワーだけにしよう。

服を脱ぎ、洗濯機の中に入れ、お風呂場へ。

全身を洗い、シャワーを浴びる。

ふと目に留まった四葉のクローバーに触れ、キスマークの濃さや数の多さに、湖箔の俺に対する独占欲の強さのようなものを感じ、自然と心が和んでいった。

かなり前から、湖箔に、ズブズブに溺れさせられているのを、自覚している。

おれ自身、こんなに溺れるとは、想像すらしていなかっただけに、自分で自分に驚いている。

シャワーを止め、用意していたタオルで身体を拭い、ドライヤーで髪を乾かす。

部屋に戻ると、スマホを手に、ベッドルームへ。

ベッドボードに背を預け、スマホの電源を立ち上げた。

電話は、来てないな。

湖箔も今頃は、お風呂に入ってるのかもな。

電話がかかってくるのを大人しく待つか、それとも、もう少し待ってからかけるか・・・

逡巡している最中に、電話が鳴り、画面に湖箔の名前が表示されるや否や、《電話に出る》を押していた。

「フフッ、電話に出るの、早いね」

「丁度手に持っていたから。湖箔はもう、お風呂に入ったのか?」

「うん、軽くシャワーを浴びるだけにした」

「そうか、髪の毛をよく乾かせよ?」

「んっ、ちゃんと乾かしたよ」





「おやすみなさい」

「おやすみ、愛してるよ」

「・・・俺も、愛してるし///」

他愛もない話をし、電話を切る前、愛してるよと囁けば、恥ずかしいのか、返って来たのは、とても小さな声。

でも、耳を澄ませていたから、ちゃんと聴こえた。

その言葉を、頭の中で繰り返し、幸せを噛み締めながら、目を閉じた。





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