シャム猫

１４５

大輝が迎えに来た時、ジョエルに電話するって言われ、それがくるのを待っている。

時間が近付くにつれ、心がそわそわとして、落ち着かない。

何か、緊張してきた。

誰かの電話を、こんな風に待ち望むのは、初めてかもしれない。

トゥルルル、トゥルルル。

夜８時丁度に鳴った。

着信音を何にするか迷って、結局は、初期設定のまま。

他の人に聞かれて、変に勘繰られても嫌だなって思って。


画面にジョエルの名前が表示されたのを見て、直ぐに電話にでた。

「はい、湖箔です・・・時間丁度だね」

「待ち遠しくて、時間前に電話しようかどうしようか、凄く迷ったけどね。８時にするって言わなければ良かった」

「うん、俺も。こっちから電話してもいいのか、分からなかったから・・・かけられなかった」

「そうか、遠慮しないで、何時でも電話してきていいよ。もし、その時出られなくても、必ず折り返すから」

「うん、分かった・・・あっ、そう言えば、ハンカチ。明日持ってくね」

「いや、そのまま持ってて。使ってくれると嬉しいかな」

「・・・じゃあ、使わせてもらう。ありがと」


これといって重要な話なんて無い、取り留めの無い会話を楽しみ、

「明日、楽しみにしてる。愛してるよ」

ぐはぁ、ストレートに言われると、照れるんだけど。

「お・俺も楽しみにしてる」

「愛してるは言ってくれないのかな？」

「ハードルが高いんだけど・・う”～、俺も思ってる！で勘弁してっ」

「クスクス、しょうがないな、その内、言ってくれるのを待ってるよ」

「うん、頑張る」

電話だから、見えていないのは解かっているけど、思わず、赤くなった顔を俯けた。

頑張るなんて言ったけど、『好き』は言い易いのに、『愛してる』は口にした事がないから、何か・・・恥ずかしいし、軽くなんて、口にできそうにない。

それに、どうせ言うのなら、電話越しじゃなく、直接、顔を見て伝えたい。



月曜日、朝からいろいろと疲れたけど、授業や部活は、普段と同様にこなせたと思う。

そして、今。

マッサージのバイトをする為、ジョエルと一緒に、エレベーターで上がって来る途中だったりする。