見えない君と恋をする。

きーち

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「どこにいるの・・・」
あの列にいたんだ。きっと入園はしているはず。あの列から出るのは無理だろうし……。チケットなくて入場出来なかった?いや、ずっと岬は手に持っていた。見失うなんて、あり得ない…………。
ついに愛菜はしゃがみ込んでしまった。まるで、さっきまで見えていたものが幻だったかのようだった。
会いたい…。早く、出てきてよ!!

「・・・・愛菜?」
これは………岬の声だ!。
リアクションタイム0.01秒で愛菜は声の方を向いた。
「なんでそんなとこで座ってるの」
「そっちこそいままでどこにいたの!」
岬はとぼけたような顔をしている。愛菜は腹が立った。
「横にいたじゃん」
「え?」
そんなはずがない。何なの、どういうことなの……………。
愛菜は頭痛を感じて足がよろけた。
「だ、大丈夫!?そこ、座ろう」
岬はベンチへと誘導した。
「きっと、愛菜は疲れたんだよ」
「まだ何もしてないよ・・・?」
「ひょっとして、愛菜すごく楽しみにしてたんじゃ?」
愛菜は恥ずかしくなって、顔を赤らめた。そういえば、岬は私を、愛菜と呼んでいたっけな。今が初めてな気がする。どうだったか分からないけど、そんなことは置いておいて、すごく心地良い……。
頭痛はサッと引いていった。

「もう、大丈夫みたいだな」
「うん、何か乗ろうよ」
岬がいなくなった事については、もうどうでも良くなった。今こうしているのだから。もう、いい。考える必要はない。
考える必要はない。
それからは楽しかった。
たぶん、周りから見る私たち2人は恋人としか思えないと思う。
コーヒーカップを凄い勢いで回す愛菜、目を回しダウン寸前の岬、それを見て笑う愛菜。ソフトクリームを買って渡す岬、手を滑らせてそれを落とす愛菜、それを見事にキャッチして見せた岬。
早く次の乗り物に乗りたくて走る愛菜、やれやれとついて行く岬。
時間なんて概念は取り払われていた。気づけば日は暮れようとしていた。
「もうすぐ、パレードだな」
「うん、パレード。どんなだろうね」
「愛菜、門限とかは大丈夫?」
「うん、全然大丈夫。気にしないで」
パレード・・・早く見たいな、綺麗だろうな。それに、岬と2人で見るなんて一生心に残るに違いない。
早く、日が落ちてほしい。けれど、日が落ちればもう今日が"終わり"と感じてしまう。嫌だ。まだ"今日"が良い。
そして、考える時間も虚しく日は落ちる。それは言うまでもない。メインストリートに人がたかりだす。雰囲気がパレードの始まりを匂わせる。あいにく今日は午後あたりから曇りだしていた。空を彩る星は見えない。月も見えない。ただ、騒々しいメリーゴーランドが2人をギラギラ照らしている。
「もう、始まるね」
愛菜は、今日最後のイベントということに寂しさを感じているように言った。
「うん、もう始まりそうだね」
なんてロマンチックなんだろう……と、この最高のシーンを存分に味わっていたその時、例の真っ暗な空から矢のような雨が降ってきた。
「雨だ、雨が降ってきた。大粒だな。どこか屋根に・・・!」
岬は雨宿りのできる所を探していたが見つける所全て人だらけで、とても雨をしのげる場所ではなかった。
さいあく。さいあくだ。今日は晴れ予報だったじゃないか。
愛菜は突然の雨にも苛立ったが、それ以上に心が萎えていた。雨に打たれる中、2人は立ちすくんでいた。
寒い。
「だめだ、愛菜、雨宿りできる場所がない!」
そして、今日のパレードを中止するアナウンスが遊園地内に響き渡るのだった。
あぁ、最後くらい2人で楽しくいたかったな・・・・。
雨は一向に止まない。

そうだ、最後アレを忘れていた。乗りたかった、あの乗り物。
「岬」
必死に屋根を探している岬なんてつゆも知らないような顔で愛菜は言った。

「メリーゴーランドに乗ろう」
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