Je veux t'aimer

☆甘宮リンゴ☆

文字の大きさ
上 下
2 / 7

#2 敵同士の2人

しおりを挟む
満月の夜に地上に姿を現した影の悪魔。
己の姿を完璧には持たない、不安定な存在。
自分の拠り所となる存在が、必要になる。



-side:Haine-

「(……さっきのって、もしかして、天使?)」
エーヌは地上に立っていた存在を思い返した。
白く輝く羽根を持つ存在。
そんなのは、天使しかいない。
だが、エーヌは地上に出てきたばかりだ。
先程の天使の羽根の大きさから、己より上位の者だろう。
エーヌは地に降り立つと、少し伸びをして、近くに見えた街へと歩いていった。

エーヌはまだ中級悪魔である。
そのままでは、天使と闘うには力不足だ。
また、本来の悪魔は、人間の欲などを糧にしている。
そのためエーヌは、悪魔の本能とも言える事を行うことにした。
「(人間との、契約!)」
中級悪魔は、人間と契約する事に特化している。
人間は己の欲を満たすため、悪魔は力を得るため。
互いに利益をもたらすことで確立するシステムだ。
「(ん~、やっぱり、復讐心を持つ人間がいいなぁ~。)」
エーヌにとって、復讐心は好物だ。
天使と悪魔の戦争がある中、人間に抗争が起きないとは思えない。
天使を信仰する人間と、悪魔と契約している人間とで、必ずや争いがあるだろう。
人間とは、己の為だけに動く利己的な生き物。
「(でも今はまだ夜だしな…。起きてる人間なんているのかしら?)」

街へ向かい森の中をしばらく歩いた。
夜の森は小さな動物たちが動き回っていた。
空をムササビやコウモリが飛び、リスやイノシシが餌を探して走り回っては、その地に足跡を残していく。
エーヌは道に沿って歩きながら、脳裏に焼き付いたまま離れない、あの天使の姿を考えていた。
「(天使と悪魔は敵同士。決して相容れない。)」
そう、言いきかせる。
だが、エーヌが抱いたのは、己の力である憎しみではなかった。
「(わかってる。こんなこと、考えては駄目。)」
エーヌは己の胸元に手を添えた。
トクン、トクンと、小さな脈を刻んでいる。
そこで、あの天使の事を考えると、更に脈が早くなった気がした。
「……駄目。」
頬が赤く熱を帯びる。
胸の奥が締め付けられるように痛くなる。
「(駄目。あれは天使。私たちの…敵で……。)」
最低な奴らだ。
そうだ。そう言いたいのだ。
だがその一言が出てこない。
月明かりに照らされて見えた天使の、微笑むような顔。
温かな光を宿したあの目が、己の目を射抜いていたのだ。
「……っはは。私、悪魔失格かな。」
熱く火照った顔に手を当て、エーヌは深い溜め息をついた。

森の中の道を進んで行くと、丸太の小屋が見えてきた。
明かりが灯っており、中に起きている人間がいるようだ。
そっと中を覗いてみると、数人の武装した人間が、地図のような物を広げて話し合いをしていた。
「では、改めて確認だ。明日、町長の娘であるソフィア・アルベールが隣町より帰宅する。そこを拘束するのだ。」
どうやら誰かを捕まえるつもりらしい。
「(へぇ。面白そうじゃん。ついて行こ~っと。)」
エーヌは、窓から差し込む影に紛れるように中に入り、指揮を取っていると思われる男の影の中に入っていった。



満月の夜、教会に降り立った未熟な天使。
光の中で、闇の恐怖を知らない純粋な存在。
己の力を高め、全てを知る必要がある。



-side:Sagesse-

「(……さっきの影、あれが、悪魔なのかな?)」
サジェスは、知の泉へ向いながら、月に映るような影の事を思い出していた。
影しか分からなかったが、コウモリのような翼と、頭に携えた双角が、悪魔だと証明出来るだろう。
おそらく、己と同じように地上へ出てきたばかりなのであろうか。
月明かりに照らされ、はしゃぐように、舞うように翔ぶ姿が、とても綺麗だった。
「(……?この感情はなんだろう?)」
サジェスは、まだ感情の全てを知らない。
この心が、己にとって苦しい事になることも。

街とは反対方向に森の中を進む。
夜の森は、生き物達が盛んに活動している。
時折、リス達がサジェスに話しかけてきた。
「はじめまして。知の泉へはこっちで合ってるかい?」
サジェスがリスの1匹を手に乗せ、話しかけると、リスはコクコクと頷いた。
「ありがとう。」
サジェスはリスを木に戻し、そのまま進んでいった。
「(これが、動物達か。可愛いな。)」
心の中でそう考えた。
不意に、またあの悪魔の姿を思い出した。
「(?天使と悪魔は敵同士だ。なのに、なぜこんなにもあの悪魔を思い出すんだろう?)」
サジェスは、少し考え、誤魔化すように。
「(きっと、敵の姿を覚えるために、無意識に思い出してたのかな。)」
と、考えた。

教会の裏側の方に泉が見えてきた。
淡い光で漂う光の精霊が、サジェスを迎え入れた。
サジェスは、首に掛けた十字架を持って、祈りを捧げた。
「知の泉の女神さま。天より修行を積むべく、この泉に参りました。サジェスという者です。どうか、その姿を現し下さい。」
すると、泉の中心部が光り、銀髪の、艶やかな髪の、おしとやかな女性が姿を現した。
「サジェスと申す物、よく来ましたね。そなたの噂は、聞いておりますよ。」
「それは光栄です!」
「数多の知恵を持つ者よ。まずはそなたの姿をあるべき姿に戻しましょう。ここにはそれ程の光が溢れていますよ。」
女神が左手をサジェスに向けると、紋章が浮かび上がり、サジェスの身体が光る。
すると、サジェスは元の、光の輪を持つ幼い天使に戻った。
「そなたはここで身を清め、幾多の知識をその身に宿しなさい。そなたに、きっと役立つでしょう。」
「はい。女神さま。」
「今日はもうおやすみなさい。地上に降り立ったばかりで、少々お疲れでしょう。そなたが降り立った教会に行きなさい。そこに一晩泊めてもらいなさい。良い神父がおりますよ。」
「ありがとうございます。」
サジェスは深くお辞儀をし、光の精霊に導かれるように教会へ行った。

「……あの者は。」
1人残った泉の女神が、悲しそうに呟いた。
「あの者の、サジェスの心にいたのは、悪魔だった。これが、天使族にとって吉と出るか、凶と出るか。」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

壁の薄いアパートで、隣の部屋から喘ぎ声がする

サドラ
恋愛
最近付き合い始めた彼女とアパートにいる主人公。しかし、隣の部屋からの喘ぎ声が壁が薄いせいで聞こえてくる。そのせいで欲情が刺激された両者はー

【R18】エリートビジネスマンの裏の顔

白波瀬 綾音
恋愛
御社のエース、危険人物すぎます​─​──​。 私、高瀬緋莉(27)は、思いを寄せていた業界最大手の同業他社勤務のエリート営業マン檜垣瑤太(30)に執着され、軟禁されてしまう。 同じチームの後輩、石橋蓮(25)が異変に気付くが…… この生活に果たして救いはあるのか。 ※サムネにAI生成画像を使用しています

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

車の中で会社の後輩を喘がせている

ヘロディア
恋愛
会社の後輩と”そういう”関係にある主人公。 彼らはどこでも交わっていく…

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

処理中です...