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#2 敵同士の2人
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満月の夜に地上に姿を現した影の悪魔。
己の姿を完璧には持たない、不安定な存在。
自分の拠り所となる存在が、必要になる。
-side:Haine-
「(……さっきのって、もしかして、天使?)」
エーヌは地上に立っていた存在を思い返した。
白く輝く羽根を持つ存在。
そんなのは、天使しかいない。
だが、エーヌは地上に出てきたばかりだ。
先程の天使の羽根の大きさから、己より上位の者だろう。
エーヌは地に降り立つと、少し伸びをして、近くに見えた街へと歩いていった。
エーヌはまだ中級悪魔である。
そのままでは、天使と闘うには力不足だ。
また、本来の悪魔は、人間の欲などを糧にしている。
そのためエーヌは、悪魔の本能とも言える事を行うことにした。
「(人間との、契約!)」
中級悪魔は、人間と契約する事に特化している。
人間は己の欲を満たすため、悪魔は力を得るため。
互いに利益をもたらすことで確立するシステムだ。
「(ん~、やっぱり、復讐心を持つ人間がいいなぁ~。)」
エーヌにとって、復讐心は好物だ。
天使と悪魔の戦争がある中、人間に抗争が起きないとは思えない。
天使を信仰する人間と、悪魔と契約している人間とで、必ずや争いがあるだろう。
人間とは、己の為だけに動く利己的な生き物。
「(でも今はまだ夜だしな…。起きてる人間なんているのかしら?)」
街へ向かい森の中をしばらく歩いた。
夜の森は小さな動物たちが動き回っていた。
空をムササビやコウモリが飛び、リスやイノシシが餌を探して走り回っては、その地に足跡を残していく。
エーヌは道に沿って歩きながら、脳裏に焼き付いたまま離れない、あの天使の姿を考えていた。
「(天使と悪魔は敵同士。決して相容れない。)」
そう、言いきかせる。
だが、エーヌが抱いたのは、己の力である憎しみではなかった。
「(わかってる。こんなこと、考えては駄目。)」
エーヌは己の胸元に手を添えた。
トクン、トクンと、小さな脈を刻んでいる。
そこで、あの天使の事を考えると、更に脈が早くなった気がした。
「……駄目。」
頬が赤く熱を帯びる。
胸の奥が締め付けられるように痛くなる。
「(駄目。あれは天使。私たちの…敵で……。)」
最低な奴らだ。
そうだ。そう言いたいのだ。
だがその一言が出てこない。
月明かりに照らされて見えた天使の、微笑むような顔。
温かな光を宿したあの目が、己の目を射抜いていたのだ。
「……っはは。私、悪魔失格かな。」
熱く火照った顔に手を当て、エーヌは深い溜め息をついた。
森の中の道を進んで行くと、丸太の小屋が見えてきた。
明かりが灯っており、中に起きている人間がいるようだ。
そっと中を覗いてみると、数人の武装した人間が、地図のような物を広げて話し合いをしていた。
「では、改めて確認だ。明日、町長の娘であるソフィア・アルベールが隣町より帰宅する。そこを拘束するのだ。」
どうやら誰かを捕まえるつもりらしい。
「(へぇ。面白そうじゃん。ついて行こ~っと。)」
エーヌは、窓から差し込む影に紛れるように中に入り、指揮を取っていると思われる男の影の中に入っていった。
満月の夜、教会に降り立った未熟な天使。
光の中で、闇の恐怖を知らない純粋な存在。
己の力を高め、全てを知る必要がある。
-side:Sagesse-
「(……さっきの影、あれが、悪魔なのかな?)」
サジェスは、知の泉へ向いながら、月に映るような影の事を思い出していた。
影しか分からなかったが、コウモリのような翼と、頭に携えた双角が、悪魔だと証明出来るだろう。
おそらく、己と同じように地上へ出てきたばかりなのであろうか。
月明かりに照らされ、はしゃぐように、舞うように翔ぶ姿が、とても綺麗だった。
「(……?この感情はなんだろう?)」
サジェスは、まだ感情の全てを知らない。
この心が、己にとって苦しい事になることも。
街とは反対方向に森の中を進む。
夜の森は、生き物達が盛んに活動している。
時折、リス達がサジェスに話しかけてきた。
「はじめまして。知の泉へはこっちで合ってるかい?」
サジェスがリスの1匹を手に乗せ、話しかけると、リスはコクコクと頷いた。
「ありがとう。」
サジェスはリスを木に戻し、そのまま進んでいった。
「(これが、動物達か。可愛いな。)」
心の中でそう考えた。
不意に、またあの悪魔の姿を思い出した。
「(?天使と悪魔は敵同士だ。なのに、なぜこんなにもあの悪魔を思い出すんだろう?)」
サジェスは、少し考え、誤魔化すように。
「(きっと、敵の姿を覚えるために、無意識に思い出してたのかな。)」
と、考えた。
教会の裏側の方に泉が見えてきた。
淡い光で漂う光の精霊が、サジェスを迎え入れた。
サジェスは、首に掛けた十字架を持って、祈りを捧げた。
「知の泉の女神さま。天より修行を積むべく、この泉に参りました。サジェスという者です。どうか、その姿を現し下さい。」
すると、泉の中心部が光り、銀髪の、艶やかな髪の、おしとやかな女性が姿を現した。
「サジェスと申す物、よく来ましたね。そなたの噂は、聞いておりますよ。」
「それは光栄です!」
「数多の知恵を持つ者よ。まずはそなたの姿をあるべき姿に戻しましょう。ここにはそれ程の光が溢れていますよ。」
女神が左手をサジェスに向けると、紋章が浮かび上がり、サジェスの身体が光る。
すると、サジェスは元の、光の輪を持つ幼い天使に戻った。
「そなたはここで身を清め、幾多の知識をその身に宿しなさい。そなたに、きっと役立つでしょう。」
「はい。女神さま。」
「今日はもうおやすみなさい。地上に降り立ったばかりで、少々お疲れでしょう。そなたが降り立った教会に行きなさい。そこに一晩泊めてもらいなさい。良い神父がおりますよ。」
「ありがとうございます。」
サジェスは深くお辞儀をし、光の精霊に導かれるように教会へ行った。
「……あの者は。」
1人残った泉の女神が、悲しそうに呟いた。
「あの者の、サジェスの心にいたのは、悪魔だった。これが、天使族にとって吉と出るか、凶と出るか。」
己の姿を完璧には持たない、不安定な存在。
自分の拠り所となる存在が、必要になる。
-side:Haine-
「(……さっきのって、もしかして、天使?)」
エーヌは地上に立っていた存在を思い返した。
白く輝く羽根を持つ存在。
そんなのは、天使しかいない。
だが、エーヌは地上に出てきたばかりだ。
先程の天使の羽根の大きさから、己より上位の者だろう。
エーヌは地に降り立つと、少し伸びをして、近くに見えた街へと歩いていった。
エーヌはまだ中級悪魔である。
そのままでは、天使と闘うには力不足だ。
また、本来の悪魔は、人間の欲などを糧にしている。
そのためエーヌは、悪魔の本能とも言える事を行うことにした。
「(人間との、契約!)」
中級悪魔は、人間と契約する事に特化している。
人間は己の欲を満たすため、悪魔は力を得るため。
互いに利益をもたらすことで確立するシステムだ。
「(ん~、やっぱり、復讐心を持つ人間がいいなぁ~。)」
エーヌにとって、復讐心は好物だ。
天使と悪魔の戦争がある中、人間に抗争が起きないとは思えない。
天使を信仰する人間と、悪魔と契約している人間とで、必ずや争いがあるだろう。
人間とは、己の為だけに動く利己的な生き物。
「(でも今はまだ夜だしな…。起きてる人間なんているのかしら?)」
街へ向かい森の中をしばらく歩いた。
夜の森は小さな動物たちが動き回っていた。
空をムササビやコウモリが飛び、リスやイノシシが餌を探して走り回っては、その地に足跡を残していく。
エーヌは道に沿って歩きながら、脳裏に焼き付いたまま離れない、あの天使の姿を考えていた。
「(天使と悪魔は敵同士。決して相容れない。)」
そう、言いきかせる。
だが、エーヌが抱いたのは、己の力である憎しみではなかった。
「(わかってる。こんなこと、考えては駄目。)」
エーヌは己の胸元に手を添えた。
トクン、トクンと、小さな脈を刻んでいる。
そこで、あの天使の事を考えると、更に脈が早くなった気がした。
「……駄目。」
頬が赤く熱を帯びる。
胸の奥が締め付けられるように痛くなる。
「(駄目。あれは天使。私たちの…敵で……。)」
最低な奴らだ。
そうだ。そう言いたいのだ。
だがその一言が出てこない。
月明かりに照らされて見えた天使の、微笑むような顔。
温かな光を宿したあの目が、己の目を射抜いていたのだ。
「……っはは。私、悪魔失格かな。」
熱く火照った顔に手を当て、エーヌは深い溜め息をついた。
森の中の道を進んで行くと、丸太の小屋が見えてきた。
明かりが灯っており、中に起きている人間がいるようだ。
そっと中を覗いてみると、数人の武装した人間が、地図のような物を広げて話し合いをしていた。
「では、改めて確認だ。明日、町長の娘であるソフィア・アルベールが隣町より帰宅する。そこを拘束するのだ。」
どうやら誰かを捕まえるつもりらしい。
「(へぇ。面白そうじゃん。ついて行こ~っと。)」
エーヌは、窓から差し込む影に紛れるように中に入り、指揮を取っていると思われる男の影の中に入っていった。
満月の夜、教会に降り立った未熟な天使。
光の中で、闇の恐怖を知らない純粋な存在。
己の力を高め、全てを知る必要がある。
-side:Sagesse-
「(……さっきの影、あれが、悪魔なのかな?)」
サジェスは、知の泉へ向いながら、月に映るような影の事を思い出していた。
影しか分からなかったが、コウモリのような翼と、頭に携えた双角が、悪魔だと証明出来るだろう。
おそらく、己と同じように地上へ出てきたばかりなのであろうか。
月明かりに照らされ、はしゃぐように、舞うように翔ぶ姿が、とても綺麗だった。
「(……?この感情はなんだろう?)」
サジェスは、まだ感情の全てを知らない。
この心が、己にとって苦しい事になることも。
街とは反対方向に森の中を進む。
夜の森は、生き物達が盛んに活動している。
時折、リス達がサジェスに話しかけてきた。
「はじめまして。知の泉へはこっちで合ってるかい?」
サジェスがリスの1匹を手に乗せ、話しかけると、リスはコクコクと頷いた。
「ありがとう。」
サジェスはリスを木に戻し、そのまま進んでいった。
「(これが、動物達か。可愛いな。)」
心の中でそう考えた。
不意に、またあの悪魔の姿を思い出した。
「(?天使と悪魔は敵同士だ。なのに、なぜこんなにもあの悪魔を思い出すんだろう?)」
サジェスは、少し考え、誤魔化すように。
「(きっと、敵の姿を覚えるために、無意識に思い出してたのかな。)」
と、考えた。
教会の裏側の方に泉が見えてきた。
淡い光で漂う光の精霊が、サジェスを迎え入れた。
サジェスは、首に掛けた十字架を持って、祈りを捧げた。
「知の泉の女神さま。天より修行を積むべく、この泉に参りました。サジェスという者です。どうか、その姿を現し下さい。」
すると、泉の中心部が光り、銀髪の、艶やかな髪の、おしとやかな女性が姿を現した。
「サジェスと申す物、よく来ましたね。そなたの噂は、聞いておりますよ。」
「それは光栄です!」
「数多の知恵を持つ者よ。まずはそなたの姿をあるべき姿に戻しましょう。ここにはそれ程の光が溢れていますよ。」
女神が左手をサジェスに向けると、紋章が浮かび上がり、サジェスの身体が光る。
すると、サジェスは元の、光の輪を持つ幼い天使に戻った。
「そなたはここで身を清め、幾多の知識をその身に宿しなさい。そなたに、きっと役立つでしょう。」
「はい。女神さま。」
「今日はもうおやすみなさい。地上に降り立ったばかりで、少々お疲れでしょう。そなたが降り立った教会に行きなさい。そこに一晩泊めてもらいなさい。良い神父がおりますよ。」
「ありがとうございます。」
サジェスは深くお辞儀をし、光の精霊に導かれるように教会へ行った。
「……あの者は。」
1人残った泉の女神が、悲しそうに呟いた。
「あの者の、サジェスの心にいたのは、悪魔だった。これが、天使族にとって吉と出るか、凶と出るか。」
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