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課題5:僕とボクの話
幕間:きっとうまくいくから、大丈夫
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「テオ、ただいまっ」
ばたん、と開いたドア。続く足音は機嫌よさげにぱたぱたと響く。
「おかえり。今日はご機嫌だね」
机から顔を上げて振り返ると、そこには満面の笑みを浮かべたノイスがいた。
「うん。やっと分かったから早く教えてあげようと思って」
「分かった?」
問い返すと彼女はうんっ、と頷いて胸を張った。
「テオが探してる人の手掛かりよ」
□ ■ □
小さな教会の裏にある家。
いつものように原付を車庫の脇に停めると、「あの」と、鈴を転がしたような声がした。
「うん?」
振り向いた先に居たのは、金髪の少女。
琥珀色の目に長いまつげ。第一印象はキリッとしてるけど、どこか地に足が付いてないというか、なんかふわふわとした雰囲気もある。不思議な子だ。
そういえば爺さんが、最近外人の子が庭を見に来ると言ってた。多分、彼女の事だろう。
見たところ正統派外国人少女。日本語通じるんだろうか。
「えーっと……Can you speak……Japanese?」
とりあえずお約束的に聞いてみたけど、英会話はあまり得意じゃない。できれば日本語でごり押ししたい。
なんて考えながら返事を待つと「すこし、なら」と、割としっかりめな日本語が返ってきた。助かった。
「うちに用事があるの?」
俺の質問に、彼女はどこか憂うように目を伏せた。
「あの。私、人を探して、日本に来てて」
彼女の言葉はゆっくりだけど、懸命さが伝わってくる。
「人捜しかあ。悪いけど、俺じゃ力に……」
断ろうとしたその目の前に、彼女が差し出してきたのは一枚の絵。
「――ん?」
思わずまじまじと見る。
それは、手描きのスケッチだった。
人相書きとか、似顔絵とかに近い。どこか不満げな表情をした青年が描かれている。
肩で結ばれた長い髪。垂れた目。黒子。
全体的にざっくり描かれてるし、髪型や表情は違うけど。それは。
「須藤……?」
あいつによく似ていた。
「スドウ、さん? その方を知ってる、ですか?」
「あー……知り合いに似てはいるけど。親戚、とかかなあ?」
吸血鬼だって言ってたから、結構な確率で本人かもしれないけど、そこは誤魔化すことにした。
でも、曖昧な俺の答えに少女の表情はぱあっと輝く。
「私、この方にお会いしたい、です。ずっと探して、いて」
「なるほど」
目の前で困ってる人が、知り合いに会いたいと言っている。
だからといって、さくっと「いいよ」と言う訳にはいかないだろう。
特に須藤は事情が違う。
基本的に穏やかで争いごとは好まない性格だし、人付き合いも浅く狭くって感じだけど、過去のどこかででかい恨み買ってたりする可能性があるかもしれない。
「そうだな。すぐに返事はできないけど、そいつに聞いとく。それでいい?」
「はい、よろしくおねがいします」
「ええと。それじゃあ君の名前、聞いといてもいい?」
少女はこくん、と頷いた。
「ノイ――ノエル。ノエルと、いいます。私の名前だと、分からないかもしれませんが……」
「ノエルちゃん。ね。わかった」
親指をぐっと立てて頷くと、彼女はぺこり、とお辞儀をして帰って行った。
その後ろ姿を見送って、とりあえずメールを打つ。
「ノエル、っていう外人金髪少女がお前っぽい人探してたけど、知ってる?」
しばらくして返ってきた返事は「いや、知らないけど」だった。
□ ■ □
「なるほど。彼がウィルの知り合いである可能性は高い訳だ」
「多分ね。一応目印もつけておいたから、接触したら分かると思う」
ノイスの言葉にテオは「そっか」と頷いて、彼女の頭をそっと撫でる。
「ありがとう、ノイス」
「いいえ、テオのためだもの」
ノイスは彼の手の感触に満足そうな笑みを浮かべる。
「テオが私を見つけたのは偶然だったけど。偶然も運命よ」
テオは答えない。黙って彼女を見つめている。
「運命だって、受け入れるだけじゃない。変えることだってできるわ」
「そうだね」
ノイスは頭から離れた手に触れ、握る。
「ああ、テオ。貴方をこんな身体にしたんだから。相応の責任は取ってもらわなきゃ」
指の繋ぎ目を撫でる。何度も外れて繕い直した皮膚は、変色したり固まったりしている。
「もうちょっとだけ、我慢してね」
ノイスの言葉に、テオは軽く首を傾げる。
「ノイス。俺は別に、この身体に不自由はしてないよ」
「あら。でも、ずっと彼を探してたじゃない。何度も寝言でうなされてるのを聞いたわ」
「それは……」
テオが口ごもると、ノイスは真っ直ぐ彼を見上げて言う。
「テオは心のどこかでずっと苦しんでるのよ。きっかけは間違いなくこの身体。貴方が探してるその人」
「俺は」
「テオ」
名前を呼ぶノイスの声は、どこか力強かった。
「大丈夫だから。心配しないで」
にっこりと笑う。花のようで、愛らしい笑み。
言葉を思わず飲み込んでしまうような、奥に何かを秘めた笑顔。
彼女のそんな表情は少し苦手だったが。彼女に悪気がないとも知っている。いつだって彼女は。ノイスは真っ直ぐなのだ。
だから。色んな言葉を飲み込んで「うん」と頷く。
「心配いらないわ。すぐに、こんな処置が必要ない身体にしてあげるから」
ノイスはそう言って、嬉しそうにしている。
その笑顔が何を意味するのか。
テオが知るのはもう少し、先の話。
ばたん、と開いたドア。続く足音は機嫌よさげにぱたぱたと響く。
「おかえり。今日はご機嫌だね」
机から顔を上げて振り返ると、そこには満面の笑みを浮かべたノイスがいた。
「うん。やっと分かったから早く教えてあげようと思って」
「分かった?」
問い返すと彼女はうんっ、と頷いて胸を張った。
「テオが探してる人の手掛かりよ」
□ ■ □
小さな教会の裏にある家。
いつものように原付を車庫の脇に停めると、「あの」と、鈴を転がしたような声がした。
「うん?」
振り向いた先に居たのは、金髪の少女。
琥珀色の目に長いまつげ。第一印象はキリッとしてるけど、どこか地に足が付いてないというか、なんかふわふわとした雰囲気もある。不思議な子だ。
そういえば爺さんが、最近外人の子が庭を見に来ると言ってた。多分、彼女の事だろう。
見たところ正統派外国人少女。日本語通じるんだろうか。
「えーっと……Can you speak……Japanese?」
とりあえずお約束的に聞いてみたけど、英会話はあまり得意じゃない。できれば日本語でごり押ししたい。
なんて考えながら返事を待つと「すこし、なら」と、割としっかりめな日本語が返ってきた。助かった。
「うちに用事があるの?」
俺の質問に、彼女はどこか憂うように目を伏せた。
「あの。私、人を探して、日本に来てて」
彼女の言葉はゆっくりだけど、懸命さが伝わってくる。
「人捜しかあ。悪いけど、俺じゃ力に……」
断ろうとしたその目の前に、彼女が差し出してきたのは一枚の絵。
「――ん?」
思わずまじまじと見る。
それは、手描きのスケッチだった。
人相書きとか、似顔絵とかに近い。どこか不満げな表情をした青年が描かれている。
肩で結ばれた長い髪。垂れた目。黒子。
全体的にざっくり描かれてるし、髪型や表情は違うけど。それは。
「須藤……?」
あいつによく似ていた。
「スドウ、さん? その方を知ってる、ですか?」
「あー……知り合いに似てはいるけど。親戚、とかかなあ?」
吸血鬼だって言ってたから、結構な確率で本人かもしれないけど、そこは誤魔化すことにした。
でも、曖昧な俺の答えに少女の表情はぱあっと輝く。
「私、この方にお会いしたい、です。ずっと探して、いて」
「なるほど」
目の前で困ってる人が、知り合いに会いたいと言っている。
だからといって、さくっと「いいよ」と言う訳にはいかないだろう。
特に須藤は事情が違う。
基本的に穏やかで争いごとは好まない性格だし、人付き合いも浅く狭くって感じだけど、過去のどこかででかい恨み買ってたりする可能性があるかもしれない。
「そうだな。すぐに返事はできないけど、そいつに聞いとく。それでいい?」
「はい、よろしくおねがいします」
「ええと。それじゃあ君の名前、聞いといてもいい?」
少女はこくん、と頷いた。
「ノイ――ノエル。ノエルと、いいます。私の名前だと、分からないかもしれませんが……」
「ノエルちゃん。ね。わかった」
親指をぐっと立てて頷くと、彼女はぺこり、とお辞儀をして帰って行った。
その後ろ姿を見送って、とりあえずメールを打つ。
「ノエル、っていう外人金髪少女がお前っぽい人探してたけど、知ってる?」
しばらくして返ってきた返事は「いや、知らないけど」だった。
□ ■ □
「なるほど。彼がウィルの知り合いである可能性は高い訳だ」
「多分ね。一応目印もつけておいたから、接触したら分かると思う」
ノイスの言葉にテオは「そっか」と頷いて、彼女の頭をそっと撫でる。
「ありがとう、ノイス」
「いいえ、テオのためだもの」
ノイスは彼の手の感触に満足そうな笑みを浮かべる。
「テオが私を見つけたのは偶然だったけど。偶然も運命よ」
テオは答えない。黙って彼女を見つめている。
「運命だって、受け入れるだけじゃない。変えることだってできるわ」
「そうだね」
ノイスは頭から離れた手に触れ、握る。
「ああ、テオ。貴方をこんな身体にしたんだから。相応の責任は取ってもらわなきゃ」
指の繋ぎ目を撫でる。何度も外れて繕い直した皮膚は、変色したり固まったりしている。
「もうちょっとだけ、我慢してね」
ノイスの言葉に、テオは軽く首を傾げる。
「ノイス。俺は別に、この身体に不自由はしてないよ」
「あら。でも、ずっと彼を探してたじゃない。何度も寝言でうなされてるのを聞いたわ」
「それは……」
テオが口ごもると、ノイスは真っ直ぐ彼を見上げて言う。
「テオは心のどこかでずっと苦しんでるのよ。きっかけは間違いなくこの身体。貴方が探してるその人」
「俺は」
「テオ」
名前を呼ぶノイスの声は、どこか力強かった。
「大丈夫だから。心配しないで」
にっこりと笑う。花のようで、愛らしい笑み。
言葉を思わず飲み込んでしまうような、奥に何かを秘めた笑顔。
彼女のそんな表情は少し苦手だったが。彼女に悪気がないとも知っている。いつだって彼女は。ノイスは真っ直ぐなのだ。
だから。色んな言葉を飲み込んで「うん」と頷く。
「心配いらないわ。すぐに、こんな処置が必要ない身体にしてあげるから」
ノイスはそう言って、嬉しそうにしている。
その笑顔が何を意味するのか。
テオが知るのはもう少し、先の話。
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