愛されたいと想うこと

鈴屋埜猫

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11パーティーの後に

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 父の横暴には慣れている。それはもう仕方がない、と柚姫はいつものように溜め息で受け流した。
 しかし、当たり前のように柚姫をエスコートし、用意された広々とした部屋へ入っていく仁彦に戸惑ってしまった。

「あのっ……!」

 落ち着いた色合いのソファーに、柚姫から奪った荷物を置いた仁彦が振り返る。すると彼は何を思ったのか、にっこりと微笑んできた。

「あぁ、大丈夫ですよ。私はこのまま帰ります」

「え……?」

「私は明日も仕事がありますし。柚姫さんはこのまま泊まっていかれるといいですよ」

 そう言いながら出口へと歩き出す仁彦に、柚姫は無意識に拳を握り締めた。

「ここは料理が美味しいですから、朝のブッフェはオススメです。柚姫さんは、ゆっくりしてから……」

「……婚約は、破棄します」

 すれ違い様、柚姫が発した言葉に仁彦の足が止まる。言い様のない怒りに苛まれ、柚姫はソファーに歩み寄ると置かれた自分の荷物を掴んだ。

「四條さんには素敵な女性がもうすでにいらっしゃるでしょう? 父の手前、断れずにこんなことになって申し訳なく思います。公言されてしまった以上、撤回するのは容易ではありませんが……私の方で事は納めますので、ご心配なく」

「柚姫さん? 何を……」

 捲し立てる柚姫は、意識的に仁彦を見ないように歩き出す。部屋を出るまでの辛抱だ、と足元だけをただ見つめた。

「父には、私の我が儘だと伝えますから……」

「待ってくださいっ!」

 すり抜けようとした瞬間、腕を掴まれる。できるだけ仁彦から距離を取っていたが、出口付近では逃げ場はなかった。

「……離してください」

「嫌です」

 やけにキッパリとした仁彦の言葉に、柚姫は唇を噛む。振りほどこうにも女の力では叶うはずもなく、その場に立ち尽くすしかなかった。

「どうして……そんなことを、言うんです……?」

「どうして? だって、貴方には素敵な女性がいるでしょう? 私なんかより、よっぽどお似合いの」

 次々に口をついて発せられる柚姫の言葉に、仁彦は困惑を隠せない。何より、俯いている彼女の表情は見えなかったが、その瞳からこぼれ落ちた数粒の涙が彼の心を掻き乱した。

「私なんかより、貴方には他の……っ」

 柚姫が言葉を遮るように、仁彦は強引に彼女の顔を自分に向けると唇を重ねた。優しく啄むようなキスを繰り返した仁彦は、涙に濡れた柚姫の頬へと唇を移す。
 柚姫の涙を拭った後、そっと抱き寄せた仁彦は腕の中で大人しくしている彼女に優しく語りかけた。

「柚姫さん、話をしましょう。貴女の抱えている不安が何なのか、教えてもらえませんか?」
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