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10パーティー(2)
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目の前で、今まさに一触即発状態になった二人の男性。どちらも笑みを崩していないのが、なおさら怖かった。
それは柚姫だけではなく、相手方の息子も同じらしく、先程までの意気揚々とした雰囲気は影を潜め、明らかに恐怖が顔にへばりついている。柚姫もただならぬ雰囲気に恐れはなしていたが、持ち前の営業スマイルは崩さずにいた。
そんな柚姫の腰を抱き、仁彦が言葉を次ごうとした瞬間。辺りが突然暗闇に包まれた。
前方に作られた舞台の隅にスポットライトが当たり、棚橋彩佳が一礼する。
「皆様、大変長らくお待たせいたしました。弊社社長、沙原源治よりご挨拶させていただきます」
「皆様、本日はお集まりいただきありがとうございます」
舞台の中央に当てられたスポットライトに、柚姫の父の姿が浮かび上がる。長らく顔も見なかった父は、どこか痩せて小さくなっているような気がした。
と、父の挨拶が続く中、仁彦が柚姫を舞台の方へと連れて歩き出す。腰を支えられている柚姫はされるがまま、どんどんと舞台へと近付いていく。
「本日は、私事ではありますが、大変喜ばしい報告も同時にさせていただけることとなりました。柚姫」
舞台の上から名前を呼ばれ、柚姫は驚く。父に名前を呼ばれるなど、何年ぶりのことか。しかめ、しっかりと顔を見つめられて。
驚きと困惑から固まった柚姫の背を、後ろに立つ仁彦が優しく押す。その手に促され、ようやく柚姫は足を踏み出した。
「我が娘、柚姫でございます。妻を亡くしてからというもの、仕事にかまけてばかりだった私は、娘にさんざん辛く寂しい想いをさせて参りました」
促されるまま父の横に並ばされた柚姫は、苦い気持ちで父の口上を聞いていた。
「しかしこの度、こちらの四條仁彦くんとの婚約が決まりましたことを、ここで発表させていただきます。皆様には今後ますますの……」
明るく響く父の声と歓声。横に並んで立った仁彦の笑顔を横目で見ながら、柚姫の心にはふつふつと黒いもやが立ち込めていた。
* * *
パーティーの最中、お祝いを述べに来る面々の中に柚姫は仁彦の横で対応に追われた。その中には先程の東堂会長もいて、またバトルが始まるかと身構えたが、会長からはお祝いを述べられただけだった。しかし、去り際にその息子がくれた一瞥には、怒りにも蔑みにも似た感情が含まれていたように感じた。
「柚姫」
パーティーも終盤に差し掛かり、そろそろ解放されるかと思った矢先に源治が彩佳を伴ってやって来た。
「二人のために部屋をとっている。今日は泊まっていきなさい」
「大学があります」
すぐさま答えた柚姫だったが、お見通しだと言わんばかりに源治が睨みをきかせる。
「月曜日は午後からだと彩佳から聞いているが?」
「っ……」
源治の後ろで彩佳が顔を歪める。柚姫が彩佳を引き合いに出されると弱いことを知っている源治は、それ以上言葉が出ない柚姫から仁彦へと視線を移した。
「仁彦くん、不出来な娘だが妻に似て顔は悪くない。ただ、性格は妻には似てくれなかったようでな、苦労するだろうがよろしく頼む」
「いえ、社長。柚姫さんを妻に迎えられるならば、私にとって喜ばしいことです」
「君は欲がない。君ほどの人物ならよりどりみどりだろうに、うちの娘で良いなど。だが、君がそう言ってくれると父としては安心して娘を預けられるよ」
自分そっちのけで交わされる会話に、柚姫はだんだん腹が立ってきた。しかし、父に言い返す言葉が見つけられぬまま、部屋の鍵を仁彦に渡した源治は彩佳を伴って去って行ってしまった。
それは柚姫だけではなく、相手方の息子も同じらしく、先程までの意気揚々とした雰囲気は影を潜め、明らかに恐怖が顔にへばりついている。柚姫もただならぬ雰囲気に恐れはなしていたが、持ち前の営業スマイルは崩さずにいた。
そんな柚姫の腰を抱き、仁彦が言葉を次ごうとした瞬間。辺りが突然暗闇に包まれた。
前方に作られた舞台の隅にスポットライトが当たり、棚橋彩佳が一礼する。
「皆様、大変長らくお待たせいたしました。弊社社長、沙原源治よりご挨拶させていただきます」
「皆様、本日はお集まりいただきありがとうございます」
舞台の中央に当てられたスポットライトに、柚姫の父の姿が浮かび上がる。長らく顔も見なかった父は、どこか痩せて小さくなっているような気がした。
と、父の挨拶が続く中、仁彦が柚姫を舞台の方へと連れて歩き出す。腰を支えられている柚姫はされるがまま、どんどんと舞台へと近付いていく。
「本日は、私事ではありますが、大変喜ばしい報告も同時にさせていただけることとなりました。柚姫」
舞台の上から名前を呼ばれ、柚姫は驚く。父に名前を呼ばれるなど、何年ぶりのことか。しかめ、しっかりと顔を見つめられて。
驚きと困惑から固まった柚姫の背を、後ろに立つ仁彦が優しく押す。その手に促され、ようやく柚姫は足を踏み出した。
「我が娘、柚姫でございます。妻を亡くしてからというもの、仕事にかまけてばかりだった私は、娘にさんざん辛く寂しい想いをさせて参りました」
促されるまま父の横に並ばされた柚姫は、苦い気持ちで父の口上を聞いていた。
「しかしこの度、こちらの四條仁彦くんとの婚約が決まりましたことを、ここで発表させていただきます。皆様には今後ますますの……」
明るく響く父の声と歓声。横に並んで立った仁彦の笑顔を横目で見ながら、柚姫の心にはふつふつと黒いもやが立ち込めていた。
* * *
パーティーの最中、お祝いを述べに来る面々の中に柚姫は仁彦の横で対応に追われた。その中には先程の東堂会長もいて、またバトルが始まるかと身構えたが、会長からはお祝いを述べられただけだった。しかし、去り際にその息子がくれた一瞥には、怒りにも蔑みにも似た感情が含まれていたように感じた。
「柚姫」
パーティーも終盤に差し掛かり、そろそろ解放されるかと思った矢先に源治が彩佳を伴ってやって来た。
「二人のために部屋をとっている。今日は泊まっていきなさい」
「大学があります」
すぐさま答えた柚姫だったが、お見通しだと言わんばかりに源治が睨みをきかせる。
「月曜日は午後からだと彩佳から聞いているが?」
「っ……」
源治の後ろで彩佳が顔を歪める。柚姫が彩佳を引き合いに出されると弱いことを知っている源治は、それ以上言葉が出ない柚姫から仁彦へと視線を移した。
「仁彦くん、不出来な娘だが妻に似て顔は悪くない。ただ、性格は妻には似てくれなかったようでな、苦労するだろうがよろしく頼む」
「いえ、社長。柚姫さんを妻に迎えられるならば、私にとって喜ばしいことです」
「君は欲がない。君ほどの人物ならよりどりみどりだろうに、うちの娘で良いなど。だが、君がそう言ってくれると父としては安心して娘を預けられるよ」
自分そっちのけで交わされる会話に、柚姫はだんだん腹が立ってきた。しかし、父に言い返す言葉が見つけられぬまま、部屋の鍵を仁彦に渡した源治は彩佳を伴って去って行ってしまった。
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