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7祭りの後
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演劇部の公演は大歓声の中、幕を閉じた。しかし、余韻に浸る余裕もなく、次の出し物のため柚姫たち演劇部員は各自道具を持って舞台を降りる。
ようやく一段落ついた時、柚姫はまだ衣装のままだった。
「風邪引くぞ」
「……ありがと」
大学の奥にある部活塔の中庭には、模擬店もないため人はまばらだ。その隅にあるベンチに腰掛けた柚姫は、追いかけてきたらしい将が差し出した上着を素直に受け取った。
二人とも、衣装のまま。柚姫は着物を参考にデザインされたノースリーブの姫のドレス。そして将はマントを外した中性ヨーロッパ風の王の衣装だった。通い慣れた中庭に並んで座ると、若干違和感を覚える。
「本番、バッチリだったな」
「悪かったわね。練習中、最悪で」
いろいろなことが重なり、本番前の追い込み稽古にも関わらず柚姫は集中出来ていなかった。そのことで柚姫の父親役である将にも、迷惑をかけてしまっていた。
「いや、こっちこそ。本番前にあんな話、すべきじゃなかった」
あんな話とは告白のことだろう。返事はまだいい、と言われていたが、考える余裕さえ柚姫にはなかったのだ。
「でも、俺がお前を好きなのは嘘じゃないし、言ったことを後悔なんてしてない」
「将……私は……」
「今まで、お前が俺を男として見てないのは知ってる。だから言うつもりもなかったよ。だけど、状況が変わった……他にも男はいるんだって、そんだけでもいいから、ちょっとは考えてみてくれよ」
苦笑いを浮かべ、将はそのまま柚姫を残し去って行った。その後ろ姿を、柚姫は何とも言えない気持ちで見送った。
* * *
演劇部の公演を見終えた仁彦は、楽しげな文化祭の雰囲気から逃げるように人の少ない方へと移動した。若いパワーについていけないな、などと嘆息していると、ふいに開けた場所に出た。と、柚姫の姿を見つけたのだが、その横には見知った青年の姿もあった。
二人とも衣装のままで、そこだけ違う世界のようにも見えた。役柄的には父娘だった二人だが、端から見ると恋人同士のように見える。そう考えると、仁彦の胸にはモヤモヤとしたものが渦巻く。
許嫁とはいえ、埋められぬ年の差が自分と柚姫の間にはある。そして、彼女の周りには魅力的な同世代の若者がいる。その事実を改めて突きつけられた気がした。
柚姫たちの会話の内容は仁彦のいる場所まで届かないが、おもむろに立ち上がった将が何かを告げ去っていった時だった。
「はい……お世話になっております」
ポケットに入れた携帯が鳴り、出た仁彦は内心嘆息する。言葉少なに用件だけを確認し電話を切ると、まだベンチに腰掛けている柚姫を見つめる。しかし、声をかけることもなく、神妙な面持ちでその場を後にした。
ようやく一段落ついた時、柚姫はまだ衣装のままだった。
「風邪引くぞ」
「……ありがと」
大学の奥にある部活塔の中庭には、模擬店もないため人はまばらだ。その隅にあるベンチに腰掛けた柚姫は、追いかけてきたらしい将が差し出した上着を素直に受け取った。
二人とも、衣装のまま。柚姫は着物を参考にデザインされたノースリーブの姫のドレス。そして将はマントを外した中性ヨーロッパ風の王の衣装だった。通い慣れた中庭に並んで座ると、若干違和感を覚える。
「本番、バッチリだったな」
「悪かったわね。練習中、最悪で」
いろいろなことが重なり、本番前の追い込み稽古にも関わらず柚姫は集中出来ていなかった。そのことで柚姫の父親役である将にも、迷惑をかけてしまっていた。
「いや、こっちこそ。本番前にあんな話、すべきじゃなかった」
あんな話とは告白のことだろう。返事はまだいい、と言われていたが、考える余裕さえ柚姫にはなかったのだ。
「でも、俺がお前を好きなのは嘘じゃないし、言ったことを後悔なんてしてない」
「将……私は……」
「今まで、お前が俺を男として見てないのは知ってる。だから言うつもりもなかったよ。だけど、状況が変わった……他にも男はいるんだって、そんだけでもいいから、ちょっとは考えてみてくれよ」
苦笑いを浮かべ、将はそのまま柚姫を残し去って行った。その後ろ姿を、柚姫は何とも言えない気持ちで見送った。
* * *
演劇部の公演を見終えた仁彦は、楽しげな文化祭の雰囲気から逃げるように人の少ない方へと移動した。若いパワーについていけないな、などと嘆息していると、ふいに開けた場所に出た。と、柚姫の姿を見つけたのだが、その横には見知った青年の姿もあった。
二人とも衣装のままで、そこだけ違う世界のようにも見えた。役柄的には父娘だった二人だが、端から見ると恋人同士のように見える。そう考えると、仁彦の胸にはモヤモヤとしたものが渦巻く。
許嫁とはいえ、埋められぬ年の差が自分と柚姫の間にはある。そして、彼女の周りには魅力的な同世代の若者がいる。その事実を改めて突きつけられた気がした。
柚姫たちの会話の内容は仁彦のいる場所まで届かないが、おもむろに立ち上がった将が何かを告げ去っていった時だった。
「はい……お世話になっております」
ポケットに入れた携帯が鳴り、出た仁彦は内心嘆息する。言葉少なに用件だけを確認し電話を切ると、まだベンチに腰掛けている柚姫を見つめる。しかし、声をかけることもなく、神妙な面持ちでその場を後にした。
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