人外さんと恋をする〜狼さんは怖くない〜

鈴屋埜猫

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14 ※クロード目線

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 声を押し殺し、泣く彼女にクロードの胸がギュッと痛む。今までどれだけ我慢してきたのだろうか。頼りにしていた親代わりのシスターが亡くなって、彼女は自らの意志で孤児院を守ってきた。とはいえ、当時の彼女は十五歳。貴族社会では大人の仲間入りとされる歳だが、親の庇護下にあるべき年齢だ。きっと泣きたくても泣けなかったのだろう。

 クロードの背に回された手は縋るようにシャツを掴んでいる。彼女が頼ってくれている。そのことが心底嬉しかった。

 オリーブが言ったように、クロードはメイベルから目を離せない。だが、それは彼女が何をしでかすか分からない子供のようだからでは決してない。

 クロードは見ていたいのだ。彼女のことを、一番近くで。そして彼女に何かあれば、一番最初に手を差し伸べるのは自分でありたい。彼女の笑顔も、泣き顔も、怒った顔でさえ、誰よりも近くで誰よりも多く見せて欲しいと。

 ああ、自分は彼女を独占したいのだ。領主の息子に花をもらって戸惑う彼女に、モヤモヤと胸の突っかかりを覚えていた。求婚されたと聞いて、口では良い話だと言いながら、同時にドス黒い想いも生まれた。人族の彼女には同じく人族の彼がいいと頭では思いながら、心はそうではなかったから。

 初めて会った時、揺らめく炎に照らされた瞳に魅入られた。獣人だと怖がることなく手当てをしてくれ、部屋まで貸してくれた。翌日、顔を合わせた子供たちは少しだけ怯えた様子を見せたが、すぐに懐いてくれたのはメイベルが警戒していなかったからなのだろう。当たり前のように受け入れられ、彼女に屈託のない笑みを向けられることに喜びを覚えた時には、彼女に恋をしていたからだとようやく納得がいく。

「……ごめ、ん、なさい」
「謝ることなんかない」

 ひとしきり泣いて落ち着いたのか、メイベルが身体を離そうとする。だが、クロードは腕を解かなかった。それどころかさらに強く彼女を抱き寄せる。するとメイベルは一瞬、身体を強ばらせたがフッと息を吐き、ゆっくりと身体を預けてきた。
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